産業医に複数事業所担当させて大丈夫?産業医が解説します。
こんにちは。産業医の角田拓実です。
今回は質問されることが多い「複数の事業所を一人の産業医に担当させて良いのか?」という質問に答えていきます。
回答は「問題はないが、巡視義務はそれぞれの事業所に存在するため巡視は必須」です。
内容を確認していただき労基署の指摘を受けないように運営していただければと考えます。
産業医を複数の事業所で一人に選任しても大丈夫?
一人の産業医に複数事業所を担当させると労基署に指摘されるのではないかという質問を受けることが時々あります。
嘱託産業医自体は他業種で複数事業所を担当することは多いですし、同一法人でも複数事業所を担当することは一般的です。
一方で、専属の産業医に関しては同一グループ内での担当が望ましいなど制約がありますが、一つの事業所が1000人以上の大工場などでの適応ですので、あまり配慮しなくてもよいでしょう。
複数事業所に一人の産業医を選任する際の注意点は?
複数の事業所に一人の産業医を選任した際の注意点に関して説明を行います。
産業医は基本的には一つの場所にある事業所に関して選任を受ける存在です。(法人全体での選任ではない。)
選任の義務があるのは、常時50人以上の労働者を使う事業場です(労働安全衛生法第13条・同法施行令第5条)。本社が49人、工場が60人なら、義務があるのは工場だけです。人数の数え方と14日の期限は産業医の選任|50人の数え方・14日の期限・最初の3か月にまとめています。
したがって、法人全体を一人の産業医が担当していたとしても一つ一つの事業所に対する巡視の義務に変わりは有りません。
つまり、一つ一つの事業所を1カ月以内毎に1回(あるいは2か月以内ごとに1回)巡視をする必要があります。
法人全体を見てもらっているからひと月毎に順番に巡視を行っていけばよいわけではないのです。
この点の認識の間違いで労基署から指摘を受ける事業所はしばしばありますのでしっかりと理解しておく必要があります。
産業医の掛け持ちは何社まで?——私は約30社。掛け持ちの大変さと、活きること

嘱託(非常勤)の産業医が何社を掛け持ちできるか、法令上の社数の上限はありません。私自身、いま30社ぐらいを掛け持ちで担当・支援しています。嘱託の産業医は、何社かを掛け持ちして、会社ごとに決まった日に訪問する働き方が一般的です。
上限がないのは嘱託の場合です。専属の産業医がほかの事業場の産業医を兼ねられるのは、厚生労働省の通達の要件をすべて満たすときだけです。
| 嘱託(非常勤)の産業医 | 専属の産業医 | |
|---|---|---|
| 掛け持ちできる社数 | 法令上の上限はない | 通達の要件をすべて満たすときだけ、ほかの事業場を兼ねられる |
| 条件 | 掛け持ちしていても、事業場ごとに少なくとも毎月1回(条件を満たせば2か月に1回)の巡視が必要 | ①労働衛生の協議組織があるなど管理が密接で、働き方(労働の態様)が似ている ②兼ねる事業場の数・人数は職務に支障のない範囲とし、衛生委員会等で調査審議する ③対象の労働者は合計3,000人まで |
| 選任報告(様式第3号) | 専属かどうかの別と、ほかの事業場に勤めている場合はその事業場の名称を書く | 同じ |
掛け持ちで大変なこと——会社ごとの情報を整理し続ける
掛け持ちで大変なのは、いろいろな会社の情報を整理しなければならないことです。会社ごとに人数も業種も違い、面談中の社員や就業制限の状況も違います。30社分を取り違えずに整理しておくのは、正直に言って大変なところです。
掛け持ちだから活きること——事例をほかの会社に還元できる
一方で、掛け持ちには大きな良さもあります。ある会社でうまくいったやり方も、逆にうまくいかなかったことも、ほかの会社に還元できるのです。1社だけを見ているより事例の経験が伸びやすいので、私はすごくいいことだと思っています。もちろん、ほかの会社の事例は、会社名や個人が分からない形で使います。
会社によって対応の質が変わらないように
会社ごとに状況も求められることも違うので、それに合わせて、注意してやっています。手厚く見てほしいという会社には、手厚く対応します。
人事の方は、担当の産業医が掛け持ちかどうかより、次の3つを確かめておくと安心です。
- 自社への訪問の頻度と曜日(毎月か2か月に1回か、第何週の何曜日か)
- 急ぎのときの連絡手段と、返事が来るまでの目安
- 手厚くしてほしいこと(面談の枠・衛生委員会への出席など)が伝わっているか
訪問日の決め方は産業医との日程調整のコツ、連絡がつきにくいときは産業医と連絡が取れないときの対応策にまとめています。掛け持ちでも自社の状況に合わせて動く産業医を探している会社は、サンポチャートの産業医サービスもご覧ください。
複数の事業所を一人の産業医に任せるメリットは?
複数の事業所を一人の産業医に依頼するメリットは何でしょうか?
信頼できる先生に法人内の複数のオフィスや工場を任せたいと思うことは少なくありません。
特に、化学物質の管理など難易度の高い業務が多い場合などには担当の産業医が標準化して担当することは合理的でしょう。
全国に支店が存在する場合は統括産業医を設置することも
統括産業医という言葉をご存じでしょうか?
今回の記事のように一人の産業医に複数の事業所を担当してもらいたいが、あまりに事業所が遠方にある場合に依頼するケースが多いです。
優秀で実績のある産業医を統括産業医として設置することは社内全体の衛生水準の向上につながります。
なお、統括産業医という言葉は法令上の言葉ではなく、通例で呼ばれている用語です。
まとめ
嘱託産業医であれば同じ産業医に複数の事業所を担当させても問題ありません。
産業医の掛け持ちも、嘱託なら社数の上限はありません。確かめるのは社数より、自社への訪問の頻度と連絡のつきやすさです。
一方で、産業医の選任は法人単位でなく1事業所ごとに選任届を提出する必要があります。
また、巡視の義務に関しても法人全体で課されるのではなく、事業所ひとつひとつに課されることになります。
複数事業所を一人の産業医に依頼する場合は注意して選任を行っていきましょう。
産業医/健康経営エキスパートアドバイザー 角田拓実
よくある質問
Q. 一人の産業医に複数の事業所を担当させることはできますか?
嘱託(非常勤)産業医であれば、法令上の規制がないため複数事業所を担当させることは問題ありません。同一法人内の複数拠点・異なる企業の複数事業所も担当可能です。専属産業医(1,000人以上の大規模事業所)は別途規定があります。
Q. 複数事業所を担当する産業医の巡視義務はどうなりますか?
産業医の巡視義務は法人単位ではなく事業所単位で課されます。一人の産業医が複数事業所を担当していても、各事業所を月1回以上(条件を満たせば2ヶ月に1回)個別に巡視する義務があります。法人全体で順番に巡視すれば良いわけではありません。
Q. 複数事業所を一人の産業医に任せるメリットは何ですか?
職場の状況を熟知した産業医が全体を見ることで判断基準が統一され、化学物質管理など専門的な業務の標準化が図れます。信頼関係が構築された産業医に複数拠点を任せることで、法人全体の衛生水準が向上するメリットがあります。
Q. 統括産業医とはどういうものですか?
全国に多数の事業所がある企業が、健康施策の均一化や産業保健業務の統括のために設ける産業医です。法令用語ではなく通例的な呼称ですが、実務上は各拠点の産業医を束ねる頭脳として機能します。
Q. 産業医は事業所ごとに選任が必要ですか?
必要です。産業医の選任は会社(法人)単位ではなく事業場ごとで、常時50人以上の労働者を使用する事業場に義務があります(労働安全衛生法第13条・同法施行令第5条)。50人未満の事業場に選任の義務はありませんが、医師などに労働者の健康管理を行わせるよう努めることとされています(同法第13条の2)。嘱託(非常勤)の産業医なら、同じ人が複数の事業場を担当してかまいません。
Q. 産業医の選任届は事業所ごとに出しますか?法人単位ですか?
事業所ごとに選任届を提出する必要があります。一人の産業医が法人全体を担当していても、事業所ひとつひとつに対して選任届の提出と巡視の実施が必要です。この点の誤認識で労働基準監督署の指摘を受けるケースがあります。
Q. 産業医は何社まで掛け持ちできますか?
嘱託(非常勤)の産業医には、掛け持ちできる社数の法令上の上限はありません。ただし、事業場ごとに少なくとも毎月1回(条件を満たせば2か月に1回)の巡視が必要です。専属の産業医がほかの事業場を兼ねるのは、労働衛生管理が密接で働き方が似ていること、対象の労働者が合計3,000人以下であることなど、通達の要件をすべて満たすときだけです。
Q. 産業医が掛け持ちしていると、自社への対応が手薄になりませんか?
掛け持ちでは会社ごとの情報を整理する手間がかかりますが、ほかの会社でうまくいったやり方を還元できるという良さもあります。訪問の頻度と曜日、急ぎのときの連絡手段、手厚くしてほしいことを、担当の産業医と確かめておくと安心です。


