産業医の報酬相場はどう調べる?担当者のための調査方法を医師が教えます。
従業員の健康管理は、企業にとって重要な経営課題です。その大きな部分を産業医が担っているのは事実です。しかし、産業医の報酬は企業規模や業種、地域によって大きく異なるため、適切な報酬水準を把握することは容易ではありません。
「産業医の報酬相場はどう調べるのか?」
この記事では、産業医の報酬相場を調査する方法を、具体的な事例やデータに基づいて解説します。自社にとって適切な報酬水準を理解することで、優秀な産業医を確保し、従業員の健康を守ることができます。
企業規模、業界、地域など、さまざまな要因が報酬に影響するため、調査結果を踏まえて自社に最適な報酬設定を行うためのガイドも紹介します。従業員の健康を守るための投資として、適切な予算を立て、透明性の高い報酬設定を行いましょう。
産業医とはどんな仕事?法令、実務、活用方法に関して徹底解説。
産業医の報酬相場を調査する方法
産業医の報酬は、企業にとって、従業員の健康管理体制の充実度を左右する重要な経営課題の一つです。適切な報酬を設定することで、優秀な産業医を確保し、従業員の健康を守ることができます。
しかし、一口に「産業医の報酬」と言っても、企業規模や業種、地域によって大きく異なるため、自社にとって適切な報酬水準を把握することは容易ではありません。
例えば、従業員50人の会社と、従業員1000人を超える大企業では、産業医に求められる役割や業務量が大きく異なります。
また、工場で働く人の健康を守るには、粉塵や化学物質などの専門知識が必要になるように、業種によっても必要な専門性は変わってきます。さらに、都市部と地方では、物価や人件費が異なるため、産業医の報酬にも地域差が生じます。
そこで、本記事では、自社にとって適切な産業医の報酬相場を調査する方法について、わかりやすく解説していきます。
資料収集とオンラインリサーチの活用方法
産業医の報酬相場を調べるためには、まず情報収集を行いましょう。大きく分けて、「公的機関の資料」と「民間企業の情報」の二つを参考にすると、多角的な視点から情報を得られます。
1. 公的機関の資料を活用する
日本医師会などの公的機関のウェブサイトでは、産業医の報酬に関する情報が公開されています。
業態によって産業医報酬は異なってきますが、おおむねどのくらいの価格で産業医報酬が支払われているかを知ることに役に立ちます。営利的に公開しているわけでないため客観的なデータとして役に立ちます。
愛知県医師会、日本橋医師会、札幌産業医協議会といった公的な機関が公表している産業医報酬には必ず目を通しておきましょう。
2. 民間企業の情報も活用する
公的機関の資料だけでは、具体的な金額や、業種ごとの傾向までは掴みにくいのが現状です。そこで、次に、民間企業が発信している情報を参考にしましょう。
例えば、医師の転職支援サービスを提供している企業や、産業医の紹介事業を行っている企業などでは、独自の調査に基づいた報酬相場のデータやレポートを公表していることがあります。これらの資料は、より詳細な情報や、最新の動向を把握するのに役立ちます。
中には個人開業した産業医事務所では契約金の内訳を公開している場合もあるのでチェックしてみることも有用です。
3. インターネット検索を活用する
その他にも、医療情報サイトや企業のホームページなどで、産業医の報酬相場に関する記事やコラムが掲載されていることがあります。「産業医 報酬相場」「産業医 費用」「産業医 選定基準」といったキーワードでインターネット検索を行うことも有効な手段です。
一方で業界最安値とPRするサイトも多く実際に相見積もりを行うまで実態が分からないケースも散見されています。
地域や業種ごとの報酬相場の違いを理解する
産業医の報酬相場は、地域や業種によって異なることを理解しておく必要があります。
1. 地域差を考慮する
例えば、都市部と地方では、生活費や人件費の水準が異なるため、産業医の報酬相場にも差が生じます。一般的に、都市部の方が報酬水準は高くなる傾向があります。
2. 業種による報酬相場の違いを把握する
また、業種によっても報酬相場は異なります。例えば、製造業や建設業など、労働災害のリスクが高い業種では、産業医の専門性や業務量が高くなるため、報酬水準も高くなる傾向があります。
これらの要素を考慮して、自社の置かれている状況に応じた適切な報酬水準を検討する必要があります。そのためにも、地域別、業種別の報酬相場に関する情報収集が欠かせません。
実際に同業他社での産業医報酬に関して相談を行うことも有用な手です。産業医報酬はクローズドなことも多いため実地で聞くことは最高の情報になります。場合によっては産業医をそのまま紹介していただける場合もあるでしょう。
産業医の報酬相場に影響を与える要因
産業医の報酬は、企業規模や業界、地域など、さまざまな要因によって異なります。適切な報酬を設定することは、優秀な産業医を確保し、従業員の健康管理体制を充実させるために非常に重要です。ここでは、報酬相場に影響を与える主な要因について、具体的な例を交えながら詳しく解説していきます。
企業規模と報酬の関係について
企業規模が大きくなればなるほど、従業員数や事業所の数も増加する傾向があり、必然的に産業医の業務量は増大します。従業員50人未満の企業であれば、健康診断の結果や面談記録の確認など、比較的業務量は少ないかもしれません。
企業規模が大きくなるほど、産業医の責任や負担は大きくなるため、一般的に企業規模と報酬は比例関係にあると言えます。
上記はあくまで目安であり、実際の報酬額は、契約内容や業務量、訪問日数、産業医の経験や専門性などによって異なります。
業界ごとの報酬の傾向とポイント
業界によっても、産業医の報酬相場は異なります。労働災害の発生リスクが高い業界や、高度な専門知識が求められる業界では、産業医の専門性や経験がより重要視されるため、報酬は高くなる傾向にあります。
例えば、建設業や製造業では、高所作業や重量物の取り扱いなど、労働災害のリスクが高い作業環境が存在します。そのため、産業医は、労働災害の予防に関する専門知識や、緊急時の対応能力が求められます。
一方、IT業界や金融業界などでは、長時間労働や精神的なストレスにより、うつ病などのメンタルヘルス不調を抱える従業員が多い傾向にあります。これらの業界では、メンタルヘルス対策や過重労働の予防など、専門的な知識と経験を持つ産業医が求められます。
このように、業界特有のリスクや課題に対応できる専門知識や経験を持つ産業医は、高い報酬を得られる傾向にあります。
報酬に影響する地域差の考察
地域によっても、産業医の報酬相場には差が見られます。一般的に、都市部では地方に比べて、物価や人件費が高いため、産業医の報酬も高くなる傾向にあります。
東京都内では、企業数や従業員数が多く、産業医の需要が非常に高いです。また、大学病院などの医療機関が多く、専門性の高い産業医が集まりやすいという点も、報酬の高騰に繋がっています。
一方、地方都市では、産業医の需要が比較的少なく、報酬水準も東京都内に比べて低い傾向にあります。
このように、産業医の報酬は、需要と供給のバランスによって地域差が生じます。
産業医の報酬は、契約内容によっても大きく異なります。訪問回数や時間、業務内容によって報酬が異なる場合があります。そのため、複数の産業医と面談を行い、自社のニーズに合った報酬体系で契約することが大切です。
例えば、週に1回の訪問と、月に1回の職場巡視を依頼する場合と、月に1回の訪問のみを依頼する場合では、報酬額が大きく異なる可能性があります。また、健康診断の実施や、ストレスチェックの実施なども、別途費用が発生する場合があります。
産業医との契約時には、業務内容や費用について、事前にしっかりと確認しておくことが重要です。
産業医の報酬相場を活用するためのガイド
産業医の報酬相場は、企業規模や業務内容、契約内容によって大きく異なるため、適切な報酬設定が重要になります。ここでは、調査結果を踏まえて、自社にとって最適な産業医の報酬の決め方について解説します。
調査結果を自社の方針にどう活かすか
産業医の報酬相場の調査を行ったとしても最終的に大切なことは「自社にとって適切なものか」ということです。
自社に最適な報酬額は、会社の規模や方針、そして何よりも従業員の健康状態を守るための投資額によって異なってきます。
例えば、従業員1000人を超えるような大企業では常勤での産業医を雇用する必要があり報酬も高額になる傾向があります。(今回は嘱託産業医のケースを検討しておりますが。)
一方、従業員50人未満の中小企業は従業員一人ひとりの顔が見える距離感で健康管理ができます。相对的に、産業医に求められる業務範囲は狭まり、報酬も抑えられる可能性があります。
企業規模 | 従業員数 | おおよその報酬相場 |
---|---|---|
大企業 | 1,000人以上 | 月額100万円~(常勤医師が必要) |
中堅企業 | 300~999人 | 月額30~50万円 |
中小企業 | 50~299人 | 月額10~30万円 |
小規模企業 | 50人未満 | 月額5~15万円 |
産業医の専門分野も報酬に影響します。メンタルヘルスの問題を抱える従業員が多い企業では、心の専門家である精神科医や、メンタルヘルス対策に精通した産業医が必要となるため、報酬も高くなる傾向があります。(専門性の高い産業医の需要は高くオファーが多いため報酬が高くなる傾向があります。)
労働安全衛生対策に必要な予算の立て方
産業医の報酬は、労働安全衛生対策に必要な予算の一部であり、従業員の健康を守るための投資です。会社の未来を担う従業員の健康は、工場設備や商品開発と同じくらい重要な経営投資と言えるでしょう。
予算編成では、まず、自社の労働安全衛生上のリスクを分析します。粉塵の多い工場では呼吸器疾患、デスクワーク中心のオフィスではメンタルヘルス不調のリスクが高まります。
次に、リスクに応じて必要な対策を検討します。粉塵対策の設備投資、産業医によるメンタルヘルス相談、ストレスチェックの実施など、具体的な対策を予算に落とし込むことが重要です。
まとめ
産業医の報酬相場は、企業規模、業界、地域によって大きく異なります。適切な報酬を設定することで、優秀な産業医を確保し、従業員の健康管理体制を充実させることができます。
報酬相場を調査する際には、医師会などの公的機関の資料、医師の転職支援サービスや産業医紹介事業を行う民間企業の情報などを参考にしましょう。実際に同規模同業者の例を知りたい際は同業者に相談を行うことも有用です。
地域や業種ごとの報酬相場の違いを理解し、自社の状況に応じた適切な報酬水準を検討することが重要です。さらに、産業医の専門分野や業務内容、契約内容なども報酬に影響するため、これらの要素を考慮した上で、透明性の高い報酬設定を行うことが大切です。
参考 愛知県医師会産業医報酬の目安 日本橋医師会産業医報酬基準額について 札幌産業医協議会嘱託産業医標準料金
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