「毎年、尿蛋白や尿潜血で『要再検査』になる社員がいます。血圧や血糖と違って、仕事と関係があるのかよく分かりません。放っておいていいんでしょうか」——健診のあとに人事・総務の方からいただく相談です。
先に結論です。尿蛋白・尿潜血の所見で、就業制限をかけることはほとんどありません。私自身、尿検査の所見だけで就業を制限した経験はほとんどありません。ただし、放置してよい所見でもありません。腎臓の機能や膀胱の異常が隠れていることがあるからです。1回受診して調べ、何もなければそれでいい。そのうえで「昔調べたから」で止めず、毎年の健診で見続けてください。
私は名古屋で産業医をしている角田拓実です。この記事では、尿検査の医学的な解説より、結果を受け取った会社が「仕事との関係」をどう考え、社員に何と言えばよいかを中心に書きます。
尿蛋白・尿潜血で就業制限になる?——私は制限したことがない

会社が毎年行う定期健康診断の尿検査で、法律が求めているのは「尿中の糖及び蛋白の有無の検査」です(労働安全衛生規則第44条第1項第10号)。尿潜血は法定の項目ではありませんが、多くの健診機関が同じ尿で一緒に調べているため、結果表に並んで出てきます。
健診で異常の所見があった人について、会社は医師の意見を聴き、必要なら就業上の措置をとります(労働安全衛生法第66条の4・第66条の5)。医師の意見は「通常勤務」「就業制限」「要休業」の3区分です。尿蛋白・尿潜血の場合、ほぼすべてが「通常勤務」になります。尿に蛋白や血が混じっていても、それだけで夜勤や残業、重い作業ができなくなるわけではないからです。
仕事に直結しないのに、なぜ健診で見るのか——生活習慣病と脳・心臓の病気の予防

尿検査の所見は、すぐに働き方を変える材料にはなりません。それでも健診で見るのは、今の健康診断の目的の一つが、生活習慣病の予防、そして脳出血のような脳・心臓の病気の予防にあるからです。そう考えると、尿検査は所見として十分に役に立ちます。
尿蛋白は、腎臓でろ過の働きをしている細い血管が傷んでいるサインのことがあります。腎臓の血管が傷む原因として多いのは、高血圧と糖尿病です。つまり尿蛋白は、血圧や血糖の所見と重なったときに意味が大きくなる所見です。血圧・血糖が高めの社員に尿蛋白も出ているなら、腎臓や血管への影響がすでに始まっているかもしれません。
尿蛋白・尿潜血の裏に隠れていること——腎臓と膀胱

尿に蛋白や血が混じる理由はさまざまで、一時的なものも多くあります。だからこそ一度は受診して、一時的なものか、調べておくべきものかを分けてもらうことに意味があります。
| 所見 | 一時的に出ることがある場合 | 隠れていることがある病気 | 受診先の目安 |
|---|---|---|---|
| 尿蛋白 | 激しい運動のあと・発熱・長く立っていたあと | 慢性腎臓病、高血圧や糖尿病による腎臓の障害、腎炎 | 内科・腎臓内科 |
| 尿潜血 | 生理中や生理の前後・激しい運動のあと | 尿路結石、膀胱炎、腎炎、膀胱や腎臓の腫瘍 | 泌尿器科 |
| 両方とも陽性 | — | 腎炎など、腎臓そのものの病気 | 腎臓内科 |
腎臓の機能だとか、膀胱の異常だとか、そういったところが隠れていることがあるので、尿検査は決して油断できない所見です。腎臓は、機能がかなり落ちるまで自覚症状がほとんど出ません。症状が出てからでは遅いので、症状のないうちに尿で見つける、というのが健診の役割です。
毎年同じ社員がひっかかるとき——「1回調べて、何もなければそれでいい」

毎年、尿蛋白や尿潜血で「要再検査」になる社員には、私から一度お伝えすることがあります。言うのは、「1回受診して調べてみてください。それで何もなければ、それはそれでいいですからね」です。受診して異常がないと分かれば、本人も会社も安心して毎年の結果を見られます。
気をつけてほしいのは、「昔調べたから大丈夫」で止まってしまうことです。何年も前に一度調べて異常がなかった人でも、その後に腎臓の機能が落ちてくることはあります。「昔調べたから」で済ませず、毎年の健診で定期的にチェックしてください。特に、蛋白の量が増えた、潜血だけだったのに蛋白も出てきた、血圧や血糖も高くなってきた、という変化があれば、もう一度受診するきっかけです。
尿検査を「どうせ大したことない」と軽く見ている社員に、会社から声をかけるなら、次のような言い方をお勧めします。
受診の後押しの考え方は、ほかの所見でも共通です。肝機能の異常で仕事に制限は必要?でも、「制限より、受診につなぐ」ことを書いています。
2027年4月から健診に「血清クレアチニン検査」——国も腎臓の機能を見ていく

尿検査を軽く見てほしくない理由は、もう一つあります。2027年(令和9年)4月1日から、会社が行う健康診断の法定項目に、腎臓の機能を調べる「血清クレアチニン検査」が加わります(労働安全衛生規則等の一部を改正する省令・令和8年厚生労働省令第89号、2026年4月28日公布)。国としても、働く人の腎臓の機能をしっかり見ていきたい、という表れです。
| 項目 | 2027年4月1日からの扱い |
|---|---|
| 血清クレアチニン検査 | 雇入時・定期・特定業務従事者・海外派遣の健康診断に追加。腎臓の働きは、クレアチニンの値から計算するeGFRで評価し、個人票に記載する |
| 省略できる人 | 定期健康診断などでは、40歳未満の人は医師が必要でないと認めるときに省略できる。雇入時の健康診断では省略できない |
| 尿検査 | 変わらない。法定は引き続き「尿中の糖及び蛋白の有無の検査」で、尿潜血は加わらない |
| 同じ改正で変わること | 定期健康診断などの喀痰検査の廃止。肝機能検査の表記がAST・ALT・γ-GTに |
厚生労働省の通達は、血清クレアチニン検査について「長時間労働による発症リスクがある慢性腎臓病を検査するもの」と説明しています(基発0428第9号)。尿蛋白と、血液で見る腎臓の働き(eGFR)は、どちらも慢性腎臓病を見つける手がかりです。2027年度の健診からは、この2つが結果表に並びます。
あわせて読みたい:健診の有所見と「働き方の判断」
健康診断で見つかる所見ごとに、就業制限や配慮が必要になるのかを産業医の視点で解説しています。判断の考え方は共通なので、あわせてご覧ください。
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よくある質問
Q1. 尿蛋白・尿潜血で就業制限になりますか?
ほとんどなりません。医師の意見は通常勤務・就業制限・要休業の3区分で出しますが、尿検査の所見だけなら、ほぼすべてが通常勤務です。働き方の配慮を考えるのは、腎臓の機能がかなり落ちて、治療と仕事の両立が必要になってきた段階です。
Q2. 尿潜血は健康診断の法定項目ですか?
法定の項目ではありません。定期健康診断で法律が求める尿検査は「尿中の糖及び蛋白の有無の検査」です(労働安全衛生規則第44条第1項第10号)。多くの健診機関が同じ尿で潜血も調べているため、結果表に並んで出てきます。
Q3. 尿蛋白・尿潜血の再検査は何科を受診すればいいですか?
目安として、尿蛋白は内科・腎臓内科、尿潜血だけなら泌尿器科、両方とも陽性なら腎臓内科です。迷うときは、かかりつけの内科で相談すれば、必要に応じて紹介してもらえます。
Q4. 以前に精密検査を受けて異常がなかった社員は、もう受診しなくていいですか?
「昔調べたから」で止めず、毎年の健診で定期的にチェックしてください。蛋白の量が増えた、潜血だけだったのに蛋白も出てきた、血圧や血糖も高くなってきた、という変化があれば、もう一度受診するきっかけです。
Q5. 生理中に健診を受けて尿潜血が出た場合はどうすればいいですか?
生理中や生理の前後は尿潜血が陽性になることがあります。生理の時期を外して再検査を受け、陰性であればそれで構いません。
Q6. 2027年から健診で腎臓の機能を調べるのは本当ですか?
本当です。2027年(令和9年)4月1日から、雇入時・定期などの健康診断に「血清クレアチニン検査」が加わり、腎臓の働きをeGFRで評価します(令和8年厚生労働省令第89号)。定期健康診断では40歳未満の人は医師が必要でないと認めるときに省略できますが、雇入時は省略できません。尿検査(糖・蛋白)の中身は変わりません。
まとめ:尿蛋白・尿潜血は「制限しない、でも放置しない」
- 尿蛋白・尿潜血の所見だけで就業制限をかけることは、ほとんどない。医師の意見はほぼすべて通常勤務
- それでも健診で見るのは、生活習慣病と脳・心臓の病気の予防のため。血圧・血糖の欄と並べて見る
- 腎臓の機能や膀胱の異常が隠れていることがあり、決して油断できない所見。1回受診して、何もなければそれでいい
- 「昔調べたから」で止めない。毎年の健診で定期的にチェックし、変化があれば再受診
- 2027年4月1日から、健診に血清クレアチニン検査(eGFRで評価)が加わる。尿蛋白とeGFRを並べて見て、所見があれば産業医へ

