「心療内科で適応障害と言われました。会社の産業医に相談したほうがいいのは分かっているけれど、話したら上司に病名が伝わるのでは、評価に響くのでは、休職させられるのでは……と思うと、なかなか申し込めません」——こういう迷いを抱えたまま働いている方は少なくありません。
先に結論です。うつ病・適応障害と言われたとき、またはそうかもしれないと感じたときも、産業医に相談して大丈夫です。産業医がまず確かめるのは、病名よりも「いま、どのくらい働けるか」という体調の状況です。会社に伝えるのは、残業の制限などの就業上の配慮で、病名を伝える必要があるときは本人に確認をとってから伝えます。そして、限界まで我慢してから来るより、早めに相談したほうが、休まずに働き続けられる選択肢が残ります。
私は名古屋で産業医をしている角田拓実です。この記事では、うつ病・適応障害(またはその疑い)で、まだ働いている方が自分から産業医に相談するときに、面談で何を聞かれるか、会社に何が伝わって何が伝わらないか、どんな配慮を頼めるかを、産業医の側からお話しします。
うつ病・適応障害で産業医に相談していい?——最初の面談で確かめる4つ

相談していいです。診断がついていなくても、「うつかもしれない」「眠れない日が続いている」という段階で来ていただいてかまいません。うつ病や適応障害と言われた方、あるいはそうかもしれない方が自分から相談に来たとき、私が最初の面談で確かめるのは次の4つです。
- 気持ちと体の症状——気分の落ち込みや不安といった気持ちの部分と、体に出ている症状。心と体の両方の症状を確認します。
- きっかけ——どんなきっかけがあったのか。仕事の量なのか、異動なのか、人間関係なのか。このヒアリングも大事です。
- 生活リズム——睡眠、食事、運動といった、一般的な生活の質問です。
- 仕事がどのくらいできるか——実際に、いまの仕事をどのくらいこなせているか。産業医や産業保健の分野では、ここがすごく大事なので、必ず確認します。
4つ目が、病院の診察とのいちばん大きな違いです。主治医は病気を診断して治療します。産業医は治療をしない代わりに、「この体調で、いまの仕事をどう続けるか・休むか」を職場の側から考えます。主治医の診断書と産業医の意見書の役割の違いは産業医意見書と診断書の違いで解説しています。
| 主治医(心療内科・精神科など) | 産業医 | |
|---|---|---|
| 役割 | 病気を診断し、治療する | 体調に合わせて、仕事をどう続けるか・休むかを考える |
| 主に見ること | 症状・診断・薬の効き方 | 症状・きっかけ・生活リズム・いまの仕事ぶり |
| 会社とのかかわり | 診断書を書く | 会社に就業上の配慮の意見を出す |
| 相談のしかた | 受診(予約) | 会社の窓口(人事・保健師など)を通して面談を申し込む |
まだ病院にかかっていないときは、面談のあとで受診をすすめることもあります。そのとき職場の状況を主治医に伝えたほうがよければ、産業医が手紙を書くこともあります(産業医は紹介状を書ける?)。面談の申し込み方や、面談の一般的な流れは産業医面談とは?呼ばれる理由・何を話すにまとめています。
産業医に話すと、会社に何が伝わる?——病名より「働けるか」。伝えるときは本人に確認してから

「上司には病名を知られたくない」とおっしゃる方は多いです。私の考えをはっきり書くと、産業医として大事なのは、病名がどうこうよりも、働けるか・働けないかという体調の状況です。ですから、ご本人にも会社にも、「病名いかんではないですよ」とお伝えしています。
逆にいえば、病名がどうであろうと、体調が悪ければお休みして、しっかり療養したほうがいい。無理を続ければ、悪化してしまう可能性もあります。会社にとって必要なのは「何という病気か」ではなく、「どのくらい働けて、どんな配慮が要るか」です。
| 会社に伝えること | 本人の了解なしには伝えないこと |
|---|---|
| 働けるか・休んだほうがいいか | 病名・診断名 |
| 就業上の配慮の内容(残業の制限・夜勤を外す など) | 面談で話したことの中身(きっかけ・家庭のこと・人間関係の詳しい事情) |
| 配慮をいつまで続けるか・いつ見直すか | 飲んでいる薬・通院の細かい内容 |
配慮を頼むうえで、どうしても病名や事情を伝える必要がある場合は、ご本人に確認をとってから伝えます。たとえば「特定の人との関係がきっかけになっている」ことを上司に伝えないと配置を調整できない、といった場面です。そのときも、何を・誰に・どこまで伝えるかを、ご本人と一緒に決めます。
本当に休職になるときは、会社に主治医の診断書を出す必要があります。それでも、むやみやたらに病名を広げる必要はありません。上司や同僚に必要なのは、「いつから休むか」「いつごろ見直すか」「仕事を誰が引き継ぐか」です。診断書を受け取った人事の方がしてはいけないことはメンタル不調の休職診断書を渡された日、人事担当者がやってはいけない3つのことで解説しています。
同じ指針は、心身の状態の情報の内容を理由に、解雇・退職勧奨・不当な動機による配置転換などをしてはならない、とも定めています。ただし、体調に合わせて残業を制限するなど、配慮のために仕事の内容が変わることはあります。それは不利益な取扱いではなく、体調を守るための措置です。
我慢して働き続けると、どうなる?——休職の診断書を持ってくるころには選択肢が減っている

産業医をしていて、いちばん「もったいない」と思うのは、休職の診断書を持ってきて、はじめて相談に来られるケースです。休職の診断書が出るのは、もう働けない状況になってから。もう少し早く相談していただいていれば、就業制限など何かしらの就業上の配慮をしたうえで、仕事を続けるという選択肢もあったかもしれません。
いちばん悪くなってから来ると、結果として数か月、休みが長くなることもあります。ご本人にとっても、会社にとっても、損失はとても大きいです。
逆に、早めに相談して休まずに済んだ、というケースは結構あります。病院を受診してもらう、残業時間を減らす、人間関係が原因であればそこを話し合う——職場の側で配慮できることがあるからです。そうして「悪化する前に相談できてよかったです」と言っていただくことは、しばしば経験します。
| 早めに相談した | 限界まで我慢して働き続けた | |
|---|---|---|
| 相談したときの状態 | 眠れない・気分が晴れないが、仕事はまだできている | もう働けない。休職の診断書を持って相談に来る |
| 産業医ができること | 受診をすすめる・残業を減らす・人間関係の調整を相談する | 休職の手続きと療養の支え |
| その後 | 休まずに、配慮を受けながら働き続けられることも多い | 休みが数か月に長引くこともある |
朝起きられない、仕事に集中できない、涙が出る、眠れない日が続く——そうした状態で「まだ大丈夫」と思って働き続けるのがいちばん危ないパターンです。主治医から「休んだほうがいい」と言われたときの考え方はドクターストップとは?仕事を休む基準・診断書・会社への伝え方を参考にしてください。
治療しながら働き続けるために、産業医が会社に頼む配慮

正直にいうと、産業医ができることは限られています。それでも、治療しながら働き続ける方のために、会社に頼むことが多い配慮はあります。
- 残業時間の制限——いちばん多い配慮です。治療中は、睡眠と休む時間を確保することが回復の土台になります。
- 夜勤などへの配慮——夜勤やシフトのある方は、生活リズムを崩さないように、その部分を配慮してもらいます。
- 特定の人間関係への配慮——社内の特定の人との関係が原因であれば、会社からその人に注意をしてもらう・配慮をしてもらう、毎日顔を合わせずに済むようにうまく調整できないか、を会社と相談することがあります。
産業医は、こうした配慮を「意見」として会社に出し、実際にどうするかは会社が決めます。主治医の意見があれば、それも参考にします。配慮は一度決めたら終わりではなく、体調を見ながら、1か月後などに面談で見直します。就業上の配慮(就業制限)の決まり方は産業医の就業制限とは?基準・強制力・会社対応で解説しています。
休職することになった場合の、休職中の会社との連絡や復職後のフォローは休職中の社員への連絡はどこまで?で解説しています。
会社に産業医がいないときは、どこに相談する?

産業医の選任が義務になるのは、働く人が50人以上の事業場です。50人未満の会社では、産業医がいないことも珍しくありません(労働安全衛生法第13条・労働安全衛生法施行令第5条)。その場合の相談先は次のとおりです。
- まず人事・総務に、相談先を確かめる——保健師や契約している医師がいる会社もあります。「体調のことで相談したい」とだけ伝えれば、病名まで言う必要はありません。
- 地域産業保健センター——50人未満の事業場の方は、無料で医師などに健康相談ができます。申し込み方はセンターによって違うので、人事に確かめるか、センターに問い合わせてください。
- 主治医——仕事の続け方も含めて、主治医に相談してかまいません。会社に配慮を頼みたいときは、その内容を診断書や意見に書いてもらう方法もあります。
産業医がいない会社でメンタル不調の社員にどう対応するかは、人事の方向けに産業医がいない会社はどうする?でまとめています。
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よくある質問
Q1. まだ診断されていなくても、産業医に相談していいですか?
相談していいです。「うつかもしれない」「眠れない日が続く」という段階で相談していただくほうが、配慮で働き続けられる選択肢が残ります。必要なら、産業医が受診をすすめます。
Q2. 産業医に話したことは、上司に伝わりますか?
病名や話した中身は、本人の了解なしには伝えません。会社に伝えるのは、働けるかどうかと、残業の制限などの配慮の内容です。病名や事情を伝える必要があるときは、本人に確認をとってから、何を・誰に・どこまで伝えるかを決めます。
Q3. 産業医に相談すると、休職させられますか?
相談したからといって、休職になるわけではありません。早めの相談なら、残業を減らすなどの配慮で働き続けられることも多いです。ただ、体調が悪ければ、病名に関係なくお休みしてしっかり療養したほうがよく、そのときは休むことをおすすめします。
Q4. 相談したことで、評価や異動に響きませんか?
厚生労働省の指針は、心身の状態の情報を理由にした解雇・退職勧奨・不当な動機による配置転換などをしてはならないとしています。ただし、体調を守るために残業を制限するなど、配慮として仕事の内容が変わることはあります。
Q5. 主治医がいるのに、産業医にも相談する意味はありますか?
あります。主治医は病気を治療し、産業医は職場の側から「仕事をどう続けるか」を考えます。残業の制限や人間関係の調整など、会社に配慮を頼むときは、職場の事情を知っている産業医が間に入ると進めやすくなります。
Q6. 会社に産業医がいない場合は、どこに相談すればいいですか?
まず人事・総務に相談先を確かめてください。50人未満の事業場の方は、地域産業保健センターで無料で医師などに相談できます。仕事の続け方は主治医に相談してもかまいません。
まとめ:うつ病・適応障害の相談は「悪くなる前」に
- うつ病・適応障害と言われたとき、そうかもしれないときも、産業医に相談していい
- 最初の面談で確かめるのは、気持ちと体の症状・きっかけ・生活リズム(睡眠・食事・運動)・仕事がどのくらいできるか
- 産業医が大事にするのは病名より「働けるか」。会社に伝えるのは配慮の内容で、病名を伝える必要があるときは本人に確認してから
- 休職のときも会社に出すのは診断書で、むやみに病名を広げる必要はない
- 休職の診断書を持ってくるころには選択肢が減っている。早めの相談なら、残業の制限・夜勤への配慮・人間関係の調整で働き続けられることも多い

