「週3日のパートさんはストレスチェックを受けさせないといけない?」「派遣の人はうちでやるの?」「社長と役員は?」——ストレスチェックの実施を決めた会社から、最初に来る質問はほぼこの3つです。
先に結論です。ストレスチェックを受けさせる義務があるのは「常時使用する労働者」で、具体的には①期間の定めのない契約(または契約期間1年以上)で、②1週間の所定労働時間が通常の労働者の4分の3以上の人です。この2つを満たせばパート・アルバイトも対象で、満たさなければ義務の対象外(受けさせるのは任意)です。派遣社員は派遣元の義務、休職中の人は実施しなくてよく、労働者でない役員は対象外です。 制度の全体像(目的・会社の義務・年1回の流れ・役割分担)は、ストレスチェック制度とは?目的・義務・流れにまとめています。
この記事では、現役産業医として顧問先の「誰に受けさせるか」の判断に毎年立ち会っている立場から、雇用形態ごとの判定表、50人のカウントで本当に多い誤り、対象外の人にも受けてもらうべきかの考え方を、実務で使える形に整理します。 50人未満の会社が実際にどう進めるかは、50人未満・中小企業のストレスチェックのやり方にまとめています。
ストレスチェックの対象者の定義——「常時使用する労働者」の2要件

労働安全衛生法第66条の10は、事業者に「常時使用する労働者」へのストレスチェックの実施を義務づけています。厚生労働省のQ&Aでは、この「常時使用する労働者」を一般健康診断の対象者と同じ考え方で、次の2要件で定義しています。
| 要件 | 内容 | 補足 |
|---|---|---|
| ①契約期間 | 期間の定めのない労働契約、または契約期間が1年以上(更新により1年以上になる場合を含む) | 有期でも更新を重ねて1年以上使用されている(見込みを含む)なら該当 |
| ②労働時間 | 1週間の所定労働時間が、同じ事業場の通常の労働者の4分の3以上 | 通常が週40時間なら30時間以上。週20時間のパートは該当しない |
パート・アルバイトは対象?——4分の3ルールで判定する
顧問先からいちばん多い質問がこれです。答えは「契約期間と労働時間で決まる」で、パートという呼び方は関係ありません。正社員の4分の3以上の時間で1年以上働いている人は、パートでもアルバイトでも義務の対象です。逆に、週20時間のパートは4分の3に届かないので義務の対象外で、受けさせるかどうかは会社の判断になります。
| 働き方の例(通常の労働者=週40時間) | 判定 |
|---|---|
| 週5日・1日6時間(週30時間)・無期契約 | 義務の対象(4分の3以上) |
| 週4日・1日8時間(週32時間)・1年契約を更新 | 義務の対象 |
| 週3日・1日8時間(週24時間)・無期契約 | 義務の対象外。2分の1以上なので受けさせることが望ましい |
| 週2日・1日5時間(週10時間) | 義務の対象外(任意) |
| 週30時間だが契約期間6か月・更新なし | 義務の対象外(契約期間の要件を満たさない) |
| シフト制で週によって20〜32時間 | 契約上の所定労働時間で判断。契約書に週の所定時間がなければ、直近の実態の平均で判断し、迷ったら受けさせる |
シフト制で週ごとに時間が変わる人は、契約書の所定労働時間で判断するのが原則です。契約書に週の時間が書かれていない場合は、直近数か月の実態で平均を取り、迷ったら受けさせる側に倒してください。受けさせて困ることはありませんが、受けさせずに不調を見逃すと、あとで「なぜ対象にしなかったのか」を問われます。
派遣社員は?——派遣元が実施、派遣先は集団分析のために協力する

派遣社員のストレスチェックは、雇用主である派遣元に実施義務があります。派遣先には義務はありません。ただし厚生労働省は、派遣先でも派遣社員を含めてストレスチェックを実施し、職場ごとの集団分析に含めることが望ましいとしています。派遣社員が多い部署は、派遣社員を除いた集団分析では職場の実態が見えないからです。健康診断や面接指導を派遣元と派遣先のどちらが行うかは派遣社員の産業医面談は派遣先と派遣元どっち?で整理しています。
- 個人の受検・結果通知・面接指導の申出先: 派遣元(義務者)
- 派遣先ができること: 派遣社員にも受検の機会を提供し、集団分析に含める(本人の同意のもと)。就業上の措置が必要になった場合は派遣元と協力する
- 派遣元が実施していない場合: 派遣先が代わりに義務を果たすことはできない。派遣元に実施を求めつつ、派遣先の集団分析用に受検してもらうことは可能
- 労基署への報告書: 派遣社員は派遣元の在籍労働者・受検者数に計上する(派遣先には含めない)
休職者・育休中・長期出張・海外勤務は?——実施時期に就業していない人は実施しなくてよい

ストレスチェックの実施時期に休職・育児休業・長期の海外勤務などで就業していない人は、実施しなくて差し支えないとされています。実務では、実施時点で休業中の人は対象から外し、復職したら次の実施タイミングで受けてもらうのが一般的です。私の顧問先でもこの運用にしています。 新入社員・中途入社をいつ受けさせるか(次回の定期実施でよい理由)は、ストレスチェックの実施時期はいつがいい?おすすめの月・避ける時期・新入社員の扱いで解説しています。
役員・執行役員・出向者は?——「労働者かどうか」で判断する

ストレスチェックの対象は「労働者」なので、会社と雇用関係にない取締役・監査役などの役員は対象外です。社長が「自分も受けたい」と言えば任意で受けることはできますが、義務の対象にも受検者数にも入りません。一方で、執行役員は従業員(使用人)として雇用されていることが多く、その場合は対象です。「取締役兼部長」のような使用人兼務役員も、労働者としての実態があれば対象になります。
出向者は、出向元・出向先のどちらの労働者として扱われているかで判断します。在籍出向で出向先の指揮命令を受けて働き、出向先が労働者として管理している場合は出向先で実施するのが原則で、賃金の支払いや指揮命令の実態を総合的に見て決めます。転籍出向は出向先の労働者なので、出向先が実施します。判断に迷う場合は、出向元と出向先で「どちらで受けさせるか」を事前に取り決めておけば、二重にも漏れにもなりません。
「50人以上」はどう数える?——対象者数ではなく、常時使用する労働者の数
ここが最も誤解の多いところです。「ストレスチェックの対象者(4分の3以上の人)が50人未満だから、うちは義務じゃない」——この判断は誤りです。実施義務があるかどうかを決める「常時50人以上」は、4分の3ルールとは別の基準で、その事業場が常態として使用している労働者の総数で数えます。
| 実施義務の判定(50人のカウント) | 受検させる義務の対象者 | |
|---|---|---|
| 基準 | 常態として使用している労働者の数(事業場ごと) | 常時使用する労働者(4分の3ルール) |
| パート・アルバイト | 労働時間に関係なく全員数える(週1回の勤務でも継続雇用なら含む) | 4分の3以上の人だけが義務の対象 |
| 派遣社員 | 派遣元で数える(派遣先には含めない) | 派遣元が実施 |
| 役員 | 労働者でなければ含めない | 対象外 |
| 休職者 | 在籍していれば含める | 実施時期に就業していなければ実施不要 |
なお、この「常時50人以上」の線は2028年4月1日でなくなり、50人未満の事業場もストレスチェックの実施が義務化されます。
義務化の内容と準備はストレスチェック義務化はいつから?50人未満は2028年4月1日からにまとめています。労基署への報告書は義務化後も50人以上のみで、受検者数の数え方はストレスチェック報告書の書き方と提出期限で解説しています。
対象外の人にも受けてもらうべき?——会社が許せるなら全員に

義務の対象外の人(週20時間のパート、契約期間が短い人など)に受けてもらうことは、まったく問題ありません。私は、予算が許すなら全員受検をお勧めしています。理由は3つです。
- 不公平感がなくなる。「正社員だけ受けられる」は、対象外の人から見れば「自分たちの健康は会社の関心の外」というメッセージになります。
- 集団分析の精度が上がる。パートが多い部署を正社員だけで分析しても、職場の実態は見えません。
- 費用は大きく変わらない。受検費は1人500〜700円前後なので、対象を広げても総額への影響は小さい(ストレスチェックの費用相場)。
「対象を広げると高ストレス者が増えて、面接指導の手間と費用が増えるのでは」と心配される担当者もいます。しかし、面接指導1件は3万円前後です。不調に気づかず休職に至れば、欠員の穴埋め、代替要員、周囲の負担増による生産性低下で、そのコストは面接指導の比ではありません。早く面接指導につないで対応するほうが、経済的にも合理的です。受検率の上げ方はストレスチェックの受検率を上げるには?で解説しています。
対象者を決めたら、次に決めること——高ストレス者が出たときの医師
対象者が決まれば、受検者の10%前後が高ストレス者として判定されます。そのうち申し出た人に、医師の面接指導を1か月以内に行う義務が会社にあります。産業医がいない会社や、顧問産業医の面談枠が足りない会社は、対象者を決める段階で「面接指導を頼む医師」も決めておくと、高ストレス者が出てから慌てません。
まとめ:対象者の判定表
| 区分 | 義務の対象か | 実務のポイント |
|---|---|---|
| 正社員(無期・フルタイム) | 対象 | — |
| パート・アルバイト(4分の3以上+1年以上) | 対象 | 呼び方ではなく時間と契約期間で判断 |
| パート(2分の1以上4分の3未満) | 任意(望ましい) | 会社が許せば受けさせる |
| パート(2分の1未満)・短期契約 | 任意 | 全員受検なら含める |
| 派遣社員 | 派遣元の義務 | 派遣先は集団分析のために協力 |
| 休職・育休・長期海外勤務中 | 実施不要 | 復職後の次の実施で対象に戻す |
| 取締役・監査役(労働者でない) | 対象外 | 希望があれば任意で受検可 |
| 執行役員・使用人兼務役員 | 労働者なら対象 | 雇用契約の有無で判断 |
| 出向者 | 労働関係のある側が実施 | 出向元・出向先で事前に取り決める |
- 義務の対象=無期または1年以上の契約+週の所定労働時間が通常の4分の3以上。
- 50人のカウントは対象者数ではなく常態として使用する労働者の総数。パートは労働時間に関係なく全員含める。
- 派遣は派遣元、休職中は実施不要、労働者でない役員は対象外、執行役員は多くの場合対象。
- 対象外の人にも受けてもらってよい。予算が許せば全員受検が、不公平感と集団分析の両面で有利。
- 対象者を決めたら、高ストレス者が出たときの医師も同時に決める。
対象者の判断は、法律の要件を満たすかどうかの作業に見えて、実際には「誰を守るか」の判断です。1人の休職や退職が生む欠員コストと、周囲の負担増による職場全体のパフォーマンス低下を考えれば、早期発見・早期対応のために対象を広くとることが、最終的には経済合理性にかないます。
あわせて読みたい:ストレスチェックの面接指導と運用
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よくある質問
Q1. パート・アルバイトはストレスチェックの対象ですか?
期間の定めのない契約(または1年以上)で、週の所定労働時間が通常の労働者の4分の3以上なら対象です。通常が週40時間なら30時間以上が目安です。それ未満のパートは義務の対象外ですが、2分の1以上働く人には受けさせることが望ましいとされ、任意で全員に受けてもらうことも問題ありません。
Q2. 派遣社員は派遣先と派遣元のどちらで受けますか?
実施義務は雇用主である派遣元にあります。派遣先に義務はありませんが、職場ごとの集団分析に派遣社員を含めるために、派遣先でも受検の機会を提供することが望ましいとされています。労基署への報告書では派遣元の受検者数に計上します。
Q3. 休職中・育休中の従業員にも実施が必要ですか?
実施時期に休職や育児休業などで就業していない人は、実施しなくて差し支えありません。実務では実施時点で休業中の人は対象から外し、復職後の次の実施タイミングで通常どおり対象に戻します。復職直後に急いで受けさせる必要はありません。
Q4. 社長や役員は対象になりますか?
会社と雇用関係にない取締役・監査役などは労働者ではないため対象外です(希望すれば任意で受検できます)。執行役員は従業員として雇用されていることが多く、その場合は対象です。取締役兼部長のような使用人兼務役員も、労働者としての実態があれば対象になります。
Q5. 「50人以上」はパートも含めて数えますか?
含めます。実施義務を決める「常時50人以上」は、その事業場が常態として使用している労働者の総数で、パート・アルバイトは労働時間に関係なく全員数えます。4分の3ルールは「誰に受けさせる義務があるか」の基準であって、50人のカウントには使いません。対象者が50人未満でも在籍が50人以上なら義務があります。

