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【2026年8月施行】産業医の解任・辞任の報告義務化で会社がやること

2026 10/04
産業保健全般
2026年7月7日2026年10月4日

「産業医との契約はもう切れているのに、届出はどうすれば…」——現役産業医として、この”宙ぶらりん”の相談を何度も受けてきました。結論から言うと、2026年(令和8年)8月1日から、産業医の辞任・解任・退任があった場合、事業者は所轄の労働基準監督署へ報告することが義務になりました(労働安全衛生規則の改正)。対象は常時50人以上の事業場。これまで報告義務がなく「変更」でなんとなく処理されてきた部分に、はじめてルールが引かれます。

この記事の要点は3つです。①2026年8月1日から、辞任・解任・退任は労基署への報告が義務(対象は50人以上)。②後任を選任してその選任報告で前任者情報を届け出れば、別途の報告は不要。③本当のポイントは手続きより「契約は切れたのに”選任されたまま”」状態を放置しないこと。順番に、実務目線で解説します。

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代表産業医 角田拓実
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目次

2026年8月から何が変わる?産業医の辞任・解任に「報告義務」が新設

2026年8月1日から、常時50人以上の事業場で産業医が辞任・解任・退任した場合、事業者が労働基準監督署へ報告する義務が新設されることを示した図。後任の選任報告に前任者情報を記載すれば、多くのケースで手続きが完結する。

【改正のポイント】労働安全衛生規則の改正により、2026年(令和8年)8月1日から、常時50人以上の事業場で産業医が辞任・解任・退任したとき、その産業医の氏名や辞任・解任等の年月日を、事業者が所轄の労働基準監督署へ報告することが義務づけられます。これまで、辞任・解任そのものについての報告義務はありませんでした。

報告のための特別な新様式が作られるわけではありません。従来の「産業医選任報告」(電子申請が原則)の仕組みを使って届け出るかたちが想定されています。届出の実務そのものは、慣れてしまえば難しいものではありません。

重要なのが例外規定です。辞任・解任のあとに後任の産業医を選任し、その選任報告のなかで前任者の氏名・辞任解任等の年月日を届け出た場合は、あらためて辞任・解任の報告をする必要はありません。つまり多くのケースでは「後任を選任し、選任報告に前任者の情報を書く」だけで完結します。

選任そのものの期限や届出の基本は、産業医の選任届を電子申請で試してみたら意外と簡単だった話にまとめています。制度の一次情報は、改正内容が確定した後の厚生労働省・所轄労働局の案内で必ず確認してください。

なぜ今?現状は「解任」ではなく「変更」で済まされてきた

産業医の解任が従来は「変更」として処理され、記録上の責任が曖昧になりがちだった状況から、改正後は辞任・解任時に報告して責任の所在を明確にする流れを示した図。

「なぜわざわざ報告を義務化するのか」を理解するには、これまでの”ゆるさ”を知る必要があります。現状、産業医の「解任届」という紙は存在しません。だから実務では、解任という認識ではなく「変更」として処理されることがほとんどでした。

ここで起きがちなのが、契約はとっくに切れているのに、労基署の記録上は「選任されたまま」になっている状態です。私自身、これが意外と多いと感じてきました。すると何が起こるか——責任の所在が宙に浮きます。すでに関与していない産業医が、書類上はいつまでも責任を負い続ける。逆に会社が、辞めた産業医に責任を押しつけたような形になってしまう。「なぜ届け出ていないんですか」とトラブルの火種になった例も少なくありません。

改正の狙いは、まさにここにあります。辞任・解任のタイミングで報告が入れば、労働基準監督署は各事業場でいま誰が産業医なのか、そもそも選任されているのかを正確に把握できます。裏を返せば、未選任や「名前だけ残っている」状態が可視化されるということです。

「選任されたまま放置」は、未選任と地続きのリスクです。産業医を置く義務そのものと罰則については、産業医を選任しないと罰則50万円?未選任・名義貸しのリスクで解説しています。

報告義務化の隠れた意味——産業医の立場が確立し、不当な解任を抑止する

報告義務化により、産業医の辞任・解任に行政への報告が挟まることで、不当な解任を抑止し、産業医が安心して意見を述べられる環境に近づくことを示した図。

行政の狙いは「選任状況の把握」ですが、現役産業医として、私はもう一つの意味を感じています。それは産業医の立ち位置が、これまでより一段しっかり確立されるということです。

産業医は、従業員の健康を守る立場から、時に会社にとって耳の痛い意見も言わなければなりません。ところが辞任・解任に何のチェックも入らないと、極端な場合「都合の悪いことを言う産業医を、静かに入れ替える」ことも理屈のうえでは可能でした。報告というワンステップが挟まることで、一方的・不当な解任がやりにくくなる。結果として、産業医が安心して意見を述べられる環境に近づきます。

もちろん、会社と産業医の相性が合わないこと自体は当然あります。正当な理由があって交代するのは何の問題もありません。気をつけるべきは「理由」ではなく「手続き」です。退任・解任のときは、きちんと報告というかたちで処理する——これを知っているかどうかが、これからの分かれ目になります。

いまの先生との契約を終える段取り(契約書で確かめる5点・通知書に書く7項目)は、無料PDF『産業医との契約解除通知書 ひな形3種と、交代を失敗しない段取り』にひな形つきでまとめています。

解任される産業医の典型は「実務をしていない」ケース

実際に会社が産業医を解任・交代するとき、その理由はどんなものが多いのか。私が引き継いできた実感では、圧倒的に多いのは「産業医としての実務をしていなかった」ケースです。

職場巡視に来ない、衛生委員会で意見を言わない、健診結果を見ていない——産業医として本来やるべきことが行われていない。「忙しくて来られなかった」「本業の診療でそこまで手が回らなかった」という背景も多く見てきました。こうした状態が続き、あるとき会社が「これはまずい」と気づいて交代に動く、という流れです。今の産業医のままでよいか、替えるならどう切り出すかを自社のケースで整理したいときは、人事の事例相談(30分・オンライン・初回無料、2026年12月末まで)で産業医に相談できます。今の産業医がいる会社でも使えます。

昨今はメンタルヘルス対応や労働時間の管理、働き方改革への対応など、企業に求められる産業保健の水準が上がっています。「やるべきことをやっていない産業医」を放置すること自体が、会社にとって大きなリスクになってきました。だからこそ、解任は「実際に機能していなかったよね」という確認とセットで、衛生委員会などの場で議題になることが増えていくはずです。

「うちの産業医、機能しているだろうか」と少しでも感じたら、「産業医を変えたい」と思った人事担当者へ|放置するリスクと正しい変更手順が具体的な進め方の参考になります。

「辞任」が起きるとき——企業が本気で取り組みたくなった時

解任だけでなく、産業医側からの「辞任」もあります。こちらにも典型パターンがあります。多いのは、企業のほうが産業保健に本気で取り組みたくなったのに、現状の産業医がそれに応えられないというケースです。

「毎月の訪問までは難しい」「ストレスチェックの全部には対応できない」——そう言われて、会社が泣く泣く別の医師にバトンタッチする場面を、私は何度も見てきました。以前は”来てくれるだけでよかった”会社が、しっかりやりたいと考えるタイミングが確実に増えている。その温度差が、辞任というかたちで表面化するのです。

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失敗しない乗り換えの段取り——14日以内・でも焦らない

産業医の交代では、次を決めないまま前任を解任すると14日以内の選任で焦りやミスマッチが起きやすいため、早めに計画し、次の産業医探しと引き継ぎを進めてから交代する流れを示した図。

ここが実務でいちばん大事なところです。産業医の交代は、「早めに次を見つけて、上手にバトンタッチできるタイミングで乗り換える」のが鉄則です。

やってはいけないのが、次を決めないまま前任を先に切ってしまうことです。産業医の選任は、事由発生から14日以内というルールがあります。前任がいなくなった空白を、この短い期間で埋めるのは簡単ではありません。焦って決めると、活動量の少ない先生や、自社のニーズと合わない先生を選んでしまう——せっかく交代したのに、また同じ悩みを抱えることになります。

おすすめは、時間に余裕を持った座組みです。たとえば「半年後に変更」と決めて前任にも伝え、その間にじっくり次の産業医を探す。焦らずに引き継げる段取りを組んでおけば、空白も、選び直しの失敗も避けられます。急いで選んだ産業医がのちのち負債になる構造は、「急いで選んだ産業医」が5-10-15年後に企業に残す3つの負債で詳しく解説しています。

乗り換えの段取りを進める方へ。契約書で確かめる5点、通知書に書く7項目、ひな形3種を入れた無料PDF『産業医との契約解除通知書 ひな形3種と、交代を失敗しない段取り』を用意しています。

産業医の変更届はある?——専用の様式は無く、選任報告(様式第3号)で出す

「産業医を変更したいのですが、変更届はどこにありますか」という問い合わせをよく受けます。結論から言うと、産業医専用の「変更届」という書類は存在しません。産業医の交代は、様式第3号「総括安全衛生管理者・安全管理者・衛生管理者・産業医選任報告」を所轄労働基準監督署長に出すことで届け出ます。新任の欄と、辞任・解任の欄が同じ1枚にあるので、この1枚で交代が完結します。

期限は2つあり、混同しやすいので分けて覚えてください。

何をいつまでに
新しい産業医を選任する辞任等があった日から14日以内
労働基準監督署長へ報告する遅滞なく(日数ではなく「速やかに」)
衛生委員会等へ辞任・解任の理由を報告する遅滞なく

報告の方法は電子申請が原則です(当分の間は書面による報告も認められています)。e-Gov電子申請のほか、厚生労働省の「労働安全衛生法関係の届出・申請等帳票印刷に係る入力支援サービス」からも作成できます。

実務で効く特例: 新しい産業医の選任と、前任の辞任等を同時に報告した場合は、辞任等の報告は不要です。つまり後任を決めてから1枚でまとめて出せば、届出は1回で済みます。交代を考えるなら、先に後任を確保するのが手続き上もいちばん楽です。

なお、労働者数が50人未満になったことにともなう産業医の辞任等は、報告義務の対象外です(選任状況の把握のため、監督署への報告は依頼されています)。(出典: 厚生労働省「産業医による労働者の健康管理等を徹底しましょう」/選任・報告の期限と様式第3号)

見落としやすいもう一つの義務——産業医の交代理由を衛生委員会に報告する

2026年8月の話題は「労働基準監督署への報告が義務になる」ことばかりが取り上げられますが、もう一つ、衛生委員会に対する義務があります。産業医が辞任したとき、または産業医を解任したときは、遅滞なく、その旨とその理由を衛生委員会又は安全衛生委員会に報告しなければなりません。

ポイントは「理由」まで報告するところです。監督署への報告は事実の届出ですが、衛生委員会への報告は「なぜ交代したのか」を社内で共有することを求めています。産業医が交代したことを従業員が知らないまま、次の産業医が職場巡視に来る——という状態を避けるための仕組みです。交代が決まったら、直近の衛生委員会の議題に「産業医の交代とその理由」を入れるところまでを段取りに含めてください。後任探しから、産業医が不在にならない切り替えの日程、前任からの引き継ぎ(面談記録・意見書・議事録など)までは、乗り換えパック(初期費用0円・今の契約書の確認は無料)でお手伝いしています。

出典: 厚生労働省「産業医による労働者の健康管理等を徹底しましょう」(2026年4月)

施行後に会社が確認しておくこと

2026年8月1日の施行までに、各事業場の産業医の機能状況、過去の交代記録、後任確保の段取り、辞任・解任・退任時の前任者情報の届出運用を確認することを示したチェックリスト図。

2026年8月1日に施行されました。まだの会社は、いちど自社の状況を棚卸ししておくと安心です。特に「過去に産業医を変えたが、届出まわりがあいまいなままになっている」会社は、この機会に整理しておきましょう。

  • 各事業場(50人以上)で、いま選任している産業医が実際に機能しているかを確認する
  • 過去に交代した産業医が「選任されたまま」の記録になっていないかを点検する
  • 交代を検討しているなら、前任を切る前に後任を確保する段取りを先に組む
  • 辞任・解任・退任があったら、後任の選任報告のなかで前任者情報を届け出る運用を徹底する

報告義務化を機に産業医を見直す方へ。通知書のひな形3種は無料PDF『産業医との契約解除通知書 ひな形3種と、交代を失敗しない段取り』、後任と結ぶ契約書のひな形は『産業医 業務委託契約書 ひな形(全17条)と、締結前の確認事項』で配布しています。

まとめ:報告義務化は「体制を見直す」きっかけ

  • 2026年(令和8年)8月1日から、常時50人以上の事業場で産業医の辞任・解任・退任は労基署への報告が義務になる
  • 後任を選任し、その選任報告で前任者の氏名・年月日を届け出れば、別途の報告は不要
  • 本質は手続きより「契約は切れたのに選任されたまま=責任が宙に浮く」状態をなくすこと
  • 報告が挟まることで、産業医の立場が確立し、一方的な解任がしにくくなる
  • 交代は「次を確保してから」。焦って決めると選び直しの失敗につながる

報告義務化は、単なる事務手続きの追加ではありません。「自社の産業医は、本当に機能しているか」を見直すよい機会です。制度の一次情報は厚生労働省やe-Gov法令検索(労働安全衛生法・労働安全衛生規則)で確認し、あわせて産業医の解任手続き完全ガイドもご覧ください。

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よくある質問

Q. 報告を怠ると罰則はありますか?

2026年8月施行の報告義務について、現時点で公表されている情報では、報告を怠った場合の具体的な罰金額などは明示されていません。ただし、労働基準監督署の是正指導の対象となる可能性は十分にあります。罰則の有無以前に、報告を怠ると「選任状況が不明確なまま」になり、未選任と同様のリスク(安全配慮義務違反など)を残す点に注意が必要です。正式な規定は厚生労働省・所轄労働局の案内でご確認ください。

Q. 後任がまだ決まっていない場合はどうすればいいですか?

後任の選任報告で前任者情報を届け出れば辞任・解任の報告は不要、という特例があるため、実務上は「後任を選任してまとめて届け出る」のがスムーズです。ただし産業医の選任には事由発生から14日以内という期限があります。後任が決まらないまま前任だけがいなくなる空白は避けるべきで、交代を考えるなら後任の確保を先に進めることをおすすめします。

Q. 「辞任」と「解任」で手続きは変わりますか?

今回の改正では、辞任・解任・退任のいずれの場合も報告の対象とされています。会社側から交代を求めた(解任)か、産業医側から辞めた(辞任)かにかかわらず、産業医が交代したという事実を労基署が把握できるようにする、という趣旨です。実務では後任の選任報告のなかで前任者情報を届け出れば足りるため、辞任・解任で届出のやり方が大きく変わるわけではありません。

Q. 常時50人未満の事業場も報告が必要ですか?

今回の報告義務は、産業医の選任義務がある常時50人以上の事業場が対象です。50人未満の事業場には産業医の選任義務がないため、この報告義務も基本的には対象外です。ただし、50人未満でも安全配慮義務そのものは規模に関係なく残るため、健康管理体制を持っておく意義は変わりません。

Q. 専用の解任届の様式はどこにありますか?

現時点では、辞任・解任専用の新しい様式が作られる予定は示されていません。従来の「産業医選任報告」(電子申請が原則)の仕組みのなかで、後任の選任とあわせて前任者の情報を届け出るかたちが想定されています。最新の様式や電子申請の方法は、厚生労働省の様式ダウンロードコーナーや所轄労働局の案内で確認してください。

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この記事を書いた人

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産業保健解説メディア「さんぽちゃーと」編集長。株式会社サンポチャート代表取締役。株式会社豊田自動織機専属産業医の後、東海地方を中心に50事業所以上の職場健康管理に関わっている。資格:日本医師会認定産業医/博士(医学)/労働衛生コンサルタント(保健衛生)/健康経営エキスパートアドバイザー。著書に40代から始めるあなたの予防医学(自由国民社)、図解入門ビジネス職場メンタルヘルスの基本と対応がよくわかる本(秀和システム新社)がある。

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