「委託先から集団分析のレポートが届いたけれど、どこを見ればいいのか分からない」「部署ごとの結果を管理職に渡していいのか迷う」——ストレスチェックを2〜3年続けている会社ほど、この相談が増えます。
先に結論です。集団分析は、ストレスチェックの結果を部署などの集団単位で集計し、職場のストレスの傾向を数値化したものです。法律上は努力義務ですが、個人の結果を会社が見られないストレスチェックにおいて、会社が職場改善に使える唯一のデータです。見るべきは「仕事のストレス判定図」の1枚で、赤い側に寄っている部署ほど負荷が高いと読めば、まず十分です。 仕事の資源やワーク・エンゲイジメントまで測りたい場合の調査票の選び方はストレスチェックの57項目と80項目の違い・どちらを選ぶかへ。 制度の全体像(目的・会社の義務・年1回の流れ・役割分担)は、ストレスチェック制度とは?目的・義務・流れにまとめています。
この記事では、現役産業医として毎年顧問先の集団分析を衛生委員会で読み解いている立場から、レポートのどこを見るか、10人未満の部署をどう扱うか、結果を誰にどこまで見せるか、職場環境改善にどう落とすかを、実務の順番で解説します。 集団分析の結果を衛生委員会でどこまで共有するか(範囲の決め方)は、ストレスチェックは衛生委員会で何を決める?審議事項11項目・進め方・議事録の残し方で解説しています。
集団分析とは何か——努力義務だが、会社が使える唯一のデータ

ストレスチェックの個人結果は、本人の同意がなければ会社に渡りません。その代わりに、実施者(医師・保健師など)が部署・職種などの集団ごとに結果を集計・分析したものを会社に提供できます。これが集団分析で、労働安全衛生規則第52条の14により、事業者は集団分析を行い、その結果を踏まえて職場環境の改善に取り組むよう努めることとされています(努力義務)。
| 個人の結果 | 集団分析の結果 | |
|---|---|---|
| 会社は見られるか | 本人の同意がなければ不可 | 個人が特定されない集団(原則10人以上)なら同意なしで可 |
| 法的位置づけ | 結果通知は義務 | 分析と職場改善は努力義務 |
| 使い道 | 本人のセルフケア、面接指導の申出 | 部署ごとの負荷の把握、職場環境改善、衛生委員会の審議材料 |
| 単位 | 個人 | 部署・職種・事業場・年代など |
レポートの見方——「仕事のストレス判定図」の赤い側を見る


集団分析のレポートには複数の表や図が並びますが、最初に見るのは「仕事のストレス判定図」です。厚生労働省の標準的な分析法で、2枚の図から成ります。
- 量-コントロール判定図: 横軸に「仕事のコントロール(裁量)」、縦軸に「仕事の量的負担」。負担が大きく裁量が小さい側(図の赤い領域)に部署の点があるほど、健康リスクが高い。
- 職場の支援判定図: 横軸に「上司の支援」、縦軸に「同僚の支援」。支援が少ない側に寄るほどリスクが高い。
- 総合健康リスク: 2枚の図を合わせた指標で、全国平均を100とする。120なら健康リスクが平均より2割高い、と読む。
私が衛生委員会で見せるのもこの判定図で、理由は視覚的で一番分かりやすいからです。部署の点が赤い側に寄っているほど悪い、同業種の平均と比べてどちら側に近いか——この2点だけで、専門知識がなくてもかなり読めます。真っ赤な領域に点がある部署は、その時点で「危険な状態」として優先的に対処します。
| 見るもの | 読み方 | まずやること |
|---|---|---|
| 判定図の位置 | 赤い側=負担大・裁量小/支援小 | 赤い側の部署を優先部署にする |
| 同業種平均との比較 | 平均より赤側なら要注意 | 自社の他部署ではなく、同業種と比べる |
| 総合健康リスク | 100が全国平均。110超で注意、120超で要対処が目安 | 数値の高い順に並べて上位3部署を見る |
| 前年との比較 | 点がどちらに動いたか | 改善策を打った部署が動いたかを確認 |
| 高ストレス者の割合 | 受検者の10%前後が全国的な目安 | 割合が高い部署は面接指導の申出が出やすい体制を(判定基準・割合の目安) |
10人未満の部署はどうする?——合算して大きな母集団にする
集団分析は原則10人以上の集団で行います。10人未満だと個人が特定されるおそれがあるため、その集団の結果を会社に提供するには全員の同意が必要とされています(厚生労働省の指針)。実務では同意を取るより、他の似た部門と合算して、なるべく大きな母集団にするのが現実的です。
- 細かい部署ではなく、大きめの単位で切る。課ではなく部、部ではなく事業所や工場、といった単位にすれば10人を超える。
- 職種や勤務形態で切り直す。営業・製造・事務など、組織図と別の軸で集計すると、小さな部署も分析に入れられる。
- 2年分を合算する。毎年10人に届かない部署は、前年分と合わせて分析する方法もある。
- どうしても個人が分かる場合はやらない。従業員十数人の会社で部署別に出せば誰の結果か分かってしまう。その場合は部署別をやめ、会社全体の高ストレス者の割合や判定図の位置だけを見る。
集団分析でも個人が推測できる形で出せば、プライバシーの問題になります。同意の取り方や情報の取り扱いはストレスチェックの同意・プライバシー保護を参照してください。
結果を誰に・どこまで見せるか——「改善のためだけ」と伝えてから渡す

集団分析で最も気をつけるのは、結果が「悪い部署探し」や「管理職の評価」に使われることです。これが起きると、翌年から従業員が正直に答えなくなり、集団分析そのものが使い物にならなくなります。渡し方には次のルールを置いてください。
| 渡す相手 | 見せる範囲 | 渡し方のポイント |
|---|---|---|
| 経営層 | 会社全体の傾向、総合健康リスクの高い部署 | 数値の背景(繁忙期・人員減など)を添える。人事評価に使わないことを確認する |
| 衛生委員会 | 全体傾向+部署別(状況により部署名をぼかす) | 本当に悪い部署は全体に出す。そうでなければ言い過ぎない。改善策の審議に使う |
| 該当部署の管理職 | 自部署の結果と同業種平均との比較 | 「業務改善のためだけに使う」と必ず前置きし、改善にどう活かすかまで一緒に伝える。委員会に出ていない部署長には個別に伝える |
| 従業員 | 会社全体の傾向と、それを受けて会社が取り組むこと | 「結果を受けて会社が動く」ことを見せると翌年の受検率が上がる |
職場環境改善の進め方——衛生委員会で報告し、優先部署を1つ決める


集団分析を改善につなげる会社と、レポートを配って終わる会社の差は、「優先部署を1つ決めて、小さく動く」かどうかです。全部署を一度に改善しようとすると何も動きません。手順は次のとおりです。
- 衛生委員会で結果を報告する。判定図と総合健康リスクを部署別に見て、優先部署の候補を出す。
- 優先部署を1〜2つに絞る。総合健康リスクが高く、かつ人員や業務の変化など思い当たる要因がある部署から。
- 管理職と現場にヒアリングする。数値の背景(量が多いのか、裁量がないのか、支援がないのか)は判定図の軸で見当がつく。軸に合わせて聞く。
- 小さな改善を1つ決めて実行する。業務の棚卸し、会議の削減、上司との1on1の導入、応援体制など、部署でできる範囲のもの。
- 翌年の集団分析で点の動きを確認する。動いていれば横展開、動いていなければ要因の見立てを変える。ここで初めてPDCAが回る。
衛生委員会でストレスチェックをどう審議し、議事録に何を残すかは、別記事で整理しています。実施規程に集団分析の扱いをどう書くかはストレスチェック実施規程の作り方を参照してください。
集団分析が「使えない」3つのケース——受検率50〜60%を切ると意味がなくなる

- 受検率が低い。受検率が50〜60%を切ると、受けた人の偏りが大きく、部署の実態を表さなくなる。集団分析を使いたいなら、まず受検率を上げる(受検率を上げるには?)。
- 部署の切り方が毎年変わる。組織改編のたびに集計単位が変わると、前年と比較できない。集計単位は組織図ではなく「比較したい単位」で固定する。
- 結果を出しっぱなしにする。レポートを配るだけで、誰も何も決めない。翌年も同じ結果が出て、従業員は「答えても何も変わらない」と学習する。
部署の負荷は分かった。では高ストレス者本人は?——面接指導の受け皿を同時に用意する

集団分析で赤い側の部署が分かっても、そこにいる高ストレス者本人への対応は、医師の面接指導でしか進みません。集団分析(職場の改善)と面接指導(個人の対応)は車の両輪で、片方だけでは休職者は減りません。産業医がいない会社や面談枠が足りない会社は、集団分析の結果を見る前に、面接指導を頼める医師を確保しておいてください。
まとめ:集団分析は成績表ではなく、改善の地図
- 集団分析は努力義務だが、会社が職場改善に使える唯一のデータ。50人規模でもやる価値がある。
- 見るのは仕事のストレス判定図。赤い側に寄る部署ほど負荷が高い。同業種平均と比べる。
- 10人未満の部署は合算して大きな母集団に。個人が分かる形では出さない。
- 管理職には「業務改善のためだけ」と前置きして渡す。犯人探しに使った瞬間、翌年から機能しなくなる。
- 優先部署を1つ決めて小さく動き、翌年の図で確認する。受検率50〜60%未満では使えない。
- 職場の改善と、高ストレス者本人の面接指導は両輪。医師の受け皿を同時に用意する。
集団分析は「部署の成績表」と呼べなくもありません。しかし、それは誰かを悪く評価するためのものではなく、会社がどこから手をつければよいかを示す改善の地図です。地図として使う限り、従業員は翌年も正直に答えてくれます。
あわせて読みたい:ストレスチェックの面接指導と運用
ストレスチェックの面接指導や実施・運用について、あわせてご覧ください。
- ストレスチェック面接指導の完全ガイド|義務・流れ・就業措置
- ストレスチェックの受検率を上げるには?社内定着の実務ポイント
- ストレスチェックの同意・プライバシー保護|小規模事業場の実務ポイント
- ストレスチェック実施規程の作り方|必須項目と決め方を産業医が解説
- ストレスチェックの費用はいくら?相場・内訳・50人未満の総額を産業医が解説
- ストレスチェックは衛生委員会で何を決める?審議事項11項目・進め方・議事録の残し方
- ストレスチェックの57項目と80項目の違いは?どちらを選ぶか・23項目版・判定への影響
- 高ストレス者に上司はどう関わる?結果は見られない前提で管理職が知れること・やること・NG
- ストレスチェック制度とは?目的・法的根拠・流れ・会社の義務を現役産業医が解説
- ストレスチェックは正直に答えるべき?嘘・わざと高く低く答えるとどうなるか
よくある質問
Q1. ストレスチェックの集団分析は義務ですか?
努力義務です(労働安全衛生規則第52条の14)。実施しなくても罰則はありませんが、個人の結果を会社が見られないストレスチェックにおいて、会社が職場改善に使える唯一のデータなので、実施を強くお勧めします。委託先の基本レポートに部署別集計が含まれていることも多く、追加費用なしで手に入る場合があります。
Q2. 10人未満の部署は集団分析できますか?
原則として10人以上の集団で行います。10人未満の集団の結果を会社が受け取るには、個人が特定されるおそれがあるため全員の同意が必要とされています。実務では、似た部門と合算する、事業所や職種など大きな単位で切り直す、2年分を合算するなどの方法で10人以上の母集団を作るのが現実的です。
Q3. 集団分析の結果を管理職に見せてもいいですか?
見せて構いませんし、改善のためには見せるべきです。ただし「業務改善のためだけに使い、人事評価には使わない」と必ず前置きし、改善にどう活かすかまで一緒に伝えてください。悪い部署探しに使われると、翌年から従業員が正直に答えなくなり、集団分析が機能しなくなります。
Q4. 集団分析のレポートは、まずどこを見ればいいですか?
「仕事のストレス判定図」です。量-コントロール判定図と職場の支援判定図の2枚で、部署の点が赤い側に寄っているほど健康リスクが高いと読みます。同業種の平均と比べてどちら側に近いかを見るだけで、専門知識がなくても判断できます。総合健康リスクは全国平均を100とし、120なら平均より2割高い状態です。
Q5. 受検率が低くても集団分析は使えますか?
受検率が50〜60%を切ると、受けた人の偏りが大きくなり、部署の実態を表さなくなります。集団分析を職場改善に使いたいなら、先に受検率を上げることが必要です。「結果を受けて会社が動く」ことを従業員に見せると、翌年の受検率が上がり、分析の精度も上がります。

