産業保健師の採用で「臨床経験」は必須?採用業務経験のある保健師が答えます!

産業保健師の採用で「臨床経験」は必須?採用業務経験のある保健師が答えます!

従業員の健康管理に対する意識の高まりもあり、注目が集まっている産業保健師。健康管理の徹底や健康づくりの推進のため、産業保健師の採用を考えている企業が増えてきています。

しかし、産業保健職の採用が初めての場合は特に、どんな経験やスキルを必須とするかわからないという声も聞きます。


医療職の求人でよく見かける「臨床経験」が必須がどうかも含め、企業で採用業務に携わってきた保健師がお答えします。

結論:臨床経験は必ずしも必要ない

これまでの採用経験から、産業保健師の採用の際に臨床経験は必須ではないと考えています。もちろん、臨床経験が活きる場面もたくさんあります。何故必須でなくてもよいのか、みていきましょう。

考え方の軸の違い

「臨床経験」と言って想定しているのは、医療機関での治療行為であり、病気やけがの患者さんが「治る」ようなはたらきかけです。患者さんが辛くないか、患者さんが薬を飲めるか、など、中心は患者さんです。

一方、産業保健師は、いつでも患者さんを中心に考えるわけではありません。働く人が健康に働くことができるか、病気やけがをしないか、など働く人を中心に考える部分ももちろんあります。

しかし、それと同時に、会社が安全配慮義務を果たせるか、周囲の人の健康状態はどうか、など、対象となる人以外にも目を向けて考える必要があります。

臨床経験がないと産業保健師としての考え方ができない、というわけではないのでこの点で臨床経験は必須ではありません。

医療機関での看護師経験のみで産業保健師に転職された方と何人もと一緒に働いてきましたが、皆が口を揃えて言うのが「病院と考え方が全く違って戸惑った」というもの。

産業保健職としての考え方の軸をつかむという部分だけを見れば、臨床経験が長いほど患者さんが中心の考え方が身についているので、戸惑いも大きいようでした。

会社は医療機関ではない

あたりまえのことですが、会社は医療機関ではありません。

産業保健師や産業医などの医療職がいたとしても、診察や治療はできません。これは、単純に設備がないだけでなく、法的にもできないのです。

事故が起こった場合などの応急処置などは医療職が実施する場合もありますが、そういった場合は社内に備品として配置されている救急箱を利用します。

一般的に会社に置かれている救急箱の中身は、家庭に置かれているものと内容はあまりかわりません。

家庭でけがをした場合、応急処置は自分でして、ひどいようなら医療機関を受診すると思いますが、会社でできることも同じです。

医療職=治療ができる、と考えている方は多くいるように感じますが、会社という場所で考えた場合必ずしもそうではありません。

私も、採用チームの上司に保健師を増員するのに、「何かあった時に治療ができるから臨床経験があった方が良いのでは?」と聞かれたことがありますが、前述の話をすると納得していました。募集の際も、臨床経験は必須としていませんでした。

臨床経験がある場合、健診結果に基づく保健指導を行う場合など、治療の流れや治療が進むにつれてどのように症状が変化してくかなどを実際に知っているので、指導内容を充実させることができるでしょう。

また、災害や事故などが発生した場合、救急対応に慣れている医療職がいると心強いと思います。


産業保健師を採用する際、確認した方が良い経験・スキルは?

産業保健師を採用する際、臨床経験は必ずしも必要ない、とお伝えしましたが、確認した方が良い経験やスキルはなんでしょうか?

採用に携わった際に実施に確認した経験・スキルをお伝えします。

PCスキル

多くの企業ではMicrosoft社のOfficeソフトを利用していると思いますので、各ソフトを利用するのに必要なスキルを確認しましょう。

特に医療機関のみでの経験の場合、業務で利用するのは電子カルテなので、Officeソフトはなじみがない、というケースもあります。私自身、医療機関で看護師として働いている友人と話していたら、「Excelはさわったことないし、何ができるかわからない」と言われてびっくりしたことがあります。

Word

文字入力は問題なくできる方がほとんどです。どんな成果物を作ったかを聞いてみると良いでしょう。議事録や報告書などの作成経験があることが望ましいです。

Excel

Excelを利用して何かを管理した経験があるかなどを確認してみると良いでしょう。また、基本的な関数が使えるかを確認してみるのも良いでしょう。SUM関数、IF関数、VLOOKUP(XLOOKUP)関数などが産業保健職職はよく使う関数です。
関数ネストやマクロの作成までできる方は稀です。

PowerPoint

学会発表やカンファレンスで使いなれている方も多いと思います。Word同様、どんな成果物を作ったか確認してみるのが良いでしょう。

ビジネスマナー

企業の新人教育には必ずと言ってよいほど「ビジネスマナー研修」が組み込まれています。

名刺交換の仕方や電話対応、上座や下座といった席次。お客さまや仕事で関わる方と対面した際の基本的なマナー、メールやビジネス文書の書き方といったことを入社してすぐにしっかりトレーニングします。

逆に、医療機関での新人研修には、「ビジネスマナー研修」が組み込まれていないことがほとんどです。社会人としてのマナーはもちろん身についていると思いますが、ビジネスに特化したマナーというのは、医療機関ではなかなか学ぶ機会がありません。

そのため、ビジネマナーの取得状況については、人によってかなりの違いがあります。

接遇を重要視する場合は、一般企業での経験や医療職以外での経験があるかどうかを確認してみるのが良いでしょう。

まとめ

産業保健師を採用する際に確認すべきスキルや経験について、臨床経験が必須かどうか、確認した方が良いスキルや経験をお伝えしました。

今回は、臨床経験が必須かどうか、という部分に焦点を当てましたが、必須でない=役に立たないというわけではありません。臨床での経験が保健指導やその他の業務に活きることはたくさんあります。

しかし、臨床経験だけが他の業務に活きる経験ではありません。どんな経験でも、それを糧に活躍できる方を採用できるのが一番です。

採用する際に何を重要視するかでも確認した方が良いスキルや経験は変わってくるので、企業としてどのような保健師と一緒に働きたいかをまずは整理してみることをお勧めします。