ストレスチェックの面接指導とは、ストレスチェックで高ストレスと判定され、実施者(医師・保健師など)が「面接指導が必要」と認めた人が申し出たときに、会社が医師に行わせる面談です(労働安全衛生法第66条の10)。申出があれば会社の義務で、申出からおおむね1か月以内に実施し、医師の意見を聴いて就業上の措置を決め、記録を5年間保存します。費用は会社の負担で、面接する医師は自社が選任している産業医でなくてもかまいません。
この記事は、現役の産業医として面接指導を行ってきた立場から、面接指導を「制度の決まり」から「当日の実際」「その後の就業上の措置」まで通しでまとめたガイドです。段階ごとにもっと詳しく書いた記事は、最後の「段階ごとの詳しい記事」に並べています。ストレスチェック制度そのものの目的と全体の流れは、ストレスチェック制度とは?目的・法的根拠・流れ・会社の義務で解説しています。
| 項目 | 決まり | 根拠 |
|---|---|---|
| 対象者 | 高ストレスで、実施者が「面接指導を受ける必要がある」と認めた人 | 労働安全衛生規則第52条の15 |
| 申出 | 本人が結果の通知を受けたあと、遅滞なく(おおむね1か月以内) | 同第52条の16、通達 |
| 実施 | 申出から遅滞なく(おおむね1か月以内)。行うのは医師 | 労働安全衛生法第66条の10、同規則第52条の16 |
| 医師が確かめること | 勤務の状況、心理的な負担の状況、そのほかの心身の状況 | 同規則第52条の17 |
| 医師の意見 | 面接指導のあと遅滞なく(おおむね1か月以内)聴く | 同規則第52条の19、通達 |
| 就業上の措置 | 医師の意見を勘案し、本人の意見も聴いて決める | 同法第66条の10第6項、指針 |
| 記録 | 面接指導の結果の記録を作り、5年間保存 | 同規則第52条の18 |
| 費用 | 会社(事業者)の負担 | 厚生労働省 Q&A |
| 不利益な取扱い | 申出をしたこと・面接指導の結果を理由にした不利益な取扱いは禁止 | 同法第66条の10第3項、指針 |
| 労基署への報告 | 常時50人以上の事業場は年1回、面接指導を受けた人数も報告 | 同規則第52条の21 |
ストレスチェックの面接指導とは——制度の「最重要の出口」

ストレスチェック制度の目的は、労働者が自分のストレス状態に気づき、必要な人を早めに専門家につなぐこと——つまりメンタル不調の「一次予防」にあります。検査を実施して結果を本人に返すところまでは、多くの会社ができています。しかし制度が本当に効果を発揮するのは、その先です。検査で高ストレスと判定され、面接指導が必要と評価された人が、実際に医師と話し、必要な手当てにつながって初めて、制度は「予防」として機能します。だから私は、面接指導こそがストレスチェック制度の最重要の出口だと考えています。
面接指導は、職場では「高ストレス者面談」「ストレスチェック後の面談」とも呼ばれます。同じ「医師による面接指導」でも、長時間労働者の面接指導(時間外・休日労働が月80時間を超え、疲労の蓄積が認められる人が対象。労働安全衛生法第66条の8)とは、対象も申出の流れも別の制度です。長時間労働のほうは長時間労働の面接指導とは?80時間の基準・流れ・案内文で解説しています。条文そのものを読みたい方は労働安全衛生法66条の10とは?をご覧ください。
対象者と申出——高ストレスの人が全員受けるわけではない

面接指導の対象になるのは、高ストレスと判定された人のうち、ストレスチェックの実施者(医師・保健師など)が「面接指導を受ける必要がある」と認めた人です(労働安全衛生規則第52条の15)。高ストレス者がそのまま全員対象になるのではなく、実施者が点数や本人の状況を見て判断します。高ストレス者の選び方と割合の目安は高ストレス者の判定基準とは?、本人向けの結果の読み方はストレスチェックの結果の見方にまとめています。
そして、面接指導は本人からの「申出」があって初めて実施されるという点が大事です。会社が高ストレス者を選び出して強制的に受けさせる仕組みではありません。これは一見まどろっこしく見えますが、メンタルの問題はプライバシー性が高く、本人の主体性を尊重しなければかえって受診や相談を遠ざけてしまうという配慮に基づいた設計です。裏を返せば、会社に求められるのは「申し出やすい環境をつくること」であり、申出を理由に不利益な取扱いをすることは法律で明確に禁止されています。
- 申出の時期:結果の通知を受けたあと遅滞なく。厚生労働省の通達では、おおむね1か月以内とされています
- 申出の先:会社(人事などの窓口)。窓口と申出の方法は、ストレスチェックの前に決めて知らせておきます
- 申出をすると会社に分かること:面接指導の対象だったこと。指針では、申出をもって結果を会社に渡すことに同意したとみなしてよいとされています
- 申し出ない人への声かけ:実施者は申出をするよう勧めることができます(同規則第52条の16第3項)。会社が受けるよう強制することはできません
案内と勧奨の文例はストレスチェックの案内文・面接指導勧奨の文例集、申し出ない人への対応は高ストレス者が面接指導を申し出ないときの対応、会社が業務として面談を指示できるかは産業医面談は会社が指示できる?で解説しています。
申出から記録まで——会社がやることと期限

実際の流れは、順を追えばシンプルです。ただし「遅滞なく」の期限が3か所あり、どこかで止まると1か月はすぐに過ぎます。会社がやることを、だれが・いつまでに、の順に並べます。
| 段階 | だれが | いつまでに | 詳しく |
|---|---|---|---|
| ①結果の通知と申出の案内 | 実施者 | 結果が出たら速やかに | 案内文・勧奨の文例 |
| ②申出の受付 | 会社(窓口) | 本人が結果を受けてからおおむね1か月以内に申出 | 申し出ないとき |
| ③医師の手配と日程の調整 | 会社 | 申出からおおむね1か月以内に面接 | 面接指導はいつまで? |
| ④医師への情報提供 | 会社 | 面接の前 | 下の段落 |
| ⑤面接指導 | 医師 | 1件30分ほど(私の場合) | 面談で何を話す? |
| ⑥医師の意見を聴く | 会社 | 面接のあとおおむね1か月以内(急ぐときは速やかに) | 面談の報告書と記録 |
| ⑦本人の意見を聴いて就業上の措置 | 会社 | 医師の意見を受けたら | 就業判定とは?3つの区分 |
| ⑧記録の作成と5年保存 | 会社 | 面接のあと | 面談の報告書と記録 |
| ⑨労働基準監督署への報告 | 会社(常時50人以上) | 年1回 | ストレスチェック報告書の書き方 |
申出の窓口と様式は、ストレスチェックの前に用意しておくのが理想です。ここが整っていない会社では、そもそも申出が上がってこず、制度が止まってしまいます。④の情報提供は見落とされがちですが、指針は、会社が医師に労働時間、労働密度、深夜業の回数と時間数、作業の態様、作業負荷の状況などの勤務の状況と、職場環境の情報を渡すよう求めています。勤怠の記録と、本人の仕事の中身が分かるメモを1枚渡すだけで、面接の精度はかなり上がります。実施の場は対面に限らず、要件を満たせばオンラインでも構いません。
意見書を受け取ってから措置を決め、上司に伝え、記録を保存するまでの書式は、無料PDF『高ストレス者面談 人事の実務書式集(申出の受付から記録の保存まで・7書式)』にまとめています。
面接指導で医師は実際に何を見て、何を聞くのか

法令で医師が確かめることになっているのは、勤務の状況、心理的な負担の状況、そのほかの心身の状況の3つです(労働安全衛生規則第52条の17)。指針は、勤務の状況に「職場で負担になっている原因」と「職場のほかの人からの支援の状況」も含めています。そのうえで、実際の面接がどう進むかをお話しします。
「面接指導」と聞くと、本人も会社も身構えがちです。叱られるのではないか、休職を宣告されるのではないか、査定に響くのではないか——そんな不安を抱えて来られる方は少なくありません。しかし実際の面接指導は、そういう場ではありません。私の場合、1件あたり30分あれば十分に事足りることがほとんどで、対面でもオンラインでも進め方は基本的に同じです。むしろ大切にしているのは、会社が与えてくれたその時間を、きちんと使い切ることです。
面接の入り方も、実は重要です。私は必ず最初に「口上」——今日の面談のルールを本人に説明します。ここを飛ばすと、本人は身構えたまま本音を話してくれません。実際にお伝えしているのは、こういう内容です。
「本日の面談はストレスチェックの面接指導で、守秘義務があり、話した内容が基本的に会社に漏れることはありません。ただし、”消えてしまいたい””死にたい”といった本当に危険なサインが確認された場合は、あなたに確認したうえで会社に伝え、協力をお願いすることがあります。また、面談後に報告書は出しますが、会社に伝わるのは『面談を実施した』という事実と、就業上の制限が必要になった場合にその最低限の理由だけです。安心してお話しください。」
そのうえで、話は決まった流れで進めます。まずその人の温度感(様子)を確認し、続いて心身の状況(眠れているか、食欲、気分の落ち込み)、職場の状況(仕事量、人間関係、繁忙)、周囲の支援(相談できる相手がいるか)を順に聴いていきます。そこからアセスメント(見立て)を行い、本人への説明、そしてクロージング——という順序です。本人を問い詰めるのではなく、対話のなかで一緒に整理していくイメージです。
私が「この人は危ないかもしれない」と感じるのは、表情が晴れない、服装が乱れている、面談に遅刻してくる、夜まったく眠れていない、受け答えがどこかおかしい——といったサインが見えたときです(この”気づき”のポイントは、管理監督者によるラインケアとも共通します)。本人が「大丈夫です」と取り繕うこともありますが、その場合も睡眠などの生活状況や周辺の情報を確認していくと、本当に大丈夫かどうかが見えてきます。
そして、いちばん大事な確認が希死念慮です。私はここを、変にぼかさず、真顔で率直に尋ねます。「死にたいと感じることはありますか」「消えてしまいたいと思うことはありますか」と。聞くことでしか分からないからです。もし「ある」という答えなら、その気持ちがどのくらい強いのか、”今すぐ”なのか、まだ待てる状況なのかを確認していきます。生活に支障が出るレベルであれば、精神科・心療内科への受診を勧めます。そのときは「私はとても心配しています。仕事を続けていくためにも、まずは心身のバランスを整えましょう。働くのはこの先とても長いのだから」——そんな言い方で、本人が前向きに受診できるよう伝えます。
なお、面接指導は”うつ病の診察”ではありません。申し出た人が全員メンタル不調というわけではなく、あくまで従業員がストレスと向き合うためのタイミングです。ここで話した内容が本人の同意なく会社に伝わることもありませんので、安心して話してもらってかまいません。
面接を受ける社員の方に向けて、聞かれることと当日の流れはストレスチェックの面談で何を話す?、「うつ病と診断されるのでは」という不安にはストレスチェックでうつ病と診断される?で答えています。
面接指導は誰が行う?——「医師」であればよく、自社の産業医でなくてよい

ここが、この記事でいちばん知っておいてほしい点です。ストレスチェックそのものの「実施者」は、医師のほか保健師、所定の研修を受けた看護師や精神保健福祉士なども担うことができます。しかし、高ストレス者への「面接指導」を行うのは”医師”と定められています(労働安全衛生法第66条の10)。そして——この医師は、自社が選任している産業医に限られていません。 実施者になれる職種と要件(保健師も可)は、ストレスチェックの実施者とは?で解説しています。
つまり、産業医を選任していない会社であっても、外部の医師に面接指導を依頼すれば、法律上の義務を果たせるということです。これは実務上とても大きな意味を持ちます。「うちには産業医がいないから面接指導ができない」という声を本当によく聞きますが、それは誤解で、正しくは「面接指導を行う医師を、そのつど確保すればよい」。50人未満で産業医の選任義務がない事業場、顧問産業医が面接指導まで手が回らない会社、地域産業保健センターの予約が埋まって申出から1ヶ月以内に間に合わない会社——こうしたケースでも、外部の医師に単発(スポット)で依頼することで、対応は十分に可能です。
| 頼み先 | 向いている会社 | 気をつけること |
|---|---|---|
| 選任している産業医 | 産業医がいて、訪問日に時間を取れる | 訪問の間隔が空くと1か月に間に合わない。顧問料に含まれるかは契約しだい |
| 外部の医師にスポットで依頼 | 産業医がいない・顧問の産業医が手いっぱい・拠点が遠い | 同じ医師が続けて見られるか、意見書まで書くかを先に確かめる(医師がいないとき) |
| 地域産業保健センター | 常時50人未満の事業場 | 無料だが予約が埋まりやすい(無料の範囲と限界) |
| ストレスチェックの委託先の医師 | 検査と面接指導をまとめて頼みたい | 面接指導が別料金か、オンラインに対応するか(委託先の選び方) |
オンライン面接指導と、拠点・在宅への対応

面接指導は、一定の要件を満たせばオンラインで実施することも認められています。拠点が全国に点在する会社や在宅勤務者の多い会社にとって、現実的な選択肢です。対面にこだわると、遠方の拠点で高ストレス者が出るたびに医師を探して訪問日程を合わせる負担が生じ、「1ヶ月以内」に間に合わないことも起こります。オンライン対応の医師や委託先を確保しておけば、場所を問わず、申出から短期間で実施できます。要件と当日の流れはストレスチェックの面接指導はオンラインでOK?で解説しています。
ただし、オンラインならではの注意点もあります。ひとつは、対面より情報が医師に伝わりにくいこと。だからこそ、会社が事前に会社の概要・業務の状況・対象者のプロフィール(勤怠や体調のヒアリングシート、ストレスチェック結果など)を医師に共有しておくと、限られた面接時間を本人のヒアリングとアセスメントに使えて、精度がぐっと上がります。
もうひとつはフォローアップです。措置を出したあと継続して見てもらえるのか——外部委託を使う場合は、次回も同じ医師が担当するのか、事業所とどうやり取りするのかを、依頼前に確認しておきましょう。
また、面接で受診が必要になったときにすぐ案内できるよう、あらかじめ受診先(医療機関)のリストを用意しておくと安心です。継続フォロー(1ヶ月後の再面談など)が必要な場合はできるだけ同じ医師が続けて担当するほうが望ましく、会社から「次回も同じ先生に」と希望があれば、それに応えられる委託先を選ぶとよいでしょう。
面接指導の費用と時間——費用は会社の負担、受ける時間の賃金は払うのが望ましい

面接指導の費用は、会社(事業者)が負担します。厚生労働省のQ&Aは「法で事業者にストレスチェック及び面接指導の実施の義務を課している以上、当然、事業者が負担すべきもの」としています。本人に自己負担させることはできません。医師の報酬だけでなく、意見書の作成料、オンラインの通信費、訪問してもらう場合の交通費も会社の負担です。
面接指導を受ける時間の賃金は、労使で話し合って決めることになっていますが、同じQ&Aは「賃金を支払うことが望ましい」としています。勤務時間中に受けてもらい、その時間は通常どおり給与を払う形にしておくと、「受けると損をする」という空気が生まれず、申出が上がりやすくなります。
いくらかかるかは頼み先で変わります。選任している産業医なら顧問料に含まれるか1件ごとの別料金かは契約しだい、地域産業保健センターは無料(常時50人未満の事業場)、外部の医師にスポットで頼むと1件ごとの料金です。1件の相場と、だれに頼むとどう変わるかはストレスチェック面接指導の費用は誰が負担?1件の相場と内訳、検査も含めたストレスチェック全体の総額はストレスチェックの費用はいくら?で解説しています。
面接指導のあとの「就業上の措置」——実際にどう決め、会社にどう伝えるか

面接指導は「実施したら終わり」ではありません。むしろ、そのあとに会社が講じる就業上の措置までつながって、はじめて意味を持ちます。医師が出す意見は、大きく次の3つの区分で示されます。
- 通常勤務:これまでどおり勤務してよい
- 就業制限:労働時間の短縮、時間外・深夜業の制限、業務内容や配置の変更など、働き方に一定の制限を加える
- 要休養:療養のため、一定期間休ませる
実際に出す意見としていちばん多いのは、残業(時間外労働)の制限です。私の場合は「時間外は当面ゼロ」「月20時間まで」「月45時間まで」というように、その人の状態に合わせて段階的に刻んで出すことが多い。逆に配置転換は、実はあまり出しません。産業医が配置にまで踏み込むと職場に干渉しすぎになりやすく、よほどの事情がない限り控えるべきだと考えているからです。そして要休養(休ませる)は、さらに慎重です。本人への影響が大きい侵襲的な措置なので、後述する本当にまずい状況——自殺企図が強く疑われるようなとき——に限って出します。
実際のところ、面接をしても就業制限まで出るのは10人に1人ほどで、多くはヒアリングやアドバイスのレベルで足ります。一方、その場では措置を出さずとも「1ヶ月後にもう一度面談しましょう」と定期フォローにつなぐ人が1〜2割ほどいます。
措置を出すかどうかの判断軸はシンプルで、「この人がこのまま働き続けると、心身に大きな影響が出て悪化してしまう」と見立てたときです。理想論で重い制限を並べても、現場が回らなければ実行されず、結局その人が守られません。だから実行可能な形に落とし込むことを何より大切にしています。
会社の側で決めるときは、指針のとおりあらかじめ本人の意見を聴き、十分に話し合って了解を得るよう努めます。必要に応じて産業医などが同席するのが適当とされています。医師の意見は、必要に応じて衛生委員会への報告などにも使います(労働安全衛生法第66条の10第6項)。医師から受け取る書類(面接指導結果報告書と、就業上の措置に係る意見書)の読み方と記録の残し方は高ストレス者面談の報告書と記録、意見書に病名をどこまで書くかは産業医意見書に病名は書く?にまとめています。
会社への伝え方にも、ひと工夫あります。会社に伝えるのは相談の中身ではなく「就業上の措置についての意見」ですが、その意見を出す前に、私は本人に「ここまでは会社にお伝えしてもいいですか」と、プライバシーに関わらないレベルまで確認してから伝えます。また、会社から「その制限では業務が回らない」と言われることもあります。そのときに大事なのは、それは会社(上司や人事)が対処すべきことであって、本人が気に病む必要はないということ。私は本人に「そこはあなたが心配しなくて大丈夫ですよ」と伝え、本人を守る立場をはっきりさせます。
なお、この「医師の意見を聴いて就業上の措置を講じる」枠組みは健康診断の事後措置と同じ構造で、健康診断の事後措置とは|有所見者の就業判定の進め方もあわせてご覧ください。通常勤務・就業制限・要休業の3つの区分と、だれが判定できるかは就業判定とは?3つの区分と、産業医以外の医師でもできるかにまとめています。
会社に伝わること・伝わらないこと——守秘と不利益な取扱いの禁止

申し出る側がいちばん気にするのは「何が会社に伝わるのか」です。会社の側も、ここを正しく知っておくと申出をつぶさずに済みます。
| 会社に伝わること | 会社に伝わらないこと |
|---|---|
| 面接指導を申し出たこと・受けたこと | 面接で話した中身そのもの |
| 就業上の措置についての医師の意見(通常勤務・就業制限・要休養)と、措置に必要な最低限の理由 | 診断名、検査値、具体的な訴えの内容などの生データや、詳しい医学的な情報 |
| 命に関わる危険があるとき、本人に確かめたうえで伝える情報 | 本人の同意のない、ストレスチェックの点数や結果 |
指針は、医師が会社に渡す情報を就業上の措置に必要な範囲に限り、診断名や検査値、具体的な訴えの内容などの生データや詳しい医学的情報は渡してはならないとしています。外部の医師が面接指導をした場合は、本人の同意を得たうえで、必要な範囲で事業場の産業医に詳しい情報を伝えることができます。
面接指導を申し出たことを理由にした不利益な取扱いは、法律で禁止されています(労働安全衛生法第66条の10第3項)。さらに指針は、面接指導の結果を理由にした解雇、契約期間のある人の雇止め、退職勧奨、不当な動機・目的による配置転換や職位の変更も禁止しています。面接指導を受けていない段階で、ストレスチェックの結果だけを理由に措置を決めることもできません。
「会社にバレるのでは」という本人側の不安には高ストレス者面談のデメリットは?、面談を受けないとどうなるかはストレスチェックの面談を受けないとどうなる?、結果を知らされない上司が何をすればよいかは高ストレス者に上司はどう関わる?で答えています。
面接指導の”前後”——受診・休職・復職との関係

面接指導は単体で完結するものではなく、受診・休職・復職という一連の流れの入り口に立っています。面接のなかで主治医(精神科・心療内科)の受診が必要と判断すれば、そこにつなぎます。そして、主治医から休職を前提とした診断書が出てきた場合は、ためらわず、直ちに休ませる準備に入るのが原則です。休職に入る局面では、話す機会があれば言葉を交わしますが、まずは早く休んで体調の回復に努めてもらうことを最優先にします。休職を前提とした診断書が出た場面での人事対応は、人事担当者がやってはいけない3つのことにまとめています。
ここでいちばんやってはいけないのが、本来なら休ませるべき段階に来ている人を、そのまま働かせ続けることです。体調が悪化するだけでなく、場合によっては会社が安全配慮義務を問われ、訴えられるリスクにもつながります。産業医が面談して危険を把握していたのに働かせ続けた、という事実は、会社にとって非常に不利に働きます。
そして、意外と軽視されがちなのが復職の場面です。休むときは休んでもらうしかなく、そこに判定が挟まる余地は多くありません。しかし復職は違います。体調が十分に戻らないまま職場に戻すと、再発してまた休職に逆戻り——ということが起こります。だからこそ、復職の可否は主治医の診断書だけで進めず、産業医が「就業できる状態か」を確認し、会社としても吟味する姿勢が欠かせません。復職判定の実務はメンタル休職者の復職判定で人事が陥りがちな3つの罠もあわせてご覧ください。
2028年、50人未満も義務化——今から備える

この改正は、面接指導の観点から見ると重い意味を持ちます。50人未満の事業場には、そもそも産業医の選任義務がありません。つまり、義務化によって「ストレスチェックはやったが、高ストレス者が出ても面接指導を頼む医師がいない」という会社が、これから大量に生まれることになります。
施行は2028年ですが、いざ申出が出てから慌てて医師を探しても、1ヶ月以内の実施に間に合わないおそれがあります。だからこそ、外部の医師に面接指導を依頼できる手段を、今のうちから確保しておくことが、これからの小規模企業のリスク管理になります。 施行日は2028年4月1日で正式に確定しています。詳しくは50人未満の義務化はいつから?準備ガイド(2028年4月1日確定)、小さな会社の進め方は50人未満・中小企業のストレスチェックのやり方をご覧ください。
備えの1つ目は実施規程です。作り方と決めどころは無料PDF『ストレスチェック実施規程の作り方——ひな形をもらってから、自社で決める数カ所』にまとめています。
“形だけ”にしない面接指導——効かせるための勘どころ

最後に、制度を回す以上に大切なことをお伝えします。面接指導は、やり方次第で「効く」ものにも「形だけ」のものにもなります。いちばん危険な兆候は、従業員が面接指導に対して「どうせやっても意味がない」「何も変わらない」というネガティブなイメージを持ってしまっていることです。こうなると、本当に助けが必要な人ほど申し出なくなり、制度が空回りします。
とくに気をつけたいのが会社の態度です。一度でも「なぜ面談なんか受けるのか」というような空気を出してしまうと、従業員の信頼は一気に下がり、翌年から誰も手を挙げなくなります。そうなると、体調がかなり悪化してから見つかる=手遅れに近い状態で発覚する人が増えてしまう。だからこそ会社は「秘密は守る」「いつでも受けていい」と、はっきりオープンに示すことが大切です。申出の窓口も、人を何人も介して調整するより、Webなどで申出を自動化し、間に人を挟まないほうが、実際に手が上がりやすくなります。
もう一つ、あまり語られませんが重要なのが医師の側の経験です。産業医のなかにも、ストレスチェックの面接指導のやり方や意味を学ぶ機会がなく、「これは何のためにやるのか」「どう対応すればいいのか」が分からないまま臨んでいる人が、正直に言えば一定数います。ありがちなのが、厚生労働省のチェックシートを上から順に読み上げるだけの面接や、話を十分に聴かないままの決めつけ。面接指導はヒアリングが命で、本人の話をきちんと聴けるかどうかで質がまったく変わります。面接指導を”効く”ものにするには、会社側の運用と、担当する医師の経験の両方が要る——ここは強調しておきたい点です。
「ストレスチェックは意味がない」と言われる理由と活かし方はストレスチェックは意味ない?形骸化の正体と活かし方、高ストレス者を放っておいた場合の会社のリスクは高ストレス者を放置するとどうなる?で解説しています。
まとめ
- ストレスチェックの面接指導は、高ストレスで実施者が必要と認めた人が申し出たときに、会社が医師に行わせる面談(安衛法66条の10)。申出があれば会社の義務
- 申出・実施・医師の意見聴取は、それぞれ「遅滞なく」=おおむね1か月以内。会社は面接の前に勤務の状況を医師に渡す
- 面接指導を行うのは「医師」であればよく、自社の産業医に限られない。産業医がいない会社は外部の医師にスポットで依頼できる
- 費用は会社の負担。受ける時間の賃金は払うのが望ましい
- 面接指導後は医師の意見と本人の意見を聴き、就業上の措置(通常勤務・就業制限・要休養)を講じる。実務では実行可能なマイルドな措置が多い。記録は5年保存
- 会社に伝わるのは措置の意見と最低限の理由だけ。申出や結果を理由にした不利益な取扱いは禁止
- 2028年4月から50人未満も義務化。産業医のいない小規模企業こそ、面接指導の手段を今から確保しておく
一次情報は、労働安全衛生法(e-Gov法令検索)第66条の10、労働安全衛生規則(e-Gov法令検索)第52条の15〜第52条の21、心理的な負担の程度を把握するための検査及び面接指導の実施並びに面接指導結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針(厚生労働省)、面接指導を実施する医師の方(厚生労働省・面接指導マニュアル)で確認できます。より詳しい実務は、代表産業医・角田拓実の著書『図解入門ビジネス 職場メンタルヘルスの基本と対応がよくわかる本』(秀和システム新社/紹介記事)でも解説しています。
面接指導の「あと」で止まらないための7つの書式は無料PDF『高ストレス者面談 人事の実務書式集(申出の受付から記録の保存まで・7書式)』、実施規程の作り方は『ストレスチェック実施規程の作り方——ひな形をもらってから、自社で決める数カ所』で配布しています。
段階ごとの詳しい記事——面接指導の地図
面接指導の段階ごとに、もっと詳しく書いた記事です。いま困っている段階から読んでください。
| 段階 | こんなとき | 記事 |
|---|---|---|
| 制度の全体 | 制度の目的・義務・条文を知りたい | ストレスチェック制度とは/安衛法66条の10とは/ストレスチェックで産業医は何をする? |
| 対象者 | だれが高ストレス・面接指導の対象になるか | 高ストレス者の判定基準/結果の見方 |
| 申出と勧奨 | 案内のしかた・申し出ない人・会社の指示 | 案内文・勧奨の文例集/申し出ないときの対応/セルフケア支援と相談窓口/産業医面談は会社が指示できる? |
| 期限と医師の手配 | いつまでに・だれに頼むか | 面接指導はいつまで?/面接指導の医師がいない/地域産業保健センターで足りる?/オンラインでOK?/外部委託先の選び方 |
| 費用 | 1件いくら・全体の総額 | 面接指導の費用/ストレスチェックの費用 |
| 当日(受ける社員の方) | 何を話す・不安・受けないと | 面談で何を話す?/面談のデメリットは?/受けないとどうなる?/うつ病と診断される? |
| 意見・措置・記録 | 意見書の読み方・就業上の措置・記録 | 面談の報告書と記録/意見書に病名は書く?/就業判定とは/面談記録を現場で活かす |
| そのあと | 上司の関わり・休職・復職 | 上司はどう関わる?/休職の診断書を渡された日/復職判定の基準 |
| 報告と体制 | 労基署への報告・規程・衛生委員会・集団分析 | 報告書の書き方と提出期限/実施規程の作り方/衛生委員会で何を決める?/集団分析とは |
| 50人未満・義務化 | 2028年からの準備 | 義務化はいつから?/50人未満のやり方 |
| 別の面接指導 | 残業が月80時間を超えた人 | 長時間労働の面接指導とは |
よくある質問
Q. ストレスチェック後の面接指導の費用は誰が負担しますか?
会社(事業者)が負担します。厚生労働省のQ&Aは、法で事業者に面接指導の実施の義務を課している以上、当然、事業者が負担すべきものとしています。本人に自己負担させることはできません。1件の相場はストレスチェック面接指導の費用で解説しています。
Q. 高ストレス者への面接指導は必ず実施しないといけませんか?
高ストレス者と判定され面接指導が必要とされた労働者から申出があった場合、事業者は医師による面接指導を実施する義務があります(労働安全衛生法第66条の10)。申出がない場合に強制するものではありませんが、申出しやすい窓口を用意し、申出を理由に不利益な取扱いをしないことを社内に知らせておきます。
Q. 面接指導は申出からいつまでに実施すればいいですか?
申出から遅滞なく、厚生労働省の通達ではおおむね1か月以内とされています。本人の申出(結果の通知からおおむね1か月以内)、医師からの意見聴取(面接指導からおおむね1か月以内)も同じ目安です。日程調整や医師の手配に時間がかかると間に合わないことがあるため、あらかじめ依頼先(産業医または外部の医師)を決めておくとスムーズです。
Q. 面接指導で話した内容は会社に伝わりますか?
面接指導で話した相談内容が、本人の同意なくそのまま会社に伝えられることはありません。会社に伝えられるのは「就業上の措置に関する医師の意見」であり、相談内容そのものではありません。安心して相談してください。
Q. 産業医がいなくても面接指導はできますか?
できます。面接指導を行うのは「医師」であればよく、自社が選任している産業医に限られません。産業医を選任していない事業場は、外部の医師にスポット(単発)で面接指導を依頼することで法律上の義務を果たせます。オンライン対応の委託先を使えば、全国どこの拠点でも対応できます。
Q. 面接指導を受ける時間は勤務時間ですか?賃金は払いますか?
賃金の扱いは労使で話し合って決めることになっていますが、厚生労働省のQ&Aは賃金を支払うことが望ましいとしています。勤務時間中に受けてもらい、その時間は通常どおり給与を払う形にしておくと、申出がためらわれにくくなります。
Q. 面接指導の結果はどのくらい保存が必要ですか?
面接指導の結果の記録を作成し、5年間保存することが事業者に義務づけられています(労働安全衛生規則第52条の18)。記録には、実施年月日、労働者の氏名、面接指導を行った医師の氏名、勤務の状況・心理的な負担の状況・心身の状況、医師の意見を書きます。


