「うちみたいな小さい会社も、ストレスチェックをやらないといけなくなるの?」——はい、対象になります。しかも時期はもう確定しました。従業員50人未満の事業場のストレスチェック義務化は、2028年(令和10年)4月1日施行。2025年5月公布の改正労働安全衛生法を受けて、2026年6月に公布された政令で正式に決まりました。ただ、最初にお伝えしたいのは——中小企業の現場を回っている産業医として、「実はそんなに大変ではない。ただし、準備だけは早めに要る」ということです。この記事1本で、確定した施行日・何が義務で何が義務でないか・罰則・厚生労働省の最新マニュアル・準備スケジュール・つまずきやすいポイントまで、まとめて整理します。
いつから?——2028年4月1日施行で正式決定

まず時系列を整理します。「いつからかまだ決まっていない」という情報は、すでに古くなっています。
| 時期 | できごと |
|---|---|
| 2025年5月14日 | 改正労働安全衛生法が公布。50人未満の事業場へのストレスチェック義務拡大が法律で確定 |
| 2026年2月25日 | 厚生労働省が「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」を公表 |
| 2026年6月10日 | 施行期日を定める政令が公布。施行日=2028年4月1日が正式決定 |
| 2028年4月1日 | 全事業場でストレスチェック義務化スタート |
対象は常時使用する労働者が50人未満のすべての事業場です。ここで注意したいのが人数の数え方で、「常時使用する労働者」には週1日勤務のパート・アルバイトも含まれ得ます(継続して雇用していれば対象)。「正社員は40人だからうちは関係ない」と思っていたら、パートを含めると50人前後だった——という会社は珍しくありません。もっとも、50人未満であることが確定していても、今回の改正で全事業場が対象になるので、人数の多少にかかわらず準備は必要です。
何が義務になり、何は義務にならないのか

「義務化」と聞くと全部やらなければいけない印象を受けますが、実は義務の範囲は思っているより狭いです。ここを正確に押さえると、不安の大半は消えます。
| 項目 | 50人未満(2028年4月〜) | 参考: 50人以上(現行) |
|---|---|---|
| ストレスチェックの実施(年1回) | 義務 | 義務 |
| 高ストレス者から申出があったときの医師による面接指導 | 義務 | 義務 |
| 労働基準監督署への実施報告 | 義務なし | 義務(怠ると50万円以下の罰金の対象になり得る) |
| 集団分析・職場環境改善 | 努力義務 | 努力義務 |
| 産業医の選任 | 義務なし(50人以上になったら義務) | 義務 |
つまり50人未満の会社がやるべきことは、①年1回ストレスチェックを実施して結果を本人に返す、②高ストレス者から申出があったら医師の面接指導につなぐ——この2つが柱です。労基署への報告義務は課されず、集団分析も「やれるとよい」の位置づけです。
そもそもストレスチェックとは——初めての会社向けに30秒で

ストレスチェックは、労働者自身がストレス状態に気づくための年1回の質問票調査です(労働安全衛生法第66条の10)。標準的には「職業性ストレス簡易調査票(57項目)」を使い、仕事のストレス要因・心身の反応・周囲のサポートを測ります。ポイントは次の3つです。
- 実施者は医師・保健師など——会社の担当者が結果を直接扱う制度ではなく、法律上「実施者」となれる専門職が必要です(詳しくはストレスチェックの実施者とは(保健師も担当できる))
- 結果は本人に直接通知——本人の同意なく会社は個人結果を見られません。この「見えない」設計が制度の肝で、プライバシー保護が担保されるから従業員も正直に答えられます
- 高ストレス者→申出→医師の面接指導——高ストレスと判定された人が希望を申し出たら、会社は医師による面接指導を実施し、就業上の措置について医師の意見を聴きます(全体像はストレスチェック面接指導の完全ガイド)
罰則はあるのか——「どのぐらい大変?」への答え

経営者の方から一番多く聞かれるのが「罰則はあるんですか」「どのぐらい大変なんですか」という質問です。正確に言うと、ストレスチェックを実施しないこと自体への直接の罰則は設けられていません。さらに前述のとおり、50人未満には労基署への報告義務も課されないため、「報告漏れで罰金」の心配もありません。
【筆者の現場から】「大変なんですか」という質問への私の答えは、いつも同じです——「実は、そんなに大変ではありません。ただし、準備だけは早めにしてください」。年1回、質問票に答えてもらい、結果を本人に返す。委託先をうまく使えば、担当者の実務負担は思っているより軽い。大変になるのは、準備をしないまま施行を迎えて「あれ、どこにお願いするんだっけ」と慌てるパターンです。
厚労省「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」を押さえる
2026年2月25日、厚生労働省は50人未満の事業場向けに「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」を公表しました。従来の実施マニュアルを小規模事業場の実情(専門職がいない・人事と現場の距離が近い)に合わせて再構成したもので、準備の教科書はこれで揃ったと言えます。ポイントは3つです。
- プライバシー保護の具体策——小さい会社ほど「誰が高ストレスか」が透けやすい。結果の取り扱い・保管・同意の取り方が具体的に示されています
- 外部機関の活用を正面から推奨——実施者の確保や面接指導は、健診機関・ストレスチェック事業者・産業保健サービスなど外部の支援を受ける方法が明示されています。「自前で全部やる」前提ではありません
- 委託前にサービス内容を確認する——委託先が「何をどこまでやるか」を契約前に確認する重要性が示されています。次の章の「つまずき3点」は、まさにここに対応します
準備スケジュール——2028年4月から逆算する

施行日が確定した今、逆算でスケジュールを引けます。私のおすすめは「いま情報収集、施行1年前(2027年前半)から委託先選定」です。
- いま〜2026年度内:制度を知る。パート・アルバイトを含めた自社の対象人数を数え、費用感・委託の選択肢の情報を集める(この記事とマニュアルで足ります)
- 2027年前半(施行1年前):委託先の選定・見積もり比較。実施者と面接指導医の確保方法をここで決める
- 2027年後半(施行半年前):社内ルール(実施時期・結果の取り扱い・高ストレス者対応の流れ)を決め、従業員に周知
- 2028年4月〜:初回実施→高ストレス者への面接指導→振り返り、の年次サイクルへ
【筆者の現場から】実は、ストレスチェック事業者にはすでに義務化を見据えた依頼が集まり始めています。義務化前から準備を進めている会社は珍しくありません。対象は全国で数十万規模の事業場です——施行が近づくほど駆け込みで混み合い、「選ぶ」余裕がなくなって「空いているところに頼む」ことになりがちです。義務化されてから探し始めると、条件のよい委託先ほど埋まっていて、しんどい思いをする。これが現場の実感です。
つまずきやすい3つのポイント——委託先選定で確認すること

「委託先を選べば全部やってくれるんでしょう?」——ここに落とし穴があります。実務でつまずきやすいのは次の3点で、いずれも委託先の選定段階で防げます。
- ①「実施者」が含まれない建て付けがある——ストレスチェックには医師・保健師などの「実施者」が法律上必要です。委託先を選べば実施者ごと確保できることが多い一方、ツールの提供だけで「実施者は含まれない」建て付けのサービスや無料ツールもあります。その場合、実施者となる専門家を自社で探すことになり、これがかなり大変です
- ②結果(個人情報)の取り扱いを設計する人がいない——結果は本人の同意なく会社が見られない機微情報です。運用をサポートしてくれる人がいないと、「誰が結果を扱うのか」「保管はどうするのか」で止まります。小規模事業場マニュアルがプライバシー保護を最重要課題に挙げているのは、ここが本当に詰まりやすいからです
- ③高ストレス者が出たときの「医師」が決まっていない——面接指導を行えるのは医師だけです。50人未満は産業医の選任義務がないため、「実施はできたが、面接指導を頼む医師がいない」が最後の関門になります(解決策は面接指導を頼む医師がいないときの外部委託・スポット依頼)
だからこそ、見積もりを取るときに「実施者は含まれますか」「結果の取り扱いはどう運用しますか」「高ストレス者が出たら、面接指導はどういう段取りになりますか」——この3つを必ず確認してください。この質問に即答できない委託先は、避けたほうが無難です。
費用はどのくらいかかるのか
費用は「実施(チェック本体)」と「面接指導」に分けて考えます。実施の委託は、人数規模・実施者を含むか・紙かWebかで幅がありますが、小規模事業場なら年間数万円程度から選択肢があります。
無料ツール(厚生労働省の実施プログラムなど)もありますが、前述のとおり実施者と運用は含まれないため、「無料=丸投げできる」ではない点に注意してください。高ストレス者が出たときの面接指導は、外部の医師へのスポット依頼で1件おおむね1.5万〜3万円が相場です。内訳と比較のポイントはストレスチェック面接指導の費用相場で詳しく解説しています。
先行導入した50人未満の会社で、実際に起きたこと

義務化を待たずにストレスチェックを導入した50人未満の会社を、私は何社も見てきました。共通して苦労されるのは「ルール作り」です。実施時期をいつにするか、結果は誰がどう扱うか、高ストレス者が出たらどの流れで対応するか——初めてのことなので、決め方そのものが分からない。ここは委託先や専門職のサポートを受けながら、最初に骨組みを決めてしまうのが近道です。
「無料の受け皿」だけに頼れるか——地域産業保健センターのリソース問題

50人未満の事業場は、地域産業保健センター(地さんぽ)で高ストレス者への面接指導などの支援を無料で受けられる場合があります。費用を最優先するなら、まず検討すべき選択肢です。ただ、現場の医師として率直に心配しているのはリソースの絶対量です。医師・保健師の数が限られるなかで全事業場が義務化されれば、無料枠に希望が集中することは避けられません。厚生労働省の小規模事業場マニュアルが外部機関(ストレスチェック事業者等)の支援を受ける方法を併せて示しているのは、公的リソースだけでは受け皿が足りないことの裏返しでもあります。
【筆者の現場から】考えておいてほしいのは、「本当に状態の悪い人が出たとき」です。高ストレス者から申出があって、予約が1ヶ月先まで埋まっていたら——「それまで待てますか」。本当に悪いときは、待てません。無料枠を第一候補にするのは合理的ですが、間に合わないときに即動ける受け皿(外部の医師へのスポット依頼など)をセットで決めておく。最悪のケースをイメージした二段構えが、私のおすすめです。
まとめ:義務化は怖くない。準備の先延ばしだけが怖い
- 施行日は2028年4月1日で正式確定(2026年6月公布の政令)。50人未満の全事業場が対象。パート・アルバイトも人数に含めて数える
- 義務は「実施」と「申出時の医師の面接指導」の2本柱。労基署報告は50人未満には課されず、集団分析は努力義務。直接の罰則もない——が、安全配慮義務・不利益取扱い禁止のリスクは別にある
- 教科書は厚労省「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」(2026年2月公表)。プライバシー保護と外部機関活用が柱
- スケジュールは「いま情報収集・2027年前半に委託先選定・後半に社内ルール」。委託先には既に依頼が集まり始めている
- つまずきは「実施者の確保」「情報の取り扱い」「面接指導の医師」の3点。委託先への3つの質問で防ぐ
- 無料の地さんぽはリソース逼迫が見込まれる。本当に悪い人が出たときの受け皿を二段構えで
一次情報は厚生労働省(労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律、小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル)やe-Gov法令検索(労働安全衛生法第66条の10)で確認できます。より詳しい実務は、代表産業医・角田拓実の著書『図解入門ビジネス 職場メンタルヘルスの基本と対応がよくわかる本』(秀和システム新社/紹介記事)でも解説しています。
あわせて読みたい:ストレスチェックの面接指導と運用
ストレスチェックの面接指導や実施・運用について、あわせてご覧ください。
- ストレスチェック面接指導の完全ガイド|義務・流れ・就業措置
- ストレスチェックの外部委託先の選び方|失敗例と5つの比較ポイント
- ストレスチェック面接指導の費用相場|スポット外部委託は1件1.5万〜3万円
- ストレスチェック面接指導の医師がいない|外部委託・スポット依頼を解説
- ストレスチェック実施規程の作り方|必須項目と決め方を産業医が解説
- ストレスチェックは意味ない?産業医が形骸化の正体と活かし方を解説
よくある質問
Q. 50人未満のストレスチェック義務化はいつからですか?
2028年(令和10年)4月1日施行で正式に確定しています。2025年5月14日公布の改正労働安全衛生法を受けて、2026年6月10日に公布された政令で施行期日が定められました。常時使用する労働者が50人未満のすべての事業場が対象で、パート・アルバイトも人数に含めて数えます。
Q. 実施しないと罰則はありますか?
ストレスチェックを実施しないこと自体への直接の罰則は設けられていません。また、50人未満の事業場には労働基準監督署への実施報告義務も課されません(50人以上は報告義務があり、怠ると50万円以下の罰金の対象になり得ます)。ただし、未実施のままメンタルヘルス不調者が出た場合は安全配慮義務を問われるリスクが高まり、面接指導の申出を理由とする不利益取扱いは法律で禁止されています。
Q. 労基署への報告や集団分析も必要ですか?
50人未満の事業場には、労働基準監督署への実施報告義務は課されません。集団分析・職場環境改善は事業場の規模にかかわらず努力義務です。義務の柱は「年1回の実施」と「高ストレス者から申出があったときの医師による面接指導」の2つです。
Q. 何から準備を始めればいいですか?
目安は「いま情報収集、施行1年前の2027年前半から委託先の選定」です。委託先を選ぶ際は、①実施者(医師・保健師など)が含まれるか、②結果の取り扱いの運用サポートがあるか、③高ストレス者が出たときの面接指導(医師)の段取り——の3点を確認してください。厚生労働省の「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」(2026年2月公表)も参考になります。
Q. 産業医がいなくても実施できますか?
できます。50人未満の事業場に産業医の選任義務はなく、実施者は外部の医師・保健師などに委託できます。高ストレス者への面接指導も、自社の産業医でなく外部の医師にスポット(単発)で依頼して義務を果たせます。地域産業保健センターの無料支援もありますが、リソースの逼迫が見込まれるため、間に合わないときの外部委託先も併せて決めておくと安心です。

