「高ストレス者って、何点から該当するの?」——結論から言うと、厚生労働省が示す標準的な数値基準(57項目の調査票・合計点数方式)では、①心身のストレス反応(B領域)が77点以上、または②仕事のストレス要因(A)+周囲のサポート(C)の合計が76点以上かつBが63点以上のいずれかで高ストレス者と判定されます。目安は受検者のおおむね10%。ただしこの基準は「国が全社一律に決めたもの」ではなく、各社が実施者の意見を聴いて自社で決めるものです。この記事では、数値基準の中身・2つの判定方式の違い・割合の考え方・会社としての決め方を、現役産業医が整理します。
判定基準は「国が決める」のではなく「会社が決める」
意外に知られていませんが、高ストレス者の判定基準は法律で一律に固定されているわけではありません。しくみとしては、実施者(医師・保健師など)の提案・意見を踏まえ、衛生委員会等で調査審議したうえで、事業者が決定し、社内規程に明記する——という流れです(50人未満で衛生委員会がない事業場は、関係労働者の意見を聴く場を活用します)。
とはいえ、ゼロから独自基準を作る必要はありません。厚生労働省の「ストレスチェック制度実施マニュアル」が標準的な数値基準を示しており、実務ではこの標準基準をそのまま採用するのが一般的です。実施者のしくみはストレスチェックの実施者とは(保健師も担当できる)で解説しています。
標準の数値基準——合計点数方式(何点から高ストレスか)
標準の「職業性ストレス簡易調査票(57項目)」は、3つの領域で構成されます。各設問は1〜4点の4段階です(点数が高いほどストレスが高い向きで集計)。
| 領域 | 内容 | 設問数 | 最高点 |
|---|---|---|---|
| A | 仕事のストレス要因(仕事量・裁量・人間関係など) | 17問 | 68点 |
| B | 心身のストレス反応(イライラ・疲労感・不安・抑うつ・身体愁訴など) | 29問 | 116点 |
| C | 周囲のサポート(上司・同僚・家族) | 9問 | 36点 |
このうち、高ストレス者と判定されるのは次のいずれかに該当する場合です。
- 基準①: B領域(心身のストレス反応)の合計が77点以上——すでに心身に反応が出ている人
- 基準②: A領域+C領域の合計が76点以上(最高104点)、かつB領域が63点以上——ストレス要因が強く支えが乏しいうえに、反応も出始めている人
ポイントは、基準②の存在です。「まだ症状は基準①ほどではないが、置かれた環境が厳しい人」を先回りで拾う設計になっています。症状が完成してからではなく、環境要因の段階で網にかける——予防の思想が入った基準です。
素点換算表方式——より精密だが「点数の向きが逆」に注意
マニュアルにはもう一つ、素点換算表を使う方法が示されています。尺度ごとの素点を5段階の評価点に換算して判定する方式で、性別による感じ方の差などを補正できるため、より精密な判定ができます。この方式では「B領域の評価点合計が12点以下」または「A+Cの評価点合計が26点以下かつBが17点以下」が高ストレスの目安です。
高ストレス者の割合は「約10%」——なぜ10%なのか
標準基準は、高ストレス者が受検者のおおむね10%程度になるよう設計されています。「うちは12%だった。多すぎるのでは?」と心配される担当者もいますが、業種・職場環境・その年の繁忙で数%の振れは普通にあります。逆に大きく外れる場合(20%超・3%未満など)は、職場環境そのものか、回答のされ方(正直に答えられていない可能性)を疑うサインです。受検率や回答の質の上げ方は受検率を上げる実務ポイントをご覧ください。
【筆者の現場から】「10%」という数字の意味を、面談する側から補足します。高ストレス判定された方が全員メンタル不調というわけではありません。実際に面接指導でお会いする方の主訴は「ストレスと一度向き合いたかった」「話を聞いてほしかった」という比較的軽いものが多く、本当に危ない状態の方は面談に来る方の10〜20人に1人ほどです。つまり判定基準は「病気の人を探す網」ではなく、「危ない1人を確実に拾うために、少し広めに張った網」。10%が多く感じられても、それは設計どおりです。
基準を自社で動かしてもいいのか——実務の答え
制度上、衛生委員会等の審議を経れば基準の調整は可能です。ただし実務の答えはシンプルで、「迷ったら標準基準のまま」です。
- 基準を緩める(該当者を減らす)と——拾うべき人を拾えなくなる。もし漏れた人が後に不調で倒れれば、「基準を意図的に狭めていた」ことが安全配慮義務の観点で会社に不利に働きかねません
- 基準を厳しくする(該当者を増やす)と——面接指導の対象候補が増え、医師の面談体制が追いつかなくなる。体制が回らない基準は絵に描いた餅です
標準基準は「拾い漏れの少なさ」と「運用可能な人数」のバランスで設計されています。変えるなら、実施者(医師・保健師)と相談のうえ、理由を衛生委員会の記録に残してからにしてください。
判定された後の流れ——基準決めとセットで考える
判定基準を決めることは、ゴールではなく入口です。高ストレスと判定された人には結果が通知され、本人が申し出れば医師による面接指導につながります(全体像は面接指導の完全ガイド)。実務では申出率が低いため申出の勧奨のしくみが重要で、そして申出が来たときに面接指導を行う医師が確保されているかが最後の関門になります。10%の高ストレス者のうち誰かが手を挙げたとき、動ける体制——基準の議論は、そこまでセットで初めて意味を持ちます。
まとめ
- 標準基準(合計点数方式)は「B領域77点以上」または「A+C 76点以上かつB 63点以上」のいずれか
- 素点換算表方式はより精密だが点数の向きが逆(低いほど悪い)。自社の方式は委託先・実施者に確認
- 高ストレス者は受検者の約10%になる設計。多少の振れは正常、大きな外れは職場環境か回答の質のサイン
- 基準は衛生委員会等の審議を経て会社が決める。迷ったら標準のまま——緩めるのはリスク、厳しくするのは体制が持たない
- 基準決めの先にある「申出→医師の面接指導」の体制までセットで設計する
一次情報は厚生労働省「数値基準に基づいて高ストレス者を選定する方法(実施マニュアルの解説)」(PDF)および厚生労働省のストレスチェック制度実施マニュアルで確認できます。より詳しい実務は、代表産業医・角田拓実の著書『図解入門ビジネス 職場メンタルヘルスの基本と対応がよくわかる本』(秀和システム新社/紹介記事)でも解説しています。
あわせて読みたい:ストレスチェックの面接指導と運用
ストレスチェックの面接指導や実施・運用について、あわせてご覧ください。
- ストレスチェック面接指導の完全ガイド|義務・流れ・就業措置
- ストレスチェックの面談で何を話す?聞かれること・当日の流れを産業医が解説
- 高ストレス者が面接指導を申し出ないときの対応と勧奨の実務
- ストレスチェックの実施者とは?保健師も担当できる理由と要件
よくある質問
Q. 高ストレス者は何点から該当しますか?
標準の合計点数方式では、①心身のストレス反応(B領域・29問)の合計が77点以上、または②仕事のストレス要因(A)と周囲のサポート(C)の合計が76点以上かつBが63点以上、のいずれかに該当すると高ストレス者と判定されます。素点換算表方式を採用している場合は基準値が異なり、点数の向きも逆(低いほど悪い)です。
Q. 高ストレス者の割合はどのくらいが普通ですか?
標準基準は受検者のおおむね10%が該当するよう設計されています。業種や繁忙状況により数%の振れは正常範囲です。20%を超える・3%を下回るなど大きく外れる場合は、職場環境の問題か、従業員が正直に回答できていない可能性(匿名性への不信など)を確認するサインです。
Q. 判定基準は会社ごとに変えてもいいのですか?
可能です。実施者の意見を踏まえ、衛生委員会等で調査審議したうえで事業者が決定し、社内規程に明記します。ただし実務では標準基準をそのまま採用するのが一般的で、基準を緩めることは拾い漏れのリスク、厳しくすることは面談体制の負荷につながるため、変更する場合は理由を記録に残すことをおすすめします。
Q. 高ストレスと判定されたことは会社に知られますか?
知られません。ストレスチェックの結果(高ストレス判定を含む)は本人に直接通知され、本人の同意なく会社に提供されることはありません。会社が知るのは、本人が面接指導を申し出た場合など、本人の意思に基づく場面に限られます。

