「本社は60人で産業医を置いていますが、支店は20人と15人です。支店にも産業医は要りますか。遠いので、先生に行ってもらうのも大変で」——拠点の多い会社から、いちばん多くいただく質問です。
先に結論です。産業医の選任は事業場ごとに決まります(労働安全衛生法第13条)。本社が常時50人以上なら本社に選任し、50人未満の支店に選任の義務はありません。実務では、本社の顧問の産業医が支店の分もまとめて見る形が多く、面談が必要になったら本社で行うか、オンラインで行います。必ずしも全部の拠点を回る必要はありません。遠い拠点は地元の医師と連携し、有害業務の多い工場は50人未満でも定期に回ります。拠点ごとに別の先生にするより、1社にまとめたほうが連携が取れ、ノウハウが会社にたまります。
私は名古屋で産業医をしている角田拓実です。サンポチャートでは、本社と複数の拠点を持つ会社を全国でお受けしています。この記事は、拠点の組み合わせごとに「どこに選任が要るか」「どう頼むか」「訪問をどう決めるか」を書きます。50人の数え方と事業場の単位は産業医の選任義務とは?50人の数え方・14日の期限、1人の医師が複数の事業場を受け持つ決まりは産業医の複数事業所の掛け持ちは大丈夫?統括産業医と巡視の決まりにあります。
選任が要るのはどの拠点?——事業場ごとに50人で数える

産業医は「事業場ごと」に、常時50人以上の労働者を使う事業場で選任します(労働安全衛生法第13条第1項、労働安全衛生法施行令第5条)。会社全体の人数ではなく、拠点ごとの人数で数えます。事業場の単位は場所で見ます。同じ場所にあるものは1つの事業場、場所が離れていれば別の事業場が原則です。ただし、規模が著しく小さく、組織的な独立性のない出張所などは、直近上位の機構と一括して1つの事業場として扱います(昭和47年9月18日 発基第91号)。
| 拠点の組み合わせ | 選任が要るところ | よくある頼み方 |
|---|---|---|
| 本社50人以上+支店50人未満 | 本社だけ | 本社の顧問の産業医が、支店の分もまとめて見る |
| 本社も支店も50人以上 | それぞれの事業場 | 同じ医師が両方の産業医になることもできる。遠ければ拠点ごとに地元の医師 |
| すべて50人未満 | なし(医師などに健康管理を行わせる努力義務) | 顧問を1社に頼むか、スポットと地域産業保健センターを組み合わせる |
| 本社50人未満+工場50人以上 | 工場 | 工場に選任し、本社の面談はオンラインや工場の訪問日に |
50人未満の事業場には、医師などに労働者の健康管理の全部または一部を行わせるよう努める義務があります(労働安全衛生法第13条の2)。選任の義務はなくても、健診の事後措置や長時間労働の面接指導は人数にかかわらず必要です。支店をどう見るかは、ここから決めます。
50人未満の支店はどうする?——顧問の産業医がまとめて見る。全部回る必要はない

「50人未満の支店はどうするんですか」が、拠点の多い会社からいちばん多い質問です。おすすめしているのは、本社の顧問の産業医が支店の分もまとめて見る形です。本社に定期的に伺い、健診の就業判定などは支店の分もセットで行います。支店でトラブルの事例や面談が必要になったら、本社で実施するか、オンラインで行います。
- 健診の就業判定: 支店の分も本社の訪問日にまとめて見る
- 面談(休職・復職・長時間労働・高ストレス): 本社で実施するか、オンラインで。本人の移動が難しければオンラインが基本
- 職場巡視: 選任のある事業場は産業医の巡視が必要。50人未満の支店は、業務の中身に応じて時々回る
- 衛生委員会: 50人以上の事業場で設置。支店の課題も本社の委員会で扱えるよう、支店から情報を集める
遠い拠点の巡視・訪問はどうする?——地元の医師と連携。有害業務が多い工場は50人未満でも定期に


遠い拠点の巡視や訪問は、サンポチャートでは地元の医師にお願いすることが多いです。選任の義務がない拠点は、タイミングを見て定期に伺うこともあります。人数の規模と、有害業務の量で決めます。
気をつけてほしいのは、有害業務がかなり多い工場です。化学物質や有機溶剤を扱う、粉じんが出る、騒音が大きい、交替勤務がある——こうした工場は、50人未満でも定期に回ったほうがいいです。人数が少なくても、職場そのものを見ないと判断できないことが多いからです。
| 拠点の様子 | 訪問の決め方 |
|---|---|
| オフィスの支店(事務・営業が中心) | 本社の訪問日にまとめて見る。面談はオンライン。巡視は必要に応じて |
| 有害業務の少ない工場・倉庫 | 年に数回、時々回る。巡視の指摘は本社の衛生委員会で共有 |
| 有害業務の多い工場 | 50人未満でも定期に回る。遠ければ地元の医師と連携 |
| 遠方の拠点(新幹線や飛行機の距離) | 地元の医師にお願いし、本社の産業医と情報を共有する |
拠点ごとに別の医師か、1社にまとめるか——差が出るのは「連携」


拠点ごとに別の先生にしている会社と、1社にまとめた会社で差が出るのは、連携です。まとめていると、先生どうしで直接やり取りができ、事務局の担当者が拠点をまたいで情報を共有します。拠点ごとに別々だと、同じ病気でも拠点によって就業制限の出し方が違う、面談の記録の形がそろわない、ということが起きます。
もう1つの差は、ノウハウが会社にたまるかどうかです。バラバラだと、各拠点の先生の判断がそれぞれの拠点に閉じてしまい、本社が全体を見られません。そろえておくと、「この会社はこういう判断をする」という軸が本社にたまっていきます。拠点ごとに就業制限がバラバラになる実害と、標準化の手順は拠点ごとに「就業制限」がバラバラで困っていませんか?多拠点企業の人事担当者がやるべき3ステップにあります。見積もりを拠点ごとにそろえて比べる手順は、産業医の見積もりはどこを見る?にあります。
サンポチャートでは、本社の担当医を中心に、遠い拠点は地域の担当医と連携し、事務局の保健師が拠点をまたいだ窓口になります。判断に迷う件は、代表の産業医がバックアップします。全国で対応し、距離や交通費による追加の費用はかかりません。
相談の前に作る「拠点の一覧」——人数・業務・距離・いまの先生


相談のときに拠点の一覧があると、どこに選任が要るか、どの拠点を回るか、誰が担当するかを、その場で決められます。次の4つを拠点ごとに書き出してください。
- 常時の人数: パート・アルバイトを含めた、ふだん働いている人数。50人前後の拠点は、増減の見込みも
- 業務の中身: 事務・営業か、工場か。有害業務(化学物質・粉じん・騒音・深夜業・交替勤務)の有無と人数
- 場所と距離: 本社からの距離、最寄りの都市
- いまの体制: すでに産業医がいる拠点、健診の実施時期、いま困っていること
50人前後を行き来している拠点があるときの判断は、産業医の選任義務とは?の「50人前後を行き来している会社は、今選任すべき?」の章にまとめています。複数の拠点の体制をオンラインで組む前提はオンライン産業医は違法?で確認できます。
よくある質問
Q1. 本社60人、支店20人と15人。支店に産業医は要りますか?
選任が要るのは本社だけです。支店は50人未満なので選任の義務はありません。本社の顧問の産業医が支店の分もまとめて見る形が多く、面談は本社かオンラインで行います。
Q2. 本社と支店の両方が50人以上です。同じ医師でよいですか?
同じ医師が両方の産業医になることはできます。選任報告はそれぞれの事業場で出します。遠ければ拠点ごとに地元の医師にして、本社の産業医と連携する形もあります。
Q3. 遠い拠点にも訪問してもらえますか?
遠い拠点は、地元の医師にお願いして本社の産業医と連携する形が多いです。有害業務の多い工場は、50人未満でも定期に回ります。面談はオンラインが基本です。
Q4. 出張所が3人だけの場合も別の事業場ですか?
規模が著しく小さく、組織的な独立性がない出張所は、直近上位の機構(本社や支社)と一括して1つの事業場として扱います。迷うときは所轄の労働基準監督署に確かめてください。
Q5. 拠点をまとめて頼むと、料金は拠点の数で増えますか?
サンポチャートの顧問料は月3万円〜(税別)で、訪問は1回5万円です。訪問する拠点と回数で決まり、拠点の数だけ顧問料が増える形ではありません。拠点の一覧を見せていただいてからお見積りします。
まとめ
- 産業医の選任は事業場ごと。本社50人以上なら本社に選任、50人未満の支店に義務はない
- 50人未満の支店は、本社の顧問の産業医がまとめて見る。面談は本社かオンライン。全部回る必要はない
- 遠い拠点は地元の医師と連携。有害業務の多い工場は50人未満でも定期に回る
- 拠点ごとに別の医師より、1社にまとめたほうが連携が取れ、ノウハウが会社にたまる
- 相談の前に、拠点ごとの人数・業務・距離・いまの体制の一覧を作る
出典: 労働安全衛生法(e-Gov法令検索)第13条・第13条の2、労働安全衛生法施行令(e-Gov法令検索)第5条、昭和47年9月18日 発基第91号(事業場の範囲)。










