日本の労働環境は、大きな変革期を迎えています。働き方改革の推進、テレワークの普及、そして高齢化社会の進展により、従来の労働形態が大きく変化しているのです。
これらの変化は、労働者の健康に新たな課題をもたらしています。
この記事では、変化する働き方に伴う健康問題と、それに対応する産業保健の役割および具体的な対策について詳しく解説します。
企業の健康問題を担っている産業保健チームや人事担当者は、ぜひ参考にしてください。
働き方の変化と健康問題の関連性
働き方の変化と健康問題の関連性は、企業にとって理解すべき大きな課題です。
ここでは、近年の働き方改革の概要や新たに出現している健康リスクについて、詳しく解説します。
近年の働き方改革の概要
2018年に成立し、2019年4月1日から順次施行されている「働き方改革関連法」により、日本の労働環境は大きく変わりました。
この法改正では、時間外労働の上限規制、年次有給休暇の取得義務化、勤務間インターバル制度の導入促進など、重要な変更点が含まれています。
「働き方改革」は、働く人々が、個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を、自ら選択できるようにするための改革です。そして、労働者の健康と生産性の向上を目指します。
新たな健康リスクの出現
働き方の変化に伴い、新たな健康リスクも顕在化しています。
テレワークの普及による運動不足やコミュニケーション不足、デジタル機器の長時間使用によるVDT症候群などのリスクです。
また、仕事とプライベートの境界線の曖昧化によるストレス増加なども挙げられます。
これらの新たなリスクに対応するため、産業保健の役割がますます重要になっているのです。
現代の働き方がもたらす主な健康問題
現代の働き方がもたらす主な健康問題は、主に以下の4つです。
- 長時間労働とメンタルヘルス
- テレワークによる生活習慣病
- ワークライフバランスの乱れ
- 高齢労働者の増加に伴う課題
それぞれ詳しく解説します。
長時間労働とメンタルヘルス
働き方改革により長時間労働の抑制が進んでいますが、依然として多くの労働者が長時間労働に従事しています。
月45時間、年360時間を超える時間外労働は、健康障害のリスクを徐々に高めることが示唆されているのです。
特に、メンタルヘルスの悪化は深刻な問題となっており、うつ病や不安障害の増加が報告されています。
働き方改革では、時間外労働の上限規制を導入し、月60時間を超える時間外労働に対しては割増賃金率を50%に引き上げるなどが定められているのです。
テレワークによる生活習慣病
テレワークの普及により、通勤時の身体活動が減少すると、1日の歩数が大幅に減少するという影響があります。
この運動不足は、肥満、糖尿病、高血圧などの生活習慣病のリスクを高める習慣です。また、長時間のデスクワークによる肩こりや腰痛も増加しています。
ワークライフバランスの乱れ
テレワークにより仕事とプライベートの境界が曖昧になり、労働時間が長時間化する傾向があります。
これにより、睡眠時間の減少や食生活の乱れ、家族との時間の減少などが生じ、心身の健康に悪影響を及ぼすリスクがあるのです。
高齢労働者の増加に伴う課題
日本の高齢化に伴い、労働力人口に占める高齢者の割合が増加しています。
高齢労働者の特有の健康課題として、慢性疾患の管理、転倒リスクの増加、認知機能の低下などがあります。
これらの課題に対応するため、企業側は年齢に応じた健康管理が求められています。
産業保健の役割と重要性
産業保健チームは、労働者の健康保持と健康リスクの予防を目指して産業保健活動を提供する役割があります。
ここでは、以下の3つのポイントに沿って詳しく解説します。
- 産業保健の定義と目的
- 法的根拠と企業の責任
- 産業保健スタッフの構成と役割
産業保健の役割と重要性をしっかりと把握していきましょう。
産業保健の定義と目的
産業保健とは、労働者の健康の保持増進と、労働に起因する健康障害の予防を目的とした活動です。
具体的には、健康診断の実施、作業環境の改善、メンタルヘルスケア、健康教育などを通じて、企業で働く従業員の健康を総合的に支援します。
法的根拠と企業の責任
労働安全衛生法は、事業者に対して労働者の安全と健康を確保する義務を課しています。
産業保健活動は、この法的義務を果たすための重要な手段です。
企業は、産業保健活動を通じて従業員の健康を守ることで、生産性の向上や人材の確保・定着にもつながります。
産業保健スタッフの構成と役割
産業保健スタッフには、産業医、保健師、看護師、衛生管理者などが含まれます。
産業医は医学的見地から従業員の健康管理を行い、保健師・看護師は日常的な健康相談や保健指導を担当するのが主な役割です。
衛生管理者は、作業環境の管理や安全衛生教育を実施します。これらのスタッフが連携して、総合的な産業保健活動を展開することが定められているのです。
働き方の変化に対応する産業保健の具体的対策
ここでは、働き方の変化に対応する産業保健の具体的な対策として、主に以下の4つを挙げています。
- メンタルヘルス対策の強化
- テレワーク環境下での健康管理
- ワークライフバランス支援
- 高齢労働者への健康支援
それぞれ詳しく解説します。
メンタルヘルス対策の強化
メンタルヘルス対策として、ストレスチェックの実施と結果に基づく職場環境の改善が必要になります。
また、カウンセリング体制の整備や、管理職向けのラインケア研修の実施も効果的です。さらに、AI技術を活用したメンタルヘルスモニタリングシステムの導入も検討されています。
これらの対策を強化して、メンタルヘルスケアに努めましょう。
テレワーク環境下での健康管理
テレワーク環境下での健康管理には、オンラインを活用した健康相談や運動指導が有効です。
また、定期的なオンラインミーティングを通じて、コミュニケーションの機会を確保することも必要な対策になります。
デスク環境や休憩時間の確保など、在宅勤務環境の整備支援も、身体的負担の軽減に役立ちます。
ワークライフバランス支援
ワークライフバランスの支援には、勤務間インターバル制度の導入や、フレックスタイム制の活用が効果的です。
また、有給休暇の取得促進や、育児・介護との両立支援制度の充実も重要です。
これらの施策により、従業員の生活の質を向上させ、心身の健康を維持することができます。
高齢労働者への健康支援
高齢労働者への健康支援には、定期的な特殊健康診断の実施や、作業環境の人間工学に基づいた改善が重要です。
また、体力維持のための運動プログラムの提供や、認知機能トレーニングの導入も効果が期待できます。
さらに、高齢者特有の健康リスクに関する教育も必要です。
これらを含めて、高齢労働者が安全で健康に働けるようにサポートしていきましょう。
変化する働き方に適応する産業保健の役割を見直してみましょう
働き方の変化に伴い、産業保健の役割も進化しています。従来の職場中心の健康管理から、テレワークや多様な働き方に対応した包括的な健康支援へと移行している企業が多いからです。
今後は、デジタル技術を活用したリモートヘルスケアの導入や、データ分析に基づく予防的アプローチの強化が求められるでしょう。
また、産業保健スタッフの役割も拡大しています。単なる健康管理だけでなく、経営戦略の一環としての健康経営の推進役としての機能も期待されています。
変化する働き方に適応する産業保健の役割を見直すことで、労働者の健康と企業の持続的成長の両立が実現できるでしょう。