「健診で『要再検査』の社員が十数人います。会社が受けさせないといけないのでしょうか。費用も会社が出すべきですか」——健診の結果が届く時期に、人事の方からよくいただく相談です。
先に結論です。再検査・精密検査は、会社に一律の実施義務はなく、費用を会社が負担する義務もありません(厚生労働省の指針)。ただし会社には、受診を勧め、その結果を意見を聴く医師(産業医)に出してもらうよう働きかけることが求められています。そして、異常の所見がある社員について医師の意見を聴き、必要な就業上の措置をとることは法律上の義務です。
もう一つ大事なのは、誰を急いで追いかけ、誰を様子見にするかは、人事では判断できないということです。対象者の一覧を産業医に見せて、就業判定と優先順位を付けてもらってください。
再検査は会社の義務?——受けさせる義務はないが、勧めて結果を産業医へ

厚生労働省の「健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」は、再検査・精密検査についてこう定めています。会社は、就業上の措置をできる限り詳しい情報に基づいて決めるために、再検査・精密検査が必要な社員に受診を勧め、意見を聴く医師に検査の結果を提出するよう働きかけることが適当。一方で、再検査・精密検査は診断の確定や症状の程度を明らかにするもので、一律には会社に実施が義務付けられているものではない、としています。
つまり「再検査を受けさせる義務」はありません。ただ、その前後には会社の義務がはっきりあります。整理すると次のとおりです。
| やること | 会社の義務の強さ | 根拠 |
|---|---|---|
| 異常の所見がある社員について医師の意見を聴く | 義務(健診の日から3か月以内) | 労働安全衛生法 第66条の4・労働安全衛生規則 第51条の2 |
| 医師の意見を踏まえて就業上の措置をとる | 義務(必要があると認めるとき) | 労働安全衛生法 第66条の5 |
| 保健指導(受診の勧めを含む) | 努力義務 | 労働安全衛生法 第66条の7 |
| 再検査・精密検査の受診を勧め、結果を医師に出すよう働きかける | 指針で「適当」とされている | 健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針 |
| 再検査・精密検査を会社が実施する・費用を出す | 一律の義務はない | 同指針(ただし特殊健康診断の一部は実施義務) |
例外があります。有機溶剤・鉛・特定化学物質・高気圧作業・石綿の特殊健康診断として規則で定められた検査は、会社に実施の義務があります(同指針)。これらの業務がある会社は、一般の健診の再検査と分けて扱ってください。
健診のあとの就業判定と医師の意見聴取の進め方は健康診断の事後措置とはで、就業判定の3つの区分は就業判定とは?で解説しています。
誰から追いかける?——どのくらい悪いかは人事には見えない。産業医に優先順位を

再検査の対象者が何人もいるとき、誰を急いで受診させ、誰は次の健診まで様子を見てよいか。これは正直、人事や会社の方には判断ができないというのが現実的な問題です。
「要再検査」「要精密検査」という判定で、異常があることは分かります。でも、その人が具体的にどのくらい悪いのかは、判定の文字からは見えません。ここが産業医の出番です。産業医が結果を確認して就業判定をし、仕事に影響があるのか、すぐ悪くなるおそれがあるのか、様子を見てよいのかまで把握する。それを人事に伝えて、追いかける順番を決めます。
| 産業医が見ること | 人事への伝え方の例 |
|---|---|
| 仕事に影響するか(運転・高所・夜勤・長時間の残業がある仕事か) | 「この人は運転があるので、受診の結果が出るまで運転は控えてもらってください」 |
| すぐ悪くなるおそれがあるか(命にかかわるか) | 「この人は今週中に受診してもらってください」 |
| 以前からある所見か、新しく出てきた変化か | 「去年と同じ所見なので、受診は勧めつつ次の健診で確認しましょう」 |
健診の結果用紙だけでは、画像や細かい経過は分かりません。それでも、以前はなかったのに新しく出てきた変化は、受診してもらったほうがいい所見です。逆に、次の健診までじっくり腰を据えて取り組めばいい人もいます。
この確認をせずに、人事や職場だけで対応しようとすると、失敗したときのリスクがとても高くなります。「全員に同じ文面で受診を勧めて終わり」では、急いで受診すべき人が後回しになります。
項目ごとに産業医が何を見ているかは、高血圧・糖尿病・貧血・心電図・胸部X線の記事で解説しています。
受診したかの確かめ方——確認票で本人に申告してもらい、結果は産業医へ

最近は、確認票のようなもので「受診しました」「こういう結果でした」と本人に報告してもらうやり方をしている会社が多いと感じます。紹介状の返事や診断書を医療機関に書いてもらうと、本人にお金もかかります。本人の申告で足りる人は、それでよいと私は考えています。
本人が嘘をついても、本人のためになりません。大事なのは、「提出はしてください」と伝えて、本人に書いてもらうことです。出してもらう形があるだけで、受診を先延ばしにしにくくなります。
| 確認票に入れる欄 | 誰が見るか |
|---|---|
| 受診した日・医療機関 | 人事(受診したかどうかの管理) |
| 医師に言われたこと(治療開始・経過観察・異常なし など) | 産業医・保健師 |
| 検査の値・病名 | 産業医・保健師だけ(人事は見ない) |
| 仕事で困っていること・配慮してほしいこと | 産業医(必要な範囲で人事・上司へ) |
再検査の費用は会社負担?——義務ではない。出せば受診する人は増える

再検査の費用を会社が出しているかどうかで、受診する人の割合はかなり違うと感じています。手元に数字はありませんが、費用を出せば、受診してくれる人はもちろん増えます。
とはいえ、費用を出すことは全然義務ではありません。再検査には難しい検査や、お金がかかるものもあります。必ずしも会社の義務ではないので、その点は安心してください。会社が出すかどうかは、対象の範囲(どの検査まで・上限額)を決めたうえで、社内のルールとして決めればよいことです。
費用の面で知っておきたいのが、労災保険の「二次健康診断等給付」です。定期健康診断(直近のもの)で次の4つの検査のすべてに異常の所見があると診断された人は、脳・心臓の状態を調べる二次健康診断と特定保健指導を、本人の負担なしで受けられます(労働者災害補償保険法 第26条)。
- 対象の4項目: 血圧の測定/血中脂質(LDL・HDLコレステロールまたは中性脂肪)/血糖/腹囲またはBMI(同法施行規則 第18条の16)
- すでに脳血管疾患・心臓疾患の症状がある人は対象外。1年度に1回まで
- 請求は一次健康診断を受けた日から3か月以内。請求書には、健診の受診日と結果について事業主の証明が要る(同施行規則 第18条の19)
4項目すべてに所見がある社員は、脳・心臓の病気のリスクが重なっている人でもあります。会社が証明欄を書く手間はかかりますが、該当者には制度を案内してください。
受けない社員にはどうする?——就業制限がかかる人には、受診してもらう

費用を出すことは義務ではありません。ただ、再検査の対象者の中には、仕事を制限しなければならない人(就業制限がかかる人)が一定程度出てきます。この人たちには、ちゃんと受診して対応してもらうことがとても大事です。
たとえば、血圧が180を超えている人がいたとします。本人は病院に行きたくない。でも、そのまま残業を続けてもらうわけにはいかず、残業の制限をせざるを得ない。こういうときはまず「受診してください」と話します。受診して治療を始めれば、1か月ほどで制限を外せた例もあります。本人がどうしても希望しないときは、就業制限をかけて働きにくくなるので病院に行っていただく、という形になることもあります。
倒れてしまうのは、本人にとってもすごく不幸なことです。会社にとっても、安全配慮義務の上であってはならない、労働災害に近いことです。だから制限の理由を本人にきちんと説明します。罰ではなく、本人と職場を守るための制限です。
受診しないことを理由に、就業制限を超えた不利益(降格・減給・解雇など)を与えるのは避けてください。制限は医師の意見に基づいて、必要な範囲・期間で行い、受診して状態が分かれば見直します。就業制限の強さと会社の決め方は産業医の就業制限とは?で解説しています。
次の健診まで待って、じっくり腰を据えて生活を整えればいい人もいます。命にかかわる緊急の人もいます。その見分けがつかないうちは、どんどん産業医に相談してください。会社に産業医がいない場合は、外部の医師に就業判定を1件から頼めます(産業医のスポット契約とは)。残業が多い社員の健康のことは残業80時間はきつい?過労死ラインと産業医面談の使い方もあわせてご覧ください。
まとめ:再検査は「全員に同じ文面」ではなく、産業医の優先順位で追いかける
- 再検査・精密検査は、会社に一律の実施義務はない。費用を出すことも義務ではない(特殊健康診断の一部を除く)
- 受診を勧め、結果を産業医に出すよう働きかけるのは指針で求められている。医師の意見聴取(3か月以内)と就業上の措置は義務
- 誰を急いで追いかけるかは人事には見えない。対象者の一覧を産業医に見せ、就業判定と優先順位を付けてもらう
- 受診の確認は確認票で本人に申告してもらう。人事が見る欄と、産業医だけが見る欄を分ける
- 費用を出せば受診は増える。4項目すべてに所見がある人には、労災の二次健康診断等給付を案内する
- 就業制限がかかる人には受診してもらう。制限の理由を説明し、受診して状態が分かれば見直す
よくある質問
Q1. 会社は再検査を強制できますか?
一般の健診の再検査・精密検査は、会社に一律の実施義務はなく、受診を強制する決まりもありません。会社にできるのは、受診を勧め、結果を産業医に出すよう働きかけることです。ただし、医師の意見で就業制限が必要とされた場合は、受診して状態が分かるまで仕事の内容を制限することはありえます。
Q2. 再検査の費用は会社が負担しなければいけませんか?
義務ではありません。厚生労働省の指針は、再検査・精密検査は一律には事業者に実施が義務付けられていないとしています。会社が出すと受診する人は増えるので、出す場合は対象の検査と上限額を社内のルールで決めておきます。有機溶剤・鉛・特定化学物質・高気圧作業・石綿の特殊健康診断として定められた検査は、会社に実施の義務があります。
Q3. 再検査の結果を、人事が見てもいいですか?
人事が把握するのは「受診したかどうか」までにし、検査の値や病名は産業医・保健師が扱うようにします。同じ指針は、健康管理を担う人以外に、診断名・検査値などの加工前の情報を扱わせてはならないとしています。確認票は、人事が見る欄と産業医だけが見る欄を分けておくと、本人も書きやすくなります。
Q4. 再検査を受けない社員を、どこまで放っておいていいですか?
人によります。次の健診まで様子を見てよい人もいれば、命にかかわる緊急の人もいます。その見分けは人事にはつかないので、対象者の一覧を産業医に見せて優先順位を付けてもらってください。就業制限がかかる人には、受診してもらうことが大事です。
Q5. 産業医がいない50人未満の会社はどうすればいいですか?
50人未満でも、異常の所見がある社員について医師の意見を聴く義務(労働安全衛生法 第66条の4)はあります。地域産業保健センターや、外部の医師にスポットで就業判定を頼めます。再検査の対象者の一覧を見せて、急ぐ人から順番を付けてもらうのが近道です。

