産業医に月2回訪問してもらえる?メリットとデメリットは?
あなたは、職場の健康を守る専門家である「産業医」の存在を知っていますか?
過酷な労働環境やストレスフルな現代社会において、従業員の心身の健康を守ることは、企業にとって重要な課題です。
厚生労働省の調査によると、メンタルヘルス不調による休職者は年々増加傾向にあります。 このような状況下で、産業医は企業と従業員にとってますます重要な存在になってきています。
本記事では、産業医の訪問頻度やそのメリット・デメリットを紹介し、企業が産業医と連携し、より良い職場環境を作るための具体的な方法について解説していきます。
産業医とはどんな仕事?法令、実務、活用方法に関して徹底解説。
産業医の訪問頻度:法律と効果的な活用方法
職場における従業員の健康管理は、企業にとって非常に重要な課題です。
長時間労働やストレスの増加など、現代の労働環境は複雑化しており、従業員の心身を守るためには、専門家のサポートが欠かせません。
そこで重要な役割を担うのが産業医です。産業医は、医師として働く人の健康を守り、企業と従業員の双方にとってより良い職場環境作りをサポートします。
法律で定められた産業医の訪問頻度
産業医の訪問頻度は、法律によって定められています。基本的には、従業員が50人以上の会社には産業医を置くことが義務付けられており、少なくとも月に1回は会社を訪問して、労働環境や健康管理の状況をチェックすることになっています。
例えば、工場で使う薬品や機械が安全に管理されているか、従業員が長時間労働になっていないか、などを確認します。これは、病院で定期的に健康診断を受けるようなイメージです。
ただし、2019年に法律が改正され、月に1回ではなく、2ヶ月に1回の訪問でもOKとなる場合が出てきました。これは、会社が産業医に、従業員の健康に関する情報をきちんと毎月提出している場合に認められます。
具体的には、衛生管理者と呼ばれる人が、毎週職場の環境をチェックした結果を報告したり、月に80時間以上残業している人がいないか、といった情報を産業医に共有する必要があります。
産業医の訪問巡視を下げる企業がある一方で、健康経営への意識や企業の規模により産業医を月に2回以上訪問させる企業も増えてきています。
月2回訪問のメリット・デメリット
では、月に2回、産業医に訪問してもらう場合、どんなメリット・デメリットがあるのでしょうか?
メリット
- 従業員の健康状態をより細かく把握できる: 月に2回訪問することで、従業員一人ひとりの健康状態や仕事の状況をより詳しく把握できます。例えば、少し元気がなかったり、顔色が優れない従業員がいたら、産業医の先生はすぐに気づくことができます。
- メンタルヘルスの問題にも早期に対応できる: 最近は、ストレスや不安を抱える人が増えています。月に2回の訪問であれば、従業員が抱える心の問題にも早く気づくことができ、適切なアドバイスや治療につなげることができます。
- 職場環境の改善をスムーズに進められる: 産業医は、職場を訪問するたびに、働く環境が安全で快適かどうかをチェックしてくれます。月に2回訪問することで、より早く問題点を見つけ、改善につなげることができます。
デメリット
- 費用がかかる: 月に2回訪問してもらうと、当然ですが、月に1回の場合と比べて費用は高くなります。
- 会社側の負担が増える: 産業医の訪問に対応するために、会社側も準備や調整など、やらなければならないことが増えます。
- 産業医の先生も忙しい: 産業医の先生も、たくさんの会社を担当しています。月に2回の訪問となると、産業医の先生の負担も大きくなってしまう可能性があります。
企業に最適な訪問頻度を選択するポイント
では、結局のところ、どのくらいの頻度で産業医に訪問してもらうのが良いのでしょうか? それは、会社の規模や業種、従業員の健康状態などによって異なってきます。
例えば、従業員数が多ければ、それだけ健康上の問題が起こる可能性も高くなりますので、訪問頻度を増やすことを検討する必要があるでしょう。また、仕事の内容が肉体的・精神的にハードな場合は、月に2回の訪問が望ましいと言えるでしょう。
メンタルヘルス対策に力を入れている会社も、こまめな訪問で、従業員の心のケアをすることが重要です。反対に、産業医とのコミュニケーションが密接で、信頼関係が築けている場合は、月に1回の訪問でも十分な場合があります。
最終的には、会社と産業医が相談して、最適な訪問頻度を決めることが大切です。
産業医の訪問時間を有効に活用するために
産業医の訪問頻度を増やすことも大切ですが訪問時間の質を高めることも非常に有益です。どういったポイントに注意すればより質の高い産業医訪問を目指すことができるでしょうか?
私の経験や多くの産業医の話を聞く中で大切なことは信頼関係なのではないかと考えています。何でも相談できる関係性を築くことで、産業医の力を最大限に発揮できるのです。ここでは、産業医と企業がお互いに協力し、従業員の健康を守り、より働きやすい職場環境を作るためのポイントを、具体的な例を交えながら紹介していきます。
円滑なコミュニケーションのポイント
産業医とのコミュニケーションは、会社の健康を守る上で非常に重要です。日頃からこまめに情報交換を行い、良好な関係を築きましょう。
コミュニケーションがうまくいっている会社と、そうでない会社の例
例えば、A社では、人事担当者が定期的に産業医と面談を行い、従業員の健康状態や職場環境に関する情報を共有しています。
「最近、システム開発部で残業時間が増えている」「新しい評価制度の導入後、従業員からストレスの訴えが出ている」といった具体的な情報を伝えるように心がけています。
一方、B社では、産業医とのやり取りは、年に数回の健康診断時や、問題が発生した時のみ。
日頃からコミュニケーションを取っていないため、いざという時に相談しづらい雰囲気があり、産業医も会社の状況を十分に把握できていません。
その結果、A社では、産業医のアドバイスを元に、残業時間の削減やストレス軽減のためのセミナー開催など対策を講じることができているのに対し、B社では、従業員のメンタルヘルス不調が深刻化するまで問題を放置してしまい、結果的に休職者が出てしまうケースも出ています。
この例からもわかるように、産業医との日頃からのコミュニケーションが、従業員の健康を守り、企業の生産性を維持するためにも、いかに重要であるかがわかるでしょう。
具体例
- 定期的な情報共有: 産業医へ、従業員の健康状態や職場環境に関する情報を定期的に報告します。
- 具体的な内容としては、「最近、営業部でうつ病の休職者が2名出た」「コロナ禍でリモートワークが増加し、コミュニケーション不足や運動不足を訴える従業員が増えている」など、会社の状況をありのままに伝えることが大切です。
- 産業医への相談: 従業員の健康問題や職場環境に関する課題について、産業医に相談します。
- 産業医は専門家として、適切なアドバイスや解決策を提案してくれます。
- 例えば、「ハラスメントの相談窓口を設けたいが、どのように運用すればよいか」「新しい福利厚生制度を導入したいが、従業員の健康面に配慮した制度にはどのようなものがあるか」など、具体的な相談をすることで、より的確なアドバイスを得られます。
- 意見交換: 産業医と積極的に意見交換を行い、より良い職場環境づくりを目指します。
- 産業医の意見を参考に、健康診断後のフォローアップ体制やストレスチェックの実施方法などについて検討します。
- 例えば、産業医から「最近、従業員から長時間労働に関する相談が増えているので、労働時間の削減に向けた取り組みを強化してはどうか」といった提案があれば、真摯に受け止め、具体的な対策を検討してみましょう。
専門分野や得意分野を見極める
産業医にも、得意な分野や専門とする分野があります。産業医は基本的に全範囲をカバーしていることが多いです。その中でも今までの経験や専門性を理解し、適切な分野の産業医に依頼することで、より効果的な連携体制を築くことができるケースをしばしば耳にします。
例
- メンタルヘルス対策に強い産業医: 精神科医や心療内科医の資格を持つ産業医であれば、従業員のメンタルヘルス対策を専門的にサポートしてくれます。
- 例えば、従業員向けのメンタルヘルス研修や、ラインケア研修などを実施することで、従業員のメンタルヘルス不調の予防、早期発見、早期対応に繋げることができます。
- 過重労働対策に強い産業医: 労働衛生コンサルタントの資格を持つ産業医であれば、長時間労働の削減や休暇取得の促進など、過重労働対策に効果的なアドバイスを提供してくれます。
- 企業の労務管理状況を把握し、労働時間管理システムの導入や、業務の効率化、ワークライフバランスを推進するための制度設計などを支援してくれます。
- 特定の疾患に強い産業医: 特定の疾患に精通した産業医であれば、その疾患を抱える従業員への適切な対応や職場復帰のサポートを期待できます。
- 例えば、VDT作業による目の疲労や腰痛、腱鞘炎などの症状を持つ従業員に対して、適切な作業環境の改善や、作業姿勢の指導などを行うことができます。また、糖尿病や高血圧などの生活習慣病を持つ従業員には、生活習慣の改善指導や、必要に応じて専門医への受診を勧めるなど、個別の状況に応じた対応が可能です。
ITツールを活用した効率的な連携体制構築
近年、ICT技術を活用した健康管理システムが普及しています。これらのツールを導入することで、産業医との情報共有やコミュニケーションをスムーズに行い、効率的な連携体制を構築することができます。
従来のように、紙ベースでの情報共有や、電話やFAXでのやり取りでは、どうしてもタイムラグが生じてしまったり、情報共有がスムーズに行かなかったりすることがあります。
しかし、ITツールを活用することで、これらの課題を解決できるだけでなく、産業医がより多くの時間を作業環境の改善や従業員への健康指導に充てることができるようになるなど、様々なメリットがあります。
ITツールの例
- 健康管理システム: 従業員の健康診断結果やストレスチェックの結果、面談記録などを一元管理できます。産業医はこれらの情報をいつでも確認できるため、従業員一人ひとりの健康状態を把握しやすくなります。
- 例えば、健康診断で要精密検査となった従業員に対して、システム上でリマインドを送信したり、産業医から直接メッセージを送信したりすることができます。
- ビジネスチャットツール: 産業医と企業担当者が、いつでも気軽に連絡を取り合えます。緊急時にも迅速な対応が可能になります。
- 例えば、従業員が急病になった場合に、迅速に産業医に相談し、指示を仰ぐことができます。
- オンライン会議システム: 遠隔地にいる産業医とも、オンラインで会議や面談を行うことができます。移動時間やコストを削減できるだけでなく、感染症対策としても有効です。
- 定期的な情報共有や、従業員への健康相談なども、オンラインで実施することが可能になります。
このように、ITツールを積極的に活用することで、産業医との連携をよりスムーズかつ効率的に行うことが可能になる可能性があります。
まとめ
産業医の訪問頻度は法改正により、条件を満たせば2ヶ月に1回も可能となりました。
しかし、月2回の訪問は従業員の健康状態やメンタルヘルス問題に早期に対応できるなどメリットも多いです。
費用や会社側の負担増加といったデメリットも考慮し、企業規模や業種、従業員の健康状態を踏まえて最適な訪問頻度を産業医と相談して決めることが重要です。