「高ストレス者から面接指導の申出が来た。でも、うちには産業医がいない。誰に頼めばいいのか…」——この状況は、けっして珍しくありません。結論から言うと、面接指導を行う医師は、自社が選任している産業医である必要はありません。医師であればよく、外部の医師にスポット(単発)で依頼すれば、事業者としての義務を果たせます(労働安全衛生法第66条の10)。「産業医がいないから面接指導ができない」は、よくある誤解です。 産業医がいない会社の全体像(選択肢の比較・メンタル不調の初動・2028年までの準備)は、産業医がいない会社はどうする?ストレスチェック・面接指導・メンタル不調の対応にまとめています。 制度の全体像(目的・会社の義務・年1回の流れ・役割分担)は、ストレスチェック制度とは?目的・義務・流れにまとめています。
なぜ「面接指導を行う医師がいない」が起きるのか

面接指導の義務は理解していても、いざ申出が来ると止まってしまう。その背景には、共通したパターンがあります。
- 産業医を選任していない——常時50人未満の事業場は産業医の選任義務がなく、頼む相手がそもそもいない
- 顧問の産業医が対応できない——契約が職場巡視中心で面接は範囲外、日程が合わない、メンタル面談は不慣れ、など
- 地域産業保健センターの予約が埋まっている——申出から実施までの目安(おおむね1ヶ月以内)に間に合わない
- 拠点が全国に点在している——拠点ごとに医師を探すのが現実的に難しい
とくに増えていくのが1つ目です。2028年4月から、常時50人未満の事業場にもストレスチェックが義務化されます(2025年公布の改正労働安全衛生法)。50人未満は産業医の選任義務がないため、「実施義務はあるのに、面接指導を頼む産業医がいない」会社が、これから一気に増えます。 施行日は2028年4月1日で正式に確定しました。全体の準備は50人未満の義務化はいつから?準備ガイド(2028年4月1日確定)で解説しています。
【筆者の現場から】実際に「面接指導を頼める医師がいない」とご相談くださるのは、ほとんどが50人未満の会社です。50人を超えると産業医の選任義務があるため、頼む相手が社内にいるからです。特に、50人未満でも「メンタルヘルス不調への対応を先取りしたい」と義務化を待たずにストレスチェックを始めた会社ほど、面接指導の依頼先で悩まれています。逆に、従業員数の非常に多い企業が「社内では件数をさばききれない」とストレスチェック関連をまとめて外部に出すケースもあり、外部委託は会社の規模を問わず使われている、というのが現場の実感です。
面接指導は「医師なら実施できる」——外部委託の法的根拠

ここが最重要ポイントです。ストレスチェックそのものの「実施者」は医師・保健師・所定の研修を受けた看護師などが担えますが、高ストレス者への「面接指導」を行うのは”医師”と定められています(労働安全衛生法第66条の10)。そして——この医師は、自社が選任している産業医に限定されていません。実施者も同じで、自社の産業医である必要はありません。受検のシステムは自社で用意して、実施者と面接指導だけを外部に頼むこともできます。実施者の頼み先の比べ方はストレスチェックの実施者だけ外部委託するには?をご覧ください。
制度全体の位置づけ(義務・対象・申出のしくみ)はストレスチェック高ストレス者面談の方法やストレスチェック面談は意味ない?高ストレス者が面談すべき理由もあわせてご覧ください。対象者の決まり方と、申出から記録までの流れの全体はストレスチェックの面接指導とはにまとめています。
外部委託・スポット依頼の進め方
外部の医師にスポットで依頼する場合、流れはシンプルです。オンライン対応の委託先を使えば、拠点や在宅勤務者の場所を問わず完結できます。
- 依頼先を決める:申出が来てから探すと間に合わないことがある。いざというときの委託先を事前に決めておく
- 面接指導を依頼:対象者の情報(ストレスチェック結果・勤務状況など)を共有し、日程を調整
- 実施(オンライン可):医師が面接指導を実施し、心身の状況・ストレス要因・就業への影響を確認
- 意見書の受領:就業上の措置に関する医師の意見(意見書)を受け取る
- 就業上の措置・記録:意見を踏まえて必要な措置を講じ、面接指導結果の記録を5年間保存する
依頼するとき、会社側で用意するものは実務ではおおむね次のとおりです。
- 対象者の基本情報と申出の記録——本人から面接指導の申出があったことの確認
- ストレスチェックの結果票——面接指導を行う医師が受け取る必要があります(本人が申出をした時点で、結果を事業者・医師へ提供できます)
- 勤務状況がわかる資料——労働時間・業務内容など
- (あると面談が深くなる)疲労蓄積度のチェックリスト・勤怠状況のチェックシート——厚生労働省が様式を公開しています。事前に記入されていると、限られた面談時間を本題に使えます
- (あると望ましい)健康診断の結果——メンタルだけでなく心身両面の評価に役立ちます
【筆者の現場から】スピード感の一例として、筆者の事務所では申出から最短3営業日以内に実施できる体制で運用しています。日程だけならご依頼の当日に確定することもでき、実績ではご依頼の翌営業日に面接指導を実施したケースもあります。「申出からおおむね1ヶ月以内」という目安は、外部委託を使えば十分に間に合います。
スポットの面接指導でつまずくのは、「面接指導をすればOK」で頼んだとき

【筆者の現場から】面接指導だけを外部の医師に頼んで、うまくいかないことはあります。単純に「面接指導をすればOK」という認識で仕事をお願いしてしまうと、うまくいかないことがあるのかな、と思います。ちゃんと目的——こういう対策をしたい、こういう話をしてほしい、こういうサポートを受けたい——をあらかじめ共有して、面接指導という段取りにしないと、うまくいかないこともあります。
依頼の前に、医師へ伝える3つの目的と勤務の情報
外部の医師は、その会社の普段の様子を知りません。面接指導の前に、次のことを医師に伝えておいてください。
- どんな対策をしたいか——面接指導の結果を、会社として何に使いたいのか
- どんな話をしてほしいか——本人と医師に話してほしいこと
- どんなサポートを受けたいか——面談のあと、会社が医師に相談したいこと
- 勤務の状況——労働時間、深夜業の回数、仕事の負荷、職場の状況
4つ目の勤務の状況は、国の指針でも、事業者があらかじめ面接指導を行う医師に渡すものとされています(労働時間、労働密度、深夜業の回数と時間数、作業態様、作業負荷、職場環境など)。ストレスチェック指針の8(3)に書かれています。
| うまくいかない頼み方 | うまくいく頼み方 | |
|---|---|---|
| 頼むときの認識 | 面接指導をすればOK | 何のための面接指導かを先に決める |
| 医師に伝えること | 対象者と日程だけ | 目的(対策・話してほしいこと・受けたいサポート)と勤務の状況 |
| 面談のあと | 意見書を受け取って終わり | 状況を共有して、措置を医師と相談できる |
最初から全部そろえるのは難しい——準備を支援してくれる依頼先を選ぶ
【筆者の現場から】逆に、ちゃんと状況を共有して相談できる体制にしていただければ、大きなミスは起こりにくいかなと思います。ただ、あらかじめしっかり準備するのは、最初は難しいかもしれません。ここの調整を、ちゃんと間に入ってしていただけるような会社に話したうえでやるといいと思います。そういうところを支援してくれる会社を選ぶといいかなと思います。
次の章の6つのチェックポイントに加えて、「依頼の前に、目的の整理や情報の渡し方を一緒に考えてくれるか」も確かめてください。委託先どうしを比べるときの失敗例(乗り換えた理由)はストレスチェックの外部委託先の選び方にまとめています。
外部委託先の選び方——6つのチェックポイント
- オンライン対応か:全国の拠点・在宅勤務者に対応できるか
- 意見書の作成が含まれるか:就業措置につなぐには意見書が必須。別料金かどうかも確認
- 手配のスピード:申出から1ヶ月以内に間に合う手配ができるか(最短何営業日か)
- 厚生労働省の指針に準拠しているか:面接指導の実施方法が指針に沿っているか
- 1件から・顧問契約不要か:必要なときだけ使えるか。件数が読めない小規模企業には重要
- 面接指導の「後」まで見てくれるか:実務では、9割ほどの面談は実施して完了となる一方、1割ほどは医療機関への受診や継続的なフォローが必要になります。面談の中で「この方を今後どう対応していくか」まで提示してくれる委託先かどうかが、実は一番の分かれ目です
放置するとどうなる——申出を無視するリスク
「頼む医師がいないから」と、高ストレス者の申出を実質的に放置するのは危険です。事業者には面接指導を実施する義務があり、あわせて申出をしたことを理由に、その労働者へ不利益な取扱い(解雇・減給・不当な人事評価など)をすることは法律で禁止されています。さらに、メンタル不調が深刻化して健康被害が生じた場合、安全配慮義務違反を問われるリスクもあります。「対応できなかった」では済まされない領域です。
だからこそ、産業医がいない会社ほど、いざ申出が来たときの外部委託先を、あらかじめ決めておくことが実務的な備えになります。面接指導後の就業上の措置の進め方は、健康診断の事後措置と同じ構造です。健康診断の事後措置とは|有所見者の就業判定の進め方もあわせて押さえておくと、健康管理全体の流れが見えてきます。
外部委託・スポット面接指導の費用の目安

外部の医師にスポットで面接指導を依頼する場合、費用は1件あたりおおむね1.5万〜3万円が目安です(訪問・対面での実施は上振れすることがあります)。比較するときは金額だけでなく、意見書の作成・事前資料の確認・実施後の報告書・フォローアップまで、その料金に含まれているかを見るのが実務的です。顧問契約(月額)を結ぶ方式と違い、面接指導が必要になったときだけ、その件数分の費用で済むのがスポット依頼のメリットです。高ストレス者の人数が読めない小規模企業や、突発的に申出が出た場合に向いています。 面接指導も含めたストレスチェック全体の費用は、ストレスチェックの費用はいくら?相場・内訳・50人未満の総額にまとめています。
1件1.5万円と3万円、何が違うのか——差は「段取り」の値段
オンラインの面談だけなら、1件1.5万円前後の公開価格もあります。面談そのものの中身は、どちらも大きくは変わりません。差が出るのは面談の前後の段取りです。1.5万円と3万円の差は、面談の値段ではなく段取りの値段だと考えてください。
| 確かめること | 面談中心の安い価格帯 | 段取りまで込みの価格帯 |
|---|---|---|
| 日程の調整 | 人事が医師と本人の間に入って調整する形が多い | 本人が医師の空き枠からボタン一つで予約。人事は案内を送るだけ |
| 申出から実施まで | 調整の往復しだい | 枠があれば当日、標準で3営業日以内 |
| 始めるまでの準備 | 会社の登録や事前の設定が要ることがある | 案内文を配れば、その日から使える |
| 意見書と、その後の措置 | 含まれるか、別料金かを確認 | 意見書込み。措置の決め方まで相談できる |
人事の担当者が1件の面接指導の日程調整に使う時間は、医師・本人・上司との往復で数時間になることもあります。面接指導は申出からおおむね1か月以内に行うのが目安なので、調整に手間取るほど期限が迫ります。比べるときは、1件の金額に、人事の手間と、申出から実施までの日数を足して考えてください。本人が空き枠から予約する仕組みはサンポマッチで紹介しています。
なお、スポット依頼は「産業医選びのお試し」としても機能します。単発で依頼した医師の対応がよく、そのまま顧問の産業医契約に発展するケースは実務でも珍しくありません。従業員50人到達を見据えている会社にとっては、契約前に相性を確かめられる入り口にもなります。そのまま顧問を探す段階に進むときの5つのルートと見分け方は産業医の探し方と選び方|7つのチェックポイントで解説しています。面接指導のほか、復職面談や健診の意見聴取までスポットで頼むときの業務・費用・依頼先の違いは、スポット産業医(産業医のスポット契約)とは?にまとめています。
まとめ:医師がいなくても、面接指導は「外部委託」で果たせる
- 面接指導を行うのは「医師」であればよく、自社の産業医に限られない(安衛法66条の10)。外部の医師にスポットで依頼できる
- 「産業医がいないから面接指導できない」は誤解。顧問契約なしで、必要なときだけ確保すればよい
- 申出の放置は、実施義務・不利益取扱いの禁止・安全配慮義務に関わるリスク。委託先は事前に決めておく
- 委託先はオンライン対応/意見書込み/スピード/指針準拠/1件から/面談後のフォローアップ で選ぶ
- 費用の目安は1件おおむね1.5万〜3万円。2028年4月の50人未満義務化を控え、今のうちに備えを
- つまずくのは「面接指導をすればOK」で頼んだとき。目的(対策・話してほしいこと・受けたいサポート)と勤務の状況を先に医師と共有する
一次情報は厚生労働省(ストレスチェック制度導入マニュアル、労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律)やe-Gov法令検索(労働安全衛生法第66条の10)で確認できます。
あわせて読みたい:ストレスチェックの面接指導と運用
ストレスチェックの面接指導や実施・運用について、あわせてご覧ください。
- ストレスチェックの面接指導とは?対象者・流れ・事後措置
- ストレスチェック面接指導の費用相場|スポット外部委託は1件1.5万〜3万円
- ストレスチェックの外部委託先の選び方|失敗例と5つの比較ポイント
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よくある質問
Q. 産業医がいなくても、面接指導は実施できますか?
できます。高ストレス者への面接指導を行うのは「医師」であればよく、自社が選任している産業医に限られません(労働安全衛生法第66条の10)。産業医を選任していない事業場は、外部の医師にスポット(単発)で面接指導を依頼することで、法律上の義務を果たせます。申出から実施までの目安(おおむね1ヶ月以内)に間に合うよう、依頼先を事前に決めておくと安心です。
Q. 面接指導を外部委託するのに、顧問契約は必要ですか?
必要ありません。スポット(単発)で依頼できるサービスを使えば、月額の顧問契約を結ばなくても、面接指導が必要になった件数分だけ依頼できます。高ストレス者の人数が読めない小規模企業や、突発的に申出が出た場合に向いています。
Q. 面接指導はオンラインで委託してもいいですか?
一定の要件を満たせば、オンラインでの面接指導も認められています。オンライン対応の委託先を使えば、全国に点在する拠点や在宅勤務者にも、場所を問わず対応できます。日程調整もしやすく、申出から実施までの期限に間に合わせやすくなります。
Q. 費用はどのくらいかかりますか?
外部の医師にスポットで依頼する場合、1件あたりおおむね1.5万〜3万円が目安です(訪問・対面は上振れすることがあります)。オンライン対応の有無、意見書作成や報告書・フォローアップが料金に含まれるか、手配スピードで変わります。顧問契約と違い、面接指導が必要になったときだけ、その件数分の費用で済みます。
Q. 申出が来たのに面接指導をしないと、どうなりますか?
事業者には面接指導を実施する義務があり、申出をしたことを理由に不利益な取扱いをすることも禁止されています。実施しないまま放置し、メンタル不調が深刻化して健康被害が生じた場合には、安全配慮義務違反を問われるリスクもあります。「頼む医師がいなかった」では済まされないため、外部委託を含めた対応手段を確保しておくことが重要です。
Q. 外部の医師にスポットで面接指導を頼んで、うまくいかないのはどんなときですか?
「面接指導をすればOK」という認識で、目的を伝えずに頼んだときです。どんな対策をしたいか、どんな話をしてほしいか、どんなサポートを受けたいかを先に共有し、労働時間や仕事の負荷など勤務の状況も医師に渡しておくと、大きなミスは起こりにくくなります。最初から全部そろえるのが難しければ、その準備を支援してくれる依頼先を選んでください。



