「来月、新しい人が入ります。健康診断は入社前に受けてもらうんですか、後ですか。学校の健康診断の結果をもらったんですが、これで足りますか」——入社の手続きをする人事・総務の方から、よくいただく相談です。
先に結論です。雇入れ時の健康診断は、入社の直前か直後に、法律で決まった11項目を省略なしで行います。入社前3か月以内に受けた健診の結果を出してもらえば、同じ項目は代えられます。ただ、学校の健康診断は採血が抜けていたり、身体測定だけだったりして、足りないことがよくあります。費用は会社が負担し、結果は医師に見てもらって最初の配属に生かします。健診の結果で採用・不採用を決めてはいけません。
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雇入れ時の健康診断とは?——入社の直前か直後に、11項目を省略なしで

雇入れ時の健康診断は、会社が常時使用する労働者を雇い入れるときに行う健康診断です(労働安全衛生規則 第43条)。会社がすることを並べると、次のとおりです。
| 決まっていること | 中身 | 根拠 |
|---|---|---|
| いつ | 雇い入れるとき。法令に「何日以内」の期限はなく、入社の直前か直後に行う | 同規則 第43条・労働局の案内 |
| 誰に | 常時使用する労働者。パートも、1年以上雇う予定で、労働時間が通常の労働者の4分の3以上なら対象 | 同規則 第43条・労働局の案内 |
| 何を | 法律で決まった11項目を省略なしで。定期健診のような、年齢などで省ける決まりはない | 同規則 第43条 |
| 代えられるとき | 入社前3か月以内に受けた健診の結果の書面を出してもらえば、同じ項目は省ける | 同条ただし書 |
| 費用 | 会社が負担する | 昭和47年9月18日 基発第602号 |
| 結果のあと | 本人に通知・健康診断個人票を5年保存・異常の所見がある人は医師の意見を聴く | 労働安全衛生法 第66条の4・第66条の6・同規則 第51条 |
| 労基署への報告 | 要らない(報告は定期健診だけ) | 同規則 第52条 |
法律で決まった11項目は、次のとおりです。
- 既往歴・業務歴の調査
- 自覚症状・他覚症状の有無の検査
- 身長・体重・腹囲・視力・聴力(1,000ヘルツと4,000ヘルツ)の検査
- 胸部エックス線検査
- 血圧の測定
- 貧血検査(血色素量・赤血球数)
- 肝機能検査(GOT・GPT・γ-GTP)
- 血中脂質検査(LDLコレステロール・HDLコレステロール・中性脂肪)
- 血糖検査
- 尿検査(尿中の糖・蛋白)
- 心電図検査
定期健康診断では、40歳未満の人の血液検査や心電図などを、医師が必要でないと認めれば省けます(同規則 第44条第2項)。雇入れ時の健康診断には、この省略の決まりがありません。若い人でも、11項目すべてを行います。
会社の健康診断の義務全体(定期健診・報告・50人未満の違い)は、会社の健康診断の義務はどこまで?で解説しています。
いちばん多い間違いは「項目が足りない」——学校の健康診断で済ませていませんか

入社時の健診で、会社がやったつもりで間違えていることを挙げるなら、まず11項目を省略なしでやらなければいけないという点です。ここがいちばんのポイントです。
新卒の方などから、学校の健康診断の結果を出してもらうこともけっこうあります。ところが、その結果を見ると採血が抜けていたり、身体測定だけになっていたりする。それでも通してしまっている会社が、時々あります。
雇入れ時の健康診断として使えるのは、11項目のうち、出してもらった書面にある項目だけです。学校の健診では、結局足りないということになってしまうことが多いので、採血もする、病院での健康診断を受けていただくのがよいと思います。
| 出してもらった書面 | 雇入れ時の健診に使えるか |
|---|---|
| 前の会社の定期健診(入社前3か月以内・11項目そろっている) | 使える。省いた項目があれば、その項目だけ受けてもらう |
| 人間ドック(入社前3か月以内) | 使える。11項目に当たる検査が入っているかを確かめる |
| 学校の健康診断 | 採血・心電図などが入っていないことが多い。足りない項目は受けてもらう |
| 3か月より前に受けた健診 | 使えない。雇入れ時の健診を受けてもらう |
そもそも、入社時の健診をやっていない会社もあります。定期健診はしていても、入社のときにしていない——というのは、労働基準監督署の調査で見つかりやすい抜けです。入社の手続きの書類に「健康診断の結果(入社前3か月以内・11項目)」を入れておくと漏れません。
費用は会社、パートも対象——「入社前に自己負担で」はしない

雇入れ時の健康診断は、法律で会社に実施を義務づけている健診です。行政の解釈では、費用は当然、会社が負担すべきものとされています(昭和47年9月18日 基発第602号)。「入社前に自分で受けて、結果を持ってきてください」と頼むこと自体はできますが、その費用を本人に払わせるのは、会社の義務の費用を本人に回すことになります。立て替えてもらったら、会社が払います。
健診を受けている時間の給料は、一般の健康診断では当然に払う義務まではなく労使で決める事項ですが、会社が払うことが望ましいとされています(同通達)。入社後に受けてもらうなら、勤務時間内に行うのが分かりやすいです。
パート・アルバイト・契約社員も、次の2つをどちらも満たせば対象です(石川労働局「労働安全衛生法に基づく健康診断に関するFAQ」)。
- 1年以上使用される予定(深夜業などの特定業務は6か月以上)
- 1週間の所定労働時間が、同じ業務をする通常の労働者の4分の3以上
4分の3に届かなくても、おおむね2分の1以上なら実施が望ましいとされています。派遣社員の一般の健診は派遣元が行います(派遣社員の義務の分担)。
結果は医師に見てもらう——血圧・血糖・心電図を見て、最初の配属を決める

雇入れ時の健康診断も、受けて終わりではありません。異常の所見がある人については、定期健診と同じく医師の意見を聴き(労働安全衛生法 第66条の4)、必要なら仕事の内容を考えます。入社時の健診は、その人を最初にどこに配属するかを考えるための材料でもあります。
入社時の結果で私が気になるのは、やっぱり血圧と血糖値、それから心電図です。これで仕事に差をつけるわけではありません。ただ、危ないことに関しては、注意しながら配置する。これはすごく大事なことだと思います。
| 気になる結果 | 配属を考えるときに確かめたいこと | くわしく |
|---|---|---|
| 血圧がとても高い | 治療を始めているか。夜勤・長時間の残業が多い仕事に、いきなり入れてよいか | 高血圧と夜勤の基準 |
| 血糖値が高い | 治療の状況。薬による低血糖が仕事中に起きたときに危なくないか(車の運転・高い所の作業など) | 糖尿病と就業制限 |
| 心電図の異常 | 精密検査が要るか。結果が出るまで、一人で行う危ない作業を避けるか | 心電図異常と就業制限 |
どの結果なら、どの仕事に注意が要るか。ここは人事だけで決めず、産業医と相談していただくのがいちばんよいと思います。医師は「通常勤務」「就業制限」「要休業」の区分で意見を出し、会社はその意見を健康診断個人票に書いて残します(就業判定とは?)。医師の意見を聴く手順は健康診断の事後措置とはで解説しています。
健診で採否は決めない——内定者が受けてこないときは「配属できない」と伝える

「採用を決める前に、健康診断の結果を見たい」という相談もあります。でも、健康診断で採用・不採用を決めることは、してはいけません。厚生労働省も、合理的・客観的に必要性が認められない採用選考時の健康診断(健康診断書を出させることを含む)を、就職差別につながるおそれがある事項に挙げています。
手続きとしては、採用が決まってから、健康診断の結果を出していただくことになります。健診機関で受けてもらって結果を持ってきていただく方法もできますし、採用が決まったあと、入社前に受けてもらってもかまいません。ただし、その結果で採用を判断してはいけない、というのは同じです。
一方で、内定者が健診を受けてこないのは問題です。結果がないと、どこに配属してよいかが判断できなくなってしまいます。ここは、ちゃんと粛々とやっていただく必要があります。
- 内定の通知や入社の案内に「健康診断の結果(入社前3か月以内・11項目)を出してもらうこと」「費用は会社が出すこと」を書いておく
- 出てこない人には、配属を決めるために必要だと伝え、受ける医療機関と期限を示す
- 入社後も出てこなければ、業務命令として受けてもらう(労働者にも受ける義務がある・労働安全衛生法 第66条第5項)
受けない社員への対応の線は、会社の健康診断の義務はどこまで?の「受けない社員」の章にまとめています。
2027年4月から変わること——腎機能の検査(血清クレアチニン)が加わる

2027年4月1日から、健康診断の項目が一部変わります(令和8年厚生労働省令第89号・令和8年4月28日 基発0428第9号)。雇入れ時の健康診断に関わるのは、次の点です。
| 変わること | 雇入れ時の健康診断 | 定期健康診断 |
|---|---|---|
| 血清クレアチニン検査(腎機能)を追加。eGFRで評価する | 必ず行う(省略できない) | 行う。40歳未満は医師が認めれば省略可 |
| 喀痰検査の廃止 | もともと項目にない(胸部エックス線だけ) | なくなる |
| 肝機能検査の表記 | GOT・GPT・γ-GTP → AST・ALT・γ-GT | 同じく AST・ALT・γ-GT に |
2027年4月以降に入社する人の健診は、健診機関のコースに血清クレアチニンが入っているかを確かめてください。前の会社や学校の健診の結果で代えるときも、2027年4月以降は、この検査が入っているかを見ます。
まとめ:入社時の健診は「11項目を全部」と「結果を医師に見てもらう」
入社の手続きをする人事の方に、これだけは覚えておいてほしいのは2つです。入社時の健康診断は、法定の11項目を全部やらなければいけないこと。そして、その結果を医師に見てもらう(評価する)ことです。
- 雇入れ時の健康診断は、入社の直前か直後に、法定の11項目を省略なしで行う
- 入社前3か月以内の健診の結果で代えられるのは、書面にある項目だけ。学校の健康診断は採血などが足りないことが多い
- 費用は会社が負担。パートも「1年以上・4分の3以上」で対象
- 結果は本人に通知し、個人票を5年保存。労基署への報告は要らない
- 血圧・血糖・心電図は医師に見てもらい、危ない仕事は注意しながら配属する
- 健診で採否は決めない。内定者には「配属を決めるために必要」と伝えて受けてもらう
- 2027年4月から血清クレアチニン検査が加わる(雇入れ時は省略できない)
よくある質問
Q1. 雇入れ時の健康診断は、入社の何日前・何日後までに行えばいいですか?
法令に「何日以内」という期限はありません。雇い入れるときに行うもので、入社の直前か直後に行います。入社前に受けてもらう場合は、入社前3か月以内の結果であれば、雇入れ時の健康診断の項目に代えられます(労働安全衛生規則 第43条ただし書)。
Q2. 入社前3か月を過ぎた健康診断の結果は使えますか?
使えません。3か月を過ぎていれば、雇入れ時の健康診断を受けてもらいます。3か月以内でも、書面に載っていない項目は追加で受けてもらいます。
Q3. 学校の健康診断の結果で代えられますか?
入社前3か月以内なら、載っている項目は代えられます。ただ、学校の健康診断は採血や心電図が入っていない、身体測定だけ、ということが多く、11項目には足りないのがふつうです。足りない項目は、病院や健診機関で受けてもらってください。
Q4. 雇入れ時の健康診断を本人の自己負担にしてもいいですか?
法律で会社に実施を義務づけている健診なので、費用は会社が負担すべきものとされています(昭和47年9月18日 基発第602号)。入社前に受けてもらう場合も、費用は会社が出してください。
Q5. 雇入れ時の健康診断の結果は、労働基準監督署に報告しますか?
報告は要りません。労働基準監督署への報告は、常時50人以上の事業場の定期健康診断(特定業務従事者の健診を含む)だけです(労働安全衛生規則 第52条)。結果は健康診断個人票にして5年間保存します(同規則 第51条)。
Q6. 健康診断の結果を見て、採用を取り消せますか?
健康診断の結果で採用・不採用を決めてはいけません。雇入れ時の健康診断は、採用が決まった人の配属や入社後の健康管理のためのものです。気になる結果があれば、医師の意見を聴いて、配属で注意することを決めます。

