「産業医面談を受けてくださいと言われた。何を話すんだろう」「呼ばれたということは、問題社員だと思われているのか」「面談を受けたらクビになるのでは」——面談の前に、こうした不安を口にされる方は少なくありません。
先に結論です。産業医面談は、あなたの健康状態を確認して、安全に働けるように「就業上の配慮」を行うための場です。評価や処分の場ではありません。呼ばれる理由は大きく5種類(休職・復職/体調の相談/高ストレス/長時間労働/健康診断の有所見)、1回の時間は20〜30分が目安です。面談を受けたことを理由にクビになることはなく、現場の実感は逆で、クビにならないように受けるのが産業医面談です。
この記事は、顧問先で日々面談を行っている現役産業医の立場から、産業医面談とは何か、呼ばれる理由と多い順、時間の目安、何を話すか、会社に伝わる範囲、クビになるのか、断れるのかを、面談を受ける本人向けに1本にまとめた入口の記事です。種類ごとの詳しい話は、本文中の各記事へ進んでください。
産業医面談とは——評価の場ではなく、安全に働くための調整の場

産業医面談とは、会社が選任した産業医(または会社が依頼した医師)が、従業員と1対1で健康状態と働き方を確認し、必要であれば会社に「就業上の配慮」について意見を述べるための面談です。病院の診察とは目的が違います。
| 病院の診察(主治医) | 産業医面談 | |
|---|---|---|
| 目的 | 病気の診断と治療 | 健康状態を確認し、安全に働けるかを判断する |
| すること | 検査・診断・処方 | 体調と仕事の状況の確認、助言、会社への意見 |
| しないこと | — | 診断・治療・処方はしない(必要なら受診をすすめる) |
| 結果の行き先 | 本人 | 本人と、就業上の配慮に必要な範囲で会社 |
| 費用 | 本人負担(保険診療) | 会社負担(本人は無料) |
「面談の最初に、必ず言っている一言はありますか」と聞かれることがあります。正直に言うと、特別「これ」と決めて言っている一言はない、というのが現実です。相手の状況は毎回違うので、決まり文句にするのは難しい。
ただ、前提として話していることはあります。「この面談は、就業上の配慮を目指している。危険のない、安全に働ける業務を目指していますよ」ということです。面談の出口は「評価」でも「処分」でもなく、「どうすれば安全に働き続けられるか」。ここがすべての産業医面談に共通する土台です。
産業医面談に呼ばれる理由は5種類——いちばん多いのは休職・復職

「呼ばれた=問題社員」ではありません。産業医面談には種類があり、それぞれ根拠と目的が決まっています。私の顧問先で多い順に並べると、休職・復職の面談が明らかに多く、次に体調の相談、高ストレス、長時間労働、健康診断の有所見の順です(会社の業種や規模で順番は変わります)。
| 多い順 | 面談の種類 | きっかけ | 根拠 | 詳しい記事 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 休職・復職の面談 | 休職に入るとき、復職を希望するとき、復職後のフォロー | 会社の就業規則・復職の手続き(厚生労働省「職場復帰支援の手引き」) | 復職判定の3つの罠(人事向け) |
| 2 | 体調の相談 | 本人の希望、上司や人事からのすすめ | 健康相談(労働安全衛生法第13条の3、同規則第14条) | — |
| 3 | 高ストレス者の面接指導 | ストレスチェックで高ストレスと判定され、本人が申し出た | 労働安全衛生法第66条の10 | ストレスチェックの面談で何を話す? |
| 4 | 長時間労働の面接指導 | 時間外・休日労働が月80時間を超え、疲労の蓄積があり、本人が申し出た | 労働安全衛生法第66条の8 | 長時間労働の面接指導とは? |
| 5 | 健康診断の有所見 | 健診で血圧・血糖などに所見があり、働き方の確認が必要 | 労働安全衛生法第66条の4・第66条の5・第66条の7 | 健康診断の事後措置とは |
どの種類でも、目的は同じです。健康状態を確認し、必要なら残業の制限・業務の調整・受診のすすめといった配慮につなげる。呼ばれたこと自体はマイナスの評価ではなく、会社が健康管理の手続きをきちんと踏んでいるということです。
産業医面談の時間はどのくらい?——20〜30分で1コマが目安

私の場合は、20分から30分で1コマという形で時間を取るようにしています。ただ、これは産業医のスタンスと、そのときの状況で変わります。
| 場面 | 時間の目安 | 内容 |
|---|---|---|
| フォローアップ(経過の確認だけ) | 10分ほど | 前回からの体調の変化、配慮が合っているかの確認 |
| 標準的な面談 | 20〜30分 | 体調・仕事の状況の確認、助言、今後の方針 |
| 心の問題・休職や復職の判断 | 1時間かける産業医もいる | 経過を丁寧に聞く、主治医の診断書の確認、復職後の働き方の相談 |
フォローアップでご確認だけなら10分で終わる先生もいらっしゃいますし、逆に心の問題や休職の問題で1時間かける先生もいらっしゃいます。状況と、会社と産業医の契約上の取り決め次第です。産業医の訪問時間は契約で決まっているので、1日に面談できる人数にも限りがあります。
当日の流れは、どの種類でもおおむね共通です。
- 面談の目的と、会社に伝わる範囲の説明(医師から)
- 体調の確認——睡眠、食欲、気分、通院や服薬の状況
- 仕事の確認——仕事の量、残業、人間関係、困っていること
- 医師の見立てと提案——通常勤務でよいか、配慮が必要か、受診をすすめるか
- 会社に伝える内容の確認——何をどう伝えるかを本人と相談して終了
産業医面談で何を話す?何を聞かれる?——答えたくないことは答えなくていい

聞かれることは、難しいことではありません。中心は「体調」と「仕事の状況」の2つです。上手に答える必要はなく、思っているままを話してもらうのがいちばん役に立ちます。
| 聞かれること | 質問の例 | なぜ聞くのか |
|---|---|---|
| 睡眠 | 「夜は眠れていますか」「朝のだるさはありますか」 | 心身の負担がいちばん早く出るところ |
| 食欲・気分 | 「食事はとれていますか」「気分の落ち込みはありますか」 | 受診をすすめるかどうかの判断材料 |
| 仕事の量・残業 | 「仕事の量は最近どうですか」「残業はどのくらいですか」 | 配慮(残業の制限など)が必要かを判断する |
| 人間関係・困りごと | 「職場で困っていることはありますか」 | 業務の調整や環境の改善につなげる |
| 支え・通院 | 「相談できる人はいますか」「通院や服薬はありますか」 | 主治医との連携、働き方への影響を確認する |
高ストレス者の面談で実際に私が聞いている質問と、その意図はストレスチェックの面談で何を話す?聞かれること・当日の流れで、当日の流れに沿って詳しく紹介しています。
産業医面談で話した内容は会社に伝わる?——伝わるのは就業上の配慮に必要な範囲

医師には守秘義務があります(刑法第134条)。さらに、健康診断や面接指導の事務に従事した人は、その実施に関して知り得た労働者の秘密を漏らしてはならないと定められています(労働安全衛生法第105条)。面談で話した内容が、そのまま会社に筒抜けになることはありません。
| 会社に伝わるもの | 会社に伝わらないもの |
|---|---|
| 面談を実施したという事実 | 面談で話した愚痴や悩みの中身 |
| 就業区分(通常勤務・就業制限・要休業) | 家庭やプライベートの事情 |
| 必要な配慮の内容(残業の制限、業務の調整、通院への配慮など) | 診断名や服薬の詳細(本人の同意がない限り) |
| 配慮が必要な期間の目安 | 上司や同僚への不満の具体的な発言 |
会社に意見を出すときも、医師が勝手に決めて通告するわけではありません。「残業を減らしてもらうよう意見を出そうと思いますが、どうですか」と、本人と相談しながら決めていくのが本来の面談です。例外は、命に関わる危険なサインが確認されたときで、その場合も本人に確認したうえで会社に協力を求めます。
情報の伝え方の設計は産業医面談の情報を職場に伝える範囲(2枚運用)、ストレスチェック後の面談で「会社にバレる」不安は高ストレス者面談のデメリットは?会社にバレる不安に回答で解説しています。
産業医面談を受けたらクビになる?——むしろクビにならないために受ける

「面談を受けたらクビになりますか」と聞かれたら、私はこう答えています。「むしろ、クビにならないように面談を受けるんです」。
産業医面談は、健康状態を確認して、適正な就業上の配慮を行う場です。面談を受けなければ、産業医は会社に「この人には残業の制限が必要です」「この業務は外してください」と意見を出すことができません。面談を受けずに、健康上の配慮が受けられない——そのほうが損になることはあると思います。
| よくある不安 | 実際はどうか |
|---|---|
| 面談を受けたらクビになる | 産業医に解雇を決める権限はない。解雇には客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が必要(労働契約法第16条)で、「面談を受けた」ことは理由にならない |
| 面談を申し出たら評価が下がる | 高ストレス者の面接指導は、申出を理由とした不利益な取扱いが法律で禁止されている(労働安全衛生法第66条の10第3項) |
| 呼ばれた=退職をすすめられる | 面談の目的は就業上の配慮。退職勧奨は産業医の仕事ではない |
| 面談を受けなければ安全 | 配慮のないまま働き続け、体調を崩して長く休むほうが、本人にとって損が大きい |
「産業医面談でクビになった」という話の多くは、面談が原因ではなく、休職期間の満了による退職など会社の就業規則の話です。休職できる期間や復職の条件は就業規則で決まっていて、面談を受けても受けなくても変わりません。不安なときは、自分の会社の就業規則で「休職期間」と「復職の手続き」を確認しておくと落ち着いて話せます。
産業医面談は断れる?——種類によって違う。受けないと配慮が受けられない

断れるかどうかは、面談の種類で変わります。
| 面談の種類 | 本人が受ける義務 | 断るとどうなるか |
|---|---|---|
| 高ストレス者の面接指導 | なし(本人の申出で行う) | 申し出なければ行われない。不利益もないが、配慮にもつながらない |
| 長時間労働の面接指導 | 申し出た場合は受ける義務がある(労働安全衛生法第66条の8第2項)。会社指定の医師が嫌なら、他の医師の面接指導を受けて結果の書面を提出してもよい | 研究開発業務で月100時間を超えた場合などは、申出がなくても会社に実施義務がある |
| 健康診断の有所見 | 法律上の受ける義務は明記されていない | 医師が就業上の意見を出すための情報が足りなくなる |
| 休職・復職の面談 | 会社の復職の手続きとして定められていることが多い | 復職の可否を判断する材料がそろわず、復職の手続きが進まない |
| 体調の相談 | なし(希望制) | — |
断ること自体で罰せられることはありません。ただ、前の章でお伝えしたとおり、面談を受けないと、健康上の配慮を受けるきっかけを自分で手放すことになります。会社の産業医に話しにくい事情があるなら、「他の医師に相談したい」と伝えるのも一つの方法です。
ストレスチェック後の面談を受けないとどうなるかはストレスチェックの面談を受けないとどうなる?、会社が面談を業務命令にできるかは産業医面談は会社が指示できる?、面談が形だけになっていると感じる方は産業医面談が「意味ない」と言われる理由も参考にしてください。
会社に産業医がいない・面談の枠がない場合は?
従業員50人未満の会社には産業医の選任義務がなく、「面談を受けたいのに、頼める医師がいない」ということが起こります。高ストレス者や長時間労働の面接指導は「医師」であれば行えるので、自社の産業医でなくても、外部の医師に依頼すれば受けられます。地域産業保健センター(無料・枠に限りあり)や、外部の医師のスポット面談が選択肢です。詳しくは産業医がいない会社はどうする?にまとめています。
まとめ:産業医面談は、あなたを損させる場ではなく、安全に働くための場
最後に、面談を受ける方への一言です。産業医面談は、健康状態を確認して、適正な就業上の配慮を行う場です。あなたを損させる場所ではなく、安全に働いてもらうための場所です。
- 産業医面談は、健康状態を確認し、安全に働けるよう就業上の配慮を行う場。評価や処分の場ではない。
- 呼ばれる理由は5種類。多い順に、休職・復職、体調の相談、高ストレス、長時間労働、健康診断の有所見。
- 時間は20〜30分で1コマが目安。確認だけなら10分、心の問題や休職・復職では1時間かける産業医もいる。
- 聞かれるのは体調(睡眠・食欲・気分)と仕事の状況。答えたくないことは答えなくていい。
- 会社に伝わるのは、就業上の配慮に必要な範囲だけ。話の中身がそのまま伝わることはない。
- 面談を受けたことを理由にクビにはならない。むしろ、クビにならないために受ける。受けないと配慮が受けられず損になる。
あわせて読みたい:ストレスチェックの面接指導と運用
ストレスチェックの面接指導や実施・運用について、あわせてご覧ください。
- ストレスチェック面接指導の完全ガイド|義務・流れ・就業措置
- ストレスチェックの面談で何を話す?聞かれること・当日の流れを産業医が解説
- 高ストレス者面談のデメリットは?会社にバレる不安に保健師が回答
- ストレスチェックの面談を受けないとどうなる?強制・断り方を産業医が解説
- 産業医面談は会社が指示できる?高ストレス者への業務命令・拒否されたときの対応
- 長時間労働の面接指導とは?80時間の基準・流れ・案内文まで産業医が解説
- ストレスチェックの面接指導はオンラインでOK?要件と当日の流れ
よくある質問
Q1. 産業医面談とは何ですか?
会社が選任した産業医などの医師が、従業員と1対1で健康状態と働き方を確認し、必要なら会社に就業上の配慮について意見を述べる面談です。診断や治療は行わず、評価や処分の場でもありません。費用は会社負担です。
Q2. 産業医面談を受けるとクビになりますか?
なりません。産業医に解雇を決める権限はなく、面談を受けたことは解雇の理由になりません。高ストレス者の面接指導では、申出を理由とした不利益な取扱いが労働安全衛生法第66条の10第3項で禁止されています。面談は、必要な配慮を受けて働き続けるための場です。
Q3. 産業医面談の時間はどのくらいですか?
20〜30分が目安です。フォローアップの確認だけなら10分ほどで終わることもあり、心の問題や休職・復職の判断では1時間かける産業医もいます。状況と、会社と産業医の契約上の取り決めによって変わります。
Q4. 産業医面談で話した内容は会社や上司に伝わりますか?
話の中身がそのまま伝わることはありません。医師には守秘義務があり、会社に伝わるのは面談を実施した事実と、残業の制限や業務の調整など就業上の配慮に必要な範囲の内容です。何を伝えるかは本人と相談して決めるのが基本です。
Q5. 産業医面談は断れますか?
種類によります。高ストレス者の面接指導は本人の申出で行うため、申し出なければ行われません。長時間労働の面接指導は、申し出た場合は受ける義務があります(他の医師の面接指導を受けて結果の書面を提出することも可能)。断ること自体に罰はありませんが、健康上の配慮を受けるきっかけを失います。
Q6. 産業医面談の服装や持ち物に決まりはありますか?
決まりはありません。普段の仕事の服装で大丈夫です。伝えたいことのメモ、通院中ならお薬手帳、会社から渡された問診票があれば持参すると、限られた時間を有効に使えます。

