「うちの会社、産業医はいるんだけど機能してない気がする」——人事担当者からよく聞く感覚です。法的義務は満たしている、月1回の訪問もある、でも何かが回っていない。この違和感には、ほぼ毎回同じ構造があります。
結論からいうと、「機能していない」の原因は産業医個人の能力ではなく、経営層・人事・現場管理職の三層で情報が分断されていることに集中します。本記事では、現役産業医として見えている共通パターンと、人事担当者が今週中に確かめられるチェック7問、立て直しの3ステップを整理します。
機能していない会社で起きていること——「不調者が辞めて、いなくなる」

本人の不調が言い出せず辞めるか、周囲が「辞めたほうがいいのでは」という空気を作るか——どちらにせよ、会社の中にメンタル不調が問題として可視化されないまま消えていくのが、機能していない会社の典型的な姿です。
企業側に共通する3つの構造

①経営層がメンタルヘルスを「コスト」として見ている
「50人を超えたから法的義務で置いている」「労基に怒られないように選任した」——スタンスがここで止まっていると、産業医訪問日に経営層が顔を出すこともなく、衛生委員会は総務任せになり、現場は産業医を「お客さん扱い」するようになります。
②人事が産業医に情報を渡していない
これが最も頻繁に起きる構造的な問題です。
- 健診結果の所見・要再検査リストが共有されていない
- 長時間労働者・残業時間データが面談前に届かない
- 休職者リスト・直近の退職者の背景が伝わっていない
- 面談予定者の経緯や上司からの懸念点が事前に共有されない
「うちの先生は守秘義務があるから現場のことは言えない」というのは半分誤解です。会社が業務上必要な情報を産業医に渡すことは守秘義務に反しません。情報が渡らないと、産業医は目隠しで判断する状態になり、面談も巡視も表層的になります。
③現場管理職が産業医の存在も使い方も知らない
部長・課長層に聞くと「産業医?……あ、いるんでしたっけ」となる会社は珍しくありません。月1回の訪問で接点もなく、メンタル不調の部下が出ても面談に繋ぐルートを知らない。結果、直属の上司が抱え込み、抱え込んだまま本人が休職か退職に至ります。
「気になる部下を産業医面談につなぐ申請の仕方」が現場管理職に周知されているかどうかは、機能している会社と機能していない会社を分ける大きな分岐点です。
「これから増えるな」と感じる5つの前兆
現役産業医として現場に入ると、目に見えてメンタル不調者が増える前に、ほぼ毎回出てくる兆候があります。
- 残業時間の二極化(特定の人・部署だけ80時間超が続く)
- 退職率・自己都合退職数の静かな上昇(「個人事情」で片付いている)
- ストレスチェックの高ストレス者率の上昇、または部署偏り
- 衛生委員会の議題が「健診結果報告」だけで形骸化している
- 管理職が「最近、雰囲気が悪い」と口にし始める(本人もうまく言語化できていない段階)
メンタル不調者が「もう増えている」と数字で見える時点では、すでに数か月遅れています。本当に打ち手が効くのは、不調者が立ち上がる3〜6か月前のこの段階です。離職率・残業の二極化・ストレスチェックの全体傾向を月次で眺める仕組みがあるかどうかが、ここでの分かれ目になります。
機能してるかチェック——人事が今週中に確認できる7問

- 直近3か月で、産業医から経営層に対して報告書や所見が出ているか
- 現場管理職は、気になる部下を産業医面談につなぐ申請方法を知っているか
- 面談前に、対象者の業務状況・残業時間・上司の懸念を産業医に共有しているか
- 休職中の従業員一覧と、その復職プランは産業医と共有されているか
- 難しい診断書(週3勤務・半日勤務など就業規則と合わない指示)が来た時に相談できる体制はあるか
- 衛生委員会で、健診結果以外の議題(ストレスチェック結果・職場改善提案)が継続的に上がっているか
- 過去1年で、産業医が職場や業務に対して具体的な改善提案を出したことはあるか
体制と並行して、産業医個人のスタンスも確かめておく価値があります。必ずしも精神科専門でなくて構いません(産業医は治療する人ではなく、就労判定をする人です)。重要なのは「向き合い方」です。
- 「就業規則と合わない指示(週3勤務・半日勤務など)の診断書が来たら、どう対応されますか?」
- 「状態が悪化しそうな従業員を早期に見つけるとしたら、どこをチェックしますか?」
- 「主治医とのやり取りや、復職プランの設計はどの程度ご経験がありますか?」
すらすら完璧に答えられる必要はありません。ただ、ざっくりとでも内容を考えて答えてくれるかどうかで、就業判定の現場感はかなり見えてきます。「ちょっとそれは分からないですね」で止まる先生は、現場でも同じ反応になりがちです。
機能していない状態から抜けるための3ステップ

ステップ1:自社の状態を数字で「認識する」
- 直近1年の自己都合退職数と退職理由
- 休職者数の推移と平均休職期間
- ストレスチェックの全体集計・部署別集計(個人特定不要のレベルで)
- 残業時間が月45時間・80時間を超えた人数の推移
ステップ2:産業医に「情報と相談」を渡す
ステップ1で見えてきた数字とエピソードを、次回の訪問時に産業医へ正式に共有します。「先生、こういう状況がありまして、率直にどう見えますか」「今後どこに優先して手を打つべきだと思いますか」——この一言があるかどうかで、産業医の関わり方は大きく変わります。
情報を渡されない限り、産業医は表層的な巡視と面談以外できません。情報を渡してもなお動かない先生であれば、そこで初めて「先生を変えるべきか」が論点になります。順番が大事です。
ステップ3:1〜3年計画でPDCAを回す
メンタル対策はすぐに結果が出ません。半年・1年・3年単位で、ストレスチェックの再評価・休職者推移・離職率を追いながら、施策を継ぎ足し・差し替えていく前提で組みます。「今年度はラインケア研修」「来年度は復職フロー整備」のように、産業医と一緒にロードマップを書いておくと、衛生委員会の議題も自然と中身が出てきます。
構造的に「機能不全」を防ぐ仕組み——三者が同じ画面を見る

サンポチャートが提供するさんぎょういカルテは、まさにこの三者間の情報の断絶を構造的に解消するために設計されています。現場管理職・人事・産業医のそれぞれに権限別の画面を用意し、必要な情報だけを共有しながら、同じ事例について同じ画面を見られるようにしています。
- 現場管理職は「気になる部下」を産業医面談へワンクリックでつなげる
- 人事は休職・復職・残業時間を一元管理し、面談前に産業医へ自動共有できる
- 産業医は背景情報を持った状態で面談に入り、就業判定が現場と噛み合う
「先生を変えれば直る」ではなく、「情報の流れを直せば、今の先生も機能し始める」——これが現役産業医として現場で何度も見てきた答えです。サンポチャートの産業医チームは、労働衛生コンサルタント資格を持つ仕組みづくり志向のメンバーで構成されており、ツール導入だけでなく体制設計から伴走します。
明日から動ける3つの第一歩
- 直近1年の自己都合退職数・休職者数・残業80時間超の人数を、社内の数字で揃える
- 次回の産業医訪問で「率直にどう見えますか、どこから手を打つべきですか」と一言聞く
- 現場管理職向けに「産業医面談への申請方法」を1枚の社内通知で配る
3つとも、今週中・追加予算ゼロで始められます。先生を変える判断はその後で十分間に合います。
まとめ
- 「機能していない」の正体は産業医個人ではなく、経営層・人事・現場管理職の情報分断
- メンタル不調者が増える3〜6か月前には、残業の二極化・離職の静かな上昇・委員会の形骸化が出ている
- 機能チェック7問のうち4つ以上「ノー」なら、体制側の設計に課題がある
- 立て直しの順番は「数字で認識→産業医に相談→1〜3年計画でPDCA」
- 三者が同じ画面を見られる仕組みがあれば、今の産業医も機能し始める余地が広がる
「うちの産業医、機能してない気がする」と感じている人事担当者の方へ
現場・人事・産業医の三者が同じ画面を見られる「さんぎょういカルテ」と、労働衛生コンサルタント資格を持つ産業医チームで、体制設計から伴走します。

