「残業が80時間を超えた社員に面談の案内を出しているのに、誰も申し出てこない」「案内文に何を書けばいいのか分からない」——人事・総務の方から、毎月のように聞く悩みです。
先に結論です。来てもらえる案内文に必要なのは、うまい言い回しではありません。「何のための面談か」という目的と、「面談を受けると何が変わるのか」を書くことです。「制度で決まっているので受けてください」とだけ書いた案内は、面談そのものを形だけのものにしてしまいます。
この記事では、現役産業医として毎月の面接指導を担当している立場から、案内文に入れる項目、そのまま使える文例5つ、書いてはいけない一文をまとめます。制度の全体像と面談の進め方は長時間労働の面接指導とは?で解説しています。
先に確認——会社に義務があるのは「通知」と「申出があったときの面談」

| 場面 | 会社の義務 | 根拠 |
|---|---|---|
| 時間外・休日労働が月80時間を超えた | 本人に、超えた時間に関する情報を速やかに通知する | 労働安全衛生規則52条の2第3項 |
| 80時間を超えた人の情報 | 産業医に提供する | 労働安全衛生規則14条の2 |
| 80時間超で疲労の蓄積があり、本人が申し出た | 医師による面接指導を遅滞なく行う(おおむね1か月以内) | 労働安全衛生法66条の8 |
| 研究開発業務で月100時間を超えた | 申出がなくても面接指導を行う(罰則あり) | 労働安全衛生法66条の8の2 |
一般の労働者は本人の申出が前提です。だからこそ、通知と一緒に出す案内文の出来が、面談が機能するかどうかを左右します。
来てもらえる案内文の条件——目的と「面談で変わること」を書く

もう一つは、「産業医に相談しても意味がない」という思い込みを解くことです。産業医は面談の結果をもとに、就業制限という形で残業時間に医師としてストップをかける(ドクターストップ)ことができます。こうしたことが実際に起こり得ると定期的に周知しておくと、「意味のある面談なんだ」と理解してもらえます。
| 案内文に入れる項目 | 書き方のポイント |
|---|---|
| ①あなたの時間外・休日労働の時間 | 「○月は○時間でした」と数字で。通知の義務を兼ねる |
| ②面談の目的 | 脳・心臓の病気とメンタルヘルス不調を防ぐため。評価や叱責の場ではないこと |
| ③面談で変わること | 医師の意見で、残業の制限や業務の調整につながり得ること |
| ④秘密の扱い | 話した内容がそのまま会社に伝わることはない。会社に伝わるのは就業上必要な範囲の意見だけ |
| ⑤不利益がないこと | 申し出たこと・面談の結果を理由に不利に扱わない |
| ⑥申し込み方と期限 | 誰に・どうやって・いつまでに。業務時間内に受けられること、所要時間(20〜30分) |
就業制限の仕組みはドクターストップとは?、80時間という数字の意味は残業80時間はきつい?過労死ラインと体への影響で説明しています。
文例①:80時間超の通知と面談の案内(本人あて)

件名: 【ご案内】○月の時間外労働時間のお知らせと、産業医面談について
○○さん
お疲れさまです。人事部の○○です。
○月の時間外・休日労働時間が○時間となりましたので、お知らせします。
長時間の勤務が続くと、脳や心臓の病気、メンタルヘルス不調が起こりやすくなることが、医学的に分かっています。これを防ぐために、産業医による面談(面接指導)を受けることができます。
■面談でできること: 体調と働き方を医師が確認し、必要な場合は、残業時間の制限や業務の調整について会社に意見を出します。
■秘密の扱い: お話しいただいた内容がそのまま会社に伝わることはありません。会社に伝わるのは、働き方の調整に必要な範囲の医師の意見だけです。
■不利益はありません: 面談を申し出たこと、面談の結果を理由に、評価や処遇で不利に扱うことはありません。
■日時と場所: 業務時間内・20〜30分程度・オンラインも可
■申し込み: ○月○日までに、このメールへの返信か、○○(内線○○)までご連絡ください。
「疲れが抜けない」「眠れない」「少し話を聞いてほしい」という程度でも構いません。遠慮なくご利用ください。
文例②:申出がない人への勧奨(再案内)

件名: 【再度のご案内】産業医面談は、いまからでも申し込めます
○○さん
お疲れさまです。先日ご案内した産業医面談について、あらためてご連絡します。
○月に続き○月も時間外労働が○時間となっており、産業医からも「一度お話をうかがいたい」との連絡を受けています。
面談は、体調を責めたり評価したりする場ではありません。いまの働き方を続けて大丈夫かを医師と一緒に確認し、必要なら会社に働き方の調整を求めるための機会です。実際に、面談をきっかけに残業時間の上限が決まり、業務の分担が見直された例があります。
期限は過ぎましたが、いつでも申し込めます。ご都合のよい日時を2〜3、このメールに返信でお知らせください。
業務の都合で時間が取りにくい場合は、上長との調整を人事で行いますので、その旨お書き添えください。
文例③:面談の日程が決まったときの連絡

件名: 【日程のご連絡】産業医面談 ○月○日(○)○時〜
○○さん
産業医面談のお申し込み、ありがとうございます。下記のとおり日程が決まりました。
■日時: ○月○日(○)○時○分〜(20〜30分程度)
■場所: ○階 健康相談室 / オンラインの場合は下記のURL
■担当: 産業医 ○○医師
■事前のお願い: 添付の「疲労蓄積度自己診断チェックリスト」にご記入のうえ、当日お持ちください(オンラインの場合は前日までに返信)。
■当日お聞きすること: 最近の勤務の状況、睡眠、体調、気になっていること
面談の時間は勤務時間として扱います。上長には「産業医面談のため離席」とだけ伝えてあります。内容をお伝えすることはありません。
日程の変更が必要な場合は、前日までにご連絡ください。
文例④:上司への協力依頼

件名: 【お願い】長時間労働者の産業医面談へのご協力について
○○部長
お疲れさまです。人事部の○○です。
貴部署で○月の時間外労働が80時間を超えた方に、産業医面談のご案内をお送りしています。つきましては、次の3点にご協力をお願いします。
1. 面談の時間(業務時間内・20〜30分)を確保できるよう、業務の調整をお願いします。
2. 面談を受けることを理由に、本人を不利に扱ったり、受けないよう促したりしないでください。
3. 面談の内容を本人に尋ねないでください。会社に必要な情報は、産業医の意見として人事から共有します。
面談の目的は、脳・心臓の病気やメンタルヘルス不調を防ぐことです。産業医の意見により、残業時間の制限などをお願いする場合があります。その際は人事からご相談します。
文例⑤:面談後のフォロー(本人あて)

件名: 産業医面談を受けていただき、ありがとうございました
○○さん
先日は産業医面談を受けていただき、ありがとうございました。
産業医の意見を受けて、会社として次の対応を行います。
■○月○日から当面の間、時間外労働を月○時間以内とします。
■担当業務のうち○○を、○○さんに引き継ぎます。
上長の○○部長には、上記の対応内容のみを伝えています。面談でお話しいただいた内容は伝えていません。
体調に変化があったとき、対応が実行されていないと感じたときは、いつでも人事の○○か産業医にご連絡ください。○か月後に、あらためて状況をうかがいます。
記録と意見書の扱いは高ストレス者面談の報告書と記録と共通です。
書いてはいけない一文——「ルールなので受けてください」

| 避けたい書き方 | なぜ逆効果か | 言い換え |
|---|---|---|
| 「法令で定められているため、面談を受けてください」 | 目的が伝わらず、面談が形だけのものになる | 「脳・心臓の病気とメンタル不調を防ぐための面談です」 |
| 「対象者に該当しました」 | 問題のある人と名指しされたように感じる | 「○月の時間外労働が○時間でしたのでお知らせします」 |
| 「必ず受けること」 | 一般の労働者の面接指導は申出が前提。強制は反発を招く | 「受けることができます。ぜひご利用ください」 |
| 「結果は会社に報告されます」 | 何でも会社に伝わると誤解される | 「会社に伝わるのは、働き方の調整に必要な医師の意見だけです」 |
| 「面談があります」とだけ書く | 受けて何が変わるのかが分からない | 「残業の制限や業務の調整につながることがあります」 |
ストレスチェックの案内文はストレスチェックの案内文・受検勧奨メール・面接指導勧奨の文例集にまとめています。産業医がいない会社は、面接指導を頼む医師を先に決めておく必要があります(産業医がいない会社はどうする?)。
まとめ:目的を書けば、面談は意味のあるものになる
- 月80時間を超えた人への時間の通知は会社の義務。面談は本人の申出が前提。
- 案内文には、目的(脳・心臓の病気とメンタル不調の予防)と、面談で変わること(残業の制限など)を書く。
- 秘密の扱い、不利益がないこと、申し込み方と期限を必ず入れる。
- 申出がなければ再案内を。上司には時間の確保と、内容を尋ねないことを依頼する。
- 「ルールなので受けてください」とだけ書くと、面談は形だけになる。
あわせて読みたい:ストレスチェックの面接指導と運用
ストレスチェックの面接指導や実施・運用について、あわせてご覧ください。
- ストレスチェック面接指導の完全ガイド|義務・流れ・就業措置
- 長時間労働の面接指導とは?80時間の基準・流れ・案内文まで産業医が解説
- ストレスチェックの案内文・受検勧奨メール・面接指導勧奨の文例集
- 産業医面談は会社が指示できる?高ストレス者への業務命令・拒否されたときの対応
- ストレスチェックの産業医面接指導はいつまで?高ストレス者は1か月以内に面談を
- 産業医がいない会社はどうする?ストレスチェック・面接指導・メンタル不調の対応
よくある質問
Q1. 長時間労働者への面談の案内は、義務ですか?
時間外・休日労働が月80時間を超えた労働者に、その時間に関する情報を通知することは会社の義務です(労働安全衛生規則52条の2第3項)。面談そのものは本人の申出があったときに義務になりますが、通知とあわせて面談の案内と申出の勧奨を行うことが求められています。
Q2. 案内はメールと書面のどちらがよいですか?
どちらでも構いません。本人だけが読める方法で、通知した記録が残ることが大切です。共有のメールアドレスや、上司を経由した手渡しは避けてください。
Q3. 案内を出しても申出がない場合、会社はどうすればいいですか?
再案内を出し、産業医からも声をかけてもらいます。それでも申出がない場合は、案内と勧奨を行った記録を残したうえで、長時間労働そのものを減らす対策を進めます。面談を受けなかったことを理由に、本人を不利に扱ってはいけません。
Q4. 産業医がいない会社は、誰に面談を頼めばいいですか?
50人未満の事業場は、地域産業保健センターに無料で依頼できます。日程を急ぐ場合や従業員が日時を選べるようにしたい場合は、スポットで依頼できる外部の産業医を利用します。

