産業医に解任届ってあるの?現役産業医が解説します。

産業医に解任届ってあるの?現役産業医が解説します。

「産業医を解任したいけど、どうすればいいんだろう?」

あなたは今、そんな悩みを抱えているかもしれません。会社にとって、産業医は従業員の健康を守る重要な存在です。しかし、会社の方針や状況・時代の変化によって、産業医の変更を検討せざるを得ない場面も出てくるでしょう。

「解任届なんてあるの?」「手続きは複雑?」

この記事では、産業医解任に関する手続きを、解任届の有無も含めて詳しく解説します。

産業医の解任は、法律に基づいた適切な手続きが必要となります。解任理由の正当性や従業員への丁寧な説明など、注意すべき点は数多く存在します。

この記事を読めば、産業医解任の手続きに関する疑問が解消され、スムーズな変更を実現するための道筋が見えてくるはずです。

産業医解任届の存在とその手続き

「今の産業医と会社の方針が合わない」「もっと従業員のことを考えてくれる産業医に変えたい」など、企業が産業医の変更を検討する場面もあるでしょう

しかし、いざ産業医の解任を検討し始めると、「そもそも解任届のようなものってあるのだろうか?」「手続きはどうすればいいんだろう?」と疑問に思う方もいるかもしれません。

そこで今回は、産業医の解任に関する手続きを、解任届の有無と合わせて詳しく解説していきます。

解任届は存在しない?産業医選任報告の詳細

結論から言うと産業医を解任するために提出する専用の「解任届」は存在しません。

では、どのように手続きを進めれば良いのでしょうか?

ポイントは、労働基準監督署に提出する「総括安全衛生管理者・安全管理者・衛生管理者・産業医選任報告」です。

この報告書は、新規に産業医を選任した場合だけでなく、前任者が退任し、新たに後任者が就任する場合にも提出が求められています。 この報告書を提出することで、解任の旨を伝えることができるのです。

企業においても、産業医の変更をきちんと労働基準監督署に報告する必要があるのです。 この報告書の「前任者氏名欄と辞任、解任等の年月日」を記入することで産業医としての登録が終了します。 つまり、産業医の解任を伝えるには、解任届ではなく、この選任報告書を用いるのです。

産業医の選任報告書作成方法

産業医選任報告書は厚生労働省のホームページからダウンロードすることができます。

総括安全衛生管理者・安全管理者・衛生管理者・産業医選任報告|厚生労働省 (mhlw.go.jp)

総括安全衛生管理者・衛生管理者・産業医が一つの書式になっているため注意してください。

基本的にはこちらの書類を作成し新しい産業医を選任する際に現行産業医の解任が行われることになります。

また、最近はネット上で報告書の作成や電子申請も行うことが出来るようになっているので活用すると時短に繋がるでしょう。

労働安全衛生法関係の届出・申請等帳票印刷に係る入力支援サービス (mhlw.go.jp)

解任に関する法律と必要書類

産業医の選任及び解任に関する手続きは、労働安全衛生法という法律で定められています。 この法律では、事業者は労働者の健康と安全を確保するために、医師である産業医を選任し、必要な助言や指導を受けることが義務付けられています。 産業医の選任報告書には、医師免許証の写しなどを添付する必要があります。 また、産業医の資格を証明する書類なども求められる場合があります。 必要な書類は、事業所の規模や業種、管轄する労働基準監督署によって異なる場合があるので、事前に確認しておきましょう。

産業医解任における注意点

産業医の先生との関係を見直すことは、会社の健康管理体制の根幹に関わる重要な決断です。

特に、解任となると、様々な疑問や不安が生じるのは当然のことでしょう。 当然、産業医の変更においても、スムーズな引き継ぎが重要になります。

前任の産業医との契約を一方的に解除するのではなく、企業と産業医との間で、十分なコミュニケーションを取りながら進めることが大切です。 この章では、解任を検討する際に注意すべき重要なポイントをわかりやすく解説していきます。

解任後の職場環境への影響と対策

産業医が解任されると、従業員の健康管理やメンタルヘルス対策に影響が出る可能性があります。

特に、長年同じ産業医が担当していた場合は、従業員との間に信頼関係が築かれているため、解任によって不安や不信感が生じる可能性もあります。このような影響を最小限に抑えるためには、以下の対策を検討する必要があります。

  1. 代替産業医の迅速な選任: 解任後、できるだけ早く代替産業医を選任し、従業員の健康管理に空白期間が生じないようにすることが重要です。 あらかじめ次の産業医の検討を行っておく必要があります。(選任までの猶予期間は14日以内と法令に定められています。)。
  2. 引継ぎの徹底: 前任の産業医から後任の産業医へ、スムーズな業務引継ぎを行う必要があります。 従業員の健康状態や職場環境に関する情報共有を密に行うことで、解任による影響を最小限に抑えられます。 産業医の退任・解約前のコミュニケーションは適切に行い関係性は大切にしましょう。
  3. 従業員へのフォロー体制の強化: 産業医の解任によって、従業員が今まで行っていた健康相談や就業制限面談に不都合が出てはいけません。従業員が不安にならないよう相談しやすいフォロー環境を整えることが重要です。
  4. 職場環境の改善: 産業医解任を機に、職場環境の改善に取り組むことも重要です。従業員の意見を積極的に聞き取り、働きやすい職場づくりを進めることで、従業員の健康維持と企業の生産性向上に繋げましょう。 産業医の解任は、職場環境の改善点を見直し、より良い職場環境を作るためのきっかけと捉えることもできます。

産業医の解任は、単に担当者が変わるだけではありません。

従業員の健康や職場環境に大きな影響を与える可能性があることを認識し、適切な対策を講じる必要があります。

産業医の選定方法

前任の産業医の先生との契約を終了する際には新しい産業医の先生を選任する必要があります。労働安全衛生法上も14日以内に産業医を選任する必要があります。可能な限り次の産業医にはあたりを付けておくことが望ましいでしょう。

また、従業員の健康管理を適切に継続するためにも、後継の先生選びはとても重要です。

産業医の先生を探す方法はいくつかあります。

  1. 医師会に紹介を依頼する
    • 地域の医師会に問い合わせることで、産業医として登録している先生を紹介してもらえます。
    • 医師会は医師の組合のような組織です。多くの医師が所属しているので、様々な専門分野の先生を見つけることができます。地域の開業医の先生に依頼されるケースが多いです。
  2. 産業医紹介会社を利用する
    • 企業のニーズに合った産業医の先生を紹介してくれる専門の会社もあります。
    • 専門の会社なので、産業医の先生を探すことに特化しており、効率的に探すことができます。
    • 例えば、メンタルヘルス対策に力を入れている企業には、精神科の専門医を紹介してくれたり、特定の業種や職種の健康リスクに詳しい先生を紹介してくれたりします。
  3. 医療機関に直接問い合わせる
    • 産業医業務を行っている医療機関に、直接問い合わせる方法もあります。
    • 特定の医療機関と関係性が深く、その医療機関の先生に産業医を依頼したい場合に有効です。

それぞれの方法にはメリット・デメリットがありますので、自社の状況に合わせて最適な方法を選びましょう。

産業医の勧告権の発動による解任に関して

産業医には勧告権と呼ばれる権利を有しています。職場上で大きな健康上の問題が発生しており、会社に何度アドバイスをしても改善されず、従業員に重大な健康問題が発生しうる場合に会社に対して勧告を行うというものです。

勧告は産業医にとって最も強い会社に対する意見です。一方で、会社としても不都合な点を突かれるため場合によっては産業医を解雇・解約するケースがあります。

勧告権を行使した後の産業医解任に関しては著しく労働者に健康被害を招く恐れがあるため、特に慎重に扱われます。

こういったケースでは社内の安全衛生委員会で労働者側にも産業医の解任理由を説明することが求められます。

まとめ

産業医の解任には、専用の解任届は存在しません。

産業医を変更する際は、労働基準監督署に産業医選任届を提出する必要があります。この報告書に、前任の産業医に関する情報と、後任の産業医に関する情報を記載することで、事実上の解任となります。

また、解任後の職場環境への影響を最小限に抑えるために、新たな産業医の迅速な選任、引継ぎの徹底、従業員へのフォロー体制の強化、職場環境の改善などの対策が必要です。

産業医の解任が行われる場合はどうしてもコミュニケーションが悪くなります。しかしながら、引き続きの労働者の健康のため良好な関係を気づいていくことが大切です。その点に注意して産業医を選んでいっていただければと思います。