「厚労省のマニュアルを読んでおいてと言われたけれど、200ページもある」「最新版はどれ?」「うちは50人未満だけど同じものを読むの?」——ストレスチェックの担当になった方から、よく聞かれます。
先に結論です。厚生労働省の実施マニュアルは2種類あります。50人以上の事業場向けの「労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル」(最新は令和3年2月改訂・204ページ)と、50人未満向けの「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」(令和8年2月・48ページ)です。人事担当者が全部を読む必要はありません。読む章は決まっています。
この記事では、顧問先で実施者と面接指導を担当している現役産業医として、2種類の違い、法律・指針・マニュアルの関係、人事が読むべき章、小規模事業場マニュアルの要点、マニュアルの外で変わったルールをまとめます(2026年9月時点の厚生労働省の公表資料で確認)。
実施マニュアルは2種類——50人以上向けと小規模事業場向け

| 労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル | 小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル | |
|---|---|---|
| 対象 | 労働者数50人以上の事業場 | 労働者数50人未満の事業場(企業規模として50人未満が中心) |
| 発行・改訂 | 平成27年5月。改訂は平成28年4月、令和元年7月、令和3年2月 | 令和8年2月(新規) |
| 分量 | 204ページ(うち巻末の法令・通達・調査票が約80ページ) | 48ページ(うち巻末のモデル規程・様式が約15ページ) |
| 想定する読み手 | 産業医、保健師、衛生管理者などの産業保健スタッフ、委託先の外部機関 | 事業者(社長)、実務担当者 |
| 特徴 | 指針の全文と解説、具体例、様式例まで網羅。辞書として使う | 外部委託を前提に、やることを順番に示す。スタートガイド(概要版)と編集できるモデル規程つき |
「最新版」を確かめるときは、表紙の改訂年月を見ます。50人以上向けは「改訂 令和3年2月」と書いてあれば最新です。検索すると古い版のPDFが上位に出ることがあるので、厚生労働省の「ストレスチェック制度・メンタルヘルス対策」のページからたどるのが確実です。50人以上の事業者向け、50人未満の小規模事業者向け、労働者向け、面接指導を実施する医師向け、実施機関向けに入口が分かれています。
法律・規則・指針・マニュアル・通達の関係

マニュアルは法律ではありません。ただ、法律と指針の内容を解説した公式の手引きなので、労働基準監督署も委託先もこれを前提に動いています。位置づけを整理します。
| 階層 | 名前 | 何が書いてあるか | 守らないと |
|---|---|---|---|
| 法律 | 労働安全衛生法66条の10 | 検査、結果の通知、面接指導、医師の意見、就業上の措置 | 法令違反 |
| 省令 | 労働安全衛生規則52条の9〜21 | 年1回、実施者の職種、5年保存、同意の取り方、50人以上の報告 | 法令違反 |
| 指針 | 心理的な負担の程度を把握するための検査等指針(平成27年4月15日公示) | 衛生委員会で審議する事項、不利益取扱いの禁止、健康情報の保護など | 行政指導の対象 |
| 通達 | オンライン面接指導の通達(平成27年9月15日、令和2年11月19日一部改正)など | 個別の場面の考え方と留意事項 | 行政指導の対象 |
| マニュアル | 実施マニュアル(2種類) | 上の4つの解説、進め方、具体例、様式例 | 直接の違反ではないが、実務の標準 |
制度の全体像はストレスチェック制度とは?で説明しています。
204ページを全部読まなくていい——人事が読む章はここ

50人以上向けのマニュアルは、産業医や保健師が辞書として引くためのものです。人事担当者は、次の章だけ読めば足ります。
| 章 | 内容 | いつ読むか |
|---|---|---|
| 1〜4章(約10ページ) | 制度の趣旨・目的、基本的な考え方、留意事項、取組の手順 | 最初に必ず。従業員に説明するときの土台になる |
| 5章 衛生委員会等における調査審議 | 審議する11項目と実施規程の例 | 実施規程を作るとき、衛生委員会にかけるとき |
| 6章(1) 実施体制 | 実施者、実施事務従事者、人事権のある人ができないこと | 体制を決めるとき |
| 6章(3) 受検の勧奨、7章 面接指導 | 勧奨のしかた、申出から面接指導・意見聴取・就業上の措置までの流れ | 実施の直前と、高ストレス者が出たとき |
| 9章 実施状況報告 | 労働基準監督署への報告 | 実施後 |
| 10章・11章 | 不利益な取扱いの防止、健康情報の保護 | 最初に必ず。人事がやってはいけないことが書いてある |
| 12章(2)(3) | 派遣労働者、外部委託先の確認 | 該当するとき |
調査票の選び方や高ストレス者の選定基準(6章(2))、集団分析の手法(8章)は、実施者と委託先が主に使う章です。人事は結論だけ押さえれば十分で、57項目と80項目の違い、高ストレス者の判定基準、集団分析の見方にまとめています。
規程と審議の進め方はストレスチェック実施規程の作り方とストレスチェックは衛生委員会で何を決める?をご覧ください。
小規模事業場マニュアル(50人未満)の要点7つ

2025年5月公布の改正労働安全衛生法で、50人未満の事業場もストレスチェックが義務になりました(施行は2028年4月1日)。これを受けて令和8年2月に出たのが、小規模事業場向けのマニュアルです。50人以上向けとは前提が違います。
- 外部委託が原則。プライバシー保護の観点から、実施は外部機関(健診機関を含む)に委託することが推奨されています。実施者と実施事務従事者は、委託先の人を活用するのが基本です。自社で実施する場合の注意点は別の章(8章)にまとめられています。
- 社内には「実務担当者」を置く。委託しても、実施の責任は事業者にあります。委託先との連絡や日程の周知を担う実務担当者を指名します。
- 衛生委員会がなくても、労働者の意見を聴く。事業者の方針の表明、関係労働者の意見の聴取、社内ルールの作成と周知、という順で準備します。方針表明のメッセージ例と、編集できる社内ルール例・社内規程例(Word)が用意されています。
- 委託先からは「サービス内容事前説明書」をもらう。実施体制、実施方法、料金体系、面接指導、情報管理を、契約前に書面で説明してもらいます。実施に欠かせない費用がオプション扱いになっていないかを確認する、という注意書きもあります。
- 面接指導の依頼先を、契約のときに決めておく。委託先のメニュー(有料)か、地域産業保健センター(地産保・無料)かを先に決めます。地産保は全国約350か所。ただしストレスチェック自体は実施せず、実施者も引き受けません。大企業の営業所などは利用できないことがあります。
- 労働基準監督署への報告は不要。報告義務は50人以上の事業場だけです。ただし「常時使用している労働者」の数え方は、ストレスチェックの対象者とは違います。短時間のパートやアルバイトも含めて50人以上になる事業場は、報告が必要です。
- 面接指導を選ばなかった人にも相談先を。面接指導を受けるかどうかは本人の選択です。受けない人が高ストレスのまま放置されないよう、「こころの耳」の相談窓口など、会社に知られずに相談できる先を案内します。
50人未満の会社の進め方は50人未満・中小企業のストレスチェックのやり方、委託先の比べ方は外部委託先の選び方、義務化の日程はストレスチェック義務化はいつから?にまとめています。
マニュアルの外で変わったこと——オンライン面接指導・集団分析・実施プログラム

50人以上向けのマニュアルは令和3年2月から改訂されていません。その前後に出た通達や省令改正は、マニュアルとは別に確認します。
| 項目 | 時期 | 内容 |
|---|---|---|
| オンライン面接指導 | 通達は平成27年9月15日。令和元年7月、令和2年11月19日に一部改正 | 表情やしぐさ、声の様子が分かり、円滑にやりとりできる方法であれば、情報通信機器を使った面接指導ができる。医師が必要と認めたときは対面で行う |
| 集団分析の省令改正 | 令和8年6月30日公布、令和9年4月1日施行 | 安衛則52条の14に「特定の個人を識別することができない方法で」が加わった。従来の解釈の明文化で、運用は変わらない。10人未満の集団は原則として分析しない |
| 50人未満の義務化 | 令和7年5月14日公布、令和10年4月1日施行 | 努力義務の特例がなくなり、すべての事業場で実施が義務に |
| 厚労省版ストレスチェック実施プログラム | バージョン4.0を公開 | 旧バージョン3は令和8年3月29日以降起動できない。自社実施の会社は更新が必要 |
現場の運用でいちばん変わったと感じるのは、オンライン面接指導です。以前から実質的には行われていましたが、条件を満たせばオンラインでよいことがはっきりして、使いやすくなりました。拠点が離れている会社や、産業医のいない50人未満の会社でも、面接指導を期限内に行いやすくなっています。要件と当日の流れはストレスチェックの面接指導はオンラインでOK?で解説しています。
関連する公式資料——目的別の早見表

| やりたいこと | 見る資料 |
|---|---|
| まず全体を10分でつかみたい | ストレスチェック制度簡単導入マニュアル、小規模事業場マニュアルの概要版(スタートガイド) |
| 実施規程を作りたい | 50人以上向けマニュアル5章の規程例、小規模事業場マニュアル巻末のモデル規程(Word版あり) |
| 委託先を比べたい | 小規模事業場マニュアルの「サービス内容事前説明書」(モデル例)、50人以上向けマニュアル12章(3)の確認事項 |
| 自社で無料で実施したい | 厚生労働省版ストレスチェック実施プログラム(バージョン4.0) |
| 面接指導の様式がほしい(医師向け) | 高ストレス者への医師による面接指導実施マニュアル、報告書・意見書作成マニュアル |
| 集団分析を職場改善につなげたい | 「これからはじめる職場環境改善」、集団分析の省令改正リーフレット |
| 労働基準監督署へ報告したい | 心理的な負担の程度を把握するための検査結果等報告書(書き方と提出期限) |
| 誰かに相談したい | ストレスチェック制度サポートダイヤル(0570-031050・平日10〜17時)、都道府県の産業保健総合支援センター |
まとめ:マニュアルは「従業員に説明できる」ところまで読む
- 実施マニュアルは2種類。50人以上向けは令和3年2月改訂が最新(204ページ)、50人未満向けは令和8年2月(48ページ)。
- マニュアルは法律ではないが、法律・規則・指針を解説した実務の標準。
- 人事が必ず読むのは、1〜4章(趣旨と手順)、5章(衛生委員会)、10・11章(不利益取扱いの防止と健康情報の保護)。
- 50人未満は外部委託が原則。実務担当者、サービス内容事前説明書、面接指導の依頼先を先に決める。労基署への報告は不要。
- オンライン面接指導の通達、集団分析の省令改正(令和9年4月施行)、実施プログラムの更新は、マニュアルとは別に確認する。
あわせて読みたい:ストレスチェックの面接指導と運用
ストレスチェックの面接指導や実施・運用について、あわせてご覧ください。
- ストレスチェック面接指導の完全ガイド|義務・流れ・就業措置
- ストレスチェック制度とは?目的・法的根拠・流れ・会社の義務を現役産業医が解説
- 労働安全衛生法66条の10とは?ストレスチェックの条文を産業医がやさしく解説
- ストレスチェック実施規程の作り方|必須項目と決め方を産業医が解説
- ストレスチェックは衛生委員会で何を決める?審議事項11項目・進め方・議事録の残し方
- 50人未満・中小企業のストレスチェックのやり方|自社実施か委託か・面接指導の頼み先
- ストレスチェックの面接指導はオンラインでOK?要件と当日の流れ
よくある質問
Q1. ストレスチェック制度実施マニュアルの最新版はいつのものですか?
50人以上の事業場向けの「労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル」は、令和3年2月改訂が最新です(2026年9月時点)。50人未満向けの「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」は令和8年2月に公表されました。表紙の改訂年月で確認できます。
Q2. マニュアルに従わないと法令違反になりますか?
マニュアル自体は法令ではないので、書かれたとおりにしなかったことが直ちに違反になるわけではありません。ただし、マニュアルは法律・規則・指針の内容を解説したものです。年1回の実施、同意のない結果提供の禁止、申出があったときの面接指導、記録の5年保存などは法令上の義務で、守らなければ違反になります。
Q3. 50人未満の会社は、どちらのマニュアルを読めばいいですか?
小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアルを読みます。48ページで、外部委託を前提に準備から面接指導、集団分析までを順番に説明しています。まず概要版(スタートガイド)を読み、規程は巻末のモデル例を自社向けに直して使うのが早道です。50人以上の企業の営業所や店舗は、本社と連携して対応します。
Q4. 人事担当者は、どの章を読めばいいですか?
50人以上向けのマニュアルなら、1〜4章(制度の趣旨・手順)、5章(衛生委員会での調査審議)、10章(不利益な取扱いの防止)、11章(健康情報の保護)を最初に読みます。体制を決めるときに6章(1)、高ストレス者が出たときに7章、実施後に9章を読めば足ります。
Q5. マニュアルはどこでダウンロードできますか?
厚生労働省の「ストレスチェック制度・メンタルヘルス対策」のページから、無料でダウンロードできます。50人以上の事業者向け、50人未満の小規模事業者向けに入口が分かれています。「こころの耳」のストレスチェック制度のページにもリンクがあります。

