「派遣社員の体調が悪そう。うちの産業医に診てもらっていいの?」「面談は派遣元がやるものでは?」「派遣社員は50人のカウントに入る?」——派遣社員が多い職場の人事・総務の方から、よくいただく質問です。
先に結論です。法律上、健康診断・ストレスチェック・長時間労働の面接指導を行う義務は、雇用主である派遣元にあります。一方で、職場の環境と日々の働き方を管理しているのは派遣先なので、職場巡視、衛生委員会、特殊健康診断、労働時間の把握は派遣先の役割です。そして、派遣先の産業医が派遣社員の面談をすることは、現場ではごく普通のことです。
この記事では、派遣先の産業医として実際に派遣社員の面談を受けている立場から、義務の分担表、50人の数え方、面談を頼まれたときの対応、派遣元との連携、人事が用意しておくことをまとめます。
結論の早見表——派遣元の義務と、派遣先の義務

| 項目 | 派遣元(雇用主) | 派遣先(働く場所) |
|---|---|---|
| 一般健康診断(雇入れ時・定期) | 実施する。結果に基づく医師の意見聴取と就業上の措置も | 受診できるよう勤務を配慮する。措置の実行に協力する |
| 特殊健康診断(有機溶剤・騒音など) | 結果の写しを受け取り保存する | 実施する(有害業務をさせているのは派遣先のため) |
| ストレスチェック | 実施する。高ストレス者の面接指導も | 集団分析は、派遣社員も含めて職場単位で行うことが望ましい |
| 長時間労働の面接指導 | 実施する | 労働時間を把握し、派遣元に通知する |
| 産業医・衛生管理者の選任、衛生委員会 | 派遣社員を含めて50人を数える | 派遣社員を含めて50人を数える |
| 職場巡視・作業環境の管理・安全衛生教育(作業に関するもの) | 雇入れ時の教育 | 実施する |
| 労働者死傷病報告(労災のとき) | 提出する | 提出する(双方に義務) |
考え方はシンプルです。「雇っていること」に伴う義務は派遣元、「その場所で働かせていること」に伴う義務は派遣先。労働者派遣法45条が、労働安全衛生法のどの規定をどちらに適用するかを定めています。ストレスチェックでの扱いはストレスチェックの対象者は誰?で詳しく説明しています。
派遣社員は「50人」に入る?——派遣先でも派遣元でも数える

産業医や衛生管理者の選任、衛生委員会の設置が必要になる「常時50人以上」は、派遣先でも、受け入れている派遣社員を含めて数えます。正社員が35人でも、派遣社員が常時20人いれば55人。産業医の選任義務があります。
派遣先の産業医は、派遣社員を面談していい?——現場では普通のこと

ただし、面談の種類によって、その後の流れが変わります。
| 場面 | 派遣先の産業医ができること | 派遣元に返すこと |
|---|---|---|
| 体調不良・メンタル不調の相談(健康相談) | 面談して話を聴く。受診の勧め、職場で当面できる配慮の助言 | 本人の同意を得て、状況と必要な配慮を派遣元に伝える |
| 職場の環境や作業が原因の不調 | 職場巡視や衛生委員会を通じて、派遣先の職場環境の改善を求める | —(派遣先の責任で対応) |
| 法定の面接指導(長時間労働・高ストレス者) | 派遣元から依頼があれば実施できる | 実施義務と、意見聴取・就業上の措置の決定は派遣元 |
| 就業上の措置(残業の制限、配置の変更、休業) | 医師としての意見を述べる | 措置を決めるのは派遣元。実行には派遣先の協力が必要 |
つまり、話を聴くところまでは派遣先の産業医がすぐに動ける。働き方を変える決定は、派遣元と一緒に行うという分担です。面談の結果を派遣元に伝えるときは、必ず本人の同意を取ってください。
派遣元と派遣先の連携で困ること

- 労働時間の情報が派遣元に届かない。残業の実態を知っているのは派遣先です。月80時間を超えた人の情報を派遣元に渡さなければ、面接指導が始まりません。
- 健診結果や面接指導の意見が、派遣先に伝わらない。派遣元の医師が「残業を制限」と意見を出しても、実行するのは派遣先の現場です。本人の同意を得たうえで、必要な範囲を共有する取り決めが要ります。
- 派遣元の産業医が、職場を見ていない。派遣元の産業医は派遣先の現場を知りません。作業内容や環境の情報を、派遣先から出してあげると判断が正確になります。
- 誰に相談すればよいか、本人が分からない。派遣元の担当者は月に一度しか来ない、派遣先の人には言いにくい。このすき間で不調が進みます。
派遣契約を結ぶときに、労働時間の通知の方法、体調不良が出たときの連絡先、健康情報を共有する範囲と本人同意の取り方を決めておくと、いざというときに迷いません。
派遣社員が多い職場の人事へ——「派遣さんだからいい」は通らない

派遣先には、健康診断やストレスチェックを実施する義務はありません。それでも、私が派遣先の人事の方に必ずお願いしていることが2つあります。
- 「体調が悪いときは、すぐ相談してください」と派遣社員にも伝える。相談先が分かりにくい立場だからこそ、最初に伝えておきます。
- 相談できる窓口を、派遣社員も共有で使える形にしておく。派遣で働く方は、雇用や人間関係の面で不安定になりやすく、ストレスを溜めがちです。産業医や保健師の健康相談、社内の相談窓口を派遣社員にも開いておくと、本人に優しいだけでなく、トラブルの予防にもなり、周りの人も支援しやすくなります。
相談窓口の整え方は高ストレス者に上司はどう関わる?、就業制限の考え方は就業制限の基準と強制力とは?が参考になります。長時間労働の面接指導の流れは長時間労働の面接指導とは?にまとめています。
まとめ:義務は派遣元、現場を守るのは派遣先
- 一般健診・ストレスチェック・長時間労働の面接指導は派遣元の義務。特殊健診・職場巡視・衛生委員会・労働時間の把握は派遣先。
- 産業医選任の「50人」は、派遣先でも派遣社員を含めて数える。
- 派遣先の産業医が派遣社員を面談するのは普通のこと。就業上の措置の決定は派遣元と連携する。
- 連携の要は、労働時間の通知、連絡先、健康情報の共有範囲と本人同意を契約時に決めておくこと。
- 派遣先は、相談窓口を派遣社員にも開いておく。労災が起きれば派遣先も責任を問われる。
あわせて読みたい:ストレスチェックの面接指導と運用
ストレスチェックの面接指導や実施・運用について、あわせてご覧ください。
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よくある質問
Q1. 派遣社員の産業医面談は、派遣先と派遣元のどちらが行いますか?
長時間労働や高ストレス者への法定の面接指導は、派遣元に実施義務があります。ただし、日常の健康相談として派遣先の産業医が派遣社員と面談することは問題なく、現場ではよく行われています。就業上の措置が必要な場合は、本人の同意を得て派遣元と連携します。
Q2. 派遣社員は、産業医選任の50人に含めますか?
含めます。派遣先は、受け入れている派遣社員を含めて常時使用する労働者の数を数えます。派遣元でも、自社が雇用する派遣社員を含めて数えます。
Q3. 派遣社員の残業が月80時間を超えました。派遣先は何をすればいいですか?
労働時間を把握しているのは派遣先なので、その情報を速やかに派遣元に通知します。面接指導を行うのは派遣元です。派遣先は、面談の時間を確保できるよう勤務を配慮し、医師の意見に基づく残業の制限などの実行に協力します。
Q4. 派遣先の衛生委員会や職場巡視は、派遣社員も対象ですか?
対象です。職場の環境と作業の管理は派遣先の責任なので、職場巡視では派遣社員の作業場所も見ますし、衛生委員会では派遣社員を含めた職場全体の健康と安全を審議します。

