「ストレスチェックで高ストレスと判定された。もしかしてうつ病なのでは」——こうした不安を口にする方に現場でよく出会います。先に結論をお伝えすると、ストレスチェックはうつ病かどうかを診断する検査ではありません。あくまで、心身の負担が大きくなっていないかを「ふるい分ける」ためのスクリーニング検査であり、病気の有無を判定するものではないのです。この記事では、現役産業保健師が、ストレスチェックと医師によるうつ病の診断が何が違うのか、そして高ストレスと判定されたときに実際にすべきことを解説します。
ストレスチェックは何を調べる検査なのか

ストレスチェックは、労働安全衛生法第66条の10に基づき、常時50人以上の労働者を使用する事業場に実施が義務づけられている検査です(2028年4月からは50人未満の事業場にも義務が拡大されます)。多くの現場では、職業性ストレス簡易調査票と呼ばれる57項目の質問に「あてはまる/あてはまらない」で回答する形式が使われています。
質問は大きく3つの領域に分かれています。①仕事の量や裁量権など「職場のストレス要因」、②イライラ・疲労感・不安・抑うつ感といった「心身のストレス反応」、③上司や同僚からの支援など「周囲のサポート」です。これらの点数を組み合わせて、心身の負担が高い状態にある人を「高ストレス者」として拾い上げます。
「高ストレス」の判定と「うつ病」がイコールではない理由

ストレスチェックはスクリーニング検査です。スクリーニングとは、病気の可能性がある人を広く「ふるい分ける」ための検査で、精密に病気の有無を判定する「診断」とは役割がまったく異なります。
スクリーニング検査は、見逃しを減らすために、あえて広めに網をかける設計になっています。そのため、高ストレスと判定されても実際にはうつ病などの精神疾患ではない人の方が多いのが実情です。逆に、低ストレスと判定されても、実は体調を崩し始めている人がいる、という限界もあります。また、自己記入式の検査であるため、回答した日の気分や体調、記入時の心理状態によって点数が変わりうる点も、診断とは性質が異なる理由の一つです。
つまり、「高ストレス=うつ病」でも「低ストレス=健康」でもありません。高ストレスの判定は「一度、自分の心身の状態と向き合ってみるタイミングが来ている」というサインであって、病名の告知ではないのです。
うつ病の診断は、誰が・どうやって行うのか
うつ病の診断は、精神科・心療内科の医師による問診と診察を通じてのみ行われます。国際的な診断基準(DSM-5やICD-11)では、次のような要素を総合的に確認します。
- 抑うつ気分や興味・関心の減退などの症状が、ほぼ毎日・2週間以上続いているか
- その症状によって、仕事や日常生活に実際に支障が出ているか
- 甲状腺機能の異常など、他の身体疾患や薬の影響が原因ではないか(除外診断)
- 生活歴や既往歴、現在の状況を対話の中で丁寧に聴き取れているか
この通り、診断には対話を通じた丁寧な評価が不可欠で、質問票への回答だけで完結するものではありません。ストレスチェックの57項目だけでは、症状がいつから続いているか、日常生活にどう影響しているかまでは分かりません。だからこそ、ストレスチェックの結果だけで自分自身を「うつ病かもしれない」と決めつける必要はないのです。
高ストレスと判定されたら、次にすべきこと
高ストレスと判定されると、医師による面接指導(面談)を申し出ることができます。ただし、この面談も「うつ病かどうかを診断する診察」ではありません。目的は、ストレスで心身に負担がかかっていないかを医師が確認し、必要なら働き方の調整を提案することです。面談で何を話すのか、会社にどこまで伝わるのかについてはストレスチェックの面談で何を話す?聞かれること・当日の流れを産業医が解説で詳しく解説しています。
こんな状態が2週間以上続いていたら、医療機関への相談を

次のような状態が、ほぼ毎日・2週間以上続いている場合は、自己判断で様子を見続けず、医療機関に相談することをおすすめします。
- 気分の落ち込みや、憂うつな気持ちがほぼ毎日続いている
- これまで楽しめていたことに、興味や関心が持てなくなった
- 眠れない、あるいは逆に眠りすぎてしまう
- 食欲が明らかに落ちた、または増えた
- 疲れやすく、気力が湧かない
- 物事に集中できない、決断ができない
- 自分を必要以上に責めてしまう
まとめ:ストレスチェックは「気づくきっかけ」、診断は医師が行う
- ストレスチェックは57項目の質問票によるスクリーニング検査であり、うつ病の診断ではない
- 目的は病気の発見ではなく、不調になる前に気づく一次予防
- 高ストレスの判定は「うつ病」を意味せず、逆に低ストレスでも安心とは限らない
- うつ病の診断は医師の問診・診察によってのみ行われ、症状の持続期間や生活への支障などを総合的に評価する
- 高ストレスと判定されたら面接指導の申出、心配な症状が続くなら医療機関への直接受診も選択肢
- 「消えてしまいたい」と感じるときは様子を見ず、すぐに相談窓口や医療機関につながる
面接指導で実際に何を聞かれるのかはストレスチェックの面談で何を話す?聞かれること・当日の流れを産業医が解説、制度そのものの義務化スケジュールはストレスチェック義務化はいつから?50人未満は2028年4月1日から|準備ガイドもあわせてご覧ください。一次情報は厚生労働省・ストレスチェック制度、うつ病を含むこころの健康については厚生労働省・こころの耳、法令はe-Gov法令検索(労働安全衛生法第66条の10)で確認できます。
よくある質問
Q. ストレスチェックで「高ストレス」と出たら、うつ病ということですか?
いいえ、そうとは限りません。ストレスチェックは心身の負担が高まっていないかをふるい分けるスクリーニング検査であり、うつ病の診断ではありません。高ストレスと判定されても、実際にはうつ病ではない人の方が多いのが実情です。気になる場合は面接指導の申出や医療機関の受診を検討してください。
Q. ストレスチェックの点数が低かった(良好)なら、うつ病の心配はないですか?
そうとは言い切れません。ストレスチェックは自己記入式の検査のため、回答した日の気分や体調によって結果が変わることがあります。点数が低くても、気になる症状が続いているなら、結果にかかわらず相談や受診を検討してよいでしょう。
Q. うつ病かどうかは、どうすれば分かりますか?
精神科や心療内科の医師による問診・診察を受けることでのみ判断できます。抑うつ気分などの症状がほぼ毎日2週間以上続いているか、日常生活や仕事に支障が出ているかなどを、対話を通じて総合的に評価します。質問票への回答だけで診断がつくことはありません。
Q. ストレスチェックの面接指導を受ければ、うつ病かどうか診断してもらえますか?
面接指導も診察ではありません。目的はストレスによる心身の負担を医師が確認し、必要なら働き方の調整を提案することです。うつ病の診断が必要と医師が判断した場合は、精神科や心療内科の受診を勧められることがあります。
Q. 高ストレスと判定されて不安です。何をすればいいですか?
まず、高ストレスの判定だけで病気が確定するわけではないと知っておいてください。そのうえで、面接指導を申し出て医師に相談する、または気になる症状があれば直接かかりつけ医や心療内科を受診する、という選択肢があります。産業医や保健師がいる会社なら、受診すべきか迷う段階で先に相談するのもおすすめです。
Q. 「死にたい」と感じることがあります。どうすればいいですか?
様子を見ずに、すぐに医療機関や相談窓口につながってください。厚生労働省の「こころの耳」では電話・SNSでの相談窓口が案内されています。会社に産業医や保健師がいる場合は、すぐに相談することもできます。一人で抱え込まないでください。

