「今年から健診の担当になりました。パートさんも受けさせるんですか。受けている時間の給料は。結果が届いたら、何をすればいいんでしょう」——人事・総務の方から、毎年のようにいただく相談です。
先に結論です。会社の健康診断の義務は、健診を受けさせて終わりではありません。結果を本人に通知し、健康診断個人票を5年保存し、異常の所見がある社員について3か月以内に医師の意見を聴き、必要なら仕事の内容を変えるところまでが、労働安全衛生法で決まっている会社の仕事です。50人未満の会社でも同じです。
そして、会社が「やっているつもり」でいちばん抜けているのが、この健診のあとの医師の意見聴取(事後措置)です。労働基準監督署が調査に入ったとき、まず見られるところでもあります。健康診断は福利厚生ではなく、会社のリスク管理の仕事です。
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会社の健康診断の義務はどこまで?——受けさせる・知らせる・残す・医師に聴く

会社の義務を、健診の前からあとまで順に並べると次のとおりです。健診の「実施」だけが義務だと思われがちですが、あとの4つも同じく法律で決まっています。
| 会社がすること | いつ・どこまで | 根拠 |
|---|---|---|
| 健康診断を行う | 雇い入れるとき/1年以内ごとに1回/深夜業など特定の業務は配置替えのときと6か月以内ごとに1回 | 労働安全衛生法 第66条・労働安全衛生規則 第43条・第44条・第45条 |
| 結果を本人に通知する | 結果を受け取ったら遅滞なく | 同法 第66条の6・同規則 第51条の4 |
| 健康診断個人票を作って保存する | 5年間 | 同法 第66条の3・同規則 第51条 |
| 異常の所見がある社員について医師の意見を聴く | 健診の日から3か月以内。意見は個人票に書く | 同法 第66条の4・同規則 第51条の2 |
| 医師の意見を踏まえて就業上の措置をとる | 必要があると認めるとき(作業の転換・労働時間の短縮・深夜業の回数を減らす など) | 同法 第66条の5 |
| 労働基準監督署に結果を報告する | 常時50人以上の事業場だけ。定期健診を行ったら遅滞なく(電子申請) | 同規則 第52条 |
罰則(50万円以下の罰金・同法 第120条)の条文に挙がっているのは、健診の実施・結果の記録・本人への通知です。医師の意見聴取は罰則の条文には入っていませんが、法律上の義務であることに変わりはなく、監督署の調査では真っ先に確かめられます。
健診の項目は法律で決まっていて、会社の判断で省けません。省けるのは、身長・腹囲・胸部エックス線・貧血・肝機能・血中脂質・血糖・心電図などの一部を、医師が「必要でない」と認めたときだけです(同規則 第44条第2項)。
健康診断の対象者は?——パートは「1年以上」かつ「4分の3以上」が目安

健診を受けさせる義務がある相手は「常時使用する労働者」です。正社員だけではありません。パート・アルバイト・契約社員も、次の2つをどちらも満たせば対象になります(沖縄労働局「健康診断Q&A」)。
- 1年以上使用される予定、または契約の更新で1年以上引き続き使用されている(深夜業などの特定業務は6か月以上)
- 1週間の労働時間が、同じ職場の通常の労働者の4分の3以上
4分の3に届かない短時間の人にも、実施することが望ましいとされています。迷う人の扱いは、次の表で確かめてください。
| 迷いやすい人 | 扱い |
|---|---|
| パート・アルバイト | 上の2つを満たせば対象。満たさない人も実施が望ましい |
| 派遣社員 | 一般の健診は派遣元が行う。有害業務の特殊健康診断は派遣先が行う(派遣社員の義務の分担) |
| 役員 | 労働者ではない役員は、法律の義務の対象外。従業員として働く部分がある兼務役員は、労働者として扱うことがある |
| 育児休業・療養などで休業中の人 | 休業中は受けさせなくてよい。休業が終わったら速やかに行う |
| 入社前3か月以内に健診を受けた人 | その結果の書面を出してもらえば、同じ項目は雇入れ時の健診を省ける(同規則 第43条ただし書) |
定期健康診断の項目は、既往歴・業務歴、自覚症状・他覚症状、身長・体重・腹囲・視力・聴力、胸部エックス線・喀痰、血圧、貧血、肝機能、血中脂質、血糖、尿、心電図の11項目です(同規則 第44条)。
費用と受診時間の給料は?——費用は会社。時間の給料は一般健診なら「払うのが望ましい」

法律で会社に実施を義務づけている健診なので、費用は会社が負担します。本人に立て替えさせたり、給料から引いたりはしません。
迷いやすいのが、健診を受けている時間の給料です。行政の解釈(昭和47年9月18日 基発第602号)では、一般の健康診断と、有害業務の特殊健康診断で扱いが分かれます。
| 一般の健康診断(雇入れ時・定期など) | 特殊健康診断(有機溶剤・鉛・特定化学物質など) | |
|---|---|---|
| 費用 | 会社が負担 | 会社が負担 |
| 受診している時間 | 当然に給料を払う義務まではない。労使で決める事項だが、会社が払うことが望ましい | 労働時間。所定労働時間内に行うのが原則で、時間外に行えば割増賃金が要る |
一般の健診の時間を出勤扱いにするか、給料をどうするかは、就業規則や健診の案内に書いておきます。決めておけば、毎年同じ質問を受けずに済みます。
法律で決まった項目の外にある検査(がん検診の上乗せ・人間ドックとの差額など)を会社がどこまで出すかは、会社が決めることです。健診で「要再検査」が出たあとの費用は、健康診断の再検査は会社の義務?で解説しています。
いちばん抜けているのは「事後措置」——健康診断は福利厚生ではなく、会社のリスク管理の仕事

健診で会社が「やったつもり」で抜けていることを挙げるなら、やっぱり事後措置です。健診が終わったあと、異常が見られた人について医師の意見を確認するというプロセスがあるのですが、ここをやっていない会社がけっこうあります。
これは、労働基準監督署が入ってきたときに確認するポイントです。まず最初に見られることが多く、引っかかりやすいところなので、ちゃんとやったほうがいい。
意見聴取をしないまま、たとえば高血圧の社員が脳出血で倒れた、長時間労働が重なっていた、作業中の事故が起きた——となると、会社も責任を問われることになります。健診で異常が分かっていたのに、医師に聴かず、仕事も変えていなかったからです。
健康診断は、義務だから粛々とやっていただくものです。ただ、受けさせただけでは意味がありません。そのあとの工程まで回して初めて、会社のリスク管理になります。だから私は、健診の担当になった方に「健康診断は福利厚生じゃなくて、会社のリスク管理の仕事です」とお伝えしています。
| やったつもりの会社 | リスク管理になっている会社 |
|---|---|
| 健診を受けさせ、結果を本人に配って終わり | 異常の所見がある人の一覧を、3か月以内に医師に見せる |
| 判定の「要精密検査」の文字だけを見て、人事が様子見を決める | 医師が「通常勤務/就業制限/要休業」を判定し、個人票に意見を書く |
| 残業や夜勤はそのまま | 医師の意見を踏まえて、残業・夜勤・運転などを見直す |
もう一つ抜けやすいのが雇入れ時の健康診断です。定期健診はしていても、入社のときにしていない会社があります。入社前3か月以内の健診の結果を出してもらう方法もあるので、入社の手続きの書類に入れておくと漏れません。
医師の意見聴取の進め方は健康診断の事後措置とはで、就業判定の3つの区分は就業判定とは?で解説しています。
健康診断を受けない社員にはどうする?——業務命令として受けてもらってよい

労働安全衛生法は、会社に健診の実施を義務づけるのと同時に、労働者にも受ける義務を定めています(同法 第66条第5項)。健診は業務命令なので、受けていただかないといけません。就業規則に沿って、きちんと受けてもらって大丈夫です。
「プライバシーなので出したくない」と言われることもあります。ただ、法律で決まった項目は、最低限出してもらわなければならないものです。どうしても会社の指定した医療機関で受けたくない人には、ほかの医療機関で同じ項目を受けて、その結果を出してもらうこともできます(同項ただし書)。人間ドックや市町村の健診で代える場合は、足りない項目を追加で受けてもらいます。
- 受ける義務があること、費用は会社が出すことを伝えて、受診を促す
- 受けたくない理由を聴く(日程・医療機関・検査への不安など)。別の医療機関で受けて結果を出す方法も伝える
- 就業規則の定め(受診の義務・従わないときの扱い)を示し、期限を決めて改めて命じる
- それでも受けないときの懲戒は、ここまでの手を尽くしてから
労働局の案内でも、受診命令に従わない労働者には懲戒処分で対処することもできるとしたうえで、懲戒はできるだけ避け、受診の督促・本人の弁明を聴く・懲戒の説明と予告・社内規定の整備など、できる限りの手段を尽くすよう求めています(沖縄労働局「健康診断Q&A」)。
健診の結果を会社に出してもらう範囲と取り扱いは、健康診断結果は会社に提出が必要?もあわせてご覧ください。
50人未満の会社は何が違う?——報告がないだけで、医師の意見を聴く義務は同じ

常時50人未満の事業場で要らなくなるのは、労働基準監督署への定期健康診断結果報告(同規則 第52条)と、産業医の選任です。健診の実施・本人への通知・5年保存・医師の意見聴取・就業上の措置は、50人以上の会社と同じ義務です。
| 会社がすること | 50人以上 | 50人未満 |
|---|---|---|
| 健診の実施・本人への通知・個人票の5年保存 | 義務 | 義務 |
| 異常の所見がある人について医師の意見を聴く(3か月以内) | 義務(産業医に) | 義務(医師に) |
| 医師の意見を踏まえた就業上の措置 | 義務 | 義務 |
| 監督署への定期健康診断結果報告 | 義務 | なし |
| 産業医の選任 | 義務 | なし |
50人未満の事業場は、監督署に届け出る(報告する)義務がないぶん、健診のあとをやっていないことが特に多いです。でも、監督署は突っ込んできます。調査で「健診の結果を、誰にも見せていない」と分かって、どうしようと相談に来られる会社はしばしばあります。
そのときの頼み先は2つです。地域産業保健センター(50人未満の事業場は、健康診断の結果についての医師からの意見聴取などを無料で使えます)に行くこともできますし、産業医や医師に相談していただくこともしばしばあります。地域産業保健センターで足りること・足りないことは地域産業保健センターで面接指導は足りる?で、50人未満の会社が今やっておくことは従業員50人未満の会社に産業医は必要?で解説しています。
まとめ:健康診断は「受けさせて終わり」ではなく、医師の意見を聴くまでが会社の義務
- 会社の義務は、健診の実施・本人への通知・個人票の5年保存・医師の意見聴取(3か月以内)・就業上の措置。50人以上は監督署への報告も
- パート・アルバイトは「1年以上の雇用見込み」かつ「通常の労働者の4分の3以上」で対象。休業中の人は復帰後に
- 費用は会社が負担。受診時間の給料は、一般健診は払うのが望ましい・特殊健診は労働時間
- いちばん抜けやすいのは事後措置(医師の意見聴取)。監督署がまず見るところで、事故が起きれば会社の責任が問われる
- 受けない社員には、業務命令として就業規則に沿って受けてもらう。別の医療機関で受けて結果を出す方法もある
- 50人未満は報告と産業医の選任がないだけ。医師の意見は地域産業保健センターや外部の医師に頼める
- 健康診断は福利厚生ではなく、会社のリスク管理の仕事
よくある質問
Q1. パートやアルバイトにも健康診断を受けさせる義務はありますか?
1年以上使用される予定(契約の更新で1年以上続いている場合を含む)で、1週間の労働時間が通常の労働者の4分の3以上なら、正社員と同じく対象です。4分の3に届かない人にも、実施することが望ましいとされています。
Q2. 健康診断を受けている時間の給料は払わないといけませんか?
一般の健康診断(雇入れ時・定期など)は、当然に払う義務まではなく労使で決める事項ですが、会社が払うことが望ましいとされています(昭和47年9月18日 基発第602号)。有害業務の特殊健康診断は労働時間にあたるので、時間外に行えば割増賃金が要ります。費用はどちらも会社が負担します。
Q3. 健康診断を拒否する社員を懲戒できますか?
労働者にも受ける義務があり(労働安全衛生法 第66条第5項)、就業規則に沿って受けるよう命じることができます。受診命令に従わない場合に懲戒で対処することもできますが、その前に受診の督促・理由を聴く・懲戒の説明と予告など、できる限りの手を尽くしてください。会社の指定以外の医療機関で受けて、結果を出してもらう方法もあります。
Q4. 50人未満の会社は、健康診断の結果を何もしなくていいですか?
いいえ。50人未満で要らないのは、監督署への定期健康診断結果報告と産業医の選任だけです。異常の所見がある社員について、健診の日から3か月以内に医師の意見を聴き、必要なら仕事の内容を変える義務は同じです。地域産業保健センターや外部の医師に頼めます。
Q5. 健康診断の結果は何年保存すればいいですか?
健康診断個人票を作って5年間保存します(労働安全衛生規則 第51条)。医師から聴いた意見も、個人票に書いておきます(同規則 第51条の2)。

