「高ストレス者に面接指導を勧めているのに、誰も申し出てくれない」——ストレスチェックの担当者からよく聞くお悩みです。結論から言うと、これは会社の勧奨のやり方が悪いわけではなく、もともと反応する人がかなり少ない制度だと理解しておく必要があります。体感では、勧奨しても実際に申し出る人は5%未満ともいわれます。この記事では、現役保健師が、なぜ高ストレス者は申し出ないのか、会社としてどこまで勧奨してよいのか、そして反応が薄くても意味のある対応とは何かを解説します。
実際に申し出る人・申し出ない人、何が違うのか

ストレスチェックの面接指導は、高ストレス者に該当した本人が「申し出る」ことで初めて実施されます(労働安全衛生法第66条の10)。会社や実施者から一方的に指定・強制することはできません。私自身、これまで複数の会社で実施者として高ストレス者への勧奨に関わってきましたが、体感として実際に申し出る人は5%未満という印象です。
少ないながらも申し出てくれる人には共通点があります。ストレスチェックの結果だけで動くのではなく、本人がすでに「このままではまずい」と自覚しているケースが多いのです。眠れない日が続く、仕事に集中できない、気持ちの落ち込みが続いている——そういう自覚があるところに、ストレスチェックの結果が「動くきっかけ」を与える、という流れです。もう一つの共通点は、日頃から産業医や保健師(とくに保健師)へ相談した経験があり、信頼関係ができていること。保健師へ相談しても大丈夫、という安心感があるかどうかが、面談につながるかどうかを大きく左右します。
逆に申し出につながらない背景は、勧奨のしすぎで気まずくなる・クレームになるというより、「会社に知られるのが嫌」という不安です。制度上は本人の同意なく結果が会社へ提供されることはないのですが、その仕組みを十分理解していない従業員は少なくありません。ほかにも、業務が忙しくて時間が取れない、まだ我慢できると先送りにする、相談しても結局変わらないと考えて見送る、といったケースがあります。とくに産業保健サービスを導入した経験がなく、産業医や保健師との接点がほとんどない会社ほど、面談を受けること自体が「特別なこと」「なんだかまずいこと」という認識になりやすく、心理的ハードルが高くなります。
この傾向が特に強く出るのが50人未満の会社です。50人未満の事業場には産業医の選任義務がないため、従業員にとって「産業医・保健師って誰?」という状態になりがちです。それでもストレスチェック自体は2028年4月から50人未満の会社にも義務化されます。普段まったく接点のない産業医・保健師にいきなり「話してください」と言われても、受け入れづらいのは自然なことです。日頃の信頼関係が全くない状態から、ストレスチェックの時だけ急に医師・保健師が登場するギャップが、50人未満の会社ではとくに大きくなります。 なお、2028年4月1日からは50人未満の事業場も義務化されます。詳しくは50人未満の義務化はいつから?準備ガイド(2028年4月1日確定)をご覧ください。
まずは産業保健職による30分〜1時間程度の健康セミナーを実施するだけでも意味があります。個別に「相談してください」と迫るのではなく、「この人が産業医・保健師なんだ」と顔と存在を知ってもらう場を作ることが、翌年以降の申出のハードルを下げる第一歩になります。
会社はどこまで勧奨してよい?——回数ルールを決めておく

実施者には、高ストレス者に対して面接指導の申出を勧奨する役割があります。ただし勧奨のしすぎは禁物です。本人の意思に反して繰り返し働きかけると、かえって「監視されている」という不信感につながり、ストレスチェック制度全体への信頼を損ないます。
通知の主体は、できるだけ実施者(保健師・医師)からWebシステム経由で本人へ直接通知される運用が望ましいです。今はストレスチェックの結果がWebシステムから本人へ直接届き、本人以外は絶対に結果を見られない、という運用の会社も増えています。一方、人事担当者が結果通知の封筒を配布したり面談の案内をしたりする運用だと、実際には人事が結果を見ていなくても「人事も知っているのでは」という誤解を招きます。制度上問題のない運用であっても、社員がどう受け止めるかという視点が、申込みへの心理的ハードルを左右します。
文面や伝え方の工夫だけで申込率が劇的に変わるわけではありませんが、「面談を受けても不利益はない」「相談内容は守られる」「利用するかは自分の意志で決められる」という安心感を伝える説明は効果があります。「高ストレス者なので面談を受けてください」という表現より、「今のお仕事や体調について整理する機会として、医師の面接指導が利用できます」と伝える方が受け入れられやすい印象です。あわせて、保健師から「無理にとは言いませんが、話を聞いてもらうだけでも気持ちが整理できる人もいますよ」と直接ひと声かける方が、書面だけの案内より実際に医師へつながるケースが多いというのが実感です。
「相談しやすい会社」と「相談しにくい会社」は何が違うのか

申出率だけを見ると「勧奨しても意味がないのでは」と感じるかもしれません。しかし誰からも反応がない状態を放置するのは良くありません。大切なのは、勧奨という「点」の働きかけだけに頼らず、日常的に相談しやすい環境という「面」を作っておくことです。会社ごとの違いを見ていると、その差ははっきり出ます。
- 相談しやすい会社——産業医・保健師が普段から身近な存在。健診後の保健指導や職場巡視、日常の健康相談を通じて顔なじみになっている。集団分析の結果を職場環境改善に活かし、その内容を安全衛生委員会や社内報で継続的に共有している
- 相談しにくい会社——ストレスチェックが年1回のアンケートイベントのようになっていて、産業医・保健師との接点が全くない。会社が結果を活かしている実感がなく、面談の案内が届いても「相談しても意味ない」「会社に知られるのが嫌」という不安の方が大きくなる
つまり、ストレスチェックの時だけ産業医・保健師が登場する会社では、面談への心理的ハードルは下がりません。会社が結果を活かしていると従業員が実感できて初めて、安心して相談できるようになります。ストレスチェックの受検率そのものを社内に定着させる考え方はストレスチェックの受検率を上げるには?社内定着の実務ポイントでも解説しています。
面接指導の申出はなくても、雑談から支援につながることもある
実務では、正式な面接指導の申出はなくても、保健指導などの機会に「そういえば」という雑談から健康相談につながるケースは実際によくあります。「せっかく医療従事者に会えたし」という感覚で、最近眠れない、疲れが取れない、といった話を切り出してくる従業員は少なくありません。
そこですぐに面接指導へ誘導するのではなく、まず困りごとや現状を丁寧にヒアリングし、安心して話してもらえる関係づくりを優先します。睡眠・食事・仕事の状況・働き方・人間関係を一緒に整理しながら、必要に応じて「医師に話を聞いてもらえる制度がある」と面接指導について説明し、本人が希望すれば産業医につなぎます。事前に保健師から相談内容を産業医へ情報提供しておくことで、面接指導そのものの質が変わることもあります。その場で申込みに至らなくても、後日「やっぱり相談したい」と連絡が来ることもあります。
会社として今日からできる具体策
反応率を劇的に上げる特効薬はありませんが、担当者だけで抱え込まずに済む実務上の工夫はあります。
- 勧奨の回数と方法を事前にルール化し、衛生委員会で共有しておく——毎回その場の判断で追いかける・追いかけないを決めると、対応にばらつきが出る
- 通知はWebシステム等で実施者(保健師・産業医)から本人へ直接届く運用にする——人事経由の封筒配布は「人事に知られるのでは」という誤解を招きやすい
- 「面談を受けても不利益はない」「相談内容は守られる」ことを丁寧に説明する——「高ストレス者だから受けてください」ではなく、整理する機会として使えると伝える
- 健診後の保健指導や職場巡視を通じて、産業医・保健師を日頃から身近な存在にしておく——ストレスチェックの時だけ登場するのでは相談のハードルは下がらない
- 継続的な伴走がすぐには難しい場合、30分〜1時間程度の健康セミナーから始める——「誰に相談することになるのか」を事前に知ってもらうだけでもハードルが下がる
- 集団分析の結果を職場環境改善に活かし、その取り組みを衛生委員会・社内報で継続的に共有する——「やっても変わらない」という不信感を薄めることが、翌年以降の申出率にも効いてくる
- 社内で対応しきれない場合は外部の保健師・産業医に勧奨業務ごと委託する——専門職が継続的に関わることで、雑談レベルの相談も拾いやすくなる
まとめ:反応率の低さより「相談しやすさ」を積み上げる
- 面接指導は本人の申出が前提の制度のため、勧奨しても反応率が低いのは織り込み済み(体感5%未満)
- 申し出る人は「本人の自覚」と「保健師との日頃の信頼関係」があるケースが多い
- 通知はWebシステム等で実施者から本人へ直接届く運用にし、丁寧な説明で不安を減らす
- 勧奨のしすぎは不信感につながる。「2〜3回まで」など回数ルールを事前に決めておく
- 正式な申出がなくても、日頃の保健指導・職場巡視での雑談から相談・支援につながることがある
- 担当者だけで抱え込まず、保健師への日常相談の受け皿や外部委託も選択肢に
実施者の要件や役割についてはストレスチェックの実施者とは?保健師も担当できる理由と要件、面接指導の具体的な流れはストレスチェック高ストレス者面談の方法|準備から注意点までもあわせてご覧ください。一次情報は厚生労働省・ストレスチェック制度やe-Gov法令検索(労働安全衛生法第66条の10)で確認できます。
あわせて読みたい:ストレスチェックの面接指導と運用
ストレスチェックの面接指導や実施・運用について、あわせてご覧ください。
- ストレスチェック面接指導の完全ガイド|義務・流れ・就業措置
- 高ストレス者を放置するとどうなる?会社のリスクと今すぐやるべき対応
- ストレスチェックの面談で何を話す?聞かれること・当日の流れを産業医が解説
- ストレスチェックの実施者とは?保健師も担当できる理由と要件
よくある質問
Q. 高ストレス者に面接指導を強制的に受けさせることはできますか?
できません。面接指導は高ストレス者本人からの「申出」があって初めて実施される制度です。会社や実施者が一方的に指定・強制することは認められていません。
Q. 勧奨は何回まで行ってよいのですか?
法令上、勧奨の回数に明確な上限は定められていません。ただし勧奨のしすぎは不信感につながるため、実務では「2〜3回まで」など事前にルール化しておくことが推奨されます。
Q. 高ストレス者への通知は誰が行うべきですか?
実施者(保健師・産業医など)から本人へ直接、書面またはメールで通知するのが基本です。上司や人事担当者から直接声をかける方法は、圧力に感じられやすいため避けるべきです。
Q. 申出率が低いのはうちの会社だけの問題でしょうか?
いいえ。面接指導は本人の申出が前提の制度であるため、どの会社でも反応率は低い傾向にあります。体感では勧奨しても実際に申し出る人は5%未満ともいわれ、特定の会社だけの問題ではありません。
Q. 担当者だけで対応しきれない場合はどうすればいいですか?
外部の保健師や産業医に、高ストレス者への勧奨や日常的な相談対応を委託する方法があります。専門職が継続的に関わることで、担当者の負担を減らしながら相談のハードルも下げられます。
Q. 面接指導を申し出ない従業員には何もできないのですか?
正式な申出がなくても、健診後の保健指導や職場巡視の機会に雑談から健康相談につながることは実際によくあります。保健師がすぐ面接指導へ誘導せず、まず安心して話せる関係づくりを優先することが、結果的にその後の支援や医師への相談につながります。
Q. 50人未満の会社では、大きい会社と対応を変える必要がありますか?
50人未満の事業場は産業医の選任義務がなく、従業員にとって「産業医・保健師が誰なのか分からない」状態になりがちです。それでもストレスチェックは義務であるため、日頃から接点のない専門職にいきなり相談を求めても申出にはつながりにくくなります。外部の保健師と継続的に関わる機会を作り、ストレスチェックの時だけでなく普段から相談できる関係を築いておくことが特に重要です。

