「復職面談で、産業医は何を聞くんですか? 何をもって復職OKと判断するんですか?」——主治医の復職可の診断書を持ってきた社員を前に、人事の方からよくいただく質問です。
結論から言うと、復職面談で私が聞くのは①心と体の体調の変化、②日常生活(起きられているか・睡眠時間・中途覚醒)、③服薬と受診の状況の3つ。判定の基準は「生活リズムが戻っているか」「集中力がある程度保たれているか」の2点で、8割方OKなら制限付きで戻します。
私は7年ほど現役の産業医として、数多くのメンタル復職判定に立ち会ってきました。この記事では、実際の面談で聞く順番と判定基準、主治医と意見が割れたときの落としどころ、人事が面談前に用意しておくもの、そして再休職を防ぐために復職判定を「企業の仕組み」にする方法(人事が陥りがちな3つの罠)を解説します。
復職面談で産業医が必ず聞くこと——実際の順番

復職面談で私が聞いていることを、実際の順番でお伝えします。
① 心と体の体調——変化はないか
まず、ご本人の心と体の状況を確認します。休職に入ったときと比べて変化はないか、いまの調子はどうか。ここから入ります。
② 日常生活——起きられているか・睡眠時間・中途覚醒
次に、日常生活がどうできているかです。朝起きられているか、睡眠時間はどうか、途中で目が覚める(中途覚醒)ことはないか——このあたりは必ず聞きます。仕事の内容や生活の様子も聞きながら、しっかりヒアリングしていきます。
③ 服薬と受診——処方どおり飲めているか、通院は続いているか
服薬の状況と受診の状況も聞いています。主治医の処方どおりに飲めているか、通院はきちんと続いているか。ここが崩れていると、体調が安定しているように見えても長続きしません。
復職判定の基準は2つ——生活リズムと集中力

実際の判定基準は、大きく2つです。①生活リズムが戻ってきていること。②集中力がある程度保たれていること——たとえば本を読める、作業を続けられる、というレベルです。
後述の「4つの指標」(生活リズム・集中力・体力・ストレス対処)は、この2つを面談シートとして項目に落としたものです。
主治医は復職OK、産業医はまだ無理——揉めたときの落としどころ

主治医が「復職可」の診断書を出しているのに、産業医としてはまだ難しい——このケースは実際にあります。そのときは、主治医の先生にお手紙(情報提供の依頼)を送って、やり取りするところから始めます。
聞くのは「その診断書に本当に妥当性があるのか」です。主治医は本人の話をもとに診断していて、職場の負荷までは見ていないことが多いので、職場の状況を伝えたうえで相談します。あわせて、診断書の内容と職場の受け入れ状況も判断材料にします。主治医との情報のやり取りと産業医の役割分担は、厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」でも、職場復帰支援の第3ステップ(職場復帰の可否の判断)として示されています。
人事が復職面談の前に用意しておくもの3つ

復職面談を頼まれた産業医の立場から、面談の前に人事に用意しておいてほしいものは、この3つです。
- 主治医の診断書(復職可の診断書。就業上の配慮が書いてあればなお良い)
- 生活記録表(本人に休職中の起床・就寝・活動を記録してもらったもの)
- 職場でのサマリ(休職前の状況、休職に至った経緯、復帰後の受け入れ体制のまとめ)
復職判定を「企業の仕組み」にする——人事が陥りがちな3つの罠
ここからは、復職判定を個別ケースの判断ではなく「企業の仕組み」として運用するための話です。ここで判断を誤ると、再休職という最悪の結果を招きます。すでに休職と復職を繰り返している社員をどう見るかは、休職を繰り返す社員への対応|産業医が見る「また危ない」サインで解説しています。
罠その1:主治医診断書の絶対視

最も多いのがこの罠です。「主治医が大丈夫と言っているから、復帰させていい」と判断してしまうケース。
主治医の役割と限界
主治医の診断は、基本的に本人との面談内容に基づいています。職場の具体的な業務内容や負荷を検証するプロセスは、主治医面談には含まれません。
つまり主治医は、
- 「治療の専門家」であり、就業判定の専門家ではない
- 患者本人(従業員)の言葉でしか職場を理解していない
- 業務遂行能力を客観的に評価する場面がない
という前提で診断書を発行しているのです。
「もう大丈夫」の罠
さらに難しいのは、従業員自身の意欲が判断を歪めることです。
休職が長引けば長引くほど、本人は経済的・心理的に焦ります。「早く復職したい」「迷惑をかけたくない」「自分は治った」――こう主治医に強く訴えかけることで、主治医が本人の挑戦意欲を尊重し、実際には回復が不十分な状態でも復職許可の診断書を発行してしまうケースが少なくありません。
このような検証不在のプロセスは、時期尚早な復職を招く重大なリスクをはらんでいます。
◎ 仕組みとしての解決:主治医診断書の位置づけを明文化
その都度「主治医診断書をどう扱うか」を判断するのではなく、社内ルールとして位置づけを明文化します。
- 主治医診断書は「復職を許可する絶対的な証明」ではない
- 「体調がある程度回復したサイン」として扱う
- その上で、必ず産業医による独自評価を実施する
これを全ケースで同じ手順として運用することで、判断のばらつきを防ぎます。産業医がいない会社で、この評価を誰に頼むかは産業医がいない会社の復職判定はどうする?で解説しています。
罠その2:業務遂行能力の確認不足

「会いに行ったら元気そうだった」「明るい表情で受け答えできた」――これは復職判定の根拠になりません。
産業医面談で確認すべき4つの指標
私が産業医面談で確認しているのは、以下の4つの観点です。これらを「印象」ではなく「項目」として全ケース共通で評価します。
- 生活リズムの安定度(起床・就寝時間が一定か、1日3食を規則的に摂れているか、睡眠の質)
- 業務に必要な集中力(2-3時間の継続作業に耐えられるか、読書・執筆など知的作業がどれくらいできるか)
- 体力の回復度(通勤の負荷に耐えられるか、1日8時間の活動を週5日続けられる体力があるか)
- ストレス対処能力(休職に至った原因への自覚があるか、再発予防のための具体的な対策を本人が持っているか)
これらは短時間の面談では測れません。本人の生活記録(休職中の活動状況)を事前に提出してもらい、面談で深掘りする必要があります。
◎ 仕組みとしての解決:全ケース共通の評価シート
サンポチャートが支援する企業では、上記4指標を復職判定シートなどを制作し書面化することを推奨しています。
これにより、「Aさんはこの基準で復職許可、Bさんは別の基準で…」という属人的判断を防ぎ、本人・上司・人事・産業医の4者が同じ情報を見て合意形成できます。
罠その3:復職判定を「その都度の判断」で運用している

3つ目の罠は、最も根本的な問題です。それは、復職判定を「個別ケースごとの判断」で運用していることです。
「Aさんは半分の体力でも復帰させよう、Bさんはフルタイムで…」
このように、ケースごとに違う基準で運用すると、以下の問題が頻発します。
- 判断のばらつき:担当者(産業医・人事)によって結論が変わる
- 本人・上司の不公平感:「なぜあの人は半日勤務でいいのに、私は…」
- 産業医交代時の引き継ぎ困難:過去の判断が再現できない
- 再休職時の責任所在が曖昧:「あの判断は誰がしたのか」
◎ 仕組みとしての解決:復職基準を明文化する
復職判定は「ケースごとの判断」ではなく、「企業の仕組み」として運用すべきです。
サンポチャートが支援する企業では、以下の3つを必ず仕組み化します。
1. 復職基準の明文化
「復職とは、8時間フルタイム勤務に耐えられる状態」を社内ルールとして文書化します。個別事情で例外を作らない。これにより、本人・上司・人事の認識を揃えます。
2. 復職判定プロセスの標準化
主治医情報の確認 → 本人の生活記録レビュー → 産業医面談(評価項目固定)。この流れを全ケースで同一に運用します。面談に呼ばれた本人が何を不安に思うかは産業医面談とは?呼ばれる理由・何を話す・クビになるかが参考になります。
3. 必要に応じた「試し出勤」の設計
フルタイム復職の判定前に、職場への耐性を確認する「試し出勤」(短時間の出社、人と会ってみる、書類整理などをやってみる)を組み込むこともあります。これは復職判定の前段階として位置づけ、ケースごとに「試し出勤するかどうか」をその場で悩まない設計にします。社外のリワーク(復職支援プログラム)を挟むかどうかの判断はリワーク(復職支援プログラム)を勧めるタイミングで解説しています。
「この人をどうしよう」と毎回悩むのではなく、「うちの会社はこういう手順で復職判定する」と決まっている状態を作る。これが再休職を防ぐ最大の打ち手です。
「仕組み化3点セット」で再休職率を激減させる
個別判断に頼った復職運用から、仕組みに基づいた運用へ。私が長年の経験から確信しているのは、以下の3点セットを徹底すれば、再休職率は大きく下げられるということです。
仕組み化 = ① 復職基準の明文化 + ② 評価項目の標準化 + ③ プロセスの可視化
- ① 復職基準の明文化:8時間フルタイム勤務に耐えられる状態が原則
- ② 評価項目の標準化:全ケース共通の判定シート(生活リズム・集中力・体力・対処能力)
- ③ プロセスの可視化:主治医→産業医→人事→本人の合意形成
これら3つを書面化し、全社ルールとして運用します。
「相談件数が増える」のは健全な状態
最後にお伝えしたい大事なポイントがあります。
適切な復職判定の仕組みを導入した直後、社内からの健康相談件数が一時的に増える現象が起きます。
それまで「これは産業医に相談していい話だっけ?」と迷っていた事案が、信頼できる体制が整うことで自然と相談に上がってきます。
最初は「逆に大変になった」と感じるかもしれません。しかし、
- 早期に問題を把握できる
- 重症化する前に対応できる
- 結果として、深刻なメンタル不調や労務トラブルの発生件数が減る
長期的にはトラブル件数が確実に減ります。これが、適切な復職判定の仕組み化の本当の効果です。
あわせて読みたい:ストレスチェックの面接指導と運用
ストレスチェックの面接指導や実施・運用について、あわせてご覧ください。
- ストレスチェック面接指導の完全ガイド|義務・流れ・就業措置
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よくある質問
Q. 産業医の復職面談では何を聞かれますか?
①心と体の体調の変化、②日常生活(朝起きられているか・睡眠時間・中途覚醒がないか)、③服薬と受診の状況(処方どおり飲めているか・通院が続いているか)を、この順番で聞きます。面談の前に生活記録表と職場のサマリをもらい、面談ではその深掘りをします。
Q. 復職判定の基準は何ですか?
生活リズムが戻っていること、集中力がある程度保たれていること(本を読める・作業を続けられる)の2つです。この2つがまだなら、戻っても続かないと判断します。8割方OKなら時短や残業禁止などの制限付きで戻し、どうしても難しいときは休職を続けます。
Q. 主治医が復職可でも、産業医が「まだ無理」と言うことはありますか?
あります。その場合は主治医に手紙(情報提供の依頼)を送ってやり取りし、診断書の妥当性を相談します。主治医は本人の話をもとに診断していて職場の負荷までは見ていないことが多いため、職場の状況を伝えたうえで、診断書の内容と職場の受け入れ状況をあわせて判断します。
Q. 復職面談の前に、人事は何を用意すればいいですか?
主治医の診断書、本人が休職中に記録した生活記録表、職場でのサマリ(休職前の状況・経緯・受け入れ体制のまとめ)の3つです。この3つが揃うと、面談で事実確認に時間を取られず、本人の状態を見ることに集中できます。
Q. 産業医がいない会社は、復職面談を誰に頼めばいいですか?
従業員50人未満で産業医がいない会社は、地域産業保健センターへの相談、外部の産業医にスポットで復職面談を依頼する、顧問産業医を置く、のいずれかになります。主治医の診断書だけで戻すのはリスクが高いので、医師の面談を1回は挟むことをおすすめします。詳しくは「産業医がいない会社の復職判定はどうする?」で解説しています。
まとめ:復職判定は「個別判断」から「仕組み」へ
- 復職面談で聞くのは①心と体の体調の変化 ②日常生活(起床・睡眠時間・中途覚醒) ③服薬と受診の状況
- 判定基準は「生活リズムが戻っているか」「集中力が保たれているか」の2つ。8割方OKなら制限付きで復職
- 主治医とは手紙でやり取りし、診断書の妥当性と職場の受け入れ状況で判断。早めに相談できる体制を
- 人事は面談前に「主治医の診断書・生活記録表・職場のサマリ」の3つを用意する
メンタル休職者の復職判定で、人事担当者が陥りがちな3つの罠は:
主治医診断書の絶対視(検証不在で復帰許可)
業務遂行能力の確認不足(印象で判断)
復職判定をその都度の判断で運用(仕組み化されていない)
これらを避けるためには、「個別判断」を「企業の仕組み」に置き換えることが本質です。
- 復職基準を明文化(8時間フルタイム原則)
- 評価項目を標準化(全ケース共通の判定シート)
- プロセスを可視化(主治医→産業医→人事→本人の合意形成)
サンポチャートでは、復職判定の仕組み化、産業医面談の標準化、運用ルールの整備まで、メンタル対応体制を一気通貫でご支援します。




