「健診の結果が返ってきました。健診機関の判定は書いてあるのですが、『就業判定』は別にやらないといけないんですか? うちは産業医がいないのですが……」——健診のあと、初めて事後措置を担当する人事・総務の方からよくいただく質問です。
先に結論です。就業判定とは、健康診断で異常の所見があった社員について、医師が「このまま働いてよいか」を「通常勤務」「就業制限」「要休業」の3つに分けて意見することです。会社は、健診を行った日から3か月以内に医師の意見を聴き、健康診断個人票に書き残す義務があります。健診機関の判定(A〜Eなど)とは別のものです。判定する医師は、50人以上の事業場なら産業医。産業医がいない50人未満の事業場なら、産業医以外の医師(健康管理にくわしい医師や地域産業保健センター)でもかまいません。
私は名古屋で産業医をしている角田拓実です。顧問先の就業判定のほか、産業医がいない会社から判定だけを頼まれることもあります。この記事では、判定の区分と「誰が判定するか」に絞って、現場で迷うところをお伝えします。健診から措置までの手順の全体は健康診断の事後措置|有所見者の就業判定と医師の意見聴取の進め方にまとめています。
就業判定とは?——「このまま働いてよいか」を医師が3つに分ける

健康診断で異常の所見があった社員について、会社は医師の意見を聴かなければなりません(労働安全衛生法第66条の4)。この「医師の意見」の中心が就業判定です。厚生労働省の指針では、次の3つの区分で意見を求めることになっています。
| 就業区分 | 中身 | 会社がとる措置の例 |
|---|---|---|
| 通常勤務 | 通常の勤務でよい | —(受診が必要なら、受診はすすめる) |
| 就業制限 | 勤務に制限を加える必要がある | 労働時間の短縮、出張の制限、時間外労働の制限、労働負荷の制限、作業の転換、就業場所の変更、深夜業の回数の減少、昼間勤務への転換など |
| 要休業 | 勤務を休む必要がある | 療養のため、休暇や休職などで一定期間勤務させない |
判定をするのは医師ですが、措置を決めて実行するのは会社です(労働安全衛生法第66条の5)。就業制限の中身や強さは就業制限の基準と強制力で解説しています。
就業判定でいちばん迷うのは?——「要休業」の境目。本人と会ってから決める

3つの区分のうち、いちばん重いのは「要休業」です。その人の仕事そのものを止めてしまう判断なので、私は、相当程度重い方でなければ要休業とは出しません。
迷うのは、要休業かもしれない、という境目の方です。要休業のレベルだと思っても、「すぐに受診していただければ、働き方を考える余地がある」というときは、まず面談をする、あるいは「まず受診して、そこから面談しましょう」とすることもあります。
実際に本人と会ってみて決める。これが迷いを取るいちばんの方法だと思っています。健診の数字だけでは、その人がいまどんな仕事をしていて、どんな体調で働いているのかまでは分からないからです。迷ったときは、次の順番で進めます。
- まず受診をすすめる(要精密検査・要治療と出ているとき)
- 受診の結果を持って、産業医と面談する
- 仕事の中身と今の体調を聞いてから、通常勤務・就業制限・要休業を決める
健診の項目ごとの目安は、高血圧・貧血・糖尿病・肝機能の記事で、産業医がどこを見ているかを書いています。
健診機関の判定と就業判定はどう違う?——「要治療」でも「通常勤務」はある

健診機関の判定と、産業医の就業判定が食い違って見えることは、よくあります。でも、この2つは見ている向きが違うので、どちらを優先するという話ではありません。
健診機関の判定には、病院を受診すべきか、治療すべきかが書いてあります。一方、産業医の就業判定は、通常勤務・就業制限・要休業のどれか、つまり「仕事をどうするか」を分けています。概念が違うのです。だから「要治療。でも、通常勤務でいい」ということは、ふつうにあります。
逆に、産業医が「通常勤務」と出したからといって、病院に行かなくていいわけではありません。人事の方には「向きが違うので、どちらも大事にしてください」とお伝えしています。就業区分ごとのコメントの書き方の例は健康診断の結果、産業医はどこを見る?にあります。
| 健診機関の判定 | 産業医の就業判定 | |
|---|---|---|
| 誰が | 健診をした医療機関の医師 | 産業医(または会社が意見を聴く医師) |
| 答える問い | 病院を受診すべきか・治療すべきか | 今の仕事を続けてよいか |
| 書き方の例 | 異常なし・要経過観察・要精密検査・要治療など(記号や区分は健診機関ごとに違う) | 通常勤務・就業制限・要休業 |
| 社員がすること | 受診・治療 | 会社が決めた働き方で働く |
| 会社がすること | 受診をすすめ、受けたかを確かめる | 措置を決めて実行する |
就業判定は産業医以外でもできる?——50人未満なら、産業医以外の医師に頼める

法律が求めているのは「医師(歯科の項目は歯科医師)の意見を聴くこと」です(労働安全衛生法第66条の4)。誰に聴くかは、事業場の規模で考え方が変わります。
- 50人以上の事業場: 産業医を選任する義務があります。指針では、働く人の健康状態や仕事の中身をくわしく知る立場にある産業医から意見を聴くのが適当とされています。
- 50人未満の事業場: 産業医の選任義務はありません。指針では、健康管理にくわしい医師から意見を聴くこと、そうした医師が相談に応じる地域産業保健センターを活用することが挙げられています。
| 頼める先 | 費用 | 向いている会社 | 気をつける点 |
|---|---|---|---|
| 地域産業保健センター | 無料 | 50人未満で、対象者が少ない会社 | 予約制で、日程は窓口が決める。毎年同じ医師に見てもらえるとは限らない |
| 健診機関の医師 | 健診機関による | 健診と同じ窓口でまとめたい会社 | 就業判定まで受けているかは健診機関ごとに違う。仕事の中身は会社から伝える |
| スポットの産業医 | 1件ごと | 産業医がいない会社・今の判定を確かめたい会社 | 仕事の中身を伝える準備が要る |
| 顧問の産業医 | 月額 | 50人以上の会社、毎年続けて見てほしい会社 | 50人以上は産業医の選任が義務 |
産業医がいない50人未満の会社から就業判定を頼まれたとき、私は1件いくら、という形でお受けしています。多くは、健診の結果を送っていただき、事務所で判定して、意見をお送りする流れです。対象者が多いときは、訪問して判定することもあります。
かかる時間は、1か月ほど見ていただければ十分です。事務所の受け入れの余裕や時期にもよりますが、1か月を超えることはほぼありません。健診日から3か月以内という期限があるので、結果が返ってきたら早めに頼んでください。1人だけ判断に迷っている、今の判定を確かめたい、というときはスポット依頼(1件3万円・税別・意見書込み・最短3営業日)も使えます。
地域産業保健センターの使い方と限界は地域産業保健センターで面接指導は足りる?で解説しています。
よくある質問
Q1. 就業判定は誰がするのですか?
医師がします。50人以上の事業場は産業医から意見を聴くのが適当とされ、産業医がいない50人未満の事業場は、健康管理にくわしい医師や地域産業保健センターの医師に頼めます。判定をもとに、働き方の措置を決めて実行するのは会社です。
Q2. 50人未満の会社でも、就業判定は必要ですか?
必要です。健診で異常の所見があった社員について医師の意見を聴く義務(労働安全衛生法第66条の4)は、会社の規模にかかわらずあります。産業医がいなければ、健康管理にくわしい医師や地域産業保健センター、スポットの産業医に頼めます。
Q3. 健診機関の判定が「要精密検査」なら、働かせてはいけませんか?
いいえ。健診機関の判定は「病院を受診してください」という意味です。仕事をどうするかは就業判定で決めます。「要治療だけれど通常勤務」はふつうにあり、その場合は仕事を続けながら受診してもらいます。
Q4. 就業判定は、いつまでにすればいいですか?
健診を行った日から3か月以内に医師の意見を聴きます。本人が自分で受けた健診の結果を出してきた場合は、出した日から2か月以内です。聴いた意見は健康診断個人票に書きます(労働安全衛生規則第51条の2)。
Q5. 産業医が「通常勤務」と判定したら、病院に行かなくてもいいですか?
いいえ。通常勤務は「仕事はこのままでよい」という意味で、受診が要らないという意味ではありません。健診機関の判定で受診や治療が必要と出ていれば、病院には行ってもらいます。
Q6. 産業医がいない会社が就業判定を頼むと、どのくらい時間がかかりますか?
サンポチャートの場合、健診の結果を送っていただき、事務所で判定して意見をお返しします。1か月ほど見ていただければ十分で、1か月を超えることはほぼありません。地域産業保健センターは無料ですが予約制で、日程は窓口が決めます。
まとめ:就業判定は「仕事をどうするか」の判定。健診の判定とは向きが違う
- 就業判定は、異常の所見があった社員について、医師が通常勤務・就業制限・要休業のどれかを意見すること
- 健診日から3か月以内に医師の意見を聴き、健康診断個人票に書く。措置を決めるのは会社
- 要休業は仕事を止める重い判断。境目の人は、受診してもらってから本人と会って決める
- 健診機関の判定は「受診・治療」、就業判定は「仕事」。要治療でも通常勤務はあり、通常勤務でも受診は要る
- 50人未満で産業医がいなければ、産業医以外の医師・地域産業保健センター・スポットの産業医に頼める

