復職面談のあと、その判断を会社に伝える書類が「復職時の産業医意見書」です。ところが、診断書との役割の違いが曖昧なまま書いてしまうと、職場でトラブルの火種になります。この記事では、現役産業医として実務で意識している「復職時の意見書の書き方」を、判断基準・記載例・よくある失敗まで具体的に整理します。
復職判定の意見書は何のために出すのか|診断書との役割の違い

まず役割を分けて理解することが大切です。診断書は主治医が出すもので、医学的に見て病気が治っているか、休養が必要か、どんな配慮が必要かを示します。あくまで「病気の状態」についての文書です。
意見書全体の作成・運用の基本は、産業医意見書の作成・運用完全ガイドでまとめて解説しています。あわせてご覧ください。
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復職可否の判断基準|「可」「条件付き可」「不可」の線引き

ここで最も大事なのは、判断軸が「病気が治っているか」ではなく「元々の業務ができるか」だという点です。病気が治っていることと、業務ができることは別物だからです。線引きはおおむね次の3段階で考えます。
- 可:病気も落ち着き、通常業務に問題なく就ける状態。
- 条件付き可:一定の制限をかければ働ける状態。実務上は、まず「慣らし運転」としてここから始めるケースが多いです。
- 不可:そもそも通勤できない、すぐ疲れて業務にならない、1日8時間働く体力がない、朝起きられない——といった、就労の土台が整っていない状態。この段階で仕事との距離が埋まらないときはリワーク(復職支援プログラム)を勧めるタイミングも検討します。
条件付き可のときの就業配慮の書き方|記載例3つ

条件付き可で最も多いのは、残業・夜勤・運転の制限です。ポイントは、制限の内容・期間・見直しのタイミングをセットで書くこと。口頭で「無理しないでね」では運用できません。具体的な記載例を挙げます。
- 残業の制限:「当面1か月間、時間外労働は禁止とする。1か月後に産業医面談で勤務状況を確認し、制限の継続・解除を判断する。」
- 夜勤・交代勤務の制限:「復帰後2か月間は夜勤・交代勤務を免除し、日勤帯のみの勤務とする。睡眠・生活リズムの安定を確認のうえ段階的に解除する。」
- 運転業務の制限:「服薬等の影響を考慮し、当面は社用車の運転業務を禁止とする。次回面談で安全に運転可能かを再評価する。」
「注意して」では現場は動かない——人事に聞き返されない条件の書き方

意見書を出したあとで、人事の方から「これだと分かりにくい」「書き直してほしい」と言われるのは、ほとんどが「条件付き可」の条件があいまいなときです。いちばん困られるのが、「注意して業務を行わせること」という書き方。会社からすると「注意って何をすれば?」となって、困ってしまいます。
しかも、あいまいな条件はもっと困ったことを生みます。「注意しているんだから、何でもやらせていいんだよね」となりがちなのです。条件を書いたつもりが、実際には何の制限にもなっていません。
だから私は、条件を具体的なところまで落とし込むのはマスト、かなり必須だと考えています。書くのは、いつからいつまで(制限の期間)、何時間まで・何が禁止か(数字と具体的な作業)、いつ見直すかの3つです。
| 聞き返される書き方 | 現場で回る書き方(例) |
|---|---|
| 注意して業務を行わせること | 時間外労働は禁止。所定の就業時間(9時〜18時)内で勤務する(10月1日〜10月31日) |
| 業務量に配慮すること | 1日の就業時間は6時間まで。担当する顧客は3社までとする(10月31日まで) |
| 負荷の高い業務は避けること | 顧客先への単独訪問と、クレーム対応の担当を外す(10月31日まで) |
| 当面の間 | 10月1日から10月31日まで。10月下旬の産業医面談で、継続・緩和・解除を判断する |
制限は1〜2か月で区切って見直す——PDCAを回す
期間も必ず決めます。期間を決めず、定期的な見直しもしないと、いつまでも制限がついたままになり、本人も会社の人も困ってしまいます。私は1か月か2か月で区切りをつけ、そこで面談して確認し、見直すようにしています。このPDCAは、絶対に回したほうがいいです。
- 書く(Plan): 意見書に、条件の中身・期間・見直し日を書く
- 運用する(Do): 人事と上司が、条件どおりに勤務を組む
- 確かめる(Check): 見直し日に産業医が面談し、勤務の状況と体調を確認する
- 見直す(Act): 継続・緩和・解除を決め、次の意見書に書く
条件の欄をそのまま埋められる書式は、産業医意見書テンプレート(人事用・職場共有用の2枚)から無料でダウンロードできます。受け取った意見書の条件が「注意して」のようにあいまいなら、遠慮なく産業医に「何時間まで・いつまで」を聞き返してください。意見書の条件を一緒に詰めてくれる産業医を探している会社は、サンポチャートの産業医サービスもご覧ください。
段階的復職(時短・軽作業)の期間と見直し日の書き方

段階的復職は、その場の雰囲気で「しんどそうだから時短にしようか」と決めるのが最も危険です。あとから「あの人だけ時短でずるい」と不公平感が出たり、逆にいつまでも体調不良のままダラダラと働き続けることになったりします。条件を外すまでの期間の目安(2か月・4か月・6か月)とフォロー面談の間隔は復職後のフォロー面談の間隔と、条件を外す目安で解説しています。
主治医の診断書と産業医の意見が食い違ったら

逆に、会社では到底運用できないほど厳しい意見書(極端な短時間勤務など)であれば、「まだ十分に回復していないのでは」と考え、産業医と主治医で手紙などのコミュニケーションを取るのが定番の進め方です。「当社ではこの勤務体制は難しいのですが、まだ療養が必要な状態でしょうか」とすり合わせ、必要なら療養延長に落ち着けます。会社の例外運用で無理に働かせるのも、逆に産業医の意見だけで主治医判断を覆すのも避け、それでも難しければ「産業医としては復職は難しい」とはっきり伝えることも大切です。
職場にそのまま渡すと危ない記述|病名・経過は書かない
意見書は「誰に渡すか」で書き分けます。人事に対しては、判断の背景やロジックをある程度共有して構いません。しかし職場(上司・現場)に渡すものに、病名・経過・発症の原因をそのまま書くのは危険です。「なぜ上司が自分の病名を知っているのか」と本人の不信を招き、その後の相談を止めてしまいます。
よくある失敗|書きすぎ・曖昧すぎ
書きすぎは、病名や経過などの情報を加工せずにそのまま載せてしまうパターンです。産業医が作った詳しいメモのような書類を、そのまま職場に渡すのは特に危険です。
曖昧すぎは、休ませる(制限する)理由のロジックが書かれておらず、「どんな制限が・いつまで・どうなったら解除になるのか」が不明確なパターンです。これでは現場が動けません。

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よくある質問
Q1. 復職の意見書で「条件付き可」とするとき、何を書けばいいですか?
制限の中身(何時間まで・何が禁止か)、期間(いつからいつまで)、見直し日の3つを書きます。「注意して業務を行わせること」のような書き方では、会社は何をすればよいか分からず、かえって何でもやらせてしまうことがあります。
Q2. 「注意して業務を行わせること」と書かれた意見書を受け取ったら、どうすればいいですか?
産業医に聞き返して構いません。時間外労働は何時間までか、禁止する作業は何か、制限はいつまでか、次の見直しはいつかを確認し、意見書に書き加えてもらってください。
Q3. 復職後の就業制限は、いつまで続けますか?
決まった期間はありません。1か月か2か月で区切り、その時点で産業医が面談して勤務の状況と体調を確かめ、継続・緩和・解除を決めます。期間を決めずに見直しをしないと、制限がいつまでもついたままになります。
Q4. 復職の意見書は、職場の上司にそのまま渡してもいいですか?
職場に渡すのは、どんな制限・配慮が必要かだけに絞ります。病名・経過・発症の原因は書きません。人事には判断の背景をある程度共有してもかまいませんが、職場に渡す書類は必ず加工します。
Q5. 復職を最終的に決めるのは誰ですか?
事業者(会社)です。主治医の診断書は病気の状態を、産業医の意見書はその職場で働けるかの意見を示すもので、それを踏まえて会社が決めます。
まとめ
- 診断書(主治医=病気の判断)と意見書(産業医=その職場で働けるかの意見)は役割が違う。最終決定は事業者。
- 判断軸は「病気が治ったか」ではなく「業務ができるか」。可・条件付き可・不可で線引きする。
- 条件付き可は、制限の内容・期間・見直し日をセットで記載。配置転換は慎重に。
- 段階的復職は会社のルールとして期間を決めて運用する。
- 主治医と大きく食い違うときは、手紙等ですり合わせる。無理な運用も独断も避ける。
- 職場に渡す書類は制限・配慮の内容だけ。病名・経過・原因は書かない。書きすぎ/曖昧すぎに注意。
- 条件は「注意して」ではなく、期間・数字・禁止する作業まで書く。1〜2か月で区切って面談で見直す。



