ストレスチェックを実施すると、必ず一定の割合で「高ストレス者」と判定される人が出ます。そして制度上、ここからが本当の山場です。高ストレス者から申出があれば、事業者は医師による面接指導を実施しなければなりません(労働安全衛生法第66条の10)。ところが実務では、この面接指導のところで多くの会社が止まります。「誰に頼めばいいのか」「何をどう進めるのか」「そのあと会社は何をすればいいのか」——制度の説明は世に多くても、”実際にどう回すか”を通しで書いたものは意外と少ないからです。
この記事は、現役の産業医として数多くの面接指導を行ってきた立場から、ストレスチェックの面接指導を「制度の理解」から「当日の実際」「その後の就業上の措置」まで、通しで解説する完全ガイドです。あわせて、実務でいちばん多いつまずき——「面接指導を行う医師がいない」——への解決策も示します。先に結論を1つだけ言っておくと、面接指導を行う医師は、自社が選任している産業医である必要はありません。この一点を知っているかどうかで、対応のしやすさはまったく変わります。
面接指導とは何か——ストレスチェック制度の「最重要の出口」

ストレスチェック制度の目的は、労働者が自分のストレス状態に気づき、必要な人を早めに専門家につなぐこと——つまりメンタル不調の「一次予防」にあります。検査を実施して結果を本人に返すところまでは、多くの会社ができています。しかし制度が本当に効果を発揮するのは、その先です。検査で高ストレスと判定され、面接指導が必要と評価された人が、実際に医師と話し、必要な手当てにつながって初めて、制度は「予防」として機能します。だから私は、面接指導こそがストレスチェック制度の最重要の出口だと考えています。
ここで押さえておきたいのが、面接指導は本人からの「申出」があって初めて実施されるという点です。会社が高ストレス者を選び出して強制的に受けさせる仕組みではありません。これは一見まどろっこしく見えますが、メンタルの問題はプライバシー性が高く、本人の主体性を尊重しなければかえって受診や相談を遠ざけてしまうという配慮に基づいた設計です。裏を返せば、会社に求められるのは「申し出やすい環境をつくること」であり、申出を理由に不利益な取扱いをすることは法律で明確に禁止されています。
面接指導が必要とされた人から申出があった場合、事業者はおおむね1ヶ月以内に医師による面接指導を実施し、その結果に基づいて医師の意見を聴き、必要な就業上の措置を講じる——ここまでが一連の義務です。高ストレス者面談そのものの意義や、本人がためらいがちな理由についてはストレスチェック面談は意味ない?高ストレス者が面談すべき理由で、面談の具体的な進め方はストレスチェック高ストレス者面談の方法でも解説しています。
面接指導で医師は実際に何を見て、何を聞くのか
「面接指導」と聞くと、本人も会社も身構えがちです。叱られるのではないか、休職を宣告されるのではないか、査定に響くのではないか——そんな不安を抱えて来られる方は少なくありません。しかし実際の面接指導は、そういう場ではありません。私の場合、1件あたり30分あれば十分に事足りることがほとんどで、対面でもオンラインでも進め方は基本的に同じです。むしろ大切にしているのは、会社が与えてくれたその時間を、きちんと使い切ることです。
面接の入り方も、実は重要です。私は必ず最初に「口上」——今日の面談のルールを本人に説明します。ここを飛ばすと、本人は身構えたまま本音を話してくれません。実際にお伝えしているのは、こういう内容です。
「本日の面談はストレスチェックの面接指導で、守秘義務があり、話した内容が基本的に会社に漏れることはありません。ただし、”消えてしまいたい””死にたい”といった本当に危険なサインが確認された場合は、あなたに確認したうえで会社に伝え、協力をお願いすることがあります。また、面談後に報告書は出しますが、会社に伝わるのは『面談を実施した』という事実と、就業上の制限が必要になった場合にその最低限の理由だけです。安心してお話しください。」
そのうえで、話は決まった流れで進めます。まずその人の温度感(様子)を確認し、続いて心身の状況(眠れているか、食欲、気分の落ち込み)、職場の状況(仕事量、人間関係、繁忙)、周囲の支援(相談できる相手がいるか)を順に聴いていきます。そこからアセスメント(見立て)を行い、本人への説明、そしてクロージング——という順序です。本人を問い詰めるのではなく、対話のなかで一緒に整理していくイメージです。
私が「この人は危ないかもしれない」と感じるのは、表情が晴れない、服装が乱れている、面談に遅刻してくる、夜まったく眠れていない、受け答えがどこかおかしい——といったサインが見えたときです(この”気づき”のポイントは、管理監督者によるラインケアとも共通します)。本人が「大丈夫です」と取り繕うこともありますが、その場合も睡眠などの生活状況や周辺の情報を確認していくと、本当に大丈夫かどうかが見えてきます。
そして、いちばん大事な確認が希死念慮です。私はここを、変にぼかさず、真顔で率直に尋ねます。「死にたいと感じることはありますか」「消えてしまいたいと思うことはありますか」と。聞くことでしか分からないからです。もし「ある」という答えなら、その気持ちがどのくらい強いのか、”今すぐ”なのか、まだ待てる状況なのかを確認していきます。生活に支障が出るレベルであれば、精神科・心療内科への受診を勧めます。そのときは「私はとても心配しています。仕事を続けていくためにも、まずは心身のバランスを整えましょう。働くのはこの先とても長いのだから」——そんな言い方で、本人が前向きに受診できるよう伝えます。
面接指導は誰が行える?——「医師」であればよい

ここが、この記事でいちばん知っておいてほしい点です。ストレスチェックそのものの「実施者」は、医師のほか保健師、所定の研修を受けた看護師や精神保健福祉士なども担うことができます。しかし、高ストレス者への「面接指導」を行うのは”医師”と定められています(労働安全衛生法第66条の10)。そして——この医師は、自社が選任している産業医に限られていません。
つまり、産業医を選任していない会社であっても、外部の医師に面接指導を依頼すれば、法律上の義務を果たせるということです。これは実務上とても大きな意味を持ちます。「うちには産業医がいないから面接指導ができない」という声を本当によく聞きますが、それは誤解で、正しくは「面接指導を行う医師を、そのつど確保すればよい」。50人未満で産業医の選任義務がない事業場、顧問産業医が面接指導まで手が回らない会社、地域産業保健センターの予約が埋まって申出から1ヶ月以内に間に合わない会社——こうしたケースでも、外部の医師に単発(スポット)で依頼することで、対応は十分に可能です。
面接指導の流れ——申出から就業上の措置まで

実際の流れは、順を追えばシンプルです。まず、ストレスチェックの結果が本人に返され、高ストレスで面接指導が必要と評価された人が、会社に面接指導の申出をします。会社はこの申出を受けやすいように、窓口や申出の様式をあらかじめ用意しておくのが理想です。ここが整っていない会社では、そもそも申出が上がってこず、制度が止まってしまいます。
申出を受けたら、会社はおおむね1ヶ月以内に医師による面接指導を実施します。日程を調整し、対象者のストレスチェック結果や勤務状況といった情報を医師に共有したうえで、面接を行います。実施の場は対面に限らず、要件を満たせばオンラインでも構いません。面接が終わると、医師は就業上の措置に関する意見をまとめ、会社はその医師の意見を聴取します。会社はこの意見を勘案して、必要があれば労働時間の短縮や業務内容の調整といった就業上の措置を講じます。そして最後に、面接指導の結果の記録を作成し、5年間保存します。この一連——申出、実施、意見聴取、措置、記録——を漏れなく回して、はじめて事業者の義務を果たしたことになります。
面接指導後の「就業上の措置」——実際にどう決め、会社にどう伝えるか

面接指導は「実施したら終わり」ではありません。むしろ、そのあとに会社が講じる就業上の措置までつながって、はじめて意味を持ちます。医師が出す意見は、大きく次の3つの区分で示されます。
- 通常勤務:これまでどおり勤務してよい
- 就業制限:労働時間の短縮、時間外・深夜業の制限、業務内容や配置の変更など、働き方に一定の制限を加える
- 要休養:療養のため、一定期間休ませる
実際に出す意見としていちばん多いのは、残業(時間外労働)の制限です。私の場合は「時間外は当面ゼロ」「月20時間まで」「月45時間まで」というように、その人の状態に合わせて段階的に刻んで出すことが多い。逆に配置転換は、実はあまり出しません。産業医が配置にまで踏み込むと職場に干渉しすぎになりやすく、よほどの事情がない限り控えるべきだと考えているからです。そして要休養(休ませる)は、さらに慎重です。本人への影響が大きい侵襲的な措置なので、後述する本当にまずい状況——自殺企図が強く疑われるようなとき——に限って出します。実際のところ、面接をしても就業制限まで出るのは10人に1人ほどで、多くはヒアリングやアドバイスのレベルで足ります。一方、その場では措置を出さずとも「1ヶ月後にもう一度面談しましょう」と定期フォローにつなぐ人が1〜2割ほどいます。
措置を出すかどうかの判断軸はシンプルで、「この人がこのまま働き続けると、心身に大きな影響が出て悪化してしまう」と見立てたときです。理想論で重い制限を並べても、現場が回らなければ実行されず、結局その人が守られません。だから実行可能な形に落とし込むことを何より大切にしています。
会社への伝え方にも、ひと工夫あります。会社に伝えるのは相談の中身ではなく「就業上の措置についての意見」ですが、その意見を出す前に、私は本人に「ここまでは会社にお伝えしてもいいですか」と、プライバシーに関わらないレベルまで確認してから伝えます。また、会社から「その制限では業務が回らない」と言われることもあります。そのときに大事なのは、それは会社(上司や人事)が対処すべきことであって、本人が気に病む必要はないということ。私は本人に「そこはあなたが心配しなくて大丈夫ですよ」と伝え、本人を守る立場をはっきりさせます。なお、この「医師の意見を聴いて就業上の措置を講じる」枠組みは健康診断の事後措置と同じ構造で、健康診断の事後措置とは|有所見者の就業判定の進め方もあわせてご覧ください。
面接指導の”前後”——受診・休職・復職との関係

面接指導は単体で完結するものではなく、受診・休職・復職という一連の流れの入り口に立っています。面接のなかで主治医(精神科・心療内科)の受診が必要と判断すれば、そこにつなぎます。そして、主治医から休職を前提とした診断書が出てきた場合は、ためらわず、直ちに休ませる準備に入るのが原則です。休職に入る局面では、話す機会があれば言葉を交わしますが、まずは早く休んで体調の回復に努めてもらうことを最優先にします。
そして、意外と軽視されがちなのが復職の場面です。休むときは休んでもらうしかなく、そこに判定が挟まる余地は多くありません。しかし復職は違います。体調が十分に戻らないまま職場に戻すと、再発してまた休職に逆戻り——ということが起こります。だからこそ、復職の可否は主治医の診断書だけで進めず、産業医が「就業できる状態か」を確認し、会社としても吟味する姿勢が欠かせません。復職判定の実務はメンタル休職者の復職判定で人事が陥りがちな3つの罠もあわせてご覧ください。
オンライン面接指導と、拠点・在宅への対応

面接指導は、一定の要件を満たせばオンラインで実施することも認められています。拠点が全国に点在する会社や在宅勤務者の多い会社にとって、現実的な選択肢です。対面にこだわると、遠方の拠点で高ストレス者が出るたびに医師を探して訪問日程を合わせる負担が生じ、「1ヶ月以内」に間に合わないことも起こります。オンライン対応の医師や委託先を確保しておけば、場所を問わず、申出から短期間で実施できます。
ただし、オンラインならではの注意点もあります。ひとつは、対面より情報が医師に伝わりにくいこと。だからこそ、会社が事前に会社の概要・業務の状況・対象者のプロフィール(勤怠や体調のヒアリングシート、ストレスチェック結果など)を医師に共有しておくと、限られた面接時間を本人のヒアリングとアセスメントに使えて、精度がぐっと上がります。もうひとつはフォローアップです。措置を出したあと継続して見てもらえるのか——外部委託を使う場合は、次回も同じ医師が担当するのか、事業所とどうやり取りするのかを、依頼前に確認しておきましょう。また、面接で受診が必要になったときにすぐ案内できるよう、あらかじめ受診先(医療機関)のリストを用意しておくと安心です。継続フォロー(1ヶ月後の再面談など)が必要な場合はできるだけ同じ医師が続けて担当するほうが望ましく、会社から「次回も同じ先生に」と希望があれば、それに応えられる委託先を選ぶとよいでしょう。
2028年、50人未満も義務化——今から備える

この改正は、面接指導の観点から見ると重い意味を持ちます。50人未満の事業場には、そもそも産業医の選任義務がありません。つまり、義務化によって「ストレスチェックはやったが、高ストレス者が出ても面接指導を頼む医師がいない」という会社が、これから大量に生まれることになります。施行は2028年ですが、いざ申出が出てから慌てて医師を探しても、1ヶ月以内の実施に間に合わないおそれがあります。だからこそ、外部の医師に面接指導を依頼できる手段を、今のうちから確保しておくことが、これからの小規模企業のリスク管理になります。 施行日は2028年4月1日で正式に確定しています。詳しくは50人未満の義務化はいつから?準備ガイド(2028年4月1日確定)をご覧ください。
“形だけ”にしない面接指導——効かせるための勘どころ
最後に、制度を回す以上に大切なことをお伝えします。面接指導は、やり方次第で「効く」ものにも「形だけ」のものにもなります。いちばん危険な兆候は、従業員が面接指導に対して「どうせやっても意味がない」「何も変わらない」というネガティブなイメージを持ってしまっていることです。こうなると、本当に助けが必要な人ほど申し出なくなり、制度が空回りします。とくに気をつけたいのが会社の態度です。一度でも「なぜ面談なんか受けるのか」というような空気を出してしまうと、従業員の信頼は一気に下がり、翌年から誰も手を挙げなくなります。そうなると、体調がかなり悪化してから見つかる=手遅れに近い状態で発覚する人が増えてしまう。だからこそ会社は「秘密は守る」「いつでも受けていい」と、はっきりオープンに示すことが大切です。申出の窓口も、人を何人も介して調整するより、Webなどで申出を自動化し、間に人を挟まないほうが、実際に手が上がりやすくなります。
まとめ
- 高ストレス者への医師の面接指導は、本人の申出があれば事業者の義務(安衛法66条の10)。申出からおおむね1ヶ月以内に実施し、申出を理由とする不利益取扱いは禁止
- 面接指導は評価やペナルティの場ではなく、勤務状況・心理的負担・心身の状況・本人の受け止めを対話で整理する場。相談内容は同意なく会社に伝わらない
- 面接指導を行うのは「医師」であればよく、自社の産業医に限られない。産業医がいない会社は外部の医師にスポットで依頼できる
- 面接指導後は医師の意見を聴き、就業上の措置(通常勤務・就業制限・要休養)を講じる。実務では実行可能なマイルドな措置が多い。記録は5年保存
- 2028年4月から50人未満も義務化。産業医のいない小規模企業こそ、面接指導の手段を今から確保しておく
一次情報は厚生労働省(ストレスチェック制度導入マニュアル、労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律)やe-Gov法令検索(労働安全衛生法第66条の10)で確認できます。より詳しい実務は、代表産業医・角田拓実の著書『図解入門ビジネス 職場メンタルヘルスの基本と対応がよくわかる本』(秀和システム新社/紹介記事)でも解説しています。
あわせて読みたい:ストレスチェックの面接指導と運用
ストレスチェックの面接指導や実施・運用について、あわせてご覧ください。
- ストレスチェック義務化はいつから?50人未満は2028年4月1日から|準備ガイド
- ストレスチェックの外部委託先の選び方|失敗例と5つの比較ポイント
- ストレスチェック面接指導の費用相場|スポット外部委託は1件1.5万〜3万円
- ストレスチェック面接指導の医師がいない|外部委託・スポット依頼を解説
- ストレスチェックの面接指導はオンラインでOK?要件と当日の流れ
- ストレスチェックの実施者とは?保健師も担当できる理由と要件
- ストレスチェックの受検率を上げるには?社内定着の実務ポイント
- 高ストレス者が面接指導を申し出ないときの対応と勧奨の実務
- 高ストレス者を放置するとどうなる?会社のリスクと今すぐやるべき対応
- ストレスチェックの面談で何を話す?聞かれること・当日の流れを産業医が解説
- 高ストレス者の判定基準とは?何点から・割合の目安を産業医が解説
よくある質問
Q. 高ストレス者への面接指導は必ず実施しないといけませんか?
高ストレス者と判定され面接指導が必要とされた労働者から申出があった場合、事業者は医師による面接指導を実施する義務があります(労働安全衛生法第66条の10)。申出がない場合に強制するものではありませんが、申出しやすい窓口の整備と、申出を理由に不利益な取扱いをしないことの周知が重要です。
Q. 面接指導は申出からいつまでに実施すればいいですか?
労働者からの申出後、おおむね1ヶ月以内に実施することとされています。日程調整や医師の手配に時間がかかると間に合わないことがあるため、あらかじめ依頼先(産業医または外部の医師)を決めておくとスムーズです。
Q. 面接指導で話した内容は会社に伝わりますか?
面接指導で話した相談内容が、本人の同意なくそのまま会社に伝えられることはありません。会社に伝えられるのは「就業上の措置に関する医師の意見」であり、相談内容そのものではありません。安心して相談してください。
Q. 産業医がいなくても面接指導はできますか?
できます。面接指導を行うのは「医師」であればよく、自社が選任している産業医に限られません。産業医を選任していない事業場は、外部の医師にスポット(単発)で面接指導を依頼することで法律上の義務を果たせます。オンライン対応の委託先を使えば、全国どこの拠点でも対応できます。
Q. 面接指導の結果はどのくらい保存が必要ですか?
面接指導の結果の記録を作成し、5年間保存することが事業者に義務づけられています。就業上の措置を講じた場合は、その内容もあわせて記録に残しておくと、後日の確認や監督署対応の際に役立ちます。

