ストレスチェックを外部に委託したい。あるいは、今の委託先にどこか不満がある——委託先選びで見るべきは、実は料金表ではありません。私は委託を受ける側の産業医として、他社からの「乗り換え」のご相談も受けますが、乗り換えの理由はほぼ決まっています。「相談してもすぐ反応してくれない」「高ストレス者が出たのに、医師の面接指導がなかなか受けられない」——つまり、料金では見えない部分でつまずいているのです。この記事では、実際にあった失敗例から逆算した5つの比較ポイントと、意外と知られていない「部分委託」という選択肢を解説します。
外部委託できる範囲——どこまで任せられるのか

まず全体像から。ストレスチェックの実務は、大きく4つのパーツに分かれ、それぞれ外部に委託できます。
- 実施者——医師・保健師など、法律上チェックの実施に必要な専門職(実施者のしくみはこちら)
- 実施の実務——調査票の配布・回収(Web/紙)、結果の本人通知、受検管理
- 高ストレス者への面接指導——医師のみが実施可能。ここが一番の詰まりどころ(後述)
- 集団分析・フィードバック——部署ごとの傾向分析と、職場改善への示唆(努力義務)
重要なのは、この4つが「1社で全部」とは限らないということです。安価なツール型サービスは「実施の実務」だけで、実施者や面接指導は含まれない建て付けのものがあります。無料ツールも同様です。「委託したはずなのに、実施者は自社で探してください、と言われた」——ここが最初の落とし穴です。
実際にあった「乗り換え」の理由——失敗例から先に知る

【筆者の現場から】委託先の乗り換えを相談される理由は、だいたい次の3つに集約されます。1つ目は「小回りが利かない」。ちょっとした相談に対応してもらえず、決まったパッケージの外に出られない。2つ目は「すぐ相談しても反応してくれない」——これは本当によく聞きます。3つ目が一番深刻で、「高ストレス者が出たのに、医師による面接指導がなかなか受けられなかった」。面接指導が委託先の中に内製されておらずサポートしてもらえない、あるいは順番待ちで面談がずっと先になってしまう。産業医が自社にいる会社ならまだ巻き取れますが、産業医のいない50人未満の会社では、ここで完全に止まってしまいます。
面接指導には「申出からおおむね1ヶ月以内」という実施の目安があります。委託先が動いてくれない間に期限が近づく——このパターンを避けることが、委託先選びの最大の目的だと言ってもいいくらいです。
選び方——5つの比較ポイントと「委託前の質問」

失敗例から逆算すると、見積もりを並べたときに比較すべきは次の5点です。それぞれ、契約前にそのまま使える質問文を添えます。
- ①実施者は含まれるか——「実施者(医師・保健師)は御社で確保されますか?」。ツール提供のみのサービスだと自社で探すことになり、これがかなり大変です
- ②医師の面接指導まで対応できるか・何日で組めるか——「高ストレス者が申出をしたら、面接指導は最短何営業日で実施できますか?」。ここが内製されていない委託先が、乗り換え理由のワースト1です
- ③レスポンスと小回り——「イレギュラーな相談(実施時期の変更・対象者の追加など)には誰がどのくらいの速さで対応してくれますか?」。契約前の見積もり段階の反応速度が、契約後の速さの予告編です
- ④結果の取り扱いの運用サポート——「結果の保管・同意の取り方・社内で誰が何を見られるかの設計まで支援してもらえますか?」。プライバシー設計は小規模の会社ほど詰まります
- ⑤会社へのフィードバックがあるか——「集団分析の結果は、どんな形で会社に返してもらえますか?」。やりっぱなしで数字だけ返ってくるのか、職場改善の示唆までもらえるのかで、制度の価値が大きく変わります
この5つの質問に即答できない委託先は、契約後も同じ速度感だと考えたほうが安全です。費用の見方(実施費と面接指導費を分けて比較する)はストレスチェック面接指導の費用相場で詳しく解説しています。
「部分委託」という選択肢——1社に全部任せなくていい
意外と知られていませんが、「チェックの実施はA社のツール、高ストレス者の面接指導は別の医師」という組み合わせは、実務ではごく普通にあります。事業者によって、手配のスピード感も、どんな医師が面接指導を担当するのかも、実はかなり違います。だから「チェックの管理が得意な会社」と「面接指導が速い医師」を組み合わせるのは、理にかなった選択です。
【筆者の現場から】実は私たち自身も、他のストレスチェック事業者と提携して動くことがあります。チェックの実施・管理はその事業者、高ストレス者への医師の面接指導は私たち——という分担です。お互いの得意分野を持ち寄るほうが、会社にとっても速くて質の高いサービスになる。1社で抱え込む必要はどこにもありません。部分委託を検討するときの注意点は2つだけ——「結果(個人情報)の受け渡しルートを事前に決めておくこと」「どちらが何に責任を持つかを契約で明確にすること」です。
50人未満の会社は「面接指導の受け皿」を最優先に
2028年4月1日からは、50人未満の事業場もストレスチェックが義務化されます。これから委託先を探す会社に強くお伝えしたいのは、産業医がいない会社ほど「②面接指導まで対応できるか」を最優先で確認してほしいということです。チェックだけなら、正直どの委託先でも回ります。差が出るのは、高ストレス者が出た「その後」です。産業医のいる会社なら委託先の穴を産業医が埋められますが、いない会社では埋める人がいません。
義務化までの準備スケジュールは50人未満の義務化はいつから?準備ガイド、面接指導を頼む医師がいない場合の対処は面接指導の外部委託・スポット依頼の解説をご覧ください。
まとめ:料金表より「高ストレス者が出た後」で選ぶ
- 乗り換え理由の定番は「反応が遅い」「小回りが利かない」「面接指導が受けられず面談がずっと先になる」
- 比較は5点: 実施者込みか/面接指導まで何日か/レスポンス/結果取り扱いの支援/フィードバック。契約前の質問に即答できるかで見極める
- 「チェックはツール会社・面接指導は別の医師」の部分委託は実務で普通にある。組み合わせで弱点を補える
- 産業医のいない50人未満の会社は「面接指導の受け皿」を最優先に。2028年4月の義務化前に体制を
一次情報は厚生労働省(ストレスチェック制度導入マニュアル、小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル)やe-Gov法令検索(労働安全衛生法第66条の10)で確認できます。より詳しい実務は、代表産業医・角田拓実の著書『図解入門ビジネス 職場メンタルヘルスの基本と対応がよくわかる本』(秀和システム新社/紹介記事)でも解説しています。
あわせて読みたい:ストレスチェックの面接指導と運用
ストレスチェックの面接指導や実施・運用について、あわせてご覧ください。
- ストレスチェック面接指導の完全ガイド|義務・流れ・就業措置
- ストレスチェック面接指導の費用相場|スポット外部委託は1件1.5万〜3万円
- ストレスチェック面接指導の医師がいない|外部委託・スポット依頼を解説
- ストレスチェックの実施者とは?保健師も担当できる理由と要件
よくある質問
Q. ストレスチェックはどこまで外部委託できますか?
実施者(医師・保健師)、調査票の配布・回収などの実務、高ストレス者への医師による面接指導、集団分析まで、実務のほぼすべてを外部委託できます。ただしサービスによって含まれる範囲が大きく異なり、ツール提供のみで実施者や面接指導が含まれない建て付けもあるため、契約前の確認が必要です。
Q. 委託先選びで一番重要なポイントは何ですか?
「高ストレス者が出た後」の対応力です。実際の乗り換え理由で多いのは、医師による面接指導が委託先に内製されておらず、面談が大幅に先延ばしになるケースです。面接指導には申出からおおむね1ヶ月以内という実施の目安があるため、「最短何営業日で医師の面接指導を組めるか」を契約前に確認してください。
Q. チェックと面接指導を別の会社に頼んでもいいですか?
問題ありません。「チェックの実施はツール会社、高ストレス者への面接指導は別の医師」という部分委託は実務で普通に行われています。事業者同士が提携して分担するケースもあります。注意点は、結果(個人情報)の受け渡しルートと、どちらが何に責任を持つかを事前に明確にしておくことです。
Q. 無料ツールで済ませてもいいですか?
無料ツールは調査票の実施部分には使えますが、法律上必要な実施者(医師・保健師など)や、高ストレス者への面接指導は含まれません。その部分を自社でどう確保するかをセットで決めておかないと、「チェックはしたが、その後が回らない」状態になります。

