「ストレスチェック、やらないと罰則があるんですか?」「罰則がないなら後回しでもいいですよね?」——2028年の義務化を前に、まだ実施していない会社の経営者・人事の方から受ける質問です。
先に結論です。ストレスチェックを実施しないこと自体に、直接の罰則はありません。罰金があるのは、50人以上の事業場が労働基準監督署への報告を怠った場合の50万円以下だけです。ただ、現役産業医として「やっていない会社」を見てきて言えるのは、本当に怖いのは罰金ではなく、休職の診断書が来てから初めて不調に気づくことだということです。実施の費用より、休職とその周りのカバーを含めた損失のほうがはるかに大きい。 制度の全体像(目的・会社の義務・年1回の流れ・役割分担)は、ストレスチェック制度とは?目的・義務・流れにまとめています。
この記事では、罰則の法律上の整理、罰金より怖いもの、やっていない会社の実態と始めた会社の違い、「後回しでいい」への答え、実施費用と休職の損失の比べ方、今から始める4ステップを解説します。
ストレスチェックをやらないと罰則はあるのか——法律上の整理

労働安全衛生法第66条の10は、常時50人以上の事業場に年1回のストレスチェックの実施を義務づけていますが、実施しなかったこと自体を直接罰する規定はありません。罰則があるのは、実施状況の報告(様式第6号の2)を労働基準監督署に提出しなかった場合で、50万円以下の罰金です(同法第100条・第120条)。条文の全体像は労働安全衛生法66条の10の解説にまとめています。
| 義務 | 違反したとき | 根拠 |
|---|---|---|
| ストレスチェックの実施(50人以上・年1回) | 直接の罰則なし。是正指導の対象。安全配慮義務の評価に影響 | 安衛法66条の10 |
| 労基署への報告(様式第6号の2) | 50万円以下の罰金 | 安衛法100条・120条 |
| 高ストレス者の申出に対する医師の面接指導 | 直接の罰則なし。未実施で健康被害が出れば安全配慮義務違反・損害賠償のリスク | 安衛法66条の10第3項 |
| 面接指導の結果の記録・5年保存 | 直接の罰則なし。是正指導 | 安衛則52条の18 |
| 結果を理由とする不利益取扱い | 禁止(指針)。労働契約法・民法上の責任 | 安衛法66条の10第3項・指針 |
| 人事権者が実施事務に関与・同意なく結果を取得 | 禁止(指針)。従業員の信頼を失う | 安衛則52条の10・52条の12 |
50人未満の事業場は現在は努力義務で、2028年4月1日から実施が義務になります。報告義務は50人未満には課されない予定です。義務化の全体像はストレスチェック義務化はいつから?、報告書の実務は報告書の書き方と提出期限を参照してください。
罰金より怖いもの——休職の診断書が来てから初めて気づく

私が一番怖いと思っているのは休職です。ストレスチェックをやっていない会社では、休職の診断書が届いてから初めて、その人の不調に気づくことがあります。そこからは数か月の休職、代替要員、周りのカバー、復職の判断と続き、周りの人がしんどくなって二次的な不調が出ることもあります。
| ストレスチェックをやっていない会社 | ストレスチェックを使っている会社 |
|---|---|
| 不調に誰も気づかない | 年1回、本人が自分のストレスに気づく |
| ある日、休職の診断書が届く | 高ストレスなら医師の面接指導(申出から1か月以内) |
| 数か月の休職(給与・社会保険料・代替要員) | 必要なら受診勧奨・就業上の措置 |
| 周りがカバーしてしんどくなる(残業・二次不調) | 集団分析で職場の負荷を下げる |
| 復職判断で産業医を探す | 休職に至る前に手当てできる |
「やっていない会社」の実態——義務ではないのに始めた会社は何が違ったか

義務ではないのに始めた会社を、私はいくつも見てきました。当時多かったのは分散型の事業所です。1つの事業所は50人未満で義務ではないけれど、全体では200〜300人いる。そういう会社が、会社の考えで全社一斉に始めていました。背景には、メンタル不調者が増えてきているという実感がありました。
近年は2028年の義務化を見据えて始めた会社が増えています。そういう会社は熱心で、これまでの制度の経緯を踏まえたうえで「どういう結果になるか」「どんなやり方がいいか」を探しています。初回から集団分析まで使う設計にする会社もあります。
| タイプ | 特徴 | 始めた理由・状況 |
|---|---|---|
| 分散型の事業所(全体で200〜300人) | 1事業所は50人未満で義務ではない | 会社の考えで全社一斉に。メンタル不調者の増加が背景 |
| 義務化を見据えて始めた会社 | 近年増えている。熱心 | 経緯を踏まえて良いやり方を探す。集団分析まで使う |
| 後回しにしている会社 | 「罰則がないなら後回し」 | それ自体は選択。ただし、まだ見つかっていない不調者がいる可能性と、直前の混雑 |
「罰則がないなら後回しでいい」への答え——メリットの見つけ方から入る
「罰則がないなら後回しでいい」と言われたら、私は「それはそれでいいです」と答えます。そのうえで、「その中でどうやってメリットを見つけていくか」を一緒に考えます。職場改善に使えること、メンタル不調者が今すごく問題になっていて、まだ見つかっていない方がいるかもしれないこと。ここに注意が必要です。
そして、義務化は決まっています。2028年を待ってから始めるより、今のうちから準備を始めた方がいい。義務化の直前は、ストレスチェック事業者の受け入れも混みます。制度の目的と全体像はストレスチェック制度とは?目的・義務・流れ、うつ病の検査という誤解や集団分析の使い方は集団分析の見方・活用法で解説しています。
損失の比べ方——実施費用と、休職1件で会社が失うもの

30人の会社で比べてみます。金額は目安で、見てほしいのは構造です。
| ストレスチェックの実施費用(年) | 休職1件で失うもの(数か月) |
|---|---|
| 委託 1人500〜700円×30人 = 約2万円 | 休職者の給与・社会保険料(会社負担分) |
| 面接指導 1件3万円×0〜2件 = 0〜6万円 | 代替要員・派遣の費用 |
| 合計 年2〜8万円程度 | 周りの残業と疲弊(二次的な不調のリスク) |
| 復職判断・産業医の手配 | |
| 採用し直す場合の採用費 | |
| 合計は実施費用の数十倍になることが多い |
今から始める4ステップ——「メリットの見つけ方」から入る

- 目的を決める。「うつ病の検査ではなく一次予防」「職場改善と、まだ見つかっていない不調者への気づき」を経営者・人事で共有する。
- 3つを決める。実施者(委託先の保健師・医師)、紙かWebか、面接指導の頼み先(地域産業保健センター・外部の医師)。50人未満の具体的な進め方は50人未満・中小企業のストレスチェックのやり方へ。
- 規程と案内を作る。厚労省の規程例をそのまま使い、案内文に「評価に使わない」「任意」「守秘」を明記する(実施規程の作り方)。
- 実施し、1か月以内に面接指導。受検期間は2週間。高ストレス者の申出から1か月以内に医師の面接指導を行い、集団分析で改善策を1つ決める(面接指導の完全ガイド)。
始める前に決めておく「面接指導の医師」——ここで止まる会社が多い
始めてから止まるのは、高ストレス者が出て「面接指導を誰に頼むか」のところです。面接指導は「医師」であれば行えるので、産業医がいなくても外部の医師にスポットで頼めば足ります。産業医がいない会社の選択肢は産業医がいない会社はどうする?で解説しています。
まとめ:罰金は50万円、損失はその数十倍
- 実施しないこと自体に直接の罰則はない。罰金は報告義務違反の50万円以下だけ。
- 本当に怖いのは休職。診断書が来てから気づく前に、面接指導や受診につなげれば損失はだいぶ減らせる。
- 義務ではないのに始めた会社は、分散型の事業所や、義務化を見据えて熱心に準備する会社。
- 「罰則がないなら後回し」はそれでいい。ただ、まだ見つかっていない不調者がいる可能性と、直前の混雑を考えると今から準備した方がいい。
- 30人の会社で実施費用は年2〜8万円。休職1件の損失はその数十倍になることが多い。
- 始める4ステップは、目的→3つを決める→規程と案内→実施と1か月以内の面接指導。
あわせて読みたい:ストレスチェックの面接指導と運用
ストレスチェックの面接指導や実施・運用について、あわせてご覧ください。
- ストレスチェック面接指導の完全ガイド|義務・流れ・就業措置
- ストレスチェック制度とは?目的・法的根拠・流れ・会社の義務を現役産業医が解説
- ストレスチェック義務化はいつから?50人未満は2028年4月1日から|準備ガイド
- ストレスチェック報告書の書き方と提出期限|様式第6号の2・電子申請を解説
- 高ストレス者を放置するとどうなる?会社のリスクと今すぐやるべき対応
- 50人未満・中小企業のストレスチェックのやり方|自社実施か委託か・面接指導の頼み先
- ストレスチェックの費用はいくら?相場・内訳・50人未満の総額を産業医が解説
- 労働安全衛生法66条の10とは?ストレスチェックの条文を産業医がやさしく解説
よくある質問
Q1. ストレスチェックを実施しないと罰金はありますか?
実施しないこと自体に直接の罰金はありません。罰金があるのは、常時50人以上の事業場が労働基準監督署への報告(様式第6号の2)を怠った場合の50万円以下です。ただし未実施は是正指導の対象になり、従業員に健康被害が出た場合は安全配慮義務違反として損害賠償のリスクがあります。
Q2. 50人未満なら今はやらなくてもいいですか?
現在は努力義務なので法律上は問題ありません。ただ2028年4月1日から義務になることは決まっています。直前は事業者の受け入れが混むので、2027年から準備を始めることをすすめます。まだ見つかっていない不調者がいる可能性を考えると、早く始めるメリットは大きいです。
Q3. やらないことで一番大きなリスクは何ですか?
休職です。ストレスチェックをやっていない会社では、休職の診断書が届いてから初めて不調に気づくことがあります。数か月の休職、代替要員、周りの残業と疲弊を含めると、損失は実施費用の数十倍になることが多いです。
Q4. 実施しても面接指導の医師がいない場合はどうなりますか?
高ストレス者から申出があれば、会社は1か月以内に医師の面接指導を行う義務があります。医師であればよく、自社の産業医でなくても構いません。地域産業保健センター、スポットの外部医師、マッチングサービスが選択肢です。始める前に頼み先を決めておいてください。
Q5. 過去にやっていなかった年があります。今からどうすればいいですか?
今年から実施し、50人以上なら報告を提出してください。過去の未実施をさかのぼって罰せられることは通常ありませんが、労基署の指導があった場合は是正して報告します。大切なのは、これから毎年続けられる体制(実施者・面接指導の医師・規程)を今作ることです。

