「面談の内容、上司にも伝えていいですか?」「就業制限の理由は職場に説明すべきですか?」——健康情報の共有範囲について、人事担当者から相談を受けることが多くあります。
産業医が把握した従業員の健康情報は、誰にでも、どの範囲でも共有してよいわけではありません。健康情報は法律上「要配慮個人情報」に分類され、不適切な開示は法令違反になるだけでなく、従業員本人に深刻な不利益をもたらします。
この記事では、産業医・人事担当者・職場(上司)という3つのレイヤーで情報管理を分ける「2枚運用(3段階管理)」の考え方を解説します。
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なぜ情報を「分けて」管理しなければならないのか

産業医は面談を通じて、従業員の健康診断データ・ストレスチェック結果・既往歴・現在の治療状況など、多くの健康情報にアクセスします。これらの情報はすべて要配慮個人情報(個人情報保護法第2条第3項)であり、本人の同意なしに第三者へ提供することは原則禁止されています。
しかし一方で、就業上の配慮(残業制限・業務調整など)を実現するためには、職場の上司にも一定の情報を届けなければなりません。健康情報を完全に秘匿したままでは、適切な配慮ができないからです。
「全部伝える」も「全部隠す」も間違い。必要な情報を、必要な範囲の人に、必要な精度で届ける——これが健康情報管理の基本です。そのために情報のレイヤー(段階)を分ける必要があります。
「2枚運用・3段階管理」の構造

情報を管理するレイヤーは次の3段階です。
第1層:産業医——すべての健康情報を把握する
産業医は面談記録・健康診断データ・ストレスチェック結果・病名・治療状況など、すべての健康関連情報を把握する立場にあります。産業医にはこれらの情報を扱う職務上の義務と守秘義務が伴います。
産業医が作成・保有する文書:
- 面談記録(詳細)
- 健康診断・ストレスチェックの個人データ
- 産業医の判断根拠となる医学的情報
第2層:人事担当者——就業制限の根拠と内容を把握する
人事担当者に共有するのは、就業上の措置を判断・実行するために必要な情報に絞ります。具体的には次の3点です。
- 面談の概要(どのような状況で、何が確認されたか)
- 就業制限の判断に至る根拠(病名の記載が必要になる場合もある)
- 就業制限の内容(残業時間の上限・業務制限の具体的内容など)
第3層:職場(上司・現場)——配慮事項のみを伝える
職場に届けるのは「この人にはこの配慮が必要」という事実のみです。病名や診断内容、面談の詳細は職場に届ける必要はありません。
- 「月の残業は20時間以内にしてください」
- 「夜勤は当面禁止です」
- 「重量物作業は避けてください」
なぜそのような制限がかかっているのか——その医学的背景は、上司が知る必要はありません。「何をしてはいけないか・何に気をつけるか」だけが職場に必要な情報です。
| レイヤー | 情報の範囲 | 主な文書 |
|---|---|---|
| 産業医 | すべての健康情報(面談記録・健診データ・病名・治療状況) | 面談記録・報告書 |
| 人事担当者 | 面談概要・就業制限の根拠・就業制限の内容 | 意見書 |
| 職場(上司) | 配慮事項のみ(制限の内容、してはいけないこと) | 配慮事項の通知 |
職場向けの配慮事項は誰が作るか

「職場に伝える配慮事項の文書は、産業医が作るのか、人事が作るのか」という疑問が生じます。
原則論で言えば、職場向けの配慮事項は産業医だけが決めるものではありません。その理由は、職場に展開する情報には「産業医の医学的意見」だけでなく、「人事が判断した会社としての方針」や「職場の受け入れ状況」も含まれるからです。産業医の意見だけをそのまま職場に流すと、職場側の意見・状況が反映されていない一方的な通知になってしまいます。
実務的には次のような分担が一般的です。
- 産業医が意見書で「就業制限の内容と根拠」を人事に伝える
- 人事が産業医の意見をもとに、会社としての配慮事項を整理して職場に通知する
- 小規模な事業所など、担当者がいない場合は産業医が一緒に作成することもある
「産業医の意見書=そのまま職場に配布してよい文書」ではありません。意見書は人事が受け取り、それをもとに職場向けの言葉に変換して伝えるのが正しい流れです。
「2枚」の意味——産業医が作る文書は2種類
「2枚運用」という言葉が示すのは、産業医が状況に応じて2種類の文書を使い分けることです。
- 人事向け意見書:面談の根拠・病状の概要・就業制限の内容を記載した詳細版
- 職場向け配慮事項:制限の内容のみに絞ったシンプル版(病名・詳細な経緯は記載しない)
この2枚を使い分けることで、人事は適切な情報量で就業上の判断ができ、職場はプライバシーを侵害することなく配慮を実行できます。
まとめ
- 健康情報は要配慮個人情報。「全部共有」も「全部秘匿」も間違い
- 産業医→人事→職場の3段階で情報量を絞りながら届ける
- 職場に届けるのは「配慮事項(制限の内容)」のみ。病名・診断内容は不要
- 職場向けの通知は、産業医の意見書をもとに人事が整理して作成するのが基本
- 産業医は「人事向け意見書」と「職場向け配慮事項」を使い分ける「2枚運用」が有効
情報のレイヤーを適切に設計することが、従業員のプライバシーを守りながら職場の健康管理を機能させる基盤になります。
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