「ストレスチェックを衛生委員会にかけろと言われたけど、何を審議すればいいの?」「議事録には何を書けばいい?」「うちは50人未満で委員会がないけど、どうする?」——初めて事務局を担当する人事・総務の方から、毎年この時期に届く質問です。
先に結論です。ストレスチェックは、実施の前に衛生委員会(または安全衛生委員会)で実施方法を調査審議し、その結果を社内規程として定めて労働者に周知するのが制度の要件です。審議することは厚生労働省の指針で11項目に整理されていますが、実務で本当に大事なのは「実施者を誰にするか」「結果を誰が見るか」「面接指導の医師を誰にするか」の3つを先に決めておく段取りです。これさえ決まっていれば、審議は厚労省のテンプレートに沿って15分で終わります。 審議と規程の周知の後に配る案内文の文例は、ストレスチェックの案内文・受検勧奨メール・面接指導勧奨の文例集で用意しています。 制度の全体像(目的・会社の義務・年1回の流れ・役割分担)は、ストレスチェック制度とは?目的・義務・流れにまとめています。
この記事では、現役産業医として顧問先の衛生委員会に毎月出席している立場から、なぜ審議が必要か、11項目の中身、揉めないための段取り、当日の進め方、議事録の残し方、毎年の報告の仕方、50人未満で委員会がない場合の扱いを、事務局の目線で解説します。
なぜ衛生委員会で審議するのか——法律の建て付けと「審議なしで始めた会社」の実態

労働安全衛生法第18条は、衛生委員会で「労働者の健康の保持増進を図るための対策」などを調査審議させることを事業者に義務づけており、労働安全衛生法施行令第22条と厚生労働省のストレスチェック指針により、ストレスチェック制度の実施方法・実施状況・改善は衛生委員会等の審議事項と位置づけられています。そして指針は、審議の結果を踏まえて社内規程を定め、あらかじめ労働者に周知することを求めています。
| 手順 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| ①基本方針の表明 | 事業者がストレスチェック制度に取り組む方針を示す | 指針 |
| ②衛生委員会等で調査審議 | 実施方法・実施状況・改善について審議する | 安衛法第18条第1項第4号、安衛令第22条、指針 |
| ③実施規程として明文化 | 審議結果を踏まえ、社内規程を定める | 指針 |
| ④労働者への周知 | 実施前に規程を周知する | 指針 |
| ⑤実施・報告・見直し | 実施後、結果を委員会に報告し翌年の改善を審議 | 指針(実施状況と改善の審議) |
審議をせずにストレスチェックを始めてしまった会社は、実際にあります。審議をしなかったこと自体に罰則はありません。ただ、私はこう伝えて是正してもらっています。「規程上、委員会を通す建て付けになっている。それ以上に、従業員の代表が入る場で話をした事実が大事です。従業員に『なぜやるのか』と聞かれたとき、誰も答えられなくなります」。審議は形式ではなく、会社と従業員の最初の合意形成です。
審議事項は何か——指針が求める11項目

厚生労働省の指針は、衛生委員会等で調査審議すべき事項として次の11項目を挙げています。すべてを一から議論する必要はなく、厚労省の「実施規程(例)」に沿って埋めていけば、審議する項目は自動的にそろいます。
| # | 審議事項 | 決める中身(実務) |
|---|---|---|
| 1 | 制度の目的の周知方法 | 一次予防が目的であること、評価に使わないことを、案内文・説明会でどう伝えるか |
| 2 | 実施体制(実施者・実施事務従事者) | 実施者を産業医にするか委託先の医師・保健師にするか。人事権を持つ人は実施者・実施事務従事者になれない |
| 3 | 実施方法(調査票・高ストレス者の選定方法・面接指導の申出方法と実施方法) | 57項目か80項目か、判定基準、申出の窓口と期限、面接指導を行う医師 |
| 4 | 集団分析の方法 | 部署単位か職種単位か、10人未満の扱い |
| 5 | 結果の記録の保存方法 | 誰が・どこに・5年間 |
| 6 | 結果の利用目的・利用方法 | 面接指導と職場環境改善に限る。人事評価に使わない |
| 7 | 記録の保存担当者 | 実施者または実施事務従事者(人事権のない人) |
| 8 | 情報の開示・訂正・追加・削除の方法 | 本人からの請求への対応窓口 |
| 9 | 情報の取扱いに関する苦情の処理方法 | 苦情窓口と処理の流れ |
| 10 | 受検しないことを選択できること | 受検は義務ではないことの整理と勧奨の方法 |
| 11 | 不利益取扱いの防止 | 受検しないこと・面接指導の申出・結果を理由とする不利益取扱いの禁止 |
同意やプライバシーに関する項目(5〜9)の実務はストレスチェックの同意・プライバシー保護、集団分析(4)の使い方は集団分析の見方・活用法、対象者の範囲はストレスチェックの対象者は誰?で解説しています。
段取りがすべて——審議の前に決めておく3つ

「委員会でどこが揉めますか」とよく聞かれますが、私の答えは「どこで止まるかではなく、段取りがすべて」です。決めずに委員会に持ち込めば揉め、先に決めて「こうやります」と示せば揉めません。事前に決めておくのは次の3つです。
- 実施者を誰にするか。産業医か、委託先の医師・保健師か。人事権のある人は実施者にも実施事務従事者にもなれない(労働安全衛生規則第52条の10)ので、人事部長を「担当」に置く案は最初から外す。実施者の要件は実施者とは?保健師も担当できる理由。
- 結果を誰が見るか。個人の結果は実施者と本人だけ。会社が受け取るのは同意のあった人の結果と集団分析だけ、という線を先に引いておく。
- 面接指導の医師を誰にするか。顧問産業医が行うのか、産業医がいない・枠が足りないなら外部の医師にスポットで頼むのか。ここが決まっていないと、高ストレス者が出たときに1か月以内に動けない(面接指導の医師がいない会社はどうする?)。
審議の進め方——厚労省のテンプレートに沿えば15分で終わる

審議は長ければよいものではありません。厚生労働省が公開している「ストレスチェック制度実施規程(例)」に沿って項目を確認し、質問が出たら産業医が答える、という流れで15分程度で終わります。短くても構いません。大事なのは、従業員の代表が入る場で説明し、質問に答え、決めたことを記録することです。
| 段階 | やること | 担当 |
|---|---|---|
| 委員会の1〜2週間前 | 規程の叩き台(厚労省の規程例を自社用に埋めたもの)、委託先の提案書、実施スケジュール案を委員に配布 | 事務局 |
| 当日 0〜3分 | 目的の説明(一次予防・評価には使わない)と、実施者・結果を見る人・面接指導の医師の3点を提示 | 事務局 |
| 当日 3〜10分 | 規程例に沿って11項目を確認。委員からの質問に産業医が答える | 事務局・産業医 |
| 当日 10〜15分 | 決定事項の確認、周知方法(案内文・説明会)と実施時期の確認 | 事務局 |
| 委員会後 | 議事録の作成、規程の確定、労働者への周知 | 事務局 |
産業医は衛生委員会の構成員なので、出席が基本です。事情により欠席することもありますが、ストレスチェックを審議する回は出席してもらってください。委員の多くは集団分析の読み方や制度の細部を知りません。「ここが大事です」と一言添えるのが産業医の役割で、それだけで審議の質が変わります。実施時期の決め方はストレスチェックの実施時期はいつがいい?を参照してください。
議事録に何を残すか——「審議した・出た意見・決めたこと」の3点

議事録は詳細な逐語録である必要はありません。残すべきは「ストレスチェック制度について審議した事実」「出た意見」「決めたこと」の3点です。衛生委員会の議事の概要は労働者に周知し、議事録は3年間保存します(労働安全衛生規則第23条)。監督指導や労災の調査で「ストレスチェックの実施体制をどう決めたか」を聞かれたとき、この議事録が会社の説明の根拠になります。
| 項目 | 記載例 |
|---|---|
| 議題 | 2026年度ストレスチェックの実施方法について(調査審議) |
| 審議事項 | 実施規程(案)に基づき、目的の周知方法、実施体制、実施方法、集団分析、記録の保存、情報の取扱い、不利益取扱いの防止について審議した |
| 出た意見 | 「小規模部署の集団分析で個人が特定されないか」→部で合算して分析することとした/「面接指導は誰が行うか」→産業医が行い、枠が不足する場合は外部医師に依頼する |
| 決定事項 | 実施者: ○○(委託先・保健師)、実施事務従事者: 総務課○○、面接指導: 産業医○○、実施時期: 10月、集団分析: 部単位、規程を別紙のとおり定める |
| 周知 | 規程を社内ポータルに掲示し、9月の全体朝礼で説明する |
| 次回 | 実施結果(受検率・高ストレス者の割合・面接指導件数・集団分析)を12月の委員会で報告する |
毎年の委員会では何を報告するか——共有する範囲をあらかじめ決める

初回の審議で終わりではありません。指針は「実施状況とそれを踏まえた改善」も審議事項としているので、実施後の委員会で結果を報告し、翌年の改善を審議するのが年間の流れです。報告するのは、受検率、高ストレス者の割合、面接指導の件数、集団分析の結果です。
| 報告する数字 | 委員会で出す範囲 | 次年度の審議につなげる問い |
|---|---|---|
| 受検率 | 全社と部署別 | 低い部署はなぜか。案内や期間の見直し |
| 高ストレス者の割合 | 全社(部署別は10人以上の単位で) | 全国平均(10%前後)と比べてどうか |
| 面接指導の件数 | 全社の件数のみ(誰かは出さない) | 0件が続くなら申出の環境を見直す |
| 集団分析 | 判定図の全体傾向。部署名はぼかすか、危険水準のみ出す | 優先部署を1つ決めて改善策を審議 |
50人未満で衛生委員会がない場合——関係労働者の意見を聴く機会を設ける

衛生委員会の設置義務は常時50人以上の事業場にあります。50人未満で委員会がない会社は、労働安全衛生規則第23条の2により、安全衛生に関する事項について関係労働者の意見を聴くための機会を設けることになっており、ストレスチェックの実施方法もこの機会で扱います。2028年4月に50人未満へ実施が義務化されると、この「意見を聴く機会」が実質的な審議の場になります。
- 形式: 全体朝礼や定例会議の一部で説明し、意見を募る。従業員の代表者数名へのヒアリングでもよい。
- 内容: 衛生委員会と同じく、目的、実施者、結果を誰が見るか、面接指導の医師、不利益取扱いの禁止を説明する。
- 記録: 「○月○日、全体会議で実施方法を説明し、意見を聴いた」と日付・参加者・出た意見を残す。
- 規程: 50人未満でも実施規程を定めて周知する。厚労省の規程例をそのまま使ってよい。
2028年の義務化に向けた50人未満の準備全体はストレスチェック義務化はいつから?50人未満は2028年4月1日からにまとめています。
決まらない「面接指導の医師」をどう決めるか——審議の前に受け皿を用意する
先に決めておく3つのうち、産業医がいない会社で最後まで空欄になりやすいのが「面接指導の医師」です。空欄のまま審議すると、規程に「医師による面接指導を行う」とだけ書いて実体がない状態になります。面接指導は医師であれば行えるので、審議の前に外部の医師をスポットで確保しておけば、委員会で「面接指導は○○に依頼する」と具体的に示せます。
まとめ:審議は形式ではなく、従業員に知ってもらう場
- ストレスチェックは実施前に衛生委員会で調査審議→規程として明文化→周知が制度の要件(安衛法第18条、安衛令第22条、指針)。
- 審議事項は指針の11項目。厚労省の規程例に沿えば自動的にそろう。
- 揉めないコツは段取り。実施者・結果を見る人・面接指導の医師の3つを先に決めて持ち込む。
- 審議は15分で十分。産業医は出席し、「ここが大事」を一言添える。
- 議事録は「審議した・出た意見・決めたこと」の3点。3年保存。
- 毎年の委員会で結果を報告し、共有範囲は産業医・委託先とあらかじめ決める。
- 50人未満で委員会がない会社は、関係労働者の意見を聴く機会で同じ内容を扱う。
事務局の方に一言。特に初回は、従業員のほとんどがストレスチェックを知りません。審議は、会社が決めたことを通す儀式ではなく、従業員の代表に知ってもらい、質問に答え、みんなに周知するための場です。意味のある場にすることを、いつも意識してください。
あわせて読みたい:ストレスチェックの面接指導と運用
ストレスチェックの面接指導や実施・運用について、あわせてご覧ください。
- ストレスチェック面接指導の完全ガイド|義務・流れ・就業措置
- ストレスチェック実施規程の作り方|必須項目と決め方を産業医が解説
- ストレスチェックの同意・プライバシー保護|小規模事業場の実務ポイント
- ストレスチェックの集団分析とは?見方・活用法・職場環境改善につなげる手順
- ストレスチェック義務化はいつから?50人未満は2028年4月1日から|準備ガイド
- ストレスチェックの受検率を上げるには?社内定着の実務ポイント
- ストレスチェックの57項目と80項目の違いは?どちらを選ぶか・23項目版・判定への影響
- ストレスチェック制度とは?目的・法的根拠・流れ・会社の義務を現役産業医が解説
- ストレスチェックの案内文・受検勧奨メール・面接指導勧奨の文例集
- ストレスチェック実施マニュアルの読み方|最新版と50人未満向けの要点
よくある質問
Q1. ストレスチェックの衛生委員会での審議は義務ですか?
衛生委員会の調査審議事項に「労働者の健康の保持増進を図るための対策」が含まれ(安衛法第18条)、厚生労働省の指針でストレスチェック制度の実施方法等を衛生委員会等で調査審議し、規程として定めて周知することが求められています。審議を欠いたこと自体に罰則はありませんが、制度の要件であり、従業員に「なぜやるのか」を説明する根拠になります。
Q2. 議事録には何を書けばいいですか?
「ストレスチェック制度について審議した事実」「出た意見」「決めたこと(実施者・実施事務従事者・面接指導の医師・実施時期・集団分析の単位・規程)」の3点があれば十分です。逐語録は不要です。衛生委員会の議事録は3年間保存し、議事の概要は労働者に周知します。
Q3. 毎年、衛生委員会で審議する必要がありますか?
指針は実施方法だけでなく「実施状況とそれを踏まえた改善」も審議事項としています。実施後の委員会で受検率・高ストレス者の割合・面接指導の件数・集団分析を報告し、翌年の改善を審議するのが年間の流れです。規程を変えない年でも、結果の報告と改善の審議は行ってください。
Q4. 50人未満で衛生委員会がない会社はどうすればいいですか?
労働安全衛生規則第23条の2により、安全衛生に関する事項について関係労働者の意見を聴く機会を設けることになっています。全体朝礼や定例会議、従業員代表へのヒアリングでストレスチェックの実施方法を説明し、意見を聴き、日付と内容を記録してください。規程は50人未満でも定めて周知します。
Q5. 産業医は衛生委員会に出席しなければなりませんか?
産業医は衛生委員会の構成員で、出席が基本です。事情により欠席することはあり得ますが、ストレスチェックを審議する回は出席してもらい、集団分析の読み方や制度の要点を一言添えてもらうと審議の質が上がります。事前に規程の叩き台を産業医と一緒に作っておけば、当日は確認だけで済みます。

