「産業医はいないけれど、高ストレス者の面談だけ医師に頼みたい」「休職者の復職判定を1回だけ見てほしい」——50人未満の会社や、顧問産業医の枠が足りない会社から、こうした相談が年々増えています。
先に結論です。産業医のスポット契約とは、顧問契約を結ばずに、必要な業務を1件単位で医師に依頼する形です。面接指導や復職面談なら1件3万円前後が相場で、オンラインで完結します。
従業員50人未満の事業場には産業医の選任義務がないため、スポットだけで法令上の義務を果たすことができます。一方、50人以上の事業場は選任義務と月1回の職場巡視があるため、スポットでは代替できません。
この記事では、現役産業医としてスポットの依頼を日常的に受けている立場から、スポットで頼める業務、費用相場、依頼から実施までにかかる日数、失敗しないための確認事項、顧問契約に切り替える目安までを、依頼する会社の目線で解説します。
産業医のスポット契約とは?——顧問(嘱託)契約との違い

産業医との契約には、大きく2つの形があります。月1回など定期的に訪問して健康管理全般を担う顧問(嘱託)契約と、面接指導や復職判定など必要な業務だけを単発で依頼するスポット契約です。スポット契約は「産業医を雇う」のではなく、「医師の判断が必要な場面だけ医師を呼ぶ」契約だと考えると分かりやすいでしょう。
| 顧問(嘱託)契約 | スポット契約 | |
|---|---|---|
| 向いている会社 | 従業員50人以上(選任義務あり)、面談や相談が毎月発生する会社 | 50人未満で産業医がいない会社、顧問産業医の枠が足りない会社、拠点が分散している会社 |
| 費用の考え方 | 月額固定(規模・訪問頻度で変動) | 1件ごと(面談1件3万円前後) |
| できること | 職場巡視、衛生委員会、健診の事後措置、面接指導、復職支援など全般 | 面接指導、復職面談、健診の意見聴取、衛生講話など、区切れる業務 |
| できないこと | — | 50人以上の事業場の「産業医の選任」そのもの、月1回の職場巡視の継続 |
| 医師との関係 | 同じ医師が継続 | 依頼先によっては毎回医師が変わる(要確認) |
スポットで頼める業務は何?——実際に多いのは復職面談と高ストレス者の面接指導
理屈の上では産業医の業務の多くをスポットで切り出せますが、私が実際に受けている依頼は偏っています。圧倒的に多いのが復職面談と、ストレスチェック後の高ストレス者面接指導です。次いで、健康診断の結果を見て就業制限をつけるかどうかの意見(意見聴取)が時々あります。衛生講話や職場巡視の単発依頼は、意外と少ないのが実態です。
| 業務 | 依頼の多さ | 費用の目安 | オンライン | 会社に必要な理由 |
|---|---|---|---|---|
| 高ストレス者の面接指導 | ◎ 非常に多い | 1件3万円前後(意見書込み) | 可 | 申出があれば規模を問わず義務(安衛法第66条の10) |
| 長時間労働者の面接指導 | ○ | 1件3万円前後(意見書込み) | 可 | 月80時間超+申出で規模を問わず義務(第66条の8) |
| 復職面談・復職判定 | ◎ 非常に多い | 1件3万円前後 | 可(状況により対面) | 安全配慮義務の履行。主治医の診断書だけでは判断できない |
| 健診結果の意見聴取(就業判定) | △ 時々 | 人数・件数で見積もり | 可 | 有所見者への医師の意見聴取は事業者の義務(第66条の4) |
| 衛生講話・セミナー | △ 少ない | 1時間5〜10万円 | 可 | 衛生委員会・安全衛生教育の一環 |
| 職場巡視(単発) | △ 少ない | 訪問単位で見積もり | 不可(現地) | 50人以上は月1回の継続が必要=スポット向きではない |
面接指導は「医師」であれば行えるため、自社の産業医である必要はありません。産業医がいない会社の面接指導の手配についてはストレスチェックの面接指導、医師がいない会社はどうする?で詳しく解説しています。
費用相場はいくら?——面談1件3万円の中身と、料金体系の比較

スポットの面談は、1件3万円前後が最も多い価格帯です。ここに何が含まれているかで実質の費用は変わります。標準的には「事前資料の確認(ストレスチェック結果・勤怠・健診結果)」「面談(30分前後)」「意見書の作成」までが1件の範囲です。意見書が別料金の依頼先もあるため、必ず確認してください。講話やセミナーは1時間で5〜10万円が目安です。
| 料金体系 | 向いている依頼 | 注意点 |
|---|---|---|
| 件数制(面談1件いくら) | 面接指導・復職面談 | 意見書・事前資料確認が含まれるか。キャンセル料の有無 |
| 時間制(1時間いくら) | 健診の意見聴取(まとめて複数人)、講話 | 準備時間が課金対象か。延長の単位 |
| 日額・半日制 | 巡視+面談+委員会をまとめる訪問 | 交通費・移動時間の扱い |
ストレスチェック面接指導に限った費用の内訳と相場は、ストレスチェック面接指導の費用・料金相場にまとめています。顧問契約の月額相場を知りたい方は産業医の報酬相場をご覧ください。
スポット契約が向く会社・向かない会社——50人の線で判断が変わる
- 向く会社①: 従業員50人未満で産業医がいない。選任義務がなく、面接指導や復職判定の「医師が必要な場面」だけ埋めればよい。
- 向く会社②: 顧問産業医はいるが、面談枠が足りない。ストレスチェック直後に高ストレス者の申出が重なる時期だけ、外部の医師で枠を増やす。
- 向く会社③: 拠点が全国に分散している。本社の産業医が地方拠点の面談を受けきれないとき、オンラインのスポットで補う。
- 向く会社④: まず1件試して、産業医との相性を見たい。顧問契約の前に、面談の質を確かめる使い方。
50人以上で産業医を選任する場合の選び方は産業医の選び方|7つのチェックポイントを、顧問契約のご相談はサンポチャートの産業医サービスをご覧ください。
依頼から実施まで何日かかる?——通常2週間、探すところからだとさらに長い
ここは正直にお伝えします。産業医紹介会社などに普通に依頼すると、面談まで2週間ほどかかるのが実態です。顧問産業医がいる会社でも1週間以内が目安です。医師を探すところから始めると、さらに時間がかかります。地域の開業医に電話しても、産業医業務は引き受けてもらえないことが多いからです。 愛知・名古屋で産業医を探す場合は、愛知・名古屋の独立系産業医事務所9選も参考にしてください。
- 申込・業務内容の確認(誰の、どの面談を、いつまでに)
- 医師の確定——ここが最も時間を食う。紹介会社では「どの医師に・いつ」の打ち合わせが往復する
- 日程調整(本人・医師・人事の三者)
- 事前資料の送付(ストレスチェック結果・勤怠・健診結果。本人の同意が必要なものは同意を取る)
- 面談の実施(オンラインなら30分前後)
- 意見書の受領(私は面談翌営業日までに出しています)
「最短当日」の面談が可能になる条件は、オンラインであることと、医師の側があらかじめ空き枠を出していることの2つです。医師を探して打ち合わせをしている限り、当日は不可能です。逆に、待機している医師の空き枠から従業員本人が日時を選ぶ仕組みなら、枠があれば当日、標準でも3営業日以内で面談まで進みます。
失敗しないための確認事項5つ——「毎回医師が変わる」が最大の落とし穴

スポット契約で困った会社の話を聞くと、原因はほぼ同じです。依頼のたびに医師が変わり、前回の面談内容や意見書が引き継がれていない。主治医が受診のたびに変わるようなもので、従業員は毎回ゼロから説明することになり、意見も一貫しません。契約前に次の5点を確認してください。
- 同じ医師が継続して担当するか。少なくとも同一の従業員については、同じ医師が診る体制か。
- 意見書は料金に含まれるか。面談だけで意見書が出ない、または別料金という依頼先がある。
- オンライン面接指導の要件を満たしているか。厚生労働省の通達に沿った方法か(電話のみは不可)。詳しくはオンラインでの面接指導の要件。
- 面談記録・意見書の受け渡しルート。誰から誰に、どの形式(PDF・紙・システム)で届くか。前回の記録を次回の医師が見られるか。
- 追加費用とキャンセル規定。意見書料・登録料・交通費・当日キャンセル料。
現役産業医から見たスポット契約の本音——顧問に切り替える目安
スポットで依頼してきた会社が、あとから顧問契約に切り替えるケースは珍しくありません。きっかけは2つで、「同じ従業員に継続的な面談が必要になった」ときと、「この医師が信頼できるので、ずっとお願いしたい」と思ってもらえたときです。スポットは、産業医との相性を見る”お試し”としても機能します。
私自身がスポットで面談をしていて感じるのは、「1回で終わる面談」は思ったより少ないということです。高ストレス者の面談で就業制限をつければ、1か月後に再評価が要ります。復職判定をすれば、復職後のフォローが要ります。だからこそ、同じ医師が続けて診られる依頼先を選ぶことが、スポット契約で最も重要な条件になります。復職判定をスポットで頼むときの進め方は産業医がいない会社の復職判定はどうする?で解説しています。
産業医がいない会社の面接指導は「サンポマッチ」で——待機中の医師の枠から本人が選ぶ
紹介会社のスポットで時間がかかる最大の理由は、間に人が入って「どの医師に、いつやりましょうか」の打ち合わせが往復することです。サンポチャートのスポット面接指導「サンポマッチ」は、この打ち合わせをなくしました。医師があらかじめ待機枠を出しておき、従業員本人がその中から日時を選ぶ仕組みです。
- 人事の時間を取らない。医師探しと日程調整の往復がなくなる。
- 医師が見つかる。待機している医師の枠から選ぶので、「引き受け手がいない」が起きない。
- 従業員はその場で予約できる。空き枠を見て決めるだけなので、申出の心理的ハードルが下がる。
- 費用が読める。基本料金は月1万円(税別・3か月単位)、面接指導は1件3万円(税別)・意見書込み。先着3社のPoCは基本料金が無料で、3面談まで無償。ストレスチェックの時期に合わせて契約しておけば、高ストレス者が出たときにすぐ動ける。
まとめ:スポット契約は「医師が必要な場面だけ、同じ医師に」頼む形
- スポット契約=顧問契約なしで、面接指導や復職面談を1件単位で医師に依頼する形。
- 実際に多いのは復職面談と高ストレス者の面接指導。相場は1件3万円前後(意見書込みか要確認)。講話は1時間5〜10万円。
- 50人未満ならスポットだけで面接指導の義務を果たせる。50人以上は選任義務と月1巡視があり、スポットでは代替できない。
- 通常は依頼から面談まで2週間。当日〜3営業日で進めるには、オンライン+医師が待機枠を出している仕組みが必要。
- 最大の落とし穴は毎回医師が変わること。同じ医師の継続・意見書込み・記録の受け渡しを契約前に確認する。
- 継続的な面談が必要になった、信頼できる医師に出会えた——そのときが顧問契約に切り替える目安。
スポット契約を検討している担当者の方に一言だけ。まず1件、試してみてください。面談の質、意見書の具体性、従業員の反応を見てから、続けるか、顧問に切り替えるかを決めれば十分です。産業医を早く見つけられれば、それだけ担当者の負担は減り、従業員の満足度は上がります。
よくある質問
Q1. 従業員50人未満でも産業医にスポットで依頼できますか?
できます。50人未満の事業場には産業医の選任義務がないため、顧問契約を結ばずに面接指導や復職面談を1件単位で依頼する形が一般的です。高ストレス者や長時間労働者の面接指導は規模を問わず義務なので、スポットで医師を確保しておくと安心です。
Q2. 1回だけの依頼でも受けてもらえますか?
受けられます。ただし、高ストレス者の面談で就業制限をつけた場合は1か月後の再評価、復職判定なら復職後のフォローが必要になることが多く、実際には「1回で終わる面談」は少数です。同じ医師が続けて診られる依頼先を選ぶと、2回目以降がスムーズです。
Q3. 産業医のスポット契約の費用相場はいくらですか?
面接指導・復職面談は1件3万円前後が最も多い価格帯です。事前資料の確認、面談、意見書の作成までが含まれるかを確認してください。衛生講話やセミナーは1時間5〜10万円が目安です。意見書料・登録料・交通費が別建ての依頼先もあるため、総額で比較しましょう。
Q4. スポットの面談はオンラインでできますか?
面接指導・復職面談・健診の意見聴取はオンラインで実施できます。面接指導をオンラインで行う場合は、厚生労働省の通達に沿った方法(映像と音声の双方向・本人確認・情報管理など)が必要で、電話のみは認められていません。職場巡視は現地訪問が必要です。
Q5. スポット契約から顧問契約に切り替える目安は?
同じ従業員に継続的な面談が必要になったとき、面談件数が毎月発生するようになったとき、そして従業員が50人以上になったときです。50人以上は選任義務と月1回の職場巡視があるため、スポットでは法令上の要件を満たせません。信頼できる医師に出会えたタイミングで切り替える会社も多いです。

