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従業員50人未満の会社に産業医は必要?愛知の中小企業が「今」やるべき産業保健【現役産業医が解説】

2026 6/17
産業保健師関連
2026年6月17日

「うちは50人もいないから、産業医はいらないですよね?」——愛知の中小企業の社長さんから、私はよくこう聞かれます。

結論からいうと、従業員50人未満の事業場に産業医の「選任義務」はありません。これは事実です。ですが、「だから何もしなくていい」というのは、まったくの誤解です。健康診断の事後措置、まもなく義務化されるストレスチェック、そして安全配慮義務——会社の規模に関係なく、やるべき産業保健は確実に存在します。

私は産業医・医学博士として、これまで3,000件以上の産業医面談、50社以上の企業の産業保健に関わってきました。その現場で痛感しているのは、日本の企業の約半分は中小企業なのに、50人未満の会社を支える産業保健の「仕組み」が、社会にほとんど存在しないという事実です。大きな会社には手厚い体制があり、小さな会社は放置される。私は、この構造をおかしいと思っています。

問題は、「フルタイムの産業医契約」は50人未満の会社にはオーバースペックでコストが合わない一方、「完全な放置」は労災・安全配慮義務のリスクが残る、という中間がすっぽり抜け落ちていることです。本記事では、産業医・医学博士の立場から、50人未満の会社が何を・どこまでやるべきかを、現場の実感を込めて整理します。

目次

従業員規模で「義務」はどう変わるか

項目50人以上50人未満
産業医の選任義務(安衛法13条)努力義務(13条の2)
一般健康診断の実施義務義務(規模を問わず)
健診結果に基づく医師の意見聴取・事後措置義務必要(規模を問わず)
衛生管理者・衛生委員会義務義務なし
ストレスチェック義務(2015年〜)義務化が決定(2028年4月1日施行予定)

ポイントは右側の「50人未満」の列です。産業医の「選任」は義務でなくても、健診の事後措置やストレスチェックといった「医師の関与が前提の業務」は、規模に関係なく発生する——ここに、多くの中小企業が気づいていません。

「義務がない=やらなくていい」ではない3つの理由

「義務がない=やらなくていい」ではない理由を3つに整理した図。健康診断後の事後措置、2028年4月1日予定のストレスチェック義務化拡大、安全配慮義務は会社規模に関係なく問われることを説明している。

① 健康診断は「受けさせて終わり」ではない

健診を実施したら、所見のあった従業員について医師の意見を聴き、必要なら就業上の措置(労働時間の短縮、配置転換など)を講じる必要があります。これは50人未満でも求められます。

ところが現場では、健診を「受けさせて終わり」にしている会社が本当に多い。所見が出ていても、誰も中身を見ていない。これは言い換えれば、突然死や過労死のリスクに会社が気づかないまま、ずっとさらされ続けている状態です。「健診を受けさせているから大丈夫」という会社ほど、事後措置が空白になっています。

② ストレスチェックの義務が、50人未満にも広がる

これまで50人未満は努力義務でしたが、2025年5月に改正労働安全衛生法が公布され、すべての事業場へストレスチェック義務化を拡大することが正式に決まりました。施行は2028年4月1日の予定です。「うちは小さいから関係ない」は、もう通用しません。

実際、私の実感としても、最近はストレスチェックをきっかけに「うちも何かやらないと」とご相談をいただくことが増えています。義務化の流れは、確実に小さな会社にも届き始めています。

③ 安全配慮義務は、会社のサイズに関係なく問われる

メンタル不調や過重労働をめぐる労使トラブル・訴訟は、従業員数に関係なく発生します。「産業医がいなかった」「健康管理を何もしていなかった」は、いざというとき会社側に不利に働きます。

そしてメンタルの放置は、訴訟以前にもっと静かなかたちで会社を蝕みます。不調のサインが放置されると、その人はやがて静かに辞めていく。すると周りの社員が「あの人の分まで」と無理を重ね、気を使い、職場全体がじわじわ疲弊していく。一人の放置が、チーム全体を削っていくのです。

私が現場で見てきた「50人未満のリアル」

50人未満の小規模事業場で実際に起きている健康管理の課題を説明した図。健康診断が未実施、メンタル不調が深刻化してから相談が来る、継続的に支える産業保健の仕組みがないという現実を示し、制度を待たずに今動く必要性を伝えている。

きれいごとを抜きにして、私が小規模の事業場で実際に見てきたことを書きます。私が関わってきた小規模の会社では、そもそも健康診断すらきちんと実施されていなかった、というのが珍しくない現実でした。メンタル不調者が放置され、「もう困っている」という段階になって初めて相談が来る。本来なら、その何か月も前に手を打てたはずなのに、です。

なぜこうなるのか。私は、本人や会社の怠慢だとは思っていません。50人未満の会社を継続的に支える産業保健の仕組みが、そもそも社会に用意されていないからです。50人を超える会社には産業医の選任が義務づけられ、体制が整う。でもそれより小さい会社には、頼れる窓口も、継続的に伴走してくれる専門家も、事実上存在しない。日本の企業の半分は中小企業なのに、です。

「行政が何とかすべきだ」という声もあります。私もそう思います。でも、行政の制度が中小企業の現場に本当に届くのを待っていたら、十年単位の時間がかかる。その間にも、健診を受けっぱなしの従業員が倒れ、メンタル不調の社員が静かに辞めていく。だから私たちは、制度を待たずに、今動くことにしました。

では、50人未満の会社は具体的に何をすべきか

50人未満の会社が取れる産業保健の選択肢を3つで比較した図。地域産業保健センターは無料だが継続支援に限界があり、フルタイムの嘱託産業医は手厚い一方で高コストになりやすい。必要な分だけの産業保健体制を持つ方法が、多くの小規模企業にとって現実的で最適だと示している。

選択肢は、大きく3つです。

  1. 地域産業保健センター(地さんぽ)を使う……国が用意した無料の窓口。ただし回数・対応範囲に限りがあり、継続的・体系的な健康管理には向きません。
  2. フルタイムの嘱託産業医を契約する……体制は最も手厚いですが、産業医が毎月来るとなると費用が高くなりがちで、50人未満の会社にはコスト・稼働ともにオーバースペックになりやすい。そして、来て書類を作って終わり、では現場は変わりません。
  3. 必要な分だけの産業保健体制を持つ……健診の事後措置・ストレスチェック・従業員からの健康相談を、必要な範囲で継続的にカバーする。①と②の中間。

50人未満の多くの会社にとって、最適なのは3番です。義務がない部分にフルコストはかけられない、でも放置はできない——そのギャップを埋める仕組みが必要だからです。

愛知の「従業員40人の社長」に、私が最初に勧める3手

愛知の従業員40人規模の会社に最初に勧める3つの取り組みを示した図。健診後の事後措置を回す仕組み、メンタル不調時の相談ルート、職場巡視や衛生知識のインプットを整えることが重要だと説明している。

「何からやればいい?」と聞かれたら、私が現実的に最初に手をつけてもらうのは、この3つです。

  1. 健診の「事後措置」を回す仕組みを作る……所見ありの従業員に、医師の意見を反映させる。ここが抜けている会社が一番多い。
  2. メンタル不調の相談ルートを決めておく……「困ってから」では遅い。必要なときにすぐ産業医につなげる導線をあらかじめ用意する。
  3. 職場巡視と衛生知識のインプットを入れる……作業環境や危険物質のチェック、そしてストレスチェックへの備え。これらの知識を得るための、コンサル的な伴走があると現場が回り始めます。

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よくある質問(FAQ)

Q. 50人未満なら、産業医は本当に不要ですか?

A. 産業医の「選任義務」はありません。ただし、健診の事後措置(医師の意見聴取・就業判定)や、2028年4月に義務化されるストレスチェックなど、医師の関与が前提の業務は規模を問わず発生します。「選任義務がない」ことと「医師が要らない」ことは別の話です。

Q. 従業員が50人を超えそうです。今のうちにやるべきことは?

A. 50人到達の時点で、産業医選任・衛生委員会設置・ストレスチェックが一斉に義務化されます。直前で慌てないよう、40人前後から体制づくりを始めるのが現実的です。

Q. 愛知県内であれば対応してもらえますか?

A. はい。名古屋市を中心に、愛知県全域の中小企業を対象にしています。

Q. 産業医はいませんが、健診はやっています。それでも相談する意味はありますか?

A. あります。健診後の事後措置(医師の意見聴取・就業判定)が抜けているケースが非常に多く、ここが会社にとって最大のリスクになります。「健診はやっている」会社ほど、一度見直す価値があります。

まとめ

  • 従業員50人未満に産業医の「選任義務」はないが、健診の事後措置・ストレスチェック・安全配慮義務は規模を問わず発生する
  • ストレスチェックは2025年5月の改正法で50人未満にも義務化が決定(2028年4月1日施行予定)
  • 健診の放置は突然死・過労死リスク、メンタルの放置は静かな離職連鎖につながる
  • 50人未満の最適解は「地さんぽ」と「フルタイム契約」の中間=必要な分だけの産業保健体制
  • 40人前後の会社は「健診の事後措置→相談ルート整備→巡視・衛生知識のインプット」から始める

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産業保健解説メディア「さんぽちゃーと」編集長。株式会社サンポチャート代表取締役。株式会社豊田自動織機専属産業医の後、東海地方を中心に50事業所以上の職場健康管理に関わっている。資格:日本医師会認定産業医/博士(医学)/労働衛生コンサルタント(保健衛生)/健康経営エキスパートアドバイザー。著書に40代から始めるあなたの予防医学(自由国民社)、図解入門ビジネス職場メンタルヘルスの基本と対応がよくわかる本(秀和システム新社)がある。

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