「受検のツールはもう決めました。でも、そのツールには実施者が付いていないんです。実施者だけ頼めますか」——2028年の義務化を前に、50人未満の会社からこのご相談が増えています。
先に結論です。頼めます。厚生労働省の無料の実施プログラムや、市販のサービスの無料プランには、実施者(医師・保健師など)が付いていないことが多く、会社が自分で用意します。ツールはそのまま使い、実施者だけを外部の医師・保健師に頼めば足ります。頼み方は、多くはツールで実施者用のアカウントを発行してもらう形で、ツールによっては結果のデータを送っていただきます。比べるときにいちばん確かめてほしいのは、実施者のあとの面接指導の体制です。
私は名古屋で産業医をしている角田拓実です。サンポチャートでは、受検のツールが決まっている会社から、実施者と高ストレス者の面接指導だけを引き受けています。この記事では、引き受ける側から見た頼み先の違い、結果の渡し方、会社に残る仕事、面接指導まで入れた費用を順に書きます。
無料ツールに実施者は付いている?——多くは付いていない。ツールの仕事と人の仕事は別

受検のツールが受け持つのは、調査票の配信、回答の集計、基準に沿った計算、結果の表示までです。その結果を見て、高ストレス者と面接指導が必要な人を確かめる「実施者」は、ツールとは別に人が担います。無料のツールほど、この人の部分は会社が用意する前提になっています。
| ツールが受け持つこと | 人が受け持つこと |
|---|---|
| 調査票の配信と回答の受け付け(Web・紙) | 実施者: 結果を見て、高ストレス者と面接指導が必要な人を確かめる(医師・保健師など) |
| 点数の計算と、高ストレスかどうかの判定の計算 | 実施事務従事者: 対象者の登録、受検の案内、未受検者への声かけ(社内の人事権のない人) |
| 本人への結果の表示、集団分析の集計 | 面接指導の医師: 申し出た高ストレス者と面接し、意見書を書く |
実施者になれる人は、労働安全衛生規則第52条の10で決まっています。医師、保健師、または厚生労働大臣が定める研修を修了した歯科医師・看護師・精神保健福祉士・公認心理師です。医師が担当しても保健師が担当しても、法令上の効力は同じです。資格と研修の詳しい中身はストレスチェックの実施者とは?保健師も担当できる理由と要件にあります。
総務の担当者がツールを操作できても、それだけでは「実施者がいる」ことになりません。資格のない人が結果を見て判定する形は、実施者がいない状態と同じです。
なぜ今、実施者だけを探す会社が増えるのか?——50人未満の会社には産業医がいない

従業員50人以上の事業場には、産業医を選ぶ義務があります(労働安全衛生法第13条)。ストレスチェックの実施者は、その産業医が引き受けることがほとんどでした。私はこう説明しています。「今までは産業医がいたから、その人がやれた。これからは、産業医や保健師を探す必要がある」。
50人未満の事業場には、産業医を選ぶ義務がありません(制度の全体はストレスチェック制度とは)。2028年4月1日から50人未満もストレスチェックが義務になると(ストレスチェック50人未満の義務化はいつから?)、受検のツールは無料で用意できても、実施者を引き受けてくれる人が社内にも社外にもいないという会社が一気に増えます。
実際にあったのは、「実施者を自分で見つければ安いですよ」と聞いて無料のツールを選んだものの、引き受けてくれる医師や保健師が見つからなかったという例です。ツールを決める前か、遅くとも同じ時期に、実施者と面接指導の頼み先を決めてください。2028年に入ってから探すと、どこも受け入れで忙しくなっています。
実施者の探し方は?——頼める先4つと、向いている会社

実施者を外に頼める先は、実際にはこの4つです。違いが出るのは、いまのツールのまま頼めるかと、面接指導まで頼めるかの2点です。
| 頼み先 | 実施者 | 受検のツール | 面接指導 | 向いている会社 |
|---|---|---|---|---|
| 受検サービスの会社のオプション | 頼めることが多い | その会社のツール(有料プランが前提のことが多い) | 別料金で手配する会社もある。1件5万円台の例もある | そのサービスの有料プランに切り替えてよい会社 |
| 中央労働災害防止協会(中災防)の小規模事業場向けサービス | 中災防が請け負う(50人未満で実施者がいない事業場が対象) | 中災防の調査票(57項目・紙) | 行わない | 紙で受検してよく、面接指導の頼み先が別にある会社 |
| 産業医・保健師の事務所(サンポチャートなど) | 頼める | いまのツールのまま | 同じところで頼めることがある(有償が多い) | ツールは決めていて、面接指導まで1か所にしたい会社 |
| 地域産業保健センター | 頼めない | — | 50人未満は無料 | 面接指導の頼み先の1本目・2本目として |
中災防のサービスは、人数にかかわらず基本料金3万5,000円(税別)で、紙の調査票による受検と集団の集計まで入っています。ただし医師の面接指導は行わないと案内されています。地域産業保健センターは面接指導を無料で受けられる窓口ですが、ストレスチェックの実施や実施者は頼めません(地域産業保健センターで面接指導は足りる?)。受検から面接指導まで丸ごと任せたい会社は、ストレスチェックの外部委託先の選び方をご覧ください。
ツールの結果は実施者にどう渡す?——多くはアカウントの発行、データを送ることも

いちばん多い質問がこれです。答えはシンプルで、「ストレスチェックのツールの結果は、アカウントを発行してもらえば、こちらの実施者が対応します」。ただ、ツールによっては、結果のデータを書き出して送っていただくこともあります。
- 結果の渡し方を決める: 多くは、ツールの管理画面で個人の結果を見られる権限のアカウントを実施者に1つ発行します。アカウントを作れないツールでは、結果のデータを書き出して実施者に送ります。
- 実施者が確かめる: 受検が締め切られたら、実施者が結果を見て、高ストレス者と面接指導が必要な人を確かめます。
- 結果は本人に届く: 個人の結果は、ツールの機能で本人に届きます。会社が個人の結果を見られるのは、本人が同意したときだけです(労働安全衛生法第66条の10第2項)。
- 面接指導の申出を受けて手配する: 会社は、申し出た人の勤務の状況(残業時間など)と職場の情報を医師に渡します。医師が面接し、意見書を会社に出します。
アカウントで渡す形にすると、個人の結果が社内の別の人の手を通りません。実施者のアカウントは人事の担当者と共用せず、実施者専用にしてください。データで送るときは、送る人を実施事務従事者に決め、パスワードを付けるなどして、個人の結果が社内の別の人の目に触れないようにします。厚労省の実施プログラムのように会社のパソコンの中で動くツールは、渡し方が変わります。サンポチャートでは、最初の30分のWebヒアリングで、いまのツールの画面を見ながら決めています。
面接指導の前には、会社から医師へ情報を渡します。面接指導をする医師は、申し出た人の勤務の状況を確かめます(労働安全衛生規則第52条の17)。厚生労働省の実施マニュアルでも、面接の前に、直前1か月の労働時間(残業・休日労働を含む)、業務の内容、職場の状況などを、会社や本人から集めるとしています。実施者だけを外に頼んでも、残業時間などの勤務の情報を持っているのは会社です。誰がいつ、どの形で医師に渡すかを、頼み先と決めておいてください。
実施者だけを頼んだら、会社に残る仕事は?——実施事務従事者の仕事は社内で

実施者を外に頼んでも、ストレスチェックの事務までは外に出ません。「実施事務従事者の仕事は、担当していただく必要があります」とお伝えしています。対象者の登録や受検の案内まで医師や保健師が受け持つと、そのぶん費用が大きく上がるからです。
| 実施者(外部の医師・保健師) | 実施事務従事者(社内) | 会社(事業者) |
|---|---|---|
| 結果を見て、高ストレス者と面接指導が必要な人を確かめる | 対象者をツールに登録する | 実施規程を作り、衛生委員会などで話し合う |
| 判定の考え方について、会社の相談を受ける | 受検の案内を送り、未受検の人に声をかける | 面接指導の申出を受け付け、医師に手配し、勤務の状況(残業時間など)と職場の情報を渡す |
| (面接指導まで頼む場合)申し出た人と面接し、意見書を書く | 受検者からの操作の問い合わせに答える | 意見書をもとに、就業上の措置を決める |
実施事務従事者には、誰でもなれるわけではありません。受検する人の解雇・昇進・異動に直接の権限を持つ人は、実施の事務に入れません(労働安全衛生規則第52条の10第2項)。社長や、人事の決定権を持つ部長が結果を見てしまうのが、小さな会社でいちばん起きやすい失敗です。誰を実施事務従事者にするかはストレスチェックの実施事務従事者とは、規程への書き方はストレスチェック実施規程の作り方にあります。
費用はいくら?——実施者は人数で変わる型と1回定額の型、面接指導まで入れた総額

実施者の料金には、受検する人数で変わる型と、人数にかかわらず1回ごとの定額の型があります。同じ「実施者」でも、判定して面接指導が必要な人を確かめるだけなのか、ツールの設定まで受け持つのかで中身が変わります。見積もりでは、何が含まれるかを契約書やルールで確かめてください。
サンポチャートの「実施者と面接指導だけ」は、実施者が保健師なら2万5千円、医師なら5万円(税別)で、受検する人数にかかわらず1回の実施ごとの定額です。面接指導は1件3万円(税別・意見書込み)で、行った分だけかかります。受検40人・実施者が保健師の場合の総額は、面接指導の件数で次のように変わります。
| 面接指導の件数 | 実施者(保健師) | 面接指導 | 合計(税別) |
|---|---|---|---|
| 0件 | 2万5千円 | 0円 | 2万5千円 |
| 1件 | 2万5千円 | 3万円 | 5万5千円 |
| 2件 | 2万5千円 | 6万円 | 8万5千円 |
| 4件 | 2万5千円 | 12万円 | 14万5千円 |
高ストレス者は、厚労省の判定基準の例を使うと受検者のおよそ1割になるように作られています。40人なら4人前後で、そのうち面接指導を申し出る人は一部です。実施者が医師なら、各行に2万5千円を足してください。受検のツールの料金は別で、無料のツールなら0円です。年間の総額を30人・50人・100人で試算した表はストレスチェックの費用はいくら?にあります。
頼み先を比べるときに確かめることは?——いちばんは「その後の面談体制」

いま頼み先を何社か比べている人事の方に、ひとつだけ言うならこれです。「その後の面談体制が必要です」。実施者が決まっても、高ストレス者が面接指導を申し出たときに会える医師が決まっていなければ、そこで止まります。
- 面接指導まで頼めるか: 誰が面接するか、1件いくらか、意見書が含まれるか。実施者だけで面接指導はしない頼み先もあります。
- 申出から面接まで何日かかるか: 面接指導は申出から遅滞なく(おおむね1か月以内)行います。2〜3か月空くと、休んでしまう人や「あの時はしんどかったけど」と区切ってしまう人が出て、面接の意味が薄れます。
- いまのツールのまま頼めるか: ツールの乗り換えや、紙での受検が前提になっていないか。
- 料金に何が含まれるか: 人数で変わるか、1回ごとの定額か。判定だけか、ツールの設定まで受け持つか。
- 翌年以降と、50人を超えたとき: 毎年同じ形で頼めるか。50人を超えて産業医を選ぶときに、そのまま相談できるか。
避けたいのは、実施者だけを決めて受検を始め、申出が来てから面接指導の医師を探すことです。探しているうちに1か月が過ぎます。面接指導の頼み先は、受検の前に実施規程に書いておいてください(ストレスチェックの面接指導の進め方)。
実施者はもう決まっていて、面接指導の医師だけを探している場合は、サンポマッチを使えます。高ストレス者本人が医師の空き枠から日時を選び、最短3営業日で面接します。面接指導は1件3万円(税別・意見書込み)、基本料金は2027年3月31日までのお申し込みなら0円です。
あわせて読みたい:ストレスチェックの面接指導と運用
ストレスチェックの面接指導や実施・運用について、あわせてご覧ください。
- ストレスチェックの面接指導とは?対象者・流れ・事後措置
- ストレスチェック制度とは?目的・法的根拠・流れ・会社の義務を現役産業医が解説
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- ストレスチェックの外部委託先の選び方|失敗例と5つの比較ポイント
- ストレスチェックの実施事務従事者とは?人事はなれる?できること・見られる結果・守秘義務
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- ストレスチェック面接指導の医師がいない|外部委託・スポット依頼を解説
- ストレスチェックと社労士|顧問先の分の頼み方と費用
よくある質問
Q1. 無料のツールを使っていても、実施者だけ頼めますか?
頼めます。厚労省の実施プログラムや市販サービスの無料プランなど、ツールはそのままで、実施者だけを外部の医師・保健師に頼めます。実施者用のアカウントを発行するか、結果のデータを送れば始められます。
Q2. 社内の総務の担当者が実施者になれますか?
医師・保健師、または厚生労働大臣が定める研修を修了した歯科医師・看護師・精神保健福祉士・公認心理師でなければ、実施者にはなれません。総務の担当者は、人事権がなければ実施事務従事者として、対象者の登録や受検の案内を受け持てます。
Q3. 実施者は医師と保健師、どちらに頼むべきですか?
法令上の効力は同じです。費用をおさえるなら保健師で足ります。高ストレス者の面接指導は医師が行うので、実施者が保健師の場合も、面接指導の医師と連携しているかを確かめてください。
Q4. 地域産業保健センターに実施者を頼めますか?
頼めません。地域産業保健センターはストレスチェック自体を実施しておらず、実施者も引き受けていません。50人未満の事業場は、その後の面接指導を無料で頼めます。
Q5. 実施者と面接指導の医師は、同じ人でないといけませんか?
同じ人でなくてもかまいません。ただ、別々に頼むと、面接指導が必要な人の情報を誰がどう引き継ぐかを会社が決めることになります。実施者と面接指導の医師が連携している頼み先の方が、申出から面接までが速く進みます。
Q6. 50人未満の会社は、いつまでに実施者を決めればいいですか?
50人未満の事業場のストレスチェックは、2028年4月1日から義務になります。準備は半年前から始めると間に合います。実施者と面接指導の頼み先は、受検のツールと同じ時期に決めてください。
まとめ:ツールはそのままで、実施者と面接指導の頼み先を先に決める
- 無料ツールや市販サービスの無料プランには、実施者が付いていないことが多い。実施者は医師・保健師など(労働安全衛生規則第52条の10)
- 50人以上は産業医が実施者を兼ねてきた。50人未満は2028年4月1日の義務化で、実施者を自分で探すことになる
- 頼み先は4つ。違いは「いまのツールのまま頼めるか」と「面接指導まで頼めるか」
- 結果は、多くはツールで実施者用のアカウントを発行して渡す(ツールによってはデータを送る)。実施事務従事者の仕事と、面接指導の医師への勤務の情報の提供は社内に残る
- 比べるときにいちばん確かめるのは、その後の面談体制。面接指導の頼み先は受検の前に決める


