「うちは30人。高ストレスの人が出たら、地域産業保健センターに頼めば無料で済むと聞きました。それで足りますか」——2028年の義務化を前に、いちばん多くいただく質問のひとつです。
先に結論です。従業員50人未満の事業場なら、地域産業保健センター(地さんぽ)で高ストレス者の面接指導を無料で受けられ、医師の意見書も出ます。面接指導が年に1〜2件で、急がない会社なら、これで足ります。足りなくなるのは、予約から面接まで時間がかかりすぎるとき、年2回の上限を超えるとき、対面で行けないとき、同じ医師に続けて見てほしいときです。
私は名古屋で産業医をしている角田拓実です。地域産業保健センターはすごく有用な選択肢だと思っています。そのうえで、現場で見てきた「無料で足りる会社・足りない会社」の分かれ目と、申込みから意見書までの流れを、厚生労働省のマニュアルと名古屋のセンターの案内で確かめた範囲で書きます。
地域産業保健センターとは?——50人未満の会社が無料で医師を使える公的な窓口

地域産業保健センター(略して「地さんぽ」「地産保」)は、厚生労働省所管の独立行政法人労働者健康安全機構(JOHAS)が運営する窓口です。全国に約350か所、おおむね労働基準監督署の管轄ごとに置かれ、登録産業医がいます。対象は労働者50人未満の事業場で、サービスは無料です(小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル 令和8年2月)。
| 頼めること | 頼めないこと |
|---|---|
| 高ストレス者の面接指導(意見書つき) | ストレスチェックの実施そのもの(受検・判定・結果の通知) |
| 長時間労働者の面接指導 | ストレスチェックの「実施者」を登録産業医に頼むこと |
| 健康診断の結果についての医師の意見聴取 | 毎月の訪問や、衛生委員会への出席など顧問産業医の仕事 |
| 健康管理・メンタルヘルスの相談、事業場への訪問指導 | 大企業の営業所など、本社の産業医の協力を得られる事業場の利用(断られることがある) |
よくある勘違いが「ストレスチェックも地域産業保健センターがやってくれる」です。地産保はストレスチェック自体を実施しません。受検と判定は、自社(厚労省の無料プログラム)か外部の実施機関で行い、面接指導の段階で地産保に頼む、という分担になります。実施の方法は50人未満・中小企業のストレスチェックのやり方にまとめています。顧問の社労士さんに手続きを任せている会社は、ストレスチェックと社労士もあわせてご覧ください。
面接指導はどう頼む?——申出が来てから申込み、日程は窓口が決める

地産保には「面接指導の対象者が決まった時点で」申し込みます。先に枠を押さえておく使い方はできません。流れは次のとおりです。
- ストレスチェックの実施(自社または外部の実施機関): 高ストレス者と、面接指導が必要かを実施者が判定し、本人に通知します。
- 本人の申出: 本人が会社に「面接指導を受けたい」と申し出ます。
- 会社が地産保に申込み: 申込書をFAXやメールで送ります。地域によってはWebフォームもあります。
- 窓口が医師と日程を調整: 登録産業医の手配と日程は、地産保の窓口が行います。名古屋では電話で利用日を確定したあと、予約通知書が届きます。
- 面接指導: 本人が医師と面接します。名古屋のセンターは対面のみです。
- 面接指導の結果と意見書が会社に届く: 地産保で実施した場合は、結果と医師の意見書がセットで提供されます。
- 会社が就業上の措置を決める: 意見書をもとに、通常勤務・就業制限・要休業を決めます。
法令の期限は、申出があったら遅滞なく面接指導(おおむね1か月以内)、面接のあと1か月以内に医師の意見を聴く、の2つです。地産保は面接から意見書までがセットなので、後ろの期限は守りやすい。気をつけるのは前の期限、つまり申出から面接までの日数です。
無料で足りる会社・足りない会社——産業医が見る4つの分かれ目

地産保について聞かれると、私はこう答えています。「すごく有用な選択肢です。無料でできる。ただ、予約が取りにくい、時間がかかる、回数が制限されている、というのが難しいところです」。どちらに当てはまるかは、次の4つで分かれます。
| 分かれ目 | 地産保で足りる | 足りない(別の頼み先が要る) |
|---|---|---|
| 1. 急ぎ度 | 本人が落ち着いていて、数週間待てる | 眠れない・休みがちなど、早く医師に会わせたい |
| 2. 件数 | 面接指導は年に1〜2件 | 高ストレス者が続けて出る、長時間労働の面接も重なる |
| 3. 面接の形 | 本人がセンターや指定の場所に出向ける | 交代勤務で平日昼に動けない、オンラインで受けたい |
| 4. その後 | 1回の面接と意見書で区切りがつく | 就業制限の見直しや復職まで、同じ医師に続けて見てほしい |
回数については、愛知県内のセンターは原則年2回まで、名古屋のセンターは1事業場あたり年度2回まで・労働者1人あたり年度2回までと案内しています。30人程度の会社なら年2回あれば十分なことが多いのですが、人数には限りがあり、窓口のリソースも限られています。
いちばん避けたいのは、予約を待っているうちに時間が経ちすぎて、意味のない面接指導になることです。ストレスチェックの結果が出てから面接まで2か月空くと、本人の状況は変わっていて、意見書も「今」に合わなくなります。急ぎの人を地産保の順番待ちに乗せない、と決めておいてください。
地産保・スポットの外部医師・顧問産業医を比べると?——費用・日数・回数・続けて見られるか

50人未満の会社が面接指導を頼める先は、実際にはこの3つです。産業医がいない会社の選択肢の全体は産業医がいない会社はどうする?に書きました。ここでは面接指導に絞って比べます。
| 地域産業保健センター | スポットの外部医師 | 顧問産業医 | |
|---|---|---|---|
| 費用 | 無料 | 1件3万円前後(税別・意見書込み) | 50人未満なら月3万円(電話・メールの相談込み。面談は1回3万円を追加) |
| 申出から面接まで | 窓口の調整しだい。混む時期は1か月を超えることも | 通常2週間。医師が待機枠を出す仕組みなら最短3営業日 | 1週間以内が目安 |
| 回数 | 原則年2回まで(地域による) | 件数の上限なし(1件ごとに支払い) | 契約の範囲内 |
| 面接の形 | センターが決める(名古屋は対面のみ) | 対面・オンラインを選べることが多い | 対面・オンライン |
| 同じ医師が続けて見るか | 毎回決まるとは限らない | 頼み先を固定すれば可能 | 同じ医師 |
| 向いている会社 | 年1〜2件・急がない | 年に数件・急ぎの人がいる | 面談が毎月ある・50人に近づいている |
スポットの費用の内訳はストレスチェック面接指導の費用相場、実施まで含めた年間の総額はストレスチェックの費用はいくら?(30人・50人・100人の試算つき)にあります。面接指導以外も含めて、スポットで頼める業務と依頼先の選び方はスポット産業医(産業医のスポット契約)とは?をご覧ください。自社の人数で先に目安を出したい方は、料金シミュレーターで3問に答えると、登録なしでその場に出ます。
名古屋・愛知で使うときは?——3つのセンターの区域と「対面のみ」

名古屋市内は、名古屋市医師会が運営する3つのセンターに分かれています(名古屋市医師会の案内より)。
| センター | 担当する区域 |
|---|---|
| 名古屋北 | 東区・北区・中区・守山区 |
| 名古屋東 | 千種区・昭和区・瑞穂区・熱田区・緑区・名東区・天白区・豊明市・日進市・愛知郡 |
| 名古屋南西 | 中川区・港区・南区・中村区・西区・清須市・北名古屋市・西春日井郡 |
名古屋のセンターの条件で、会社が先に知っておくべきなのは3つです。面談は対面のみ(Webやメールでは受けない)、公共交通機関で来ること、1事業場・1人あたり年度2回まで。工場の交代勤務の人や、会社の近くで受けたくない人には、ここが壁になることがあります。名古屋以外の愛知県内のセンターは、愛知産業保健総合支援センターのページに一覧(FAX先)があります。
名古屋・愛知で、対面の面接指導を工場のシフトに合わせたい会社の頼み方は名古屋・愛知のストレスチェックと面接指導に書いています。
2028年の義務化で何が変わる?——地産保だけに頼らず「2本目」を決めておく

2028年4月1日から、50人未満の事業場もストレスチェックが義務になります(ストレスチェック50人未満の義務化はいつから?)。対象の会社が一気に増えるので、地産保が受け皿になりきれるかは、正直少し心配しています。義務化の最初の年は、どの会社もだいたい同じ時期に実施し、同じ時期に面接指導の申出が出るからです。
だから私は、50人未満の会社にこう勧めています。1本目は地産保でいい。ただし、予約が取れないときの2本目を先に決めて、実施規程に両方書いておく。
- 1本目: 最寄りの地域産業保健センター(申込書の様式とFAX先を手元に置いておく)
- 2本目: スポットの外部医師。申出から2週間で面接の日が決まらないとき、急ぎの人がいるとき、年2回を超えたときに使う
- 実施規程に書くこと: 面接指導の依頼先(2つとも)、申出の窓口、意見書を受け取る人と措置を決める人(ストレスチェック実施規程の作り方)
外部の実施機関に委託する場合も、厚労省のマニュアルは「面接指導の頼み先として地産保の利用も案内しているか」を委託先の確認項目に挙げています。サンポチャートも、年1〜2件で急がない会社には地産保をお勧めしています。そのうえで2本目として、待機中の医師の枠から従業員本人が日時を選んで予約できるサンポマッチを用意しています。手配の実務はストレスチェック面接指導の医師がいない|外部委託・スポット依頼もご覧ください。
あわせて読みたい:ストレスチェックの面接指導と運用
ストレスチェックの面接指導や実施・運用について、あわせてご覧ください。
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よくある質問
Q1. 地域産業保健センターは、ストレスチェックの実施もしてくれますか?
してくれません。地産保はストレスチェック自体を実施しておらず、実施者を登録産業医に頼むこともできません。受検と判定は、厚労省の無料プログラムを使った自社実施か、外部の実施機関で行います。地産保に頼めるのは、その後の面接指導です。
Q2. 何回まで無料で使えますか?
センターごとに決まっています。愛知県内は原則年2回まで、名古屋のセンターは1事業場あたり年度2回まで・労働者1人あたり年度2回までと案内しています。ほかの地域は最寄りのセンターに確認してください。
Q3. オンラインで面接指導を受けられますか?
センターによります。名古屋のセンターは対面のみで、Webやメールでは受けていません。面接指導そのものは法令上オンラインでも行えるので、オンラインを希望する場合は外部の医師に頼む方法があります(オンラインの面接指導)。
Q4. 従業員50人以上の会社や、大企業の営業所でも使えますか?
対象は労働者50人未満の事業場です。50人未満でも、大企業の営業所などで本社の産業医の協力を得られる場合は、利用できないことがあります。50人以上の事業場は産業医の選任義務があるので、選任した産業医に面接指導を頼みます。
Q5. 地産保で面接指導を受けたら、意見書は出ますか?
出ます。地産保で面接指導を行った場合、面接指導の結果と医師の意見書がセットで会社に提供されます。会社はそれをもとに就業上の措置を決め、記録を5年間保存します。
Q6. 予約が取れないまま1か月たちそうです。どうすればいいですか?
面接指導は申出から遅滞なく(おおむね1か月以内)行う必要があります。待っても日程が決まらないときは、スポットの外部医師に切り替えてください。本人の状態が気になる場合は、日数を待たずに切り替える方が安全です。
まとめ:地域産業保健センターは1本目に。予約が取れないときの2本目を先に決める
- 50人未満の事業場は、地域産業保健センター(全国約350か所)で面接指導を無料で受けられ、意見書もセットで出る
- ストレスチェックの実施そのものと「実施者」は頼めない。受検は自社か外部の実施機関で
- 申込みは対象者が決まってから。日程は窓口が決め、名古屋は対面のみ・年度2回まで
- 年1〜2件で急がないなら足りる。急ぎ・件数が多い・オンライン希望・続けて見てほしいなら2本目が要る
- 2028年の義務化で申出が集中する。実施規程に頼み先を2つ書いておく

