「健診で心電図に『要精査』と出た社員がいます。夜勤や運転を続けさせて大丈夫ですか。会社として何をすればいいですか」——健診の結果が返ってくる時期に、人事・総務の方からよくいただく相談です。
先に結論です。心電図の異常で、すぐに就業制限がかかることは基本的にありません。会社にやっていただきたいのは2つだけです。①健診の判定(要精査・要受診など)に従って、病院で受診して精査してもらうこと。②働き方の判断は社内で決めず、産業医に任せること。
私は名古屋で産業医をしている角田拓実です。心電図の所見はバリエーションが多すぎて、この記事だけで全部を解説するのは無理があります。だからこそ、この記事では所見の名前の解説ではなく、結果を受け取った人事が「何を、どの順番でやるか」に絞って書きます。
心電図異常で就業制限になる?——すぐに制限がかかることは基本的にない

心電図検査は、会社が毎年行う定期健康診断の法定項目の一つです(労働安全衛生規則第44条第1項第11号)。ただし法律には、「この所見なら就業禁止」「この所見なら夜勤禁止」という線は書かれていません。高血圧や糖尿病と同じで、健診で異常の所見があった人について、会社が医師の意見を聴き、必要なら就業上の措置をとる、という仕組みです(労働安全衛生法第66条の4・第66条の5)。
医師の意見は「通常勤務」「就業制限」「要休業」の3つの区分で出します(厚生労働省「健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」)。心電図の所見がある社員の多くは、通常勤務のまま、判定に従って受診し、必要なら治療を受けるという流れになります。健診の結果が出ただけの段階で、会社が先回りして仕事を止める必要はありません。
「要精査」「要経過観察」と書かれていたら、会社は何をする?

健診の結果表には、健診機関が所見ごとに判定をつけています。書き方は健診機関によって少しずつ違いますが、会社の動き方は次のように分けて考えれば十分です。
| 判定の書き方(例) | 会社がやること | 産業医に回すか |
|---|---|---|
| 異常なし・軽度異常 | 特になし | 不要 |
| 要経過観察 | 来年の健診で同じ項目を見る。前年と比べて変わっていないか確認 | 前年になかった所見なら回す |
| 要精査・要再検査 | 病院で受診して精査してもらう。受診したかを確認する | 回す(精査の結果と一緒に) |
| 要治療・要受診 | 早めの受診を勧める。すでに通院中なら主治医に結果を見せてもらう | 回す |
「要精査」は、病気が確定したという意味ではありません。精査(多くは循環器内科で、心電図の取り直しや心臓の超音波検査、24時間心電図など)を受けて、治療は要らないと言われる方も少なくありません。だからこそ、判定が出たら一度きちんと調べてもらうことに意味があります。
私が特に気にするのは、前の年にはなかった異常が、新しく出てきたときです。新しく異常が出た人には、早く病院に行ってほしいですし、調べておくことに意味があります。逆に、何年も同じ所見で、精査も済んでいて「心配ない」と言われている人は、毎年あわてる必要はありません。前年の結果と並べて見るだけで、急ぐべき人が分かります。
不整脈のある社員に、夜勤・運転・高所作業を続けさせていい?

ここがいちばん多い質問です。私の答えは、「適切に治療・フォローされていれば、特別どうこうということはありません」です。不整脈があると分かっても、病院で精査を受け、必要な治療を受けていれば、私が業務を止めることは基本的に少ないです。
不整脈の種類によっては、薬のほかに、ペースメーカーや植込み型除細動器といった治療を受ける方もいます。そうした治療でしっかりコントロールされていれば、やはり特別に止めることはしません。どの業務をどこまで続けてよいかは、主治医の指導が基本です。産業医は、主治医の意見と、会社から聞いた業務の中身(夜勤の有無・運転の頻度・高所や一人作業の有無)を突き合わせて、働き方についての意見を出します。
- 会社が産業医に伝えること: 夜勤・交代勤務の有無、社用車やフォークリフトの運転、高所作業、一人で作業する時間があるか
- 本人に確かめてもらうこと: 精査を受けたか、治療が必要と言われたか、主治医から仕事について何か言われているか
- すぐ産業医に相談するとき: 動悸・めまい・気が遠くなる・胸の痛みなどを本人が訴えているのに、受診していないとき
夜勤と健康状態の関係の考え方は、高血圧で夜勤禁止になる基準は?でも書いています。所見の種類は違っても、「治療されているか」「業務の中身は何か」を産業医が突き合わせる、という骨組みは同じです。
受診を後回しにする社員には、どう伝える?——「心臓のことだからね」

「要精査」と出ても、症状がないと受診を後回しにする方は少なくありません。そういうときに私が勧めている伝え方は、「念のため、安全のために、まずは1回受診しておきましょう」です。「心臓のことだからね」と一言添えてあげると、本人も受け止めやすくなります。
「受診しないと仕事をさせない」といった言い方は、本人を追い詰めるうえ、結果を会社に隠す方向に働きがちです。受診をどうしても渋る場合は、産業医の面談につないでください。医師から直接話を聞くと、受診に向かう方は多いです。面談の流れは産業医面談とはにまとめています。
心電図の結果は人事が抱え込まない——産業医に相談するまでの流れ

心電図の結果を持ってきた人事の方に、私が最初に伝えるのは一言です。「心電図は難しいところなので、産業医に相談してください」。良くないタイプの心電図もあるので、変に抱え込んだり、社内だけで判断を持ったりしないでほしいのです。
- 結果を並べる: 心電図に所見のある人を一覧にし、前年の結果と並べる(新しく出た所見に印をつける)
- 受診を勧める: 要精査・要受診の人に、判定どおり病院での精査を勧める。受診したかを確認する
- 産業医に回す: 一覧と精査の結果、業務の中身(夜勤・運転・高所)を産業医に渡す。健診日から3か月以内に意見を聴く
- 意見に従って決める: 通常勤務・就業制限・要休業の意見を受けて、本人の意見も聴いたうえで会社が措置を決める。医師の意見は健康診断個人票に記録する
産業医から就業制限の意見が出たときの会社の受け止め方は産業医の就業制限に強制力はある?、意見書の書式は産業医意見書の書き方を参照してください。
あわせて読みたい:健診の有所見と「働き方の判断」
健康診断で見つかる所見ごとに、就業制限や配慮が必要になるのかを産業医の視点で解説しています。判断の考え方は共通なので、あわせてご覧ください。
- 健康診断の事後措置|有所見者の就業判定の進め方
- 高血圧で夜勤禁止になる基準は?産業医が見る血圧の目安
- 高血圧で就業制限になる基準は?産業医が出す制限の種類と会社対応
- 貧血で仕事はドクターストップになる?産業医が見るHb値の目安
- 糖尿病は就業制限になる?HbA1cと低血糖・運転の注意
- 肝機能の異常で仕事に制限は必要?γ-GTPと脂肪肝・飲酒の話
- 脂質異常症で就業制限は必要?LDL・中性脂肪と重なるリスク
- 尿蛋白・尿潜血の就業判定|制限はほぼない、でも放置しない
- 聴力低下で配置転換?騒音職場の健診で先に見る「職場の音」
よくある質問
Q1. 健診で心電図異常が出たら、就業制限になりますか?
すぐに就業制限になることは基本的にありません。法律に「この所見なら就業制限」という基準はなく、判定に従って病院で精査し、その結果をもとに産業医が通常勤務・就業制限・要休業のどれかの意見を出します(労働安全衛生法第66条の4・第66条の5)。多くの方は通常勤務のまま、受診・治療を続けます。
Q2. 「要経過観察」なら何もしなくていいですか?
来年の健診で同じ項目を見る、という意味です。ただし前年にはなかった所見が新しく出た場合は、産業医に一度見てもらうことをお勧めします。前年の結果と並べるだけで、急ぐべき人が分かります。
Q3. 不整脈の社員に夜勤や運転をさせても大丈夫ですか?
精査を受け、適切に治療・フォローされていれば、特別に止めることは基本的にありません。どこまで続けてよいかは主治医の指導が基本で、産業医は主治医の意見と業務の中身(夜勤・運転・高所・一人作業)を突き合わせて意見を出します。動悸やめまいなどの症状があるのに受診していない場合は、すぐ産業医に相談してください。
Q4. 要精査なのに受診しない社員には、どう伝えればいいですか?
「念のため、安全のために、まずは1回受診しておきましょう」「心臓のことだからね」と伝えるのがお勧めです。受診しないと仕事をさせない、という言い方は避け、仕事のことは結果を見て産業医と相談して決める、と伝えてください。それでも渋る場合は産業医の面談につなぎます。
Q5. 心電図検査は毎年全員に必要ですか?
定期健康診断の法定項目ですが、40歳未満(35歳を除く)の方は、医師が必要でないと認めるときは省略できます(労働安全衛生規則第44条第2項と厚生労働大臣が定める基準)。雇入れ時の健康診断では省略できません。
まとめ:心電図異常は「判定どおり受診」と「判断は産業医に」
- 心電図の異常で、すぐに就業制限がかかることは基本的にない。法律に所見ごとの基準はなく、医師の意見で個別に決める
- 会社がやるのは、判定どおりに受診して精査してもらうこと。前年になかった所見が新しく出た人は早めに
- 不整脈があっても、適切に治療・フォローされていれば、夜勤や運転を特別に止めることは基本的にない。どこまでかは主治医の指導が基本
- 受診を渋る社員には「念のため、安全のために1回」「心臓のことだからね」
- 所見の意味を社内で決めない。良くないタイプの心電図もあるので、抱え込まず産業医に相談する(健診日から3か月以内に意見を聴く)

