「いまの先生を替えたいのですが、何と言えばいいでしょうか。社長の知り合いなので言いにくくて」——産業医の交代で、人事の方がいちばん悩むのは、手続きより「切り出し方」です。
先に結論です。切り出す前に、後任の目処・変更の時期・契約の予告期間の3つを調べておいてください。後任は辞任の日から14日以内に選任する決まりがあるので(労働安全衛生規則第13条第1項第1号)、先に切り出しすぎると、後任が決まらないまま急ぐことになります。実際に多い言い方は「産業保健の体制を見直すことになりました」。先生の側も、自分がそこまで関われていないことを分かっていることが多く、すんなり進みます。「これだけは言うな」ということはなく、大人として伝え、契約書にしたがって粛々と進めれば、大きくこじれることはありません。
私は名古屋で産業医をしている角田拓実です。会社が産業医の交代を切り出す場面に立ち会ったり、相談を受けたりしてきました。この記事は、手続きの前にある「どう言うか・いつ言うか」に絞って書きます。手続きの全体は産業医の変更・交代の手順|4月に切り替えるならいつ動く?、通知書の中身は産業医との契約解除通知書に何を書くべきか、先生の側から辞めると言われた場面は産業医に辞めると言われたら?にあります。
実際の切り出し方——「産業保健の体制を見直す」と伝える会社が多く、すんなり進む

交代を切り出すとき、会社がはっきり「もう終わりにしてください」と言うこともありますが、実際に見かけるのは「産業保健の体制を再構築することになりました」と伝える形です。先生を責めるのではなく、会社の体制の話として伝えます。
私の印象では、これですんなりいくことが多いです。先生の側も、自分がその会社にそこまで関われていないことを分かっているからです。逆に、しっかり関わっている先生に「やめてください」と言えば「なぜ」とはなりますが、そういう先生なら仕事をしてくれているわけで、替える理由がそもそもありません。とはいえ、会社の運営上の判断として「合わない」はしばしば見かけます。
伝える言葉の例です。理由を細かく言う必要はありません。
- 「産業保健の体制を見直すことになり、○月末で契約を終えたいと考えています。これまでありがとうございました」
- 「拠点が増えて体制を組み直すため、○月からは別の形でお願いすることになりました」
- 「契約書の予告期間にしたがって、○月末までとさせてください。引き継ぎの資料は別にお願いします」
切り出す前に決めておく3つ——後任の目処・変更の時期・契約の予告期間


切り出す前に調べておくのは、次の先生をどうするか、どの時期に変えるか、いまの契約はいつまでか(予告期間)の3つです。理由は14日の決まりにあります。前の先生が辞めた日から14日以内に後任を選任しなければならないので(労働安全衛生規則第13条第1項第1号)、後任の目処がないまま切り出すと、空白を作らないために急いで決めることになります。
| 決めておくこと | 調べ方・目安 |
|---|---|
| 後任の目処 | 候補と話し、料金・訪問の頻度・面談の扱い・困ったときの相談先を確かめる。探し方は産業医の探し方と選び方、見積もりの見方は産業医の見積もりはどこを見る? |
| 変更の時期 | 健診の判定・衛生委員会の年間計画・年度の区切りに合わせる。4月に切り替えるなら前年のうちに動く(変更・交代の手順) |
| 契約の予告期間 | いまの契約書の解約の条項を読む。予告期間は2〜3か月が目安(産業医契約書の書き方)。紹介会社経由なら切り替えの縛りも(紹介会社の比較) |
後任が決まる前に切り出してよいかは、予告期間しだいです。予告期間が2か月なら、切り出した日から2か月後が辞任日になり、そこから14日以内に後任の選任報告が要ります。後任の目処を付けてから切り出せば、この14日に追われません。
切り出してから選任報告までの順番——書面で日付を決め、契約書どおりに進める


- 後任の目処を付ける: 候補と条件を確かめ、いつから始められるかを聞いておく
- 契約書の解約の条項を確かめる: 予告期間・書面の要否・精算の方法
- 先生に伝える: 「体制を見直す」と、終わりの時期を伝える。口頭のあと、書面(メールでも)で辞任日・解任日を残す
- 衛生委員会に報告する: 辞任・解任したことと理由を、遅滞なく報告する(労働安全衛生規則第13条第4項)
- 後任を選任し、選任報告を出す: 辞任日から14日以内に選任。選任報告に前任者の氏名と辞任・解任の年月日を書く(同条第2項第7号)。2026年8月1日からは辞任・解任・退任の報告が義務(産業医の解任届はない?2026年8月からの報告義務)
- 引き継ぎを頼む: 事業所で困っていたこと、次の先生へのアドバイス、面談の記録や意見書の控え。引き継ぎができなくても、書類だけは受け取る
この順番の中で、会社が迷いやすいのは③です。口頭で伝えたあと、辞任日(解任日)を書面で残してください。日付が決まらないと、④以降が動きません。書面の中身は産業医との契約解除通知書に何を書くべきかにあります。
こじれない交代と、こじれる交代の差——言わないことより、順番と時間


「これだけは言わないで」ということは、特にありません。大人として上手に伝えれば、大きくこじれることはないというのが、見てきた実感です。差が出るのは言葉より、順番と時間です。
| こじれない交代 | こじれる交代 |
|---|---|
| 後任の目処を付けてから切り出す | 先に切り出して、14日に追われて急いで決める |
| 契約書の予告期間どおりに、時間を取って終える | 予告期間を無視して「今月で」と言う |
| 「体制を見直す」と会社の話として伝える | 先生の仕事ぶりを細かく責める |
| 辞任日を書面で残し、衛生委員会と監督署に報告する | 口頭だけで終わり、選任されたままになる |
| 引き継ぎは頼むが、できなくても書類だけは受け取る | 引き継ぎがないと次に進めないと思い込む |
社長の知り合いや地域の名士で言いにくいときは、社長から伝えてもらうのが早道です。人事から言うなら「社長とも相談して、体制を見直すことにした」と、会社の決定として伝えます。合わないと感じたときの向き合い方は産業医と合わないと感じた時の対処法にまとめています。引き継ぎは必ずしもできません。先生が高齢や病気のときはなおさらです。それでも、次の先生は記録と面談から始められます。
あわせて読みたい:産業医を探す・頼む・替える
産業医の探し方・費用・契約・交代について、あわせてご覧ください。人数ごとの料金の目安は産業医サービスの料金プランで見られます。
- 産業医の探し方と選び方|5つのルートと7つのチェック
- 産業医の変更・交代の手順
- 産業医に辞めると言われたら
- 産業医との契約解除通知書に何を書くか
- 産業医の解任届と2026年8月からの報告義務
- 産業医契約書の書き方|記載事項12項目
- 産業医の見積もりはどこを見る?
- 産業医と合わないと感じたとき
よくある質問
Q1. 後任が決まる前に、いまの先生に言ってもよいですか?
契約の予告期間しだいです。辞任日から14日以内に後任を選任する決まりがあるので、後任の目処を付けてから切り出すほうが、空白を作らずに済みます。予告期間が長ければ、その間に探せます。
Q2. 理由をはっきり言わないと失礼ですか?
細かく言う必要はありません。「産業保健の体制を見直す」と会社の話として伝えれば足ります。先生の仕事ぶりを責める言い方は、こじれる原因になります。
Q3. 社長の知り合いで、人事からは言いにくいです。
社長から伝えてもらうのが早道です。人事から言うときは「社長とも相談して決めた」と、会社の決定として伝えてください。
Q4. 伝えたあと、書類は何を出しますか?
辞任日(解任日)を書面で残し、衛生委員会に辞任・解任と理由を報告します。後任を選任したら、選任報告に前任者の氏名と辞任・解任の年月日を書いて、所轄の労働基準監督署へ電子申請します。2026年8月1日からは、辞任・解任・退任の報告が義務です。
Q5. 引き継ぎを断られたら、どうなりますか?
引き継ぎは必ずしもできません。面談の記録・意見書の控え・健診の判定の結果など、会社が持っている書類を次の先生に渡せば、記録と面談から始められます。
まとめ
- 切り出す前に、後任の目処・変更の時期・契約の予告期間を調べる。後任は辞任日から14日以内に選任
- 実際に多い言い方は「産業保健の体制を見直す」。先生も自覚していることが多く、すんなり進む
- 順番は、後任の目処→契約書の確認→伝える(書面で日付)→衛生委員会に報告→選任報告→引き継ぎ
- 「これだけは言わないで」はない。大人として伝え、契約書どおりに粛々と
- 差が出るのは言葉より、順番と時間。引き継ぎがなくても、次の先生は記録と面談から始められる
出典: 労働安全衛生規則(e-Gov法令検索)第13条第1項・第2項・第4項。










