「うちは30人。ストレスチェックが義務になるらしいけど、何から始めればいい?」「産業医はいないし、費用もかけられない。自分たちでできるの?」——2028年の義務化を前に、50人未満の会社の経営者・総務の方から増えている相談です。
先に結論です。50人未満の会社が決めることは「実施者を誰にするか」「紙かWebか」「面接指導を誰に頼むか」の3つだけです。実施者は保健師や医師を抱える委託先に頼むのが便利で、厚生労働省の無料プログラムで自社実施することもできます。準備は半年前から、面接指導は実施から1か月以内。産業医の選任も労基署への報告も不要です。2027年からしっかり準備しておいて損はありません。
この記事では、50人未満の会社からの相談を日常的に受けている現役産業医として、義務になる範囲、最小構成の決め方、自社実施と委託の違い、30人規模の年間の流れ、内製で危なかった例、面接指導の頼み先を、経営者と総務の目線で解説します。
50人未満の会社はいつから何が義務になるか——2028年4月1日から

2025年に公布された改正労働安全衛生法により、2028年4月1日から常時50人未満の事業場にもストレスチェックの実施が義務化されます。義務になるのは「実施・本人通知・面接指導・措置」で、労働基準監督署への報告と産業医の選任は不要のままです。 制度の全体像(目的・会社の義務・年1回の流れ・役割分担)は、ストレスチェック制度とは?目的・義務・流れにまとめています。
| 項目 | 現在(50人未満) | 2028年4月1日以降 |
|---|---|---|
| ストレスチェックの実施(1年以内ごとに1回) | 努力義務 | 義務 |
| 結果の本人通知(実施者から直接) | 努力義務 | 義務 |
| 高ストレス者への医師の面接指導(申出から1か月以内) | 努力義務 | 義務 |
| 面接指導の結果に基づく就業上の措置 | 努力義務 | 義務 |
| 労働基準監督署への報告 | 不要 | 不要(予定) |
| 産業医の選任 | 不要(努力義務) | 不要(努力義務) |
| 衛生委員会の設置 | 不要(意見を聴く機会は必要) | 不要(意見を聴く機会は必要) |
| 記録の保存(5年)・不利益取扱いの禁止 | 義務 | 義務 |
50人未満の最小構成——実施者・紙かWebか・面接指導の3つを決める

「これだけ決めれば始められる」という最小構成は3つです。
| 決めること | 現役産業医のおすすめ | 注意 |
|---|---|---|
| ①実施者は誰か | 保健師がストレスチェックのサービスを提供していたり、委託先が保健師・医師を抱えている場合が多いので、そこに頼むのが便利 | 「自分で医師・保健師を見つければ安い」は、見つからないことがある |
| ②紙かWebか | 最近はWebのほうが安くなってきている。紙は収集・送付が大変 | メールアドレスがない会社は紙も検討。会社の状況に応じて |
| ③面接指導を誰に頼むか | 地域産業保健センター(無料)も手だが、人数に限りがあり回数も限られる。マッチングサービスや地域の医師に頼むのも手 | 申出から1か月以内に実施。頼み先だけは事前に確保 |
実施者の要件は実施者とは?保健師も担当できる理由、委託先の比較は外部委託先の選び方で解説しています。
自社で実施するか、委託するか——厚労省の無料プログラムと事業者の違い

厚生労働省は「ストレスチェック実施プログラム」を無料で配布しており、57項目・23項目の調査票、判定、結果出力、集団分析まで行えます。ソフトは無料ですが、実施者(医師・保健師など)と面接指導の医師は自社で確保する必要があります。50人未満向けの公式マニュアルの要点はストレスチェック実施マニュアルの読み方にまとめています。
| 自社実施(厚労省プログラム) | 委託(ストレスチェック事業者・健診機関) | |
|---|---|---|
| 費用 | ソフトは無料 | 1人500〜700円が目安(30人で年2万円前後) |
| 実施者 | 自社で医師・保健師などを確保 | 事業者の医師・保健師 |
| 事務 | 受検の案内・回収・入力は自社。実施事務従事者(人事権のない人)を決める | Web受検・結果通知・集団分析まで一式 |
| 面接指導 | 別途手配 | 別料金・別手配の事業者が多い |
| 向く会社 | 保健師や医師に頼める当てがあり、事務を回せる | 実施者の当てがない、事務の手間を減らしたい |
30人規模の会社の年間の流れ——半年前から準備し、面接指導は実施から1か月以内

年間の流れは指針に沿えばよいのですが、ポイントは半年前から準備することと、面接指導は実施から1か月以内を目標にすることです。2〜3か月経ってしまうと、病んで休んでしまう人や、逆に「もうどうでもいい」となってしまう人、「あのときはしんどかったけど」と言って効果があまりなかったりします。
| 時期(10月実施の例) | やること |
|---|---|
| 4〜5月(半年前) | 委託先・実施者を決める。面接指導の医師の頼み先を決める(地域産業保健センター・マッチング・地域の医師) |
| 6〜7月 | 実施規程を作る(厚労省の規程例をそのまま)。関係労働者の意見を聴く機会(朝礼や会議で説明) |
| 8〜9月 | 案内文を配る(「病気の検査ではない」「評価に使わない」)。Webか紙かを決めて準備 |
| 10月(実施) | 受検期間2週間。実施者が判定し、本人に結果通知 |
| 11月(1か月以内) | 高ストレス者の申出→医師の面接指導→意見書→措置 |
| 12月〜翌年 | 集団分析を社内で共有(10人以上の単位)。翌年の改善と実施月を決める。報告は不要 |
実施月の決め方は実施時期はいつがいい?、規程の作り方は実施規程の作り方、衛生委員会がない場合の意見聴取は衛生委員会で何を決める?で解説しています。
内製で失敗した・危なかった例——社長が結果を見る、実施者が見つからない

小さな会社ほど起きやすい落とし穴が2つあります。1つは、社長や人事権を持つ人が個人の結果を見てしまうこと。もう1つは、「実施者を自分で見つければ安いですよ」と聞いて始めたが、医師や保健師が見つからなかったこと。ちゃんと実施できる段取りを先に決めて、どのくらいできるかを確認してから始めてください。
| 危なかった例 | 先に決めておく段取り |
|---|---|
| 社長や人事権者が個人の結果を見てしまった(実施事務従事者に人事権者が入っていた) | 結果を見る人は実施者と本人だけ、と規程に書く。実施事務従事者は人事権のない人にする |
| 「自分で実施者を見つければ安い」と始めたが、医師・保健師が見つからなかった | 実施者は委託先の保健師・医師で確保してから始める |
| 高ストレス者が出てから面接指導の医師を探し、1か月を過ぎた | 面接指導の医師の連絡先を1つ持つ |
| 紙で配ったが回収がばらばらで結果が出せない | どのくらいできるか(件数・時期)を委託先と確認してから契約 |
同意とプライバシーの設計は同意・プライバシー保護、高ストレス者を放置したときのリスクは高ストレス者を放置するとどうなる?を参照してください。
面接指導の頼み先——地域産業保健センターの限界と、外部の医師
50人未満の会社にとって、面接指導は正直いちばん難しいところです。地域産業保健センターは無料でとても有用ですが、人数に限りがあり、回数も限られています(年2回あれば十分なのですが、そのリソースが限られている)。今後は対象者がかなり増えるので、受け皿になりきれるかは心配な面もあります。そのときはマッチングサービスや地域の医師に頼むのも手です。面接指導は「医師」であれば行えるので、産業医でなくても構いません。
産業医がいない会社の選択肢の比較は産業医がいない会社はどうする?、手配の実務は面接指導の医師がいない場合の外部委託・スポット依頼で解説しています。
まとめ:2027年から準備しておいて損はない
- 2028年4月1日から50人未満も義務。義務になるのは実施・本人通知・面接指導・措置。報告と産業医選任は不要。
- 決めるのは3つ。実施者(委託先の保健師・医師が便利)、紙かWebか(Webが安くなってきた)、面接指導の頼み先。
- 厚労省の無料プログラムで自社実施もできるが、実施者と面接指導の医師は自社で確保。委託でも30人で年2万円前後。
- 半年前から準備。面接指導は実施から1か月以内。2〜3か月空くと効果がなくなる。
- 危ないのは、社長が結果を見る、実施者が見つからない。段取りを先に決めて、どのくらいできるか確認してから始める。
- 地域産業保健センターは有用だが枠が限られる。マッチングや地域の医師も手。
経営者の方に一言。2027年からしっかり準備しておいて損はありません。2028年になってから「急がなきゃ」となると、事業者の受け入れも忙しくなります。今のうちから委託先や医師と良いコミュニケーションを取っておいてください。
あわせて読みたい:ストレスチェックの面接指導と運用
ストレスチェックの面接指導や実施・運用について、あわせてご覧ください。
- ストレスチェック面接指導の完全ガイド|義務・流れ・就業措置
- ストレスチェック義務化はいつから?50人未満は2028年4月1日から|準備ガイド
- ストレスチェックの対象者は誰?パート・派遣・休職者・役員の扱いと50人の数え方
- ストレスチェックの費用はいくら?相場・内訳・50人未満の総額を産業医が解説
- 産業医がいない会社はどうする?ストレスチェック・面接指導・メンタル不調の対応
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- ストレスチェック制度とは?目的・法的根拠・流れ・会社の義務を現役産業医が解説
- ストレスチェックをやらないとどうなる?罰則・報告義務違反・安全配慮義務——本当に怖いのは休職
- ストレスチェック実施マニュアルの読み方|最新版と50人未満向けの要点
- 産業医がいない会社の復職判定はどうする?診断書だけで戻すリスクと現実的な手順
よくある質問
Q1. 50人未満の会社はいつからストレスチェックが義務になりますか?
2028年4月1日からです。2025年公布の改正労働安全衛生法により、常時50人未満の事業場も実施義務の対象になります。労働基準監督署への報告と産業医の選任は、50人未満では引き続き不要です。
Q2. 産業医がいなくても自社でストレスチェックはできますか?
できます。実施者は医師・保健師・研修を受けた看護師などで、産業医に限られません。保健師や医師を抱える委託先に実施者を頼むのが便利です。厚生労働省の無料プログラムで自社実施する場合も、実施者は自社で確保する必要があります。
Q3. 30人の会社だと費用はいくらくらいですか?
委託の場合、1人500〜700円が目安なので30人で年2万円前後です。高ストレス者は1割程度で、面接指導は年0〜2件、1件3万円前後を見ておけば足ります。厚生労働省の無料プログラムを使えばソフトの費用はかかりませんが、実施者と面接指導の医師の費用は別です。
Q4. 高ストレス者の面接指導は誰に頼めばいいですか?
「医師」であれば行えます。地域産業保健センターは無料ですが人数と回数に限りがあります。マッチングサービスや地域の医師にスポットで頼むのも手です。申出から1か月以内に実施する必要があるので、頼み先は事前に決めておいてください。
Q5. 社長がストレスチェックの結果を見てもいいですか?
いけません。個人の結果は実施者から本人に直接通知され、本人の同意がなければ会社は見られません。人事権のある人(社長・役員・人事担当)は実施者にも実施事務従事者にもなれません。小さな会社ほど起きやすい失敗なので、実施事務従事者は人事権のない担当者にしてください。

