「うちの産業医にストレスチェックをお願いできますか?」「産業医がいれば全部やってくれるんですよね?」——産業医と契約している会社の人事から、ストレスチェックの時期に必ず出る質問です。
先に結論です。産業医がストレスチェックで担うのは「実施者としての判定」「高ストレス者の面接指導」「集団分析の読み解き」の3つです。調査票の配布・回収やデータ入力といった事務は担いません。そして、実施者になってもらうのか、面接指導だけ頼むのかで、関わり方も費用も責任も変わります。「産業医が全部やってくれる」わけではないので、どこまで頼むかを契約前に話し合って決めることが大切です。 制度の全体像(目的・会社の義務・年1回の流れ・役割分担)は、ストレスチェック制度とは?目的・義務・流れにまとめています。
この記事では、顧問先で実施者・面接指導医・集団分析のサポートを実際に担っている現役産業医として、産業医がやること・やらないこと、実施者と面接指導だけの違い、どこに頼むかで何が変わるか、契約前に人事が確認する5点、産業医がいない・引き受けない場合の選択肢を解説します。
産業医がストレスチェックで担う3つの役割——実施者・面接指導・集団分析

私は顧問先で、実施者としてストレスチェックを実施し、高ストレス者の面接指導を行い、集団分析の読み解きをサポートして人事や管理職に教える、この3つを担っています。法律上、実施者は医師・保健師などに限られ、面接指導は医師にしか行えません。産業医はどちらもできる立場です。
| 役割 | やること | 法的な位置づけ |
|---|---|---|
| ①実施者 | 調査票の選定に関与、高ストレス者の判定、面接指導の要否の判断と勧奨 | 医師・保健師・研修を受けた看護師など(安衛則52条の10) |
| ②面接指導の医師 | 高ストレス者の面接指導(申出から1か月以内)、意見書で就業上の措置を提案 | 医師のみ(安衛法66条の10)。産業医でなくてもよい |
| ③集団分析の読み解き | 判定図の見方を人事・管理職に教える、衛生委員会で一言添える、改善策を1つ決める手伝い | 努力義務の範囲。産業医の専門性が最も生きる部分 |
逆に、実施事務従事者の仕事はやりません。職場の中で調査票を配ったり集めたり、記録をまとめたりする事務作業です。そこまで医師がやると、会社にとってコストがとても高くなります。外部のストレスチェック事業者に出せば割と早く回りますし、社内の事務担当が時間を使って内製化し、資料集めなどをしてもらうのでも構いません。産業医事務所のサブサービスとして事務まで受けている例はありますが、必ずしも全部が全部ではないと認識しておいてください。実施者の要件はストレスチェックの実施者とは?保健師も担当できる理由で解説しています。
「実施者になる」場合と「面接指導だけ」の場合——関わり方・費用・責任の違い

同じ産業医でも、頼む範囲で契約の中身が変わります。実施者になること自体は、日本医師会などが費用の目安を示していることもありますし、使うソフトウェアをどこのものにするかでも変わります。
| 実施者+面接指導まで頼む | 面接指導だけ頼む(実施は委託先) | |
|---|---|---|
| 関わり方 | 調査票の選定、判定、結果通知、勧奨、面接指導、集団分析の助言 | 委託先(ストレスチェック事業者・健診機関)が実施者。産業医は面接指導と意見書のみ |
| 費用 | 顧問料に含む場合と別料金の場合がある。ソフトの利用料が別途かかることも | 面談1件ごと(3万円前後)、または顧問料内 |
| 責任 | 実施者として判定と結果の管理に責任を持つ | 面接指導と意見書に責任 |
| 向く会社 | 産業医と密に連携したい、集団分析まで使いたい | 事務を委託先で回したい、産業医の負担を抑えたい |
どこに頼むかで変わる——産業医事務所・紹介会社・ストレスチェック事業者・健診機関

「産業医に頼む」と言っても、窓口が産業医事務所なのか、産業医紹介会社なのか、ストレスチェック事業者なのか、健診機関なのかで、実施者・ソフト・費用の組み立てが違います。
| 窓口 | 実施者は誰 | 面接指導 | 費用の組み立て | 向く会社 |
|---|---|---|---|---|
| 産業医事務所(顧問産業医) | 産業医(または事務所の保健師) | 同じ産業医 | 顧問料+実施料(ソフト利用料込みの場合も) | 産業医と一体で運用したい |
| 産業医紹介会社 | 紹介された産業医または提携事業者 | 紹介された産業医 | 紹介手数料+産業医報酬+実施料 | 産業医をこれから探す |
| ストレスチェック事業者 | 事業者の医師・保健師 | 別途(自社の産業医か外部医師)が多い | 1人500〜700円が目安。面接指導は別料金が多い | 実施と集団分析を丸ごと任せたい |
| 健診機関 | 健診機関の医師・保健師 | 別途の場合が多い | 健診とセットで割安になることも | 健診と同時期にまとめたい |
ポイントは、「実施」と「面接指導」を誰がやるかを窓口ごとに確認することです。面接指導が別料金・別手配になっている窓口は多く、ここを見落とすと高ストレス者が出てから慌てます。委託先の比較は外部委託先の選び方、費用の全体像はストレスチェックの費用はいくら?で解説しています。
産業医に頼むとき、人事が最初に確認する5つのこと

私自身、産業医として「ストレスチェックできますか」と聞かれたとき、いつも考えるのは「どのくらいの関与度を求められているのか」です。ただ聞けばいい、説明すればいい、ではなく、お互いにちゃんと話をしないと分からないところがあります。契約前に次の5点を確認してください。
- 実施者になってもらうか、面接指導だけか。関与度で契約の中身が変わる。
- 使うソフトと、誰が設定するか。委託先のシステムか、産業医側のツールか。設定まで産業医がやるなら費用も変わる。
- 面接指導の件数の上限と、超えたときの料金。顧問料内なら何件までか。
- 集団分析の読み解き・衛生委員会での説明は含むか。ここが産業医の専門性が最も生きる部分(集団分析の見方・活用法)。
- 意見書の納期と受け渡し方法。翌営業日が目安。「面談と納期はセット」(報告書と記録の実務)。
産業医がいない・引き受けない場合——面接指導は外部の医師でよい
50人未満で産業医がいない会社、あるいは顧問産業医が「実施者は引き受けるが面接指導は枠がない」という会社もあります。実施者は保健師や医師を抱えるストレスチェック事業者に、面接指導は「医師」であれば行えるので外部の医師にスポットで、と分けて頼めば止まりません。産業医がいない会社の全体像は産業医がいない会社はどうする?、医師の手配は面接指導の医師がいない場合の外部委託・スポット依頼で解説しています。
まとめ:産業医が全部やるのではなく、どこまで頼むかを決めて契約する
- 産業医が担うのは、実施者としての判定、高ストレス者の面接指導、集団分析の読み解きの3つ。
- 配布・回収・データ入力などの事務(実施事務従事者の仕事)は担わない。医師がやると会社のコストが高くなる。
- 実施者になる場合と面接指導だけの場合で、関わり方・費用・責任が変わる。ソフトをどこで使うかでも変わる。
- 産業医事務所・紹介会社・ストレスチェック事業者・健診機関で、実施と面接指導の担い手が違う。面接指導が別手配の窓口は多い。
- 契約前に、関与度・ソフトと設定・面接指導の件数と料金・集団分析の説明・意見書の納期の5点を話し合う。
- 産業医がいない・引き受けない場合は、実施は事業者、面接指導は外部の医師に分けて頼めば止まらない。
あわせて読みたい:ストレスチェックの面接指導と運用
ストレスチェックの面接指導や実施・運用について、あわせてご覧ください。
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- ストレスチェックの実施者とは?保健師も担当できる理由と要件
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よくある質問
Q1. ストレスチェックの実施者は産業医でなければいけませんか?
いいえ。実施者は医師・保健師・厚生労働大臣が定める研修を修了した看護師・精神保健福祉士・歯科医師・公認心理師で、産業医に限られません。外部のストレスチェック事業者の医師や保健師が実施者になるのが一般的です。ただし人事権のある人は実施者にも実施事務従事者にもなれません。
Q2. 産業医はストレスチェックの事務(配布・回収・入力)もやってくれますか?
基本的にやりません。配布・回収・データ入力・結果の印刷や郵送は実施事務従事者の仕事で、医師が担うと会社のコストが高くなります。社内の事務担当(人事権のない人)か、外部のストレスチェック事業者に任せるのが一般的です。
Q3. 顧問産業医に面接指導を頼むと追加費用はかかりますか?
契約によります。顧問料に一定件数まで含む場合と、1件ごとに別料金(3万円前後)の場合があります。実施者を兼ねるか、使うソフトをどこにするかでも変わるので、契約前に件数の上限と超えたときの料金を確認してください。
Q4. 産業医が実施者にならず、ストレスチェック事業者に委託した場合、産業医は何をしますか?
高ストレス者の面接指導と意見書、集団分析の読み解きと衛生委員会での助言が中心になります。実施と結果通知、勧奨は事業者の実施者が行います。この分担は最も多い形で、事務を委託先で回しつつ産業医の専門性を面接指導と集団分析に集中させられます。
Q5. 産業医がいない会社は、面接指導を誰に頼めばいいですか?
面接指導は「医師」であれば行えるので、自社の産業医でなくても構いません。地域産業保健センター(50人未満・無料だが枠に限りあり)、スポットの外部医師、マッチングサービスが選択肢です。申出から1か月以内に実施する必要があるので、先に頼み先を決めておいてください。

