「労働基準監督署に、残業の多い社員に面接指導をしていないと言われました。産業医がいないのですが、誰に頼めばいいでしょうか」——長時間労働の面接指導だけを頼まれることは、実際にあります。多くは、監督署に言われて初めて動く会社です。
先に結論です。産業医がいなくても、外部の医師に頼めます。法令が求めているのは「医師による面接指導」で、自社の産業医でなければならないとは書かれていません(労働安全衛生法第66条の8)。対象は、月80時間を超える時間外・休日労働があり、疲労の蓄積が認められる人で、本人の申出があった人です(労働安全衛生規則第52条の2・第52条の3)。申出があったら、遅滞なく行います。頼み先は3つ——地域産業保健センター(50人未満は無料)、スポットの産業医(1件3万円・税別・意見書込み)、顧問の産業医。用意するのは、直近3か月ほどの勤務時間の記録と、業務の内容です。面接のあと、会社には意見書が返ります。
私は名古屋で産業医をしている角田拓実です。この記事は、産業医がいない会社、または産業医が面接指導まで動いてくれない会社が、外部の医師に頼むときの要点を書きます。面接指導の進め方そのものは長時間労働の面接指導は義務?80時間の基準・流れ・記録票にあります。
産業医がいなくても面接指導はできる?——法令が決めている「誰が・誰に・いつまでに」

労働安全衛生法第66条の8は、要件にあたる労働者に「医師による面接指導」を行うことを事業者に求めています。産業医の選任義務がない50人未満の会社にも、この義務はあります。会社だけでいきなり面接指導を始めることはなかなかなく、監督署に突っ込まれて「やらなければいけないんだ」と気づく、というのが多いです。監督署から産業医の未選任もあわせて指摘された会社は、労基署に産業医の選任を指摘されたら?もご覧ください。
| 項目 | 決まり | 根拠 |
|---|---|---|
| 誰が | 医師。自社の産業医でなくてもよい | 安衛法第66条の8第1項 |
| 誰に | 1週40時間を超えた時間が月80時間を超え、疲労の蓄積が認められる人で、本人が申し出た人 | 安衛則第52条の2第1項・第52条の3第1項 |
| 会社がすること | 毎月1回以上、時間を計算し、80時間を超えた人に時間を知らせる | 安衛則第52条の2第2項・第3項 |
| いつまでに | 申出があったら遅滞なく | 安衛則第52条の3第3項 |
| そのあと | 医師の意見を聴き、必要なら就業場所の変更・作業の転換・労働時間の短縮などの措置。記録は5年保存 | 安衛法第66条の8第4項・第5項、安衛則第52条の6 |
研究開発の業務で月100時間を超える人は、申出がなくても面接指導が必要です(同法第66条の8の2)。労働時間の状況は、タイムカードやパソコンの使用時間など客観的な方法で把握します(同法第66条の8の3)。月80時間に満たない人でも、健康への配慮が必要なら、会社が決めた基準で面接指導を行うよう努めることになっています(同法第66条の9)。80時間・100時間の線の読み方は過労死ラインは何時間?45時間・60時間・80時間・100時間の違いにまとめています。
頼み先は3つ——地域産業保健センター・スポットの産業医・顧問の産業医


| 地域産業保健センター | スポットの産業医 | 顧問の産業医 | |
|---|---|---|---|
| 使える会社 | 従業員50人未満 | 人数を問わない | 人数を問わない(50人以上は選任の義務) |
| 費用 | 無料 | 1件3万円(税別・意見書込み) | 顧問料 月3万円〜(税別)。訪問の時間内なら面接指導も顧問料の中 |
| 速さ・回数 | 予約から面接まで時間がかかることや、回数に限りがある | 資料と日程がそろえば最短3営業日 | 訪問日に合わせる。訪問日以外も相談できる |
| そのあとの相談 | その場限り | 1件ごと。必要なら追加で頼める | 継続して相談できる |
| 向いている会社 | 件数が少なく、急がない50人未満 | まず1件を早く済ませたい。年間契約までは考えていない | 対象者が繰り返し出る。健康の問題が複数ある |
地域産業保健センターの使える範囲と限界は地域産業保健センターで面接指導は足りる?無料の範囲と限界、スポットで頼める業務は産業医のスポット契約とは?面談の費用相場・頼める業務に書いています。ストレスチェックの高ストレス者の面接指導の頼み先は、別にストレスチェック面接指導の医師がいない|外部委託・スポット依頼にまとめています。
頼むときに用意するもの——直近3か月の勤務時間の記録と、業務の内容


医師は面接で、本人の勤務の状況・疲労の蓄積の状況・心身の状況を確かめます(労働安全衛生規則第52条の4)。このうち勤務の状況は、会社からの資料がないと分かりません。人間関係は本人に聞けますが、仕事の状況は全体として会社から渡してください。
- 勤務時間の記録: 直近3か月ほど。月ごとの時間外・休日労働の時間と、深夜の勤務の有無
- 仕事の内容: 会社の業種、本人の担当業務、繁忙の時期かどうか
- 職場の状況: 人員の増減、最近の変化(異動・担当替え・システム変更など)
- 健康診断の結果: 直近のもの(あれば)
- 本人への案内: 面接指導の目的と、医師に渡す情報の範囲を本人に説明し、同意を得る。案内文は長時間労働の産業医面談 案内文テンプレ
頼んでから困るのは、時間の記録が1か月分しかない、担当業務が「営業」としか分からない、というときです。3か月ほどの記録と、どんな仕事をしているかが分かるだけで、面接の中身がずっと具体的になります。
面接のあと、会社に返るもの——意見書と就業制限、「残業を減らしましょう」で終わらせない理由


面接のあと、医師は会社に意見書を返します。健康上の問題が出ているときは、残業時間の制限など、就業制限の意見を書くことがあります。会社は医師の意見を聴き、必要なら就業場所の変更・作業の転換・労働時間の短縮・深夜業の回数の減少などの措置をとります(労働安全衛生法第66条の8第4項・第5項)。就業制限の中身と強制力は就業制限とは?残業・夜勤の制限など中身と強制力、会社の対応にあります。
私が面接のあとに会社へ伝えているのは、「残業を減らしましょう」だけではありません。過労死によって会社に何が起きるかです。
- 損害賠償の責任を問われる
- そもそも、その従業員を失う
- 周りの社員のモチベーションが下がり、退職が増える
- 倒れた人の分だけでなく、職場全体の生産性が下がる
信じられないかもしれませんが、すごく大きな損害が出ます。面接指導は、本人を守るためのものであると同時に、会社がこの損害を避けるための仕組みです。意見書は、その判断の記録として5年間保存します(労働安全衛生規則第52条の6)。
単発で終わる会社と、顧問に切り替えたほうがいい会社の境目


1件で終わる会社もあれば、顧問に切り替えたほうがいい会社もあります。境目は、面接指導の対象者が頻発するか、そして面接した医師から「いろいろな健康の問題が潜んでいる」と言われたかです。そう言われたら、顧問に変えるのも一つです。
ただ、必ずしも顧問契約が要るわけではありません。大事なのは、事例が起きたときに相談できる体制があることです。それが確保できるなら、スポットで頼み続けるのもありです。メンタルヘルスの問題など、いろいろな問題を感じるようになってきたら、顧問を入れたほうがいい、というのが私の考えです。顧問の形は産業医がいない会社はどうする?ストレスチェック・面接指導・メンタル不調の対応とあわせて読んでください。
よくある質問
Q1. 月80時間に届かない社員でも、面接指導を頼めますか?
頼めます。法令は、要件にあたらない人でも健康への配慮が必要なら、会社が定めた基準で面接指導などを行うよう努めることを求めています(労働安全衛生法第66条の9)。月45時間を超える残業が続く人を対象にする会社もあります。
Q2. 本人が面接指導を受けたがらないときは?
要件にあたる人が申し出た場合、本人には面接指導を受ける義務があります。会社が指定した医師を希望しないときは、別の医師の面接指導を受けて、その結果の書面を会社に出すこともできます(労働安全衛生法第66条の8第2項)。申出そのものがないときは、産業医や会社から申出を勧めてください。
Q3. 費用はいくらかかりますか?
地域産業保健センターは50人未満の事業場なら無料です。サンポチャートのスポットは1件3万円(税別)で、資料の確認・面談・意見書まで含みます。顧問の場合は顧問料月3万円〜(税別)で、訪問の時間内(訪問対応料が必要)なら産業医業務と併せて面接指導を合わせて実施可能です。
Q4. 申出から、いつまでに面接指導をすればいいですか?
法令は「遅滞なく」です(労働安全衛生規則第52条の3第3項)。目安としておおむね1か月以内に行うのが実務です。スポットなら、資料と日程がそろえば最短3営業日で面談できます。
Q5. 面接指導の記録は何年保存しますか?
5年間です(労働安全衛生規則第52条の6)。記録には、実施日・本人の氏名・医師の氏名・疲労の蓄積と心身の状況・医師の意見を書きます。
まとめ
- 産業医がいなくても、長時間労働の面接指導は外部の医師に頼める。法令が求めるのは「医師による面接指導」
- 対象は月80時間超+疲労の蓄積で、本人の申出があった人。申出があったら遅滞なく
- 頼み先は、地域産業保健センター(50人未満・無料)、スポットの産業医(1件3万円・税別)、顧問の産業医
- 用意するのは直近3か月ほどの勤務時間の記録と、業務の内容・業種・職場の状況
- 会社に返るのは意見書。残業の制限だけでなく、過労死で会社に起きる損害まで伝える
- 対象者が頻発する・健康の問題が潜んでいると言われたら顧問へ。相談できる体制があればスポットでもよい
出典: 労働安全衛生法(e-Gov法令検索)第66条の8・第66条の8の2・第66条の8の3・第66条の9、労働安全衛生規則(e-Gov法令検索)第52条の2〜第52条の6。










