「交通費もかからないし、産業医はオンラインだけでお願いできないかと考えています。これって違法になりませんか」——産業医を探している人事の方から、よくいただく質問です。
先に結論です。産業医をオンラインで頼むこと自体は、違法ではありません。2021年3月の厚生労働省の通達(基発0331第4号)で、産業医の職務の一部は、事業場の外から遠隔で行ってよいとされました。面接指導・健康相談・衛生委員会への出席・衛生教育などは、オンラインでできます。ただし、職場巡視(少なくとも毎月1回、条件を満たせば2か月に1回)は実地で行う決まりで、健康障害の原因の調査も原則は実地です。50人以上で産業医を選任している事業場では、「産業医の仕事を全部オンラインで」はできません。
私は名古屋で産業医をしている角田拓実です。顧問先とのやりとりは、実際にはオンラインが多くなっています。この記事では、通達で決まっていることと、私がオンラインと訪問をどう使い分けているかを、あわせてまとめます。
オンライン産業医は違法?——職務の一部はオンラインでよい。巡視は実地

通達の考え方はシンプルです。決められた留意事項を守れば、産業医は選任された事業場以外の場所から、遠隔で職務の一部を行ってよい。その代わり、会社は、オンラインでも事業場の労働衛生の水準を下げないように環境を整えます。
一方で、通達は「実地でなければならないもの」もはっきり書いています。いちばん大きいのが職場巡視です。巡視は、作業場を回って好ましくない作業環境や作業のしかたを見つけ、健康診断や健康相談だけでは得られない情報を得て、有害のおそれがあればその場で措置をとるための仕事なので、少なくとも毎月1回(条件を満たせば2か月に1回)、産業医が実地で行う必要があります(労働安全衛生規則第15条)。
健康障害の原因の調査と再発防止も、原則は実地です。見たり聞いたりするだけでなく、臭いや皮膚への刺激など、嗅覚や触覚で確かめる情報が要ることがあるからです。報告書を読んで「現地の確認はいらない」と産業医が判断した場合だけ、例外になります。
産業医を選任しているのに、巡視が一度も行われていない——これは労働安全衛生規則第15条の違反です。労働基準監督署の調査では、巡視の記録を見られることがあります。「オンラインで契約しているから」は理由になりません。
巡視をカメラ越しに済ませられるかは、産業医のオンライン職場巡視は問題ない?で、巡視で見るところと記録の残し方は産業医の職場巡視の注意点でくわしく書いています。
オンラインでできること・訪問が要ること——職務ごとの一覧

産業医の主な職務を、オンラインでできるかどうかで分けると次のとおりです。
| 職務 | オンライン | 条件・注意 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 長時間労働者・高ストレス者の面接指導 | できる | 表情・顔色・声・しぐさが分かる映像と音声。衛生委員会で審議して周知。緊急時の体制。医師が必要と認めたら対面 | 基発0915第5号 |
| 健康相談・面談 | できる | 体調が悪い人・話しにくい内容は、対面への切り替えを考える | 基発0331第4号 |
| 健康診断の結果への意見(就業判定) | できる | 健診結果と、仕事の内容・勤務の状況が産業医に遅れず届く仕組み | 基発0331第4号 |
| 衛生委員会への出席 | できる | オンラインで開く委員会の留意事項に沿う | 基発0827第1号 |
| 衛生教育(講話) | できる | eラーニング等で行う安全衛生教育の留意事項に沿う | 基安安発0125第2号ほか |
| 職場巡視 | できない(実地) | 少なくとも毎月1回。条件を満たせば2か月に1回 | 労働安全衛生規則 第15条 |
| 健康障害の原因の調査・再発防止 | 原則は実地 | 報告書などで足りると産業医が判断したときだけ例外 | 基発0331第4号 |
| 製造工程・化学物質の大きな変更 | 実地が適当 | 作業環境や作業内容が大きく変わるときは、産業医が現地で確かめる | 基発0331第4号 |
巡視が2か月に1回でよいのは、会社から毎月1回以上、衛生管理者の巡視の結果などの情報を産業医が受け取っていて、会社の同意があるときです。毎月か2か月に1回かは、訪問の回数=費用に直結するので、契約の前に決めておきます。訪問の頻度の決め方は産業医の来社頻度はどう設定する?にまとめています。
オンラインにする前に、会社が決めておく4つ

通達は、産業医の職務をオンラインで行うとき、会社が次の4つを整えておくことを求めています。
- 衛生委員会で審議して、社員に周知する: どの職務をオンラインにするか、その際の注意点を衛生委員会で話し合い、社員に知らせる
- 情報が遠隔の産業医に届く仕組み: 月80時間を超えた人の残業時間、健診結果、休職者の状況などが、遅れずに産業医へ届くようにする
- 必要なら現地で確かめられる仕組み: オンラインにした職務でも、産業医が「見に行く必要がある」と言ったら、実地で作業環境などを確認できるようにする
- 近くの医療機関との連携: 面談中に急いで対応すべき様子があったとき、事業場の周辺の医療機関や社内の担当者が動けるようにしておく
使う機器にも条件があります。産業医と社員が使いやすいこと、映像と音声が途切れず安定していること、そして社員の心身の情報を扱うので、アクセスの管理や記録など、情報が漏れない対策をとることです。面接指導では、話の内容が第三者に聞かれない部屋を用意します。
衛生委員会の議題の立て方や年間のテーマは、衛生委員会とは?メンバー・進め方・年間テーマを参考にしてください。
産業医はオンラインと訪問をどう使い分けている?——会って確かめるのはこんなとき

私の顧問先でも、オンラインのやりとりは比較的多いと思います。面談もそうですし、人事の方からの事例相談もオンラインで受けています。いろいろな相談をすぐに受けられるので、便利です。ただ、職場巡視はオンラインではできないことになっているので、現地で見る必要があります。
面談でも、まだ症状が残っている、しんどさが強い——そういうときは、なるべく現地でお話しするようにしています。会って話したほうが、得られる情報も、お話しできる内容も違いますし、信頼関係もつなぎやすいからです。オンラインだとそこまで話せない内容でも、現地だと意外と話してくださることがあります。
一度会っておくと、2回目以降をオンラインでやるときも、「あの時の先生だ」と覚えてもらえます。オンラインはとても有効な手段ですが、画面越しだと、得られる情報や与える印象は少し下がると感じています。一方で、オンラインはもう当たり前になって、皆さんオンラインへの抵抗感はほとんどなくなってきています。
| オンラインで受けることが多い | なるべく現地で会う |
|---|---|
| 人事からの事例相談・就業判定の相談 | 職場巡視(決まりとして実地) |
| 経過の確認の面談(2回目以降) | 症状がまだ残っている人の面談 |
| 長時間労働の面接指導で、体調に大きな問題がない人 | しんどさが強い人・話しにくい内容がありそうな人 |
| 衛生委員会への出席 | はじめて会う人との面談(信頼関係をつくる) |
面接指導の通達にも、「面接指導を行う医師が必要と認める場合には、直接対面で行う」と書かれています。オンラインで始めた面談を、途中から「次は会って話しましょう」と切り替えることは、ふつうにあります。面談で何を話すのかは産業医面談とは?呼ばれる理由・何を話すで紹介しています。
「全部オンラインで安く」は選んでいい?——50人未満・分散した事業所なら使いどころがある

全部をオンラインにすれば、費用は安くなりますし、有効な場面もあります。ただ、巡視だけは現地でやることになっているので、全部オンラインというのは、今の決まりではできません。そこはご注意ください。
一方で、50人未満の事業所や、事業所が分散している会社が、スポット的に使う、事例相談をする、ということなら、オンラインで全然問題ないと思っています。50人未満の事業場には産業医の選任義務がないので、巡視の決まりもかかりません。50人以上の拠点はそれぞれ産業医を選任して巡視を受け、50人未満の営業所はオンラインの相談で補う、という組み合わせもできます。
50人以上の事業場で、オンライン中心の産業医サービスを検討するときは、契約の前に次の点を確かめてください。
- 巡視には、誰が・どのくらいの頻度で来るか(毎月か、条件を満たして2か月に1回か)
- 訪問の費用・交通費は、月額に入っているか、別料金か
- 体調が悪い社員の面談を、対面に切り替えられるか
- 巡視をする医師と、面談をする医師が同じ人か(社員の顔と職場を両方知っているか)
- 急ぎの相談に、どのくらいで返事がくるか
月額が安く見えても、巡視のたびに訪問費と交通費が別にかかると、年間の総額は変わります。産業医がいない50人未満の会社が、必要なときだけ医師に頼む方法は産業医のスポット契約とは?にまとめています。
50人未満で、まず1件だけ相談したいときは、人事・総務・経営者向けの無料の事例相談(30分・オンライン・2026年12月末まで初回無料)も使えます。
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よくある質問
Q1. 産業医の面談をオンラインで行っても、法律上問題ありませんか?
問題ありません。長時間労働者や高ストレス者の面接指導は、映像と音声で表情や顔色が分かること、衛生委員会で審議して社員に周知していること、緊急時の体制があることなどを満たせば、オンラインで行えます(基発0915第5号)。医師が必要と認めた場合は、対面で行います。
Q2. 職場巡視をカメラ越しに済ませることはできますか?
できません。産業医の定期巡視は、少なくとも毎月1回(条件を満たせば2か月に1回)、産業医が実地で行う必要があります(労働安全衛生規則第15条、基発0331第4号)。動画や写真は、巡視の前後の補助として使うものです。
Q3. 衛生委員会に産業医がオンラインで出席してもいいですか?
できます。オンラインで開く安全委員会・衛生委員会の留意事項(基発0827第1号)に沿って開けば、産業医がオンラインで出席して差し支えありません。
Q4. 遠方に住んでいる医師を産業医に選任できますか?
距離そのものの決まりはありません。ただし、巡視に毎月(または2か月に1回)実地で来られること、必要なときに現地で作業環境を確かめられること、事業場の近くの医療機関と連携できることが前提になります。来られない距離の医師を選任すると、巡視が抜けて規則違反になります。
Q5. 50人未満の会社でも、オンラインで産業医に相談できますか?
できます。50人未満の事業場には産業医の選任義務がないため、巡視の決まりもかかりません。必要なときだけ医師にオンラインで相談する、スポットで面談や就業判定を頼む、という使い方で十分なことが多いです。地域産業保健センター(無料)に相談する方法もあります。
まとめ:面談はオンラインでも、巡視は訪問で
- 産業医をオンラインで頼むことは違法ではない。2021年3月の通達(基発0331第4号)で、職務の一部は遠隔でよいとされた
- 面接指導・健康相談・就業判定・衛生委員会・衛生教育はオンラインでできる
- 職場巡視は実地(毎月1回、条件を満たせば2か月に1回)。健康障害の原因の調査も原則は実地。だから50人以上の事業場で「全部オンライン」はできない
- オンラインにする前に、衛生委員会で審議して社員に周知し、情報が届く仕組み・現地で確かめる仕組み・近くの医療機関との連携を整える
- 症状が残っている人・しんどさが強い人とは、なるべく会って話す。50人未満や分散した事業所のスポット・事例相談は、オンラインで十分なことが多い

