「衛生管理者が退職するのですが、解任届はどの様式で出せばいいですか?」——総務・人事の方からよく受ける質問です。結論から言うと、衛生管理者に「解任届」という様式は存在せず、解任そのものを労働基準監督署へ報告する法律上の義務もありません。報告義務があるのは「選任したとき」だけです。ただし実務では、後任の選任報告とセットで前任者の解任を伝える、参考事項欄に記載して提出するといった運用があり、そこを知らないと手続きが宙に浮きます。
衛生管理者の「解任届」は存在しない——報告義務は選任時だけ

常時50人以上の労働者を使用する事業場は、衛生管理者を選任する義務があります(労働安全衛生法第12条)。選任すべき事由が発生した日から14日以内に選任し、遅滞なく所轄の労働基準監督署へ選任報告を提出する——ここまでが法律の要求です(労働安全衛生規則第7条)。様式は「総括安全衛生管理者・衛生管理者・産業医選任報告」(安衛則様式第3号)を使います。
一方で、衛生管理者が退職・異動などで外れるとき(実務ではまとめて「解任」と呼ばれます)について、解任を報告する義務は法令に定められていません。だから「解任届」という様式も存在しない。「探しても見つからない」のは当然なのです。
「解任のみ」で済むケース、済まないケース
届出の前に、そもそも「解任だけして終わり」にしてよい状況かを確認してください。ポイントは解任後も法定の選任人数を満たしているかです。
| 事業場の労働者数 | 必要な衛生管理者の人数 |
|---|---|
| 50〜200人 | 1人 |
| 200人超〜500人 | 2人 |
| 500人超〜1,000人 | 3人 |
| 1,000人超〜2,000人 | 4人 |
| 2,000人超〜3,000人 | 5人 |
| 3,000人超 | 6人 |
- 「解任のみ」で済む:複数選任していて、1人外れても上表の人数を満たしている/事業場が常時50人未満になり選任義務自体がなくなった
- 「解任のみ」では済まない:唯一の(または人数ぎりぎりの)衛生管理者が抜ける場合。14日以内に後任を選任し、選任報告を提出する必要がある
解任を伝える実務——後任ありは選任報告、解任のみは参考事項欄

後任を選任する場合は簡単です。後任者の選任報告(様式第3号)を提出すれば、労基署の台帳は新しい衛生管理者に更新されます。前任者について別途「解任届」を出す必要はありません。様式の備考(参考事項)欄に前任者の退任を書き添えておくと、より丁寧です。
後任を立てない「解任のみ」の場合、法律上は何も提出しなくても違反にはなりません。ただ、労基署に届け出た選任情報と実態がズレたままになるため、実務では様式第3号の参考事項欄に解任の旨を記載して提出する運用が広く行われています。記載例は次のとおりです。
【参考事項欄の記載例】
「令和8年7月31日付で衛生管理者 ○○○○は退職により解任。なお当事業場の労働者数は180人であり、残る衛生管理者1名(△△△△)により法定選任数を充足している。」
e-Govで電子申請する方法
選任報告は、労基署へ紙で持参・郵送するほか、e-Gov電子申請でも提出できます。e-Govで「衛生管理者 選任」などと検索し、「総括安全衛生管理者/衛生管理者/産業医の選任報告」の手続きを選べば、様式第3号と同じ内容をオンラインで入力・送信できます。解任に関する情報は、電子申請でも同じく参考事項欄に記載します。
アカウント(GビズIDなど)の準備さえ済めば、窓口に行くより圧倒的に早く終わります。実際の画面の流れは産業医の選任届を電子申請してみたら意外と簡単だった件で体験談として書いていますので、初めての方はあわせてご覧ください。
事業場が50人未満になったときはどうする?

常時使用する労働者が50人未満になれば、衛生管理者の選任義務はなくなります。このとき「廃止届」のような提出義務もありません。ただし、再び50人以上になった時点で14日以内の選任義務が復活するので、人数が50人前後を行き来する事業場は、資格者を確保したままにしておくのが安全です。
なお50人のラインでは、衛生管理者だけでなく産業医の選任義務・衛生委員会の設置義務・ストレスチェックの実施義務も同時に動きます。50人未満になった場合の産業医側の手続きは49人以下で産業医解任になった際の手続きで解説しています。
衛生管理者と産業医——「解任」まわりのルール早見表
| 衛生管理者 | 産業医 | |
|---|---|---|
| 選任期限 | 事由発生から14日以内 | 事由発生から14日以内 |
| 選任報告 | 義務(様式第3号) | 義務(同じ様式第3号) |
| 解任・辞任の報告 | 義務なし(参考事項欄での記載が実務) | 2026年8月1日から義務化 |
| 未選任の罰則 | 50万円以下の罰金 | 50万円以下の罰金 |
産業医の解任・後任選任の具体的な手順(必要書類・記載例)は産業医の解任手続き完全ガイドにまとめています。衛生管理者と産業医の交代が重なる場合は、選任報告を1枚にまとめて出せるので、タイミングを揃えると手間が減ります。
まとめ:解任届は不要。ただし「後任の14日ルール」だけは外さない
- 衛生管理者に「解任届」という様式はなく、解任の報告義務もない。報告義務は選任時のみ(安衛則第7条・様式第3号)
- 唯一の衛生管理者が抜けるなら14日以内に後任を選任して選任報告。未選任の放置は50万円以下の罰金の対象
- 「解任のみ」を伝えたいときは、様式第3号の参考事項欄に記載して提出する運用が一般的。所轄労基署に事前確認すると確実
- 選任報告はe-Gov電子申請でも提出できる
- 50人未満になれば義務は消滅(廃止届も不要)。産業医は2026年8月から解任報告が義務化されるが、衛生管理者は対象外
根拠となる一次情報はe-Gov法令検索(労働安全衛生法第12条・第120条、労働安全衛生規則第7条)と厚生労働省の各種案内で確認できます。
よくある質問
Q. 衛生管理者が退職したら「解任届」を出す必要がありますか?
いいえ。衛生管理者の解任・退職を報告する法律上の義務はなく、「解任届」という様式も存在しません。労働基準監督署への報告義務があるのは選任したときだけです。後任を選任する場合は、後任者の選任報告(様式第3号)を提出すれば足ります。
Q. 後任を立てず「解任のみ」を労基署に伝えたいときはどうすればいいですか?
法律上の提出義務はありませんが、選任報告の様式(様式第3号)の参考事項欄に「○年○月○日付で衛生管理者○○を解任(退職のため)」のように記載して提出する運用が一般的です。受け付け方は監督署によって幅があるため、提出前に所轄の労働基準監督署へ確認するとスムーズです。
Q. 後任の衛生管理者はいつまでに選任すればいいですか?
選任すべき事由が発生した日(前任者が抜けた日)から14日以内です(労働安全衛生規則第7条)。未選任のまま放置すると50万円以下の罰金の対象になります。社内に有資格者がいない場合は、受験・講習の計画を立てて所轄の監督署に相談しておきましょう。
Q. 衛生管理者の選任報告はe-Govで電子申請できますか?
できます。e-Govの「総括安全衛生管理者/衛生管理者/産業医の選任報告」手続きから、様式第3号と同じ内容をオンラインで提出できます。解任に関する情報も紙の場合と同じく参考事項欄に記載します。
Q. 従業員が50人未満になったら、衛生管理者の廃止届が必要ですか?
不要です。常時50人未満になれば衛生管理者の選任義務自体がなくなり、廃止の届出義務もありません。ただし再び50人以上になった時点で14日以内の選任義務が復活します。産業医・衛生委員会・ストレスチェックの義務も同じ50人ラインで動く点に注意してください。

