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メンタル不調が疑われる社員への三者面談、本人が嫌がりそうな時どうする?|産業医が解説する「強制」と「同意」の境界線

2026 5/17
産業保健全般
2026年5月17日

「あの社員、明らかに体調悪いから三者面談を組みたいけど、本人が嫌がりそうで…」——人事担当者や管理職から、本当によく聞く相談です。本記事は、メンタル不調が疑われる社員への三者面談を、「強制 vs 同意」の判断軸でどう組み立てるか、本人を防衛モードにさせず受け入れてもらう「保護的フレーミング」の話法までを、現役産業医が実例ベースで解説します。

三者面談(会社・本人・産業医)は、メンタル不調が疑われる社員に対して、就業継続の可否や業務調整の方向性を、医学的視点と経営の視点を合わせて決める場です。形式上は重要なのに、現場では「本人が嫌がるかも」と打診を躊躇したり、逆に「業務命令で受けさせる」と強制して関係が壊れたり、両極端なケースをよく見ます。

正解は、その間にあります。本記事では、「いつ強制が許され、いつ本人同意で進めるべきか」の境界線と、本人が「あ、これは自分のためか」と理解できるフレーミングの話法を解説します。

(部下の様子がおかしい時の初動全体像は 「部下の様子がおかしい時、上司の最初の3手」、産業医への即連携の実務手順は 「産業医に即連携するための実務手順」 でも解説しています。本記事はそのうち「初動その3:三者面談」の深掘り版です。)

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目次

大前提:三者面談は「安全配慮義務の履行」のためにある

三者面談は処分や査定ではなく、労働契約法第5条に基づく安全配慮義務を履行し、社員の健康と業務継続を守るための場であることを説明した図。会社・本人・産業医が無理のない働き方を一緒に考える姿勢が重要だと示している。

議論の出発点は、労働契約法第5条の安全配慮義務です。

労働契約法 第5条:使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

この条文は、「労働者の生命・身体を守るために必要な配慮をする」ことを使用者に義務づけています。明らかに体調が悪化している社員にそのまま業務を続けさせて、結果として倒れさせれば、会社の責任が問われます(過去の判例でも、安全配慮義務違反が認定された事案は数多くあります)。

三者面談は「処分」でも「査定」でもない

つまり三者面談は、「本人を監視する場」でも「業務適性を査定する場」でもなく、会社が安全配慮義務を履行し、本人を保護するための場です。この立て付けを管理職・人事側がしっかり理解していないと、本人への打診が「業務命令」のような色を帯びて、防衛反応を引き起こしてしまいます。

「会社として、あなたの健康と業務の継続性を心配している。専門家(産業医)の意見を入れて、お互いに無理のない働き方を一緒に考えたい」——この説明から始めるのが、正しい立て付けです。

「強制」と「同意」の境界線 — 緊急性で判断する

「強制」と「同意」の境界線は緊急性で判断する、という図解。三者面談を進める際、命や業務に直結する危険信号がない場合は本人同意で進め、拒否されたら別の選択肢を考えながら継続観察する。一方、希死念慮、自殺企図の兆候、危険業務での事故リスク、重症が疑われる医学的サイン、判断能力の著しい低下がある場合は、産業医に即相談し、就業制限・受診命令・配置転換・休職指示などの措置を検討する。迷ったときは「いま放置したら命や生活に関わるか」を判断基準にする。

三者面談を進めるかどうか、強制すべきか本人同意で進めるべきかは、「緊急性」を判断軸にします。

緊急性が高くない場合:本人同意で進める

「体調は気になるが、命や業務に直結する危険信号は出ていない」段階。多くのケースはここに該当します。この場合、本人の同意を取って進めるのが原則です。

  • 「心配しているから、産業医を交えて一度話したい」と打診する
  • 「嫌です」と返ってきたら、「分かった、ではまず別の選択肢を一緒に考えよう」と引く
  • その上で、状況を継続観察し、勤怠・行動に変化があれば再度打診する

これが合理的な往復の例です。法律上、ここで強制が義務になっているわけではありません。本人の自己決定権を尊重しつつ、保護の網を緩めない、という態度です。

緊急性が高い場合:即措置を講じる

一方で、以下のような明確な危険信号がある場合は、本人の同意を待たずに措置を講じます。

  • 本人または周囲の発言の中に、希死念慮や自殺企図の兆候がある(「消えてしまいたい」「死にたい」「もう無理」など)
  • 業務継続が命に関わる事故を引き起こす可能性がある(運転業務、高所作業、危険物取扱など)
  • 急激な体重減少・睡眠破綻・幻覚妄想など、医学的に重症が疑われるサイン
  • 本人の判断能力が著しく低下しており、自己決定が機能していない状態

これらの場合は、産業医に即相談の上、安全配慮義務の観点から会社として措置を講じます。具体的には、就業制限の発動・受診命令・配置転換・場合によっては休職指示まで、産業医意見書とセットで提示する形になります。

「強制すべきか、同意ベースか」で迷ったら、判断基準は「いま放置したら命や生活に関わるか」に絞ってください。関わるなら組織として動く、関わらないなら本人意思を尊重する。シンプルに考えた方が、現場では迷いません。

注意:強制を伴う措置(受診命令・休職指示など)は、就業規則上の根拠と産業医意見書がセットで必要です。法務リスクを伴うので、緊急時は産業医・人事・場合によっては顧問弁護士の合議で判断するのが鉄則です。本記事はあくまで医学的視点の解説で、最終判断は法務確認の上で。

本人を防衛モードにさせない「保護的フレーミング」の話法

本人に三者面談を打診する際は、「処分っぽい」伝え方では拒否されやすく、「保護っぽい」伝え方だと受け入れられやすいことを示した図。効果的な言い回しは「長く働き続けるための、戦略的な一時調整」。ポイントは、敵対ではなく味方であることを示す「心配している」、長期的なキャリア継続を目的にする「長く働き続けるため」、降格や排除ではなく本人の選択として捉える「戦略的な一時調整」の3つ。これにより、本人が「自分のためのプロセス」と受け取りやすくなる。

三者面談を打診する時、言い回し一つで本人の受け取り方が180度変わります。同じ内容でも、「処分っぽく」聞こえると拒否され、「保護っぽく」聞こえると受け入れられる。ここの話法は、現場で繰り返しチューニングしてきた部分です。

効くフレーズ — 「長く働き続けるための、戦略的な一時調整」

「あなたのこと、心配しています。このまま業務を続けて、もし途中で大きく崩れてしまうと、復帰までに時間がかかってしまうかもしれない。あなたが継続して長く働いていくために、いったん専門家を交えて、やり方を見直しましょう。一時的に残業を減らしたり、業務を絞ったりすることはあるかもしれない。でも、人生は40年単位で続きます。今ここで持続性を整えることが、あなたにとっても会社にとっても、長い目で見て一番いい選択です」

このフレーミングが効くのは、3つのメッセージが組み込まれているからです。

  1. 「心配している」(感情の扉を開く):敵対ではなく味方の立場であることを最初に明示
  2. 「長く働き続けるため」(将来時間軸):いま外したいのではなく、長期的なキャリア継続が目的
  3. 「戦略的な一時調整」(脱・処分フレーム):降格や排除ではなく、本人の戦略的選択であるとリフレーム

この3つが揃うと、本人の頭の中で「これは自分のためのプロセスだ」と再解釈されます。逆に、これらを欠いた打診は、ほぼ確実に防衛反応を引き起こします。

避けるべき言い回し — 評価フレームと迷惑フレーム

逆に、以下のような言い回しは「処分っぽさ」を生み出し、本人を即座に防衛モードに入れます。

  • 「業務に支障が出ている」 — 業績評価フレーム。本人は「責められている」と感じる
  • 「他のメンバーに迷惑がかかっている」 — 迷惑フレーム。罪悪感を煽り、本音を引き出せなくする
  • 「成績を考えると…」 — 査定フレーム。降格や減給を匂わせる響きで、即拒否される
  • 「会社のルールだから」 — 形式フレーム。本人には心が入っていないと感じられる

これらは、本来「保護のための面談」だったものを、「処分のための面談」に変質させてしまいます。同じ三者面談でも、入り口の言葉一つで結果がまったく変わるので、打診時の話法は事前に整えておいてください。

三者面談の進め方 — 当日の場の作り方

打診を受けてもらえた後、当日の進め方も重要です。場の作り方が悪いと、せっかくの面談で本人が口を閉ざしてしまうことがあります。

参加者は最小構成にする

  • 本人(主役)
  • 産業医(医学的判断の主体)
  • 会社側 1 名(直属上司 or 人事担当者のどちらか。両方は入れない)

会社側を 2 人以上で入れると、本人は「囲まれている」と感じて萎縮します。原則は会社側 1 名。両方の情報が必要なら、面談前後で別途すり合わせを行えば足ります。

場の冒頭で「目的」を明示する

面談を始める前に、産業医または会社側から:

「今日の面談の目的は、あなたの健康状態を一緒に確認し、今後の働き方について最善の方向を一緒に考えることです。何か決定を押し付ける場ではありません。話したくないことは話さなくて大丈夫です。今日話した内容のうち、人事や上司に共有する範囲は、最後にあなたと相談して決めます」

この冒頭宣言があると、本人は「今日のルールはこうなんだ」と理解でき、口を開きやすくなります。場のルールを最初に明示することが、安全な対話の基盤です。

面談記録は本人の同意を取って残す

面談記録は、後の経過観察や法務上の根拠として残しておく必要があります。記録の存在と保管方法を本人に伝え、同意を取るのが標準的な進め方です。

  • 誰が記録するか(産業医 or 人事担当者)
  • どこに保管するか(医療情報として産業医室管理 or 人事ファイル)
  • 誰がアクセスできるか(産業医・人事・直属上司のどれか)
  • 本人がいつでも閲覧できるか(原則、本人開示請求に応じる)

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三者面談でやってはいけない 5 つの NG

三者面談でやってはいけない5つのNGを示した図説。緊急性がないのに業務命令で受けさせる、緊急性が高いのに本人同意を待ち続ける、評価フレームで切り出す、会社側を2人以上で入れる、面談記録を伝えない・開示しないことが、信頼関係や安全配慮の面で問題になると説明している。
  • NG1:緊急性がないのに「業務命令」で受けさせる — 関係性が壊れ、本人が口を閉ざす
  • NG2:緊急性が高いのに「本人同意」を待ち続ける — 安全配慮義務違反のリスク
  • NG3:打診時に「業務に支障が出ている」と評価フレームで切り出す — 防衛モードに入る
  • NG4:会社側を 2 人以上で入れる — 本人が「囲まれた」と感じ萎縮する
  • NG5:面談記録の存在を本人に伝えない / 開示請求に応じない — 後の信頼関係を一気に壊す

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無料相談を受けていただく前に、以下3つを揃えていただくと、初回30分で三者面談プロトコルのひな形をご提供できます。

  1. 該当社員の状況メモ(勤怠変化、観察事実、緊急性の有無。氏名はマスキング可)
  2. 就業規則の該当条文(健康診断・産業医面談・受診命令・休職に関する条項)
  3. 過去の三者面談実施事例(あれば。プロトコルが社内にあるか、初回設計が必要か)

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まとめ — 「強制 vs 同意」は緊急性で分け、フレーミングで本人を味方にする

  • 三者面談は安全配慮義務の履行のため。処分でも査定でもない
  • 判断軸は緊急性。命や生活に関わるなら強制、そうでなければ本人同意
  • 保護的フレーミング:「長く働き続けるための、戦略的な一時調整」
  • 避ける言い回し:業務支障・他人迷惑・成績・ルール
  • 当日の場:会社側1名+冒頭で目的明示+記録同意の3点セット

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産業保健解説メディア「さんぽちゃーと」編集長。株式会社サンポチャート代表取締役。株式会社豊田自動織機専属産業医の後、東海地方を中心に50事業所以上の職場健康管理に関わっている。資格:日本医師会認定産業医/博士(医学)/労働衛生コンサルタント(保健衛生)/健康経営エキスパートアドバイザー。著書に40代から始めるあなたの予防医学(自由国民社)、図解入門ビジネス職場メンタルヘルスの基本と対応がよくわかる本(秀和システム新社)がある。

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