「ストレスチェック制度って、結局なんのためにやるの?」「うつ病の検査とは違うの?」「会社の義務はどこまで?」——初めて担当になった人事の方、そして受検する側の従業員の方から、いちばん多く受ける質問です。
先に結論です。ストレスチェック制度は、調査票を使って職場のストレスを測り、病気が始まる前に早めに気づいてもらったうえで、本人・上司・産業保健職の「みんな」で対策をしていく一次予防の制度です。うつ病の検査ではありません。会社の義務は「受けられる体制を作ること」「申出があれば医師の面接指導を行うこと」「50人以上なら労基署に報告すること」の3つに集約され、2028年4月1日からは50人未満を含むすべての事業場が対象になります。
この記事は、現役産業医として顧問先で実施者・面接指導医・集団分析の読み解きを担っている立場から、制度の目的、法的根拠と会社の義務、年1回の流れ、誰が何をするか、制度の建前と現場の実態、2028年の義務化までに決めることを1本にまとめた入口の記事です。各テーマの実務は、本文中の詳しい記事へ進んでください。
ストレスチェック制度とは——病気になる前に気づいて、みんなで対策する制度

人事担当者に一言で説明するとき、私はこう言っています。「ストレスチェックは、質問紙を使って職場のメンタルヘルスの一次予防を行う制度です。病気が始まる前に、早めにストレスに気づいてもらって、それに対してみんなで対策をしていく仕組みです」。
「みんな」には3者がいます。本人はセルフケアと、高ストレスなら医師の面接指導。上司と会社は、個人の結果は見られませんが、集団分析を使って職場を良くしていく。産業医などの産業保健職は、実施者としての判定、面接指導、集団分析の読み解きで支えます。
| 予防の段階 | 内容 | ストレスチェックの位置づけ |
|---|---|---|
| 一次予防 | 不調を未然に防ぐ(気づき・セルフケア・職場環境改善) | ここが本来の目的 |
| 二次予防 | 早期発見・早期治療(健診・受診勧奨) | 結果として早期発見につながることはあるが、検査が目的ではない |
| 三次予防 | 復職支援・再発防止 | 対象外(復職面談は別の仕組み) |
調査票は厚生労働省が推奨する「職業性ストレス簡易調査票」(57項目)が標準で、仕事のストレス要因・心身のストレス反応・周囲のサポートの3領域を測ります。項目数の違いと選び方は57項目と80項目の違いで解説しています。
法的根拠と会社の義務——「実施」「面接指導」「報告」の3つ

根拠は労働安全衛生法第66条の10です(2015年12月施行)。常時50人以上の労働者を使用する事業場に、1年以内ごとに1回のストレスチェックの実施が義務づけられ、50人未満は当面努力義務とされてきました。2025年に公布された改正法により、2028年4月1日から50人未満の事業場も義務化されます。条文を1項ずつ読みたい方は労働安全衛生法66条の10とは?をご覧ください。
| 義務の項目 | 50人以上 | 50人未満(現在) | 50人未満(2028年4月〜) |
|---|---|---|---|
| ストレスチェックの実施(1年以内ごとに1回) | 義務 | 努力義務 | 義務 |
| 結果の本人通知(実施者から直接) | 義務 | 努力義務 | 義務 |
| 高ストレス者への医師の面接指導(申出から1か月以内) | 義務 | 努力義務 | 義務 |
| 面接指導の結果に基づく就業上の措置 | 義務 | 努力義務 | 義務 |
| 労働基準監督署への報告(様式第6号の2) | 義務 | 不要 | 不要(予定) |
| 集団分析と職場環境改善 | 努力義務 | 努力義務 | 努力義務 |
| 記録の保存(5年)・不利益取扱いの禁止 | 義務 | 義務 | 義務 |
| 産業医の選任 | 義務 | 不要(努力義務) | 不要(努力義務) |
ストレスチェック制度の流れ——年1回の8ステップ

制度は次の8ステップを1年に1回まわします。期限が法律で決まっているのは「面接指導は申出から1か月以内」で、ここで止まる会社がいちばん多い。
| ステップ | 担当 | ポイント | 詳しい記事 |
|---|---|---|---|
| ①衛生委員会で審議・規程を周知 | 事業者・事務局 | 実施者・結果を見る人・面接指導の医師を先に決める | 衛生委員会で何を決める?/実施規程の作り方 |
| ②実施者・委託先・時期を決める | 事務局・産業医 | 実施者は医師・保健師など | 実施者とは/委託先の選び方/実施時期 |
| ③受検(2週間程度) | 従業員 | 任意・不利益取扱い禁止 | 対象者は誰?/受検率を上げるには |
| ④結果を本人に通知 | 実施者 | 会社は同意なしに見られない | 同意・プライバシー |
| ⑤高ストレス者が面接指導を申し出る | 本人 | 勧奨は実施者・人事から | 判定基準/申し出ないとき |
| ⑥医師の面接指導(1か月以内) | 医師 | 産業医でなくてよい | 面接指導の完全ガイド/医師がいない会社 |
| ⑦意見書→就業上の措置 | 事業者 | 上司には措置の内容のみ | 報告書と記録/上司の関わり方 |
| ⑧集団分析→改善/労基署へ報告 | 事業者 | 翌年の委員会で改善を審議 | 集団分析/報告書 |
費用の全体像はストレスチェックの費用はいくら?にまとめています。
誰が何をするか——事業者・実施者・実施事務従事者・産業医・本人

制度の要は、人事権のある人は実施の実務(実施者・実施事務従事者)に関われないことです。人事は「段取りをする人」であって、結果を見る人ではありません。
| 役割 | やること | できないこと・注意 |
|---|---|---|
| 事業者(会社・人事) | 体制を整える、委託先を決める、申出を受けて面接指導を手配、措置を決める、報告 | 同意なしに個人結果を見る/受検を強制する/結果で不利益な扱いをする |
| 実施者(医師・保健師・研修を受けた看護師など) | 調査票の選定に関与、高ストレス者の判定、結果通知、面接指導の勧奨 | 人事権のある人はなれない |
| 実施事務従事者(事務担当) | 調査票の配布・回収、データ入力、結果の印刷・郵送 | 人事権のある人はなれない。結果を人事に渡さない |
| 産業医(または外部の医師) | 実施者になれる、高ストレス者の面接指導、意見書、集団分析の助言 | 全部を産業医がやるわけではない(事務作業は担わない) |
| 本人(従業員) | 受検(任意)、結果を受け取る、面接指導の申出、セルフケア | 結果は本人だけに届く。申出で不利益を受けない |
私自身は顧問先で、実施者としての判定、面接指導、集団分析の読み解きのサポートを担い、配布・回収・記録をまとめる事務作業は担いません。そこまで医師がやると、会社にとってコストがとても高くなるからです。産業医にどこまで頼めるかはストレスチェックで産業医は何をする?で詳しく解説しています。
制度の建前と現場の実態——「うつ病の検査」という誤解が制度を止める

顧問先でいつも伝えているギャップが3つあります。1つ目、一定程度の人が「うつ病のスクリーニング検査」だと思っていること。本人が「うつ病の検査」だと思っているから、高ストレスでも「あまり面接を受けたくない」となってしまう。この背景があるので、案内の仕方にはすごく注意しなければいけません。
2つ目、集団分析が放置されること。「やればよかった」で終わってしまう会社は少なくありません。3つ目、面接指導の医師が決まっておらず、申出から1か月を過ぎてしまうこと。
| 現場でよく起きること | 制度をうまく使う会社 |
|---|---|
| 従業員が「うつ病の検査」だと思い、面接を受けたがらない(申出は1割程度) | 案内文で「病気の検査ではなく早めに気づくための道具」「評価には使わない」と明記する |
| 「やればよかった」で終わり、集団分析が放置される | 集団分析を衛生委員会で報告し、改善策を1つ決める |
| 結果を評価に使われると疑われ、正直に答えない | 上司も「医師と話せる制度。受けても不利にならない」と伝える |
| 面接指導の医師が決まっておらず1か月を過ぎる | 面接指導の医師を先に決め、申出から2週間で面談する |
2028年4月からは全事業場が対象——50人未満の会社が今から決めること

2015年の制度開始から13年、義務化の範囲が「常時50人以上」から「すべての事業場」に広がります。50人未満で変わらないのは、産業医の選任義務がないこと、労基署への報告が不要(予定)なこと、衛生委員会の設置義務がないこと(関係労働者の意見を聴く機会は必要)です。
- 実施者・委託先: 保健師や医師を抱えるストレスチェック事業者が便利。
- 紙かWebか: Webのほうが安くなってきている。メールアドレスがない会社は紙も検討。
- 面接指導の医師: 地域産業保健センターは枠が限られる。マッチングサービスや地域の医師も候補に。
- 実施規程と案内文: 厚労省の規程例をそのまま使い、「評価に使わない」を明記。
2028年になってから「急がなきゃ」となると、事業者の受け入れも混みます。2027年からしっかり準備しておいて損はありません。50人未満の具体的なやり方は50人未満・中小企業のストレスチェックのやり方、産業医がいない会社の選択肢は産業医がいない会社はどうする?で解説しています。
制度で会社が一番止まる場所——面接指導の医師を先に決める
8ステップの中で会社が一番止まるのは「⑥医師の面接指導」です。産業医がいない、顧問産業医が対応できない、地域産業保健センターの予約が取れない。面接指導は「医師」であれば行えるので、外部の医師をスポットで確保しておけば止まりません。
まとめ:うつ病の検査ではなく、みんなで職場を良くする道具
- ストレスチェック制度は、病気が始まる前に気づいて、本人・上司・産業保健職の「みんな」で対策する一次予防の制度。
- 根拠は労働安全衛生法66条の10。会社の義務は実施・面接指導・(50人以上は)報告の3つ。受検は任意。
- 年1回の8ステップ。法律の期限は「面接指導は申出から1か月以内」。
- 人事権のある人は実施の実務に関われない。人事は段取りをする人、結果を見る人ではない。
- 「うつ病の検査」という誤解と、集団分析の放置が制度を止める。案内と共有の設計で防ぐ。
- 2028年4月から全事業場が対象。50人未満は2027年から準備し、面接指導の医師を先に決める。
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よくある質問
Q1. ストレスチェック制度の目的は何ですか?
メンタルヘルス不調の一次予防です。調査票で職場のストレスを測り、本人が早めに自分のストレスに気づき、会社は集団分析で職場環境を改善します。うつ病などの病気を見つける検査ではありません。
Q2. ストレスチェックは会社の義務ですか?従業員も受ける義務がありますか?
常時50人以上の事業場では会社に実施義務があります(労働安全衛生法66条の10)。2028年4月1日からは50人未満も義務になります。従業員の受検は任意で、受けないことを理由に不利益な扱いをすることは禁止されています。
Q3. 会社は従業員のストレスチェック結果を見られますか?
本人の同意がなければ見られません。結果は実施者から本人に直接通知され、会社が受け取れるのは同意のあった人の結果と、10人以上の単位の集団分析です。上司にも渡りません。
Q4. 産業医がいない会社でもストレスチェックはできますか?
できます。実施者は医師・保健師・研修を受けた看護師などで、外部の事業者に委託できます。高ストレス者の面接指導は「医師」であれば行えるので、自社の産業医でなくても、外部の医師にスポットで依頼すれば義務を果たせます。
Q5. ストレスチェックとうつ病の検査は違うのですか?
違います。ストレスチェックは診断ではなく、ストレスの状態を本人に気づいてもらうための調査です。高ストレスと判定されても病気ではありません。ただ、この誤解があると面接指導を受けたがらない人が出るので、案内文で「病気の検査ではない」「評価には使わない」と明記することが大切です。

