産業医のスポット契約って実際どうなの?現役産業医の見方とは?
「産業医ってどんな仕事をするの?」「うちの会社にも必要なのかな?」
従業員の健康管理は、企業にとって重要な課題です。特に近年は、働き方改革やコロナ禍の影響で、従業員のメンタルヘルスへの関心が高まっています。
そこで注目されているのが、産業医のスポット契約です。
50人以上の事業所であれば産業医を選任する必要があるため継続での顧問契約が必須となります。
一方で、50人未満の事業所では産業医の選任義務はないため顧問契約の必要はありません。しかしながら、「職場の健康状況や衛生管理の面では産業医に仕事を依頼したい」という想いから産業医のスポット契約を考える企業が増えています。
しかし、スポット契約は、常勤の産業医と比べてどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか?
この記事では、産業医のスポット契約の基本的な内容から、メリット・デメリット、契約を検討する際の注意点まで、詳しく解説していきます。
産業医とはどんな仕事?法令、実務、活用方法に関して徹底解説。
産業医のスポット契約の基本的な内容と特徴
「産業医のスポット契約って、一体どんなものだろう?」と疑問に思っていませんか?
この記事では、産業医スポット契約について、その内容や特徴、メリット・デメリットまで詳しく解説していきます。
これを読めば、スポット契約が、あなたの会社にとって最適な選択なのかどうかの参考になるでしょう。
産業医の役割とは?健康管理の重要性
まず、そもそも産業医って何をする人?という疑問にお答えしましょう!
産業医は、会社で働く人たちの健康を守る存在です。
産業医は従業員が心身ともに健康に働けるように、様々な業務を通してサポートしています。
具体的には、
- 健康診断の結果を見て、生活習慣を改善するためのアドバイスをする健康診断で再検査になったり、気になる数値があったりした場合、放置せずに、どのように改善すれば良いのか、具体的なアドバイスをもらえます。
- 職場でのメンタルヘルス不調の予防や、不調を抱える従業員への相談対応仕事で強いストレスを感じたり、人間関係で悩んだりすることはありませんか?産業医は、従業員が抱える仕事のストレスや悩みを聞き、適切なアドバイスやケアを行います。場合によっては、専門の医療機関への受診を勧めることもあります。
- 職場環境の改善策の提案長時間労働や、肉体的に負担の大きい作業など、職場環境が原因で健康を害してしまうことがあります。産業医は、職場環境を改善するための具体的な提案を行い、従業員がより安全で健康的に働けるようにサポートします。
- 病気や怪我で休職した従業員の職場復帰支援病気や怪我から回復し、職場復帰する際には、産業医がサポートしてくれるので安心です。従業員の健康状態や仕事内容を考慮し、無理なく復帰できるよう、会社と従業員の橋渡し役となります。
これらの業務を通して、産業医は従業員一人ひとりの健康状態を把握し、必要な措置を講じることで、企業全体の健康管理レベルの向上に貢献しています。
スポット契約が選ばれる理由と背景
では、なぜ産業医とスポット契約を結ぶ会社が増えているのでしょうか?
その背景には、働き方の変化や、企業側のニーズの多様化があります。
一般的に産業医は従業員が50人以上の事業所で契約を結ぶことが一般的でした。
しかし近年は、従業員の健康管理の重要性に対する意識の高まりから、「50人未満の企業でも産業医の支援を受けたい」と検討するケースが増えています。
一方で、中小企業にとって、産業医を顧問契約で依頼をすることの経済的な負担が大きい場合も少なくありません。
特に、
- 従業員数が少ない企業
- 創業間もない企業
- 財務状況が厳しい企業
などは、常勤の産業医を雇用することが難しい場合もあります。
そこで、必要な時に、必要な業務を依頼できるスポット契約が注目されているのです。
スポット契約であれば、必要な時に専門家のサポートを受けることができ、費用を抑えながら、効果的に従業員の健康管理体制を構築することができます。
嘱託契約との違いと選び方
産業医との契約には、基本的には「嘱託産業医としての顧問契約」が一般的でした。そして一時的な契約として「スポット契約」が存在しています。
嘱託契約は、企業に産業医が定期的に訪問し継続的に健康管理業務を行う契約形態です。
一方、スポット契約は、企業が必要とする業務を、必要な期間だけ依頼する契約形態です。
どちらの契約形態が適しているかは、企業の規模や業種、従業員の健康状態、予算などを総合的に判断する必要があります。
例えば、従業員数が多い企業では、嘱託契約が必須です。
一方、従業員数が少なく、健康問題を抱える従業員が少ない企業では、スポット契約でも十分な場合もあります。
契約形態 | メリット | デメリット |
---|---|---|
嘱託 | 企業の状況を深く理解し、長期的な視点で健康管理体制の構築を支援できる。企業の文化や業務内容を理解しているため、よりきめ細やかな対応が可能。 | 50人を超えたら必須。 費用が高額になりがち。 |
スポット契約 | 必要な時に、必要な業務を依頼できるため、費用を抑えられる。専門性の高い分野の産業医に依頼することで、質の高いサービスを受けられる場合がある。 | 企業の状況を深く理解するまでに時間がかかる場合がある。短期間の契約となるため、企業との関係性が構築しづらい場合がある。 |
このように、常勤契約とスポット契約には、それぞれメリット・デメリットがあります。
どちらの契約形態が適しているかは、企業の状況に合わせて、慎重に検討する必要があります。
スポット契約のメリットとデメリット
産業医のスポット契約は、必要な時に必要な期間だけ契約できる場合が多いです。
例えば、風邪を引いた時にだけ内科医に診てもらうように、スポット契約の産業医は、特定の課題が生じた際に、専門的な知識と経験で企業をサポートします。
フレキシブルな対応とコスト削減の利点
スポット契約の最大のメリットは、その柔軟性にあります。
新しいプロジェクトがスタートし長時間残業が増える際など一時的に従業員の負担が増加するような場合、顧問産業医を雇用するよりも、スポット契約で必要な期間だけ産業医のサポートを受ける方が、企業にとって負担が少ないでしょう。
コストを抑えながら、産業保健サービスを提供できるという点で、スポット契約は企業にとって大きなメリットとなります。
担当産業医が毎回変わる
大きな産業紹介会社の中には単独のスポット契約の場合、時間等が調整できる産業医がその時々で対応するケースも存在します。
スポットの産業医同士が密に連携することは少ないので今まで担当産業医が行っていた担当内容が一定程度しか引き継がれない場合もあるでしょう。
産業医をスポットで担当依頼する際は「同一の産業医が継続で対応するか」は確認しておいた方がよいでしょう。
知識や経験の不足リスクについて
スポット契約の産業医は、企業や従業員との関係性が希薄になりがちで、企業の状況や従業員の健康状態を十分に把握できないまま業務を行う可能性も孕んでいます。
これは、初めて行く病院で、自分の症状や体質を医師に十分に伝えられないまま診察を受けるようなもので、適切な診断や治療を受けられないリスクがあります。
スポット契約の場合でも、産業医とのコミュニケーションを密にし、企業の状況や従業員の健康状態について、積極的に情報共有することが大切です。
リスクを軽減するための対策として
- 過去の健康診断データや職場環境測定の結果などを産業医に提供する
- 従業員が産業医に相談しやすいような体制を整える
- 産業医との定期的な面談などを設定し、企業の状況や従業員の健康状態について情報共有を図る
これらの対策を講じることで、スポット契約であっても、より効果的に産業医の専門知識や経験を活かすことができます。
短期的なニーズへの効果的な対応
スポット契約は、短期的なプロジェクトや課題に対して、集中的に産業医のサポートを受けたい場合にも有効です。
これは、骨折などの怪我をした際に、集中的なリハビリテーションを受けるために、専門の病院に通院するのと似ています。
短期的なニーズへの活用例としては
- ストレスチェックの実施と事後対応
- 職場復帰支援プログラムの作成
- ハラスメント防止対策の研修
などが挙げられます。
これらの業務は、専門的な知識と経験を持つ産業医に依頼することで、より効果的に実施することができます。
スポット契約を結ぶ際の注意点と探し方
産業医とのスポット契約は、必要な時に必要なサポートを受けられる便利な制度ですが、契約をスムーズに進めるためには、いくつか注意すべき点があります。
信頼できる産業医と契約を結ばなければ、従業員の健康を守ることができず、企業として大きな損失を被ってしまう可能性もあります。
ここでは、スポット契約を検討する際に、特に重要なポイントをご紹介します。
費用や料金体系を理解する
スポット契約の費用は、産業医によって異なり、訪問回数や業務内容によって変動します。
産業医のスポット契約の場合も、健康診断判定の実施だけであれば費用は抑えられますが、メンタルヘルス対策や職場環境改善など、専門性の高い業務を依頼する場合は、費用が高くなる傾向にあります。
一般的な料金体系としては、以下の3つがあります。
- 時間制: 1時間あたり〇〇円といったように、契約した時間に応じて費用が発生します。
- 日額制: 1日あたり〇〇円といったように、訪問日数に応じて費用が発生します。
- 業務内容ごと: 健康診断の実施やストレスチェックの実施など、業務内容ごとに費用が設定されています。
これらの料金体系に加えて、交通費や報告書作成費用など、別途費用が発生する場合もあるため、事前に確認することが大切です。
例えば、A産業医は時間制で、1時間あたり5万円、B産業医は日額制で、半日10万円で契約しているとします。会社の規模やニーズに合わせて、より適切な料金体系の産業医を選ぶことが大切です。
料金体系 | メリット | デメリット |
---|---|---|
時間制 | 短時間の業務に適している | 長時間の業務だと費用が高額になる可能性がある |
日額制 | 1日の業務量が多い場合に費用を抑えられる | 短時間の業務だと割高になる可能性がある |
業務内容ごと | 業務内容に応じた明確な料金設定 | 業務内容が複雑だと費用が分かりにくい場合がある |
契約時に確認すべき重要な事項
スポット契約を結ぶ際には、後々のトラブルを防ぐために、契約内容をしっかりと確認することが重要です。
これは、賃貸契約を結ぶ際にも、契約内容をよく確認せずにサインをしてしまい、後々トラブルに発展してしまうケースと似ています。
産業医との契約においても、契約内容を曖昧にしたまま契約を締結してしまうと、後々「言った」「言わない」といったトラブルに発展する可能性もゼロではありません。
特に以下の項目は、必ず確認しておきましょう。
- 業務範囲: 具体的にどのような業務を依頼するのか、明確にしましょう。例えば、「健康診断判定の実施」と一言で言っても、事前の打ち合わせや、結果に基づいた事後措置まで含まれるのかどうか、どこまでが業務範囲に含まれているのかを明確にしておく必要があります。
- 契約期間: いつからいつまでの契約なのかを確認しましょう。契約期間が明確になっていないと、契約期間中に追加で業務が発生した場合、別途費用が発生するのかどうか、といったトラブルに発展する可能性があります。
- 費用: 料金体系や支払い方法、追加費用の有無などを確認しましょう。費用に関する事項は、特にトラブルに発展しやすい部分です。事前に見積もりを取り、料金体系や支払い方法などをしっかりと確認しておくことが大切です。また、交通費や報告書作成費用など、別途費用が発生するのかどうかも確認しておきましょう。
- 守秘義務: 従業員の健康情報など、業務上知り得た情報は、守秘義務を負うことを明確にしましょう。産業医は、業務上、従業員の健康状態など、非常にデリケートな情報に触れることになります。そのため、契約時に守秘義務に関する事項を明確に定めておくことが重要です。
- 解約条件: 契約を途中で解約する場合の条件を確認しましょう。契約を途中で解約する場合、違約金が発生するのかどうか、解約の申し出はいつまでにすれば良いのかなど、解約条件を事前に確認しておくことが大切です。
これらの重要事項を事前に確認し、双方納得した上で契約を締結することが大切です。
まとめ~問題が継続するようなら顧問契約を~
産業医のスポット契約は、必要な時に必要な業務を依頼できるため、企業にとって柔軟性があり、費用を抑えられるというメリットがあります。
しかし、企業の状況や従業員の健康状態を十分に把握できないまま業務を行う可能性や、信頼できる産業医を見つけ出すことの難しさなど、デメリットも存在します。
信頼できる産業医との契約を通して、従業員の健康管理を効果的に行い、企業全体の活性化に繋げることが大切です。
また、問題点が継続して存在する場合は産業医と嘱託契約を結び継続的な関係を作っていくことも重要です。
本記事を活用し産業医を上手に活用いただければ幸いです。
参考文献
- 中小企業における産業医活動の実際. 月刊地域医学 2023;37(3):321-324.