「産業医の面談で『一度、病院で診てもらってください』と言われました。産業医の先生に紹介状を書いてもらえるんでしょうか。書けないと言われたら、どうすればいいですか」——面談のあとに、社員の方や人事の方からよく聞かれる質問です。
先に結論です。産業医は、病院や診療所の先生あての手紙を書けます。ただ実務では、「紹介状」ではなく「情報提供書」や「診療情報提供依頼書」という形で出すことが多いです。紹介状は医療の言葉で、大きな病院の初診にかかる特別の料金(7,000円以上)がかからなくなる「ほかの医療機関からの紹介状」と受け取られることがありますが、産業医の手紙はその要件を満たさないことがあるからです。手紙を書くのは、職場の状況や就業上の配慮を主治医に伝えたいとき、本人がうまく説明できなさそうなときです。症状を自分で話せるなら、手紙なしで受診して問題ないことがほとんどです。
私は名古屋で産業医をしている角田拓実です。面談のあとに受診をすすめる場面は、産業医の仕事の中でもよくあります。この記事では、産業医の手紙と病院の紹介状の違い、私が手紙を書く場面、手紙がないときの受診のしかたをまとめます。
産業医は紹介状を書ける?——「紹介状」ではなく「手紙(情報提供書)」として書く

産業医も、紹介状を書くことはできます。ただ、私は「紹介状」というよりも、「情報提供書」や「診療情報提供依頼書」という形で出すことが多いです。紹介状という言葉を使うと、大きな病院を受診したときに初診の特別の料金がかからなくなる、と受け取られることがあります。必ずしも「紹介」という言葉が正しいとはいえず、誤解が生まれることがあるので、実務では「情報提供書」「お手紙を書く」という言い方をすることが多いのです。
「紹介状としての要件は満たせない」と理解していただければと思います。ただ、実務上は、多くの先生が産業医からの手紙として受け取ってくれて、読んでくれることがほとんどです。手紙を持っていく意味がない、ということはありません。
| 病院・診療所の紹介状(診療情報提供書) | 産業医の手紙(情報提供書・診療情報提供依頼書) | |
|---|---|---|
| 書く人 | 受診した病院・診療所の医師 | 会社の産業医 |
| 書くきっかけ | 診察のうえで、ほかの医療機関での診療が必要と判断したとき | 面談や健診の結果から、受診してほしいとき |
| 主な中身 | 診断・検査の結果・治療の経過 | 面談で分かったこと・健診の値・仕事の内容・職場でできる配慮・主治医に聞きたいこと |
| 保険の扱い | 保険の診療で書く(診療情報提供料がつき、本人も負担する) | 保険の診療ではない |
| 大病院の初診の特別の料金 | かからない | かかることがある(病院の判断) |
「紹介状は書けない」と言われるのはなぜ?——大病院の特別の料金と、紹介状の要件

産業医が「紹介状は書けない」と言うとき、多くは大きな病院の「特別の料金」のことが頭にあります。国の制度で、次の病院は、ほかの医療機関からの紹介状を持たずに受診した人から、ふだんの窓口負担(3割など)とは別に特別の料金を受け取ることになっています。
| 項目 | 中身 |
|---|---|
| 対象の病院 | 特定機能病院(大学病院など)、一般病床200床以上の地域医療支援病院、一般病床200床以上の紹介受診重点医療機関 |
| かかる人 | 初診: ほかの医療機関からの紹介状なしで受診した人 / 再診: ほかの医療機関への紹介状を渡されたのに、その病院を受診した人 |
| 金額(医科) | 初診 7,000円以上 / 再診 3,000円以上(2022年10月から) |
| 求めなくてもよい人の例 | 救急の患者(求めてはならない)、健診・がん検診などの結果で精密検査を指示された人、労働災害の患者 など |
ここでいう紹介状は「ほかの医療機関からの」紹介状です。産業医の手紙は、会社の産業医として書くもので、診察した医療機関が保険の診療として書く紹介状とは仕組みが違います。そのため、大きな病院では産業医の手紙を紹介状として扱わず、特別の料金がかかることがあります。扱いは病院が判断するので、大きな病院に行くときは、受診の前に病院の窓口に確かめておくと安心です。
なお、法律で、産業医に紹介状を書く義務が決まっているわけではありません。書くかどうか、どんな形で書くかは、面談の内容を見て産業医が判断します。
産業医が手紙を書くのはどんなとき?——職場のことを主治医に伝えたいとき

本人がお話を説明できそう、症状を言えば大丈夫——という場合は、手紙を書かずに受診をすすめることが多いです。ただ、就業上の配慮の相談や、職場の中で実際にどういう業務の状況になっているか、という共有をするときは、手紙を書かないと伝えられない部分があります。そういうときは、具体的な内容を書いてお渡ししています。つまり、職場の情報を伝えるための手紙です。
そのほか、ご本人がうまく説明できなさそうなとき、メンタル不調が少しあるときも、書くことがあります。
| 手紙を書く | 手紙なしで受診をすすめることが多い |
|---|---|
| 就業上の配慮(残業・夜勤・運転などの制限)について、主治医の意見を聞きたい | 本人が症状や経過を自分で説明できる |
| 職場での業務の状況(仕事の量・勤務時間・作業の内容)を主治医に伝えたい | 健診で指摘された項目を、そのまま診てもらえば足りる |
| 本人がうまく説明できなさそう | 症状を言えば、主治医が判断できる |
| メンタル不調があり、話すこと自体が負担になりそう | — |
手紙に書くのは、面談で分かったこと(症状・いつからか)、健診の値、仕事の内容(夜勤・運転・高所作業・残業時間など)、職場でできる配慮、主治医に教えてほしいこと、などです。本人の健康の情報なので、本人に内容を説明して、本人から主治医に渡してもらいます。
主治医が「休んだほうがいい」と判断した場合の流れはドクターストップとは?で、主治医の意見をもとに会社が仕事の内容を決める流れは健康診断の事後措置で解説しています。
手紙がないときは、どう受診する?——本人が持っていくもの・人事がすること

紹介状や手紙がなくても、病院や診療所は受診できます。手紙の代わりに、次のものを持っていくと、主治医に話が伝わりやすくなります。
- 健康診断の結果(指摘された項目のページのコピー)
- お薬手帳(飲んでいる薬があれば)
- 症状のメモ(いつから・どんなときに・どのくらい)
- 仕事の様子のメモ(勤務時間・残業・夜勤・運転や高所作業の有無)
健診で指摘された血圧・血糖・肝機能などは、まず近くの内科で診てもらえます。眠れない、気分の落ち込みが続く、といったこころの不調は、心療内科や精神科のクリニックが窓口になります。どこに行けばよいか迷うときは、面談のときに産業医に聞いてください。
人事の方がすることは、受診をすすめることと、受診したかどうかを確かめることです。診断名や検査の細かい値まで聞く必要はありません。仕事のうえで配慮が要るかどうかは、主治医の意見を産業医が受け取って、会社に意見を出します。受診のすすめ方は、社内の掲示や配布にそのまま使える健康新聞「健診結果、見て終わってませんか?」(無料)にまとめています。
面談で産業医に何を話せばよいかは産業医面談とは?呼ばれる理由・何を話すを、産業医の意見書をどんな場面で出すかは産業医意見書を出すべき場面・出さなくていい場面を参考にしてください。
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よくある質問
Q1. 産業医に紹介状(手紙)を頼んでもいいですか?
頼んでかまいません。面談のときに「病院の先生に渡す手紙がほしい」と伝えてください。職場の状況や就業上の配慮を主治医に伝える必要があるか、本人が説明しにくい内容かを見て、産業医が書くかどうかを判断します。
Q2. 産業医の手紙があれば、大きな病院の特別の料金はかかりませんか?
かかることがあります。特別の料金がかからないのは「ほかの医療機関からの紹介状」があるときで、産業医の手紙をそれとして扱うかは病院が判断します。大きな病院に行く前に、病院の窓口に確かめてください。近くの診療所を先に受診して、必要ならそこから紹介状を書いてもらう方法もあります。
Q3. 紹介状がないと、病院で診てもらえませんか?
診てもらえます。紹介状がなくても受診はできます。特定機能病院などの大きな病院では、初診で7,000円以上(医科)の特別の料金がかかることがあるので、まずは近くの診療所を受診するのがおすすめです。
Q4. 産業医の手紙を書いてもらうのに、お金はかかりますか?
産業医の手紙は保険の診療で書くものではないので、本人が病院の窓口のように支払うものではありません。病院・診療所が書く紹介状(診療情報提供書)には保険の診療情報提供料がつき、本人も窓口で負担します。
Q5. 産業医がいない会社では、どうやって受診につなげばいいですか?
健康診断の結果と症状のメモを持って、近くの医療機関を受診するようすすめてください。50人未満の会社は、地域産業保健センター(無料)で医師に相談できます。仕事の調整に迷うときは、スポットで産業医に相談する方法もあります。
まとめ:産業医の手紙は「職場の情報を伝えるため」に書く
- 産業医は病院あての手紙を書ける。実務では「紹介状」ではなく、情報提供書・診療情報提供依頼書として出すことが多い
- 大きな病院の初診の特別の料金(7,000円以上)がかからないのは「ほかの医療機関からの紹介状」があるとき。産業医の手紙では、かかることがある
- 手紙を書くのは、就業上の配慮や職場での業務の状況を主治医に伝えたいとき、本人がうまく説明できなさそうなとき、メンタル不調があるとき
- 症状を自分で話せるなら、手紙なしで受診して問題ないことがほとんど。健診結果・お薬手帳・症状と仕事のメモを持っていく
- 人事は受診をすすめて、受診したかを確かめる。仕事の配慮は、主治医の意見をもとに産業医が意見を出す

