「高ストレス者には全員、産業医面談を受けてほしい。会社から指示していいですか?」「受けてくれない社員がいる。業務命令にできませんか?」——ストレスチェックの結果が出た後、人事の方から結構ある相談です。
先に結論です。ストレスチェックの高ストレス者への面接指導は、会社が命令できません。そもそも会社は「誰が高ストレスか」を知りません(知るのは割合だけです)。面接指導は本人の申出で始まる制度で、受けるかどうかは本人が決めます。会社にできるのは、実施者からの勧奨メール、「秘密は守られる」ことの周知、受けるメリットを伝えること、そして受けやすい雰囲気と土壌を作ることです。拒否したからといって就業制限や自宅待機にするのは、ルール違反です。 制度の全体像(目的・会社の義務・年1回の流れ・役割分担)は、ストレスチェック制度とは?目的・義務・流れにまとめています。
この記事では、産業医として実際にこの相談を受けている立場から、命令できない理由、会社が指示できる面談とできない面談の整理、「みんなに受けてほしい」と相談されたときの答え、命令の代わりにやる3つ、拒否時にやってはいけないこと、受けやすい仕組みの作り方を解説します。
高ストレス者の面接指導は会社が命令できない——そもそも「誰が高ストレスか」会社は知らない

強制はできません。理由は法律以前に構造にあります。ストレスチェックの個人結果は実施者(医師・保健師)から本人に直接届き、本人の同意がなければ会社に渡りません。会社が知るのは高ストレス者の割合(人数)だけで、誰がそうなのかは知らないのです。知らない相手に命令はできません。
面接指導は本人の申出で始まる制度です(労働安全衛生法第66条の10第3項)。ただ、実施者から本人に「受けた方がいいですよ」というレコメンドのメールが届くことはあります。これは会社の命令ではなく、結果を知っている実施者からの勧奨です。
| 会社ができないこと | 会社ができること |
|---|---|
| 誰が高ストレス者かを知る(同意なし) | 実施者からの勧奨メールを仕組みにする |
| 面接指導を業務命令する | 「秘密は守られる」「評価に使わない」を周知する |
| 受けないことを理由に不利益な扱いをする | 受けるメリットを伝える(医師と時間をとって自分のストレスを話せる貴重な機会) |
| 拒否したからと就業制限・自宅待機にする | 予約しやすい仕組みを用意する |
本人の側から見た「受けないとどうなるか」はストレスチェックの面談を受けないとどうなる?強制・断り方、同意とプライバシーの仕組みは同意・プライバシー保護で解説しています。
会社が指示できる面談・できない面談——4種類の産業医面談の整理

「産業医面談」と一口に言っても、根拠と強制力が違います。混同して命令してしまう会社があるので、整理しておきます。呼ばれた本人から見た全体像は産業医面談とは?呼ばれる理由・何を話す・クビになるかにまとめています。
| 面談の種類 | 会社は指示できるか | 根拠 | 実務の進め方 |
|---|---|---|---|
| 高ストレス者の面接指導(ストレスチェック) | できない(本人の申出が前提。誰が高ストレスかも知らない) | 安衛法66条の10 | 実施者からの勧奨、受けやすい雰囲気づくり |
| 長時間労働者の面接指導(月80時間超) | 本人の申出が前提。会社は残業時間を把握しているので勧奨できる | 安衛法66条の8 | 申出を促す案内、上司からの声かけ(長時間労働の面接指導) |
| 健診の有所見に基づく面談・就業判定 | 指示できる(安全配慮義務・就業規則) | 安衛法66条の4・66条の5 | 受診・面談を業務として指示(健診の事後措置と就業判定) |
| 休職・復職の面談 | 指示できる(就業規則に定めがあれば) | 就業規則・労働契約 | 復職判定のための面談(復職判定の3つの罠) |
| 上司が心配して勧める面談(任意) | 勧めることはできるが強制はできない | — | 本人の同意を得て人事経由で産業医へ(上司の関わり方) |
「高ストレス者みんなに受けてほしい」——会社から相談されたとき、産業医はこう答えている

この相談は結構あります。「高ストレス者には、みんな面談を受けてほしいんです」と言われたら、私はこう答えます。「お気持ちは分かります。ただ、面接指導は本人の希望で受けるものなので、会社としては指示できません」。
続けて「どうやったら受けてくれるんでしょう?」と聞かれます。答えは、「受けるかどうかは本人が決めることなので、強制はできません。会社としてできるのは、受けやすい雰囲気と土壌を作っていくことです」。この話を実際にしています。
| なぜそう答えるか |
|---|
| 会社は誰が高ストレスかを知らない(割合だけ) |
| 命令した瞬間に「評価に使われる」と疑われ、翌年から正直に答えなくなる |
| 面接指導はうつ病の検査ではなく、一次予防の情報 |
| 受けた人が「話せてよかった」と感じれば、翌年の申出が増える |
申出がないときの勧奨の実務(回数ルール、相談しやすい会社の作り方)は高ストレス者が面接指導を申し出ないときの対応で詳しく解説しています。
命令の代わりにやる3つ——メール・秘密が守られる周知・メリットの伝え方

「受けやすい雰囲気と土壌」は、次の3つで作ります。
- 実施者からの勧奨メール。「受けた方がいいですよ」は、会社や上司からではなく、結果を知っている実施者(医師・保健師)から本人へ。文面に申出の方法と期限、予約の窓口を入れる。
- 秘密が守られることの周知。面談の内容は本人の同意なく会社に渡らない、上司に伝わるのは就業上の措置の内容だけ、評価には使わない。案内文・説明会・上司からも繰り返す。
- 受けるメリットを伝える。実際に医師と面談して、時間をとって自分のストレスについて話せる。それ自体が貴重な機会だということを、本人に伝えてあげる。
拒否したからと就業制限・自宅待機にしない——高ストレスは「うつ病の検査」ではない

「拒否が続いたら就業制限や自宅待機にしてよいか」と聞かれることがありますが、そんなことはあり得ません。やってはいけません。そもそも命令できないので「拒否」も成立せず、就業制限にしたら会社側がルール違反になります。
| やってはいけないこと | 代わりにやること |
|---|---|
| 面接指導を受けないことを理由に就業制限・自宅待機 | 申出がなくても、勧奨は年に数回まで(回数ルールを決める) |
| 高ストレスの結果を理由に配置転換・降格・評価減 | 上司には「様子が心配なら人事・産業医に相談してよい」と伝える |
| 「受けないなら診断書を出せ」と迫る | 本人が体調不良を訴えたら、ストレスチェックと切り離して受診勧奨・産業医面談(健康管理として) |
| 命令に従わないとして懲戒 | 就業上の措置は、医師の面接指導の意見書に基づいてのみ行う |
受けやすい仕組みを作る——予約しやすい外部の医師という選択肢
「受けてほしい」を命令で解決しようとせず、受けやすい仕組みで解決する。その一つが、本人が自分で日時を選べる予約の仕組みです。顧問産業医の訪問日に合わせて人事が日程調整をするより、本人がオンラインで空き枠を選ぶほうがハードルは下がり、人事も疲れません。産業医がいない会社の面接指導の手配は面接指導の医師がいない場合の外部委託・スポット依頼で解説しています。
まとめ:命令ではなく、受けやすい雰囲気と土壌を作る
- 高ストレス者の面接指導は会社が命令できない。そもそも会社は誰が高ストレスかを知らない。
- 指示できるのは健診の有所見の面談・復職面談。ストレスチェックの面接指導だけは本人の申出が前提。
- 「みんなに受けてほしい」には「会社としては指示できません。雰囲気と土壌を作りましょう」と答えている。
- 命令の代わりに、実施者からの勧奨メール、秘密が守られることの周知、受けるメリットの伝え方。
- 拒否したからと就業制限・自宅待機は絶対にしない。高ストレスはうつ病の検査ではなく一次予防の情報。
- 予約しやすい仕組みで面談のハードルを下げる。日程調整で人事が疲れない。
あわせて読みたい:ストレスチェックの面接指導と運用
ストレスチェックの面接指導や実施・運用について、あわせてご覧ください。
- ストレスチェック面接指導の完全ガイド|義務・流れ・就業措置
- ストレスチェック制度とは?目的・法的根拠・流れ・会社の義務を現役産業医が解説
- 高ストレス者が面接指導を申し出ないときの対応と勧奨の実務
- ストレスチェックの面談を受けないとどうなる?強制・断り方を産業医が解説
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- 高ストレス者に上司はどう関わる?結果は見られない前提で管理職が知れること・やること・NG
- ストレスチェック面接指導の医師がいない|外部委託・スポット依頼を解説
- 長時間労働の産業医面談 案内文テンプレ|そのまま使える文例5つと書き方
- 産業医面談とは?呼ばれる理由・何を話す・クビになるかを現役産業医が解説
よくある質問
Q1. 高ストレス者に産業医面談を業務命令できますか?
できません。ストレスチェックの面接指導は本人の申出で始まる制度で、会社は本人の同意なく誰が高ストレスかを知ることもできません。実施者(医師・保健師)から本人に勧奨することはできます。
Q2. 面談を受けない社員を就業制限や自宅待機にできますか?
できません。そもそも命令できないので拒否も成立せず、受けないことを理由に不利益な扱いをすることは禁止されています。就業上の措置は、医師の面接指導の意見書に基づいてのみ行います。体調不良の訴えがある場合は、ストレスチェックと切り離して健康管理として受診勧奨や産業医面談を案内してください。
Q3. 健診の結果が悪い社員への産業医面談は指示できますか?
できます。健診の有所見に基づく面談や就業判定は安全配慮義務と就業規則に基づいて会社が指示できます。復職面談も就業規則に定めがあれば指示できます。ストレスチェックの面接指導だけが本人の申出が前提で、性質が違います。
Q4. 高ストレス者が面談を受けてくれません。どうすればいいですか?
命令ではなく土壌を作ります。実施者からの勧奨メール、「秘密は守られる」「評価に使わない」の周知、「医師と時間をとって自分のストレスを話せる貴重な機会」というメリットの伝え方、そして予約しやすい仕組みです。受けた人が「話せてよかった」と感じれば、翌年の申出は増えます。
Q5. 上司から「面談を受けろ」と言ってもいいですか?
上司から迫るのは圧力に感じられやすく逆効果です。上司ができるのは「医師と話せる制度がある。受けても不利にならない」と背中を押すことと、様子が心配なら本人の同意を得て人事経由で産業医に相談することです。正式な勧奨は実施者や人事から行ってください。

